シーラカンスと黒い翼

石谷 落果

文字の大きさ
31 / 35
case1 ウツミ・ルイ

母は多忙ゆえに③

しおりを挟む
 ぼくたちは母に確実に情報を伝えるため、メジウの都市部へと向かっていた。
「何で、軍はわたしたちの話を聞いてくれないのかな?」
 エノはバスの遠心力に合わせて大袈裟に揺れていた。時々ぼくの肩にぶつかって体重をかけてくる。
「確実な情報を優先しているんだよ。彼らからすれば、子どもの話がどこまで正しくて、信用できるのか測りかねるんだろう。自分たちで調査することも容易だ。まさか、湖底まで潜っただなんて想像できないしさ」
 出発前、母がいないことで諦めてしまった僕の代わりに、エノがもう一度宿舎へ電話したところ、情報提供は求めていないと門前払いされてしまった。同盟軍は国営の警察官とは違い、独自の情報収集システムとツールを持っている。根拠のない民間情報など必要ないのだ。よって、母に直接会って伝える以外の方法はなかった。
 ぼくたちはメジウ17地区で降りると中枢ターミナルへと向かった。ここは首都オトナシと港町キョウコへとルートが分岐する、メジウの流通拠点でもある。17地区からはキョウコの海岸へと通じる高速鉄道が走っている。鮮やかなエメラルドグリーンで塗装された二階建て車両は、通常時であれば観光客や自国へ戻る外国人で入り乱れている。
 今日はキョウコ海岸付近より、幻獣出現の警戒発令は出ているため、ターミナルも人の姿が疎らだった。
「貸切り状態ね」
 エノは券売機にIDカードをスキャンして、終点のキョウコ南海岸へのチケットを買った。ぼくもそれに続く。家族以外の人間と列車に乗って出かけるのは初めてだったので、少しだけ胸がそわそわした。
 列車がほどなくして到着すると、エノはサンドウィッチを買い忘れたと言い、売店へと走っていった。
「旅行じゃないんだから」
「ほーい」
 エノは気の抜けた返事をしていたが、しっかり二人分を買ってきてくれる。
 どうだ、と言わんばかりの表情でシャカシャカとビニール袋を鳴らすので、ぼくもつられてお腹を空かせてしまった。エノはどすんと音を立てて、短い毛の立ったグレーの座席に腰を下ろす。舞い上がった埃が、窓から差し込む光に照らされてちらちらと空気中を彷徨う。
 車内に設置された40インチほどのモニターからは国内ニュースが延々と流れている。キョウコに出現した幻子生命体の特性、三星会議の議決事項、メジウ湖浄化と民間潜水艦の消失。淡々と他人事のように話すニュースキャスターは、ベージュ色のカーディガンを着ていた。
「三星会議は無事に終わったみたいね。お店で買ったパールは役に立ったのかしら?」
 エノは雛烏のように首を伸ばして、モニターを見ていた。左手にはイチゴやハイナップルの挟まったフルーツサンドを握っている。
「さあ。ただ、とても似合っていたよ」
 ぼくは金糸雀色の少女を思い出しながら、ビニール袋の中を覗く。売店で最も安価なタマゴサンドが入っていた。
「……ふーん。もしかして、あんな感じ?」
「そうそう、あんな感じって、ええ……」
 モニターの向こうでは、レイピアのように凛とした少女がミヅハ国皇族と握手を交わしている。モニター越しの人物は一昨日出会った少女に間違いなかった。その右耳に揺れている15,000UKの真球パールは視界の端っこで立派に存在感を放っている。
「まさか王女だったとは」
 驚きを隠せないぼくはあまりにも凡庸なことを言っていた。
「いや、気づこうよ」
 エノは最後のひとかけらを食べきると指先をぺろりと舐めた。
「お母さんの知り合いだって言っていたんだよね。だから、てっきり軍人かと。あの人が怖ろしい世界で生きているってまざまざと見せつけれられたよ」
 母がセイシェリーパ王国と密な付き合いがあるのだとしたら、彼女の多忙さも肯ける。
「しかし、綺麗な人ね」
 モニターに映るニュースが切り替わった後も、エノは恋する乙女のようなうっとりとした表情で首を伸ばし続けていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

追放料理人とJKの異世界グルメ無双珍道中〜ネットスーパーは最強です〜

音無響一
ファンタジー
わーい、異世界来ちゃった! スキルスキル〜何かな何かな〜 ネットスーパー……? これチートでしょ!? 当たりだよね!? なになに…… 注文できるのは、食材と調味料だけ? 完成品は? カップ麺は? え、私料理できないんだけど。 ──詰みじゃん。 と思ったら、追放された料理人に拾われました。 素材しか買えない転移JK 追放された料理人 完成品ゼロ 便利アイテムなし あるのは、調味料。 焼くだけなのに泣く。 塩で革命。 ソースで敗北。 そしてなぜかペンギンもいる。 今日も異世界で、 調味料無双しちゃいます!

犬の散歩中に異世界召喚されました

おばあ
ファンタジー
そろそろ定年後とか終活とか考えなきゃいけないというくらいの歳になって飼い犬と一緒に異世界とやらへ飛ばされました。 何勝手なことをしてくれてんだいと腹が立ちましたので好き勝手やらせてもらいます。 カミサマの許可はもらいました。

処理中です...