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case1 ウツミ・ルイ
母は多忙ゆえに④
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ぼくたちはレシェルメイダの正体に驚きながらも、小気味良い振動が導く睡魔に抗うことはできず、うたた寝を挟みつつ、1時間ほどして、終点へと到着した。
特急列車の終着駅であるキョウコ南海岸は地上より30mほど高い場所にある。二つの高層ビルを貫く、トンネル状のターミナルは連絡通路の役割も担っている。ビルには観光客向けの土産売り場から地元民が利用する医療施設まで、ありとあらゆる用途に対応したテナントが並んでいる。キョウコの経済的シンボルとも言えるH型の複合商業施設は、田舎町メジウに比べるとそれなりの先進国的な雰囲気を醸し出していた。そんな華やかなで開放感の入口であるホームへ降りると、普段なら入り乱れるように行き交う人の波が、クリアなトンネルの壁に密集している。
ターミナルのトンネル上半分は強化ガラスで覆われている。そこからは海岸の景色が良く見えるため、観光客やカップルの撮影スポットになっている。しかしながら、今日は民放放送局の人間や、タチの悪そうな野次馬が一様に海岸線側を向き、シャッターを切っていた。
南海岸の被害は甚大だった。
ぼくたちの視線の先には白い煙を上げ、瓦礫になってしまった多数の建物が見える。ひっくり返った自動車も散見された。いずれも海岸から唸った線状に沿って被害が生じている。竜巻が地面を這いずった生々しい痕跡は、幻子生命体の支配能力の強さを物語っていた。
「ああ。これじゃあ、水が綺麗になった程度のメジウ湖に、誰も構っていられないはずだわ。想像していたよりもダメージ食らってるね」
ガラスに張り付いて外の様子を眺めるエノの表情は、頬を強く叩かれた直後の 門下生ように硬直していた。ニュース番組というフィルターを通した情報は事実であっても真実ではなかった。
「ねえ、ルイ。行くの? 正直、めっちゃ怖いんだけど」
ぼくは怖気つくエノに大きく頷いて見せる。幻子生命体が破壊した街を見て、喉の奥から全身が震えるのを感じたが、ぼくたちはぼくたちの街を守らなくては行けない。無残なキョウコ海岸を横目に、ガラス越しの世界に萎縮するエノを待たずに、大股でビルの中へ向かう。
キョウコのベースキャンプはビルと南海岸のちょうど中間地点にある。父には内緒で出てきてしまった。あまり時間はない。
駆け足で追いついてきたエノは、怒った猫のような顔をしていた。
「エノ、空飛べる?」
「いいけど、突風が怖いなあ。竜巻が発生していたみたいだから、気候が不安定な気がするんだよね。わたしは何とかなるけど、ルイが怪我するかも」
「ぼくは大丈夫。いざってときは、メリアが反射的に水球を出してくれるから」
そう言ってから、湖底に潜って以来、メリアは言葉を発していなかったことに気づく。ずっと考え事をしているようでぼくたちの行動にすら興味を示さない。お喋りな彼にしては珍しい。
メリアはヒレを動かすことなく、ぼくの頭上にぷかぷかと浮いていた。
特急列車の終着駅であるキョウコ南海岸は地上より30mほど高い場所にある。二つの高層ビルを貫く、トンネル状のターミナルは連絡通路の役割も担っている。ビルには観光客向けの土産売り場から地元民が利用する医療施設まで、ありとあらゆる用途に対応したテナントが並んでいる。キョウコの経済的シンボルとも言えるH型の複合商業施設は、田舎町メジウに比べるとそれなりの先進国的な雰囲気を醸し出していた。そんな華やかなで開放感の入口であるホームへ降りると、普段なら入り乱れるように行き交う人の波が、クリアなトンネルの壁に密集している。
ターミナルのトンネル上半分は強化ガラスで覆われている。そこからは海岸の景色が良く見えるため、観光客やカップルの撮影スポットになっている。しかしながら、今日は民放放送局の人間や、タチの悪そうな野次馬が一様に海岸線側を向き、シャッターを切っていた。
南海岸の被害は甚大だった。
ぼくたちの視線の先には白い煙を上げ、瓦礫になってしまった多数の建物が見える。ひっくり返った自動車も散見された。いずれも海岸から唸った線状に沿って被害が生じている。竜巻が地面を這いずった生々しい痕跡は、幻子生命体の支配能力の強さを物語っていた。
「ああ。これじゃあ、水が綺麗になった程度のメジウ湖に、誰も構っていられないはずだわ。想像していたよりもダメージ食らってるね」
ガラスに張り付いて外の様子を眺めるエノの表情は、頬を強く叩かれた直後の 門下生ように硬直していた。ニュース番組というフィルターを通した情報は事実であっても真実ではなかった。
「ねえ、ルイ。行くの? 正直、めっちゃ怖いんだけど」
ぼくは怖気つくエノに大きく頷いて見せる。幻子生命体が破壊した街を見て、喉の奥から全身が震えるのを感じたが、ぼくたちはぼくたちの街を守らなくては行けない。無残なキョウコ海岸を横目に、ガラス越しの世界に萎縮するエノを待たずに、大股でビルの中へ向かう。
キョウコのベースキャンプはビルと南海岸のちょうど中間地点にある。父には内緒で出てきてしまった。あまり時間はない。
駆け足で追いついてきたエノは、怒った猫のような顔をしていた。
「エノ、空飛べる?」
「いいけど、突風が怖いなあ。竜巻が発生していたみたいだから、気候が不安定な気がするんだよね。わたしは何とかなるけど、ルイが怪我するかも」
「ぼくは大丈夫。いざってときは、メリアが反射的に水球を出してくれるから」
そう言ってから、湖底に潜って以来、メリアは言葉を発していなかったことに気づく。ずっと考え事をしているようでぼくたちの行動にすら興味を示さない。お喋りな彼にしては珍しい。
メリアはヒレを動かすことなく、ぼくの頭上にぷかぷかと浮いていた。
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