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第26話 016 日本支部東京区新市街下層階行きエレベーター(1)
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呆然としている俺と洋平を押しのけて、八神は最下層階49階のプッシュボタンを押した。続けて俺たちに武器を構えるよう指示を送る。行動が遅いと見たのか、俺の腰からランボー・ナイフを抜き出し無理やり手に持たせてきた。
「いいか、圭介。そのまま何事もなく行けると思うな」
八神が俺に告げる。
「あ、ああ。わかった、八神さん」
挙動不審に返事をしてから、俺はランボー・ナイフを斜めに構えた。
この様子を見て気を取り戻したのか、洋平もすぐにネイルガンをエレベーターのドア側へと向ける。
エレベーターが下へゆっくりと落ちていく感覚が俺の腹部を襲う。
中はホテルのスイートルームのリビングかと感じるほど広々としているが、ドアはガラス製ではなく外の様子はうかがい知れないので、密閉空間であることは変わらない。
つまり、上の電光掲示板に表示された現在地を示す階数しか、俺たちには外の情報が与えられていないということだ。
「止まりますよ」
美雪の声が背後から聞こえてきた。
薄く吐息を喉元に引く音がエレベーター内部に響き渡る。
ドアが開いた。
通路の奥には大量の同種たち。
「あ、あそこに同種が――それもあんなに……」
芹香が声を震わせながら言った。
と同時に、エレベーターが到着を知らせる人口の機械音を鳴らす。
「余計なことを……」
洋平が腹立たしげに呟く。
「来るわ、気をつけて」
次に絵麻が誰ともなく警告の言葉を発した。
そして、エレベーターの音に反応して俺たちの存在に気がついた同種たちは、一斉にこちら側へと走り出した。
「いいか、引きつけろ。無駄な弾薬は使うな」
八神の指示がエレベーターに響き渡る。
この号令と共に一気に内部が慌ただしくなった。
「八神君、圭介君。何とかしないとここに来ちゃうよ」
芹香が切迫した声色で言う。
「彼らとの距離はまだある、芹香先生。この階に降りるわけにはいかないが、追い払うぐらいだったら問題ない」
俺がそう言ったのと時を同じくして、円形のエレベーターの死角から同種の手が伸びてきた。
その手を鼻先でかわす俺と洋平。閉まりかけたドアにその手が挟まる。
俺はその手をナイフで刈り取った。
黒い血が目の前で飛び散る。
再びドアは閉まった。
残った手はまだ俺と洋平を攻撃をした記憶を残しているのか、バタバタとその場で海老のように飛び跳ねていた。
「エラくしぶといな。圭介、これって人間の場合でも切られたらこうなるのか?」
洋平が訊いてきた。
「……そんなこと俺を知るわけがないだろう」
俺は首を横に振った。
「洋平、圭介。気を抜くな。全員早く隊列を組みなおせ」
と、そこに再び八神の指示。
それを聞いたそれぞれが、小さなリビングルーム程ある円形の壁の中で、自分のポジションへと散っていった。
俺は中央前方へとその身を移動させ、その背後に芹香が身を寄せる。
ドアは開いた。
今度はその前で三体の同種が待ち構えていた。
奥の左サイドにいる八神、そして右サイドで彼と列を同じにした早野が、その内二体をヘッドショットで仕留めた。
「そこです」
と、次に俺の右側にいる美雪の掛け声。余韻が終わった瞬間に、彼女はアサルトライフルで八神たちの死角にいた同種の頬を撃ち抜いた。
後ろへと転がった三体の背後から数体がこちらに向かってくる様子が見えたが、ドアはそのまま閉まった。
機械特有の強い動きで、エレベーターはまた降下する。
それはあたかも無理矢理奈落へと誘われるような落ち方だった。
「ねえ、八神君。どこまで行くつもりなの?」
芹香が吐息をつきながら訊いた。
今回は次の階にとまる気配はない。時間ができたと判断したのだろう。
「……同種がいなくなるまでだ」
八神が短く答える。
「それは何とも気が遠くなるような……」
そう言いながら、美雪が深くため息をつく。
「でも、最下層までいなくならないかもしれないわ。八神さん」
彼女の逆サイドに位置していた絵麻が、八神の意見に疑問を呈した。
そこで、絵麻の青い左目が音を立てて開くドアへと向いた。
エレベーターがまた戦闘開始の合図を送ってきたのだ。
今度は六体が現れる。エレベーターの円形内に乗り込もうとしてきた。知性はないはずだが、まるで俺たちを待ち受けているかのような位置どりをしていた。
「……この陣形であれば問題ない。そのまま各自行動しろ」
状況を後ろで観察していた八神が、俺たちに向け指令を送った。
手始めに、絵麻のコルトパイソンが内二体の身体を瞬時に外へと吹き飛ばす。通路の彼方へとそれらは転がっていく。
次に俺が一体の首を狩り取った。
それを見た俺の真後ろにいる洋平が、芽衣を肩車しながらネイルガンを連射。内一体の額に穴をあける。
芽衣は次の二体を釘二本で仕留めた。
俺と洋平の身長差から、俺の身体にふたりの釘が当たることはない。
八神が述べた通り、俺たちはあっという間に同種を殲滅した。
そして、同種を内部を除去した直後、エレベーターはまた閉まった。
「今回行動したメンバーがグループ1。俺と早野、そして美雪はグループ2だ。この二グループでエレベーターが止まる度に交代する。目的は弾薬の節約だ。最下層までこれを続ける。そこまで安全に降りられる場所がないとしたらだがな」
そう指示を再び送ってから、八神はスナイパーライフルを前へと構えた。
「いいか、圭介。そのまま何事もなく行けると思うな」
八神が俺に告げる。
「あ、ああ。わかった、八神さん」
挙動不審に返事をしてから、俺はランボー・ナイフを斜めに構えた。
この様子を見て気を取り戻したのか、洋平もすぐにネイルガンをエレベーターのドア側へと向ける。
エレベーターが下へゆっくりと落ちていく感覚が俺の腹部を襲う。
中はホテルのスイートルームのリビングかと感じるほど広々としているが、ドアはガラス製ではなく外の様子はうかがい知れないので、密閉空間であることは変わらない。
つまり、上の電光掲示板に表示された現在地を示す階数しか、俺たちには外の情報が与えられていないということだ。
「止まりますよ」
美雪の声が背後から聞こえてきた。
薄く吐息を喉元に引く音がエレベーター内部に響き渡る。
ドアが開いた。
通路の奥には大量の同種たち。
「あ、あそこに同種が――それもあんなに……」
芹香が声を震わせながら言った。
と同時に、エレベーターが到着を知らせる人口の機械音を鳴らす。
「余計なことを……」
洋平が腹立たしげに呟く。
「来るわ、気をつけて」
次に絵麻が誰ともなく警告の言葉を発した。
そして、エレベーターの音に反応して俺たちの存在に気がついた同種たちは、一斉にこちら側へと走り出した。
「いいか、引きつけろ。無駄な弾薬は使うな」
八神の指示がエレベーターに響き渡る。
この号令と共に一気に内部が慌ただしくなった。
「八神君、圭介君。何とかしないとここに来ちゃうよ」
芹香が切迫した声色で言う。
「彼らとの距離はまだある、芹香先生。この階に降りるわけにはいかないが、追い払うぐらいだったら問題ない」
俺がそう言ったのと時を同じくして、円形のエレベーターの死角から同種の手が伸びてきた。
その手を鼻先でかわす俺と洋平。閉まりかけたドアにその手が挟まる。
俺はその手をナイフで刈り取った。
黒い血が目の前で飛び散る。
再びドアは閉まった。
残った手はまだ俺と洋平を攻撃をした記憶を残しているのか、バタバタとその場で海老のように飛び跳ねていた。
「エラくしぶといな。圭介、これって人間の場合でも切られたらこうなるのか?」
洋平が訊いてきた。
「……そんなこと俺を知るわけがないだろう」
俺は首を横に振った。
「洋平、圭介。気を抜くな。全員早く隊列を組みなおせ」
と、そこに再び八神の指示。
それを聞いたそれぞれが、小さなリビングルーム程ある円形の壁の中で、自分のポジションへと散っていった。
俺は中央前方へとその身を移動させ、その背後に芹香が身を寄せる。
ドアは開いた。
今度はその前で三体の同種が待ち構えていた。
奥の左サイドにいる八神、そして右サイドで彼と列を同じにした早野が、その内二体をヘッドショットで仕留めた。
「そこです」
と、次に俺の右側にいる美雪の掛け声。余韻が終わった瞬間に、彼女はアサルトライフルで八神たちの死角にいた同種の頬を撃ち抜いた。
後ろへと転がった三体の背後から数体がこちらに向かってくる様子が見えたが、ドアはそのまま閉まった。
機械特有の強い動きで、エレベーターはまた降下する。
それはあたかも無理矢理奈落へと誘われるような落ち方だった。
「ねえ、八神君。どこまで行くつもりなの?」
芹香が吐息をつきながら訊いた。
今回は次の階にとまる気配はない。時間ができたと判断したのだろう。
「……同種がいなくなるまでだ」
八神が短く答える。
「それは何とも気が遠くなるような……」
そう言いながら、美雪が深くため息をつく。
「でも、最下層までいなくならないかもしれないわ。八神さん」
彼女の逆サイドに位置していた絵麻が、八神の意見に疑問を呈した。
そこで、絵麻の青い左目が音を立てて開くドアへと向いた。
エレベーターがまた戦闘開始の合図を送ってきたのだ。
今度は六体が現れる。エレベーターの円形内に乗り込もうとしてきた。知性はないはずだが、まるで俺たちを待ち受けているかのような位置どりをしていた。
「……この陣形であれば問題ない。そのまま各自行動しろ」
状況を後ろで観察していた八神が、俺たちに向け指令を送った。
手始めに、絵麻のコルトパイソンが内二体の身体を瞬時に外へと吹き飛ばす。通路の彼方へとそれらは転がっていく。
次に俺が一体の首を狩り取った。
それを見た俺の真後ろにいる洋平が、芽衣を肩車しながらネイルガンを連射。内一体の額に穴をあける。
芽衣は次の二体を釘二本で仕留めた。
俺と洋平の身長差から、俺の身体にふたりの釘が当たることはない。
八神が述べた通り、俺たちはあっという間に同種を殲滅した。
そして、同種を内部を除去した直後、エレベーターはまた閉まった。
「今回行動したメンバーがグループ1。俺と早野、そして美雪はグループ2だ。この二グループでエレベーターが止まる度に交代する。目的は弾薬の節約だ。最下層までこれを続ける。そこまで安全に降りられる場所がないとしたらだがな」
そう指示を再び送ってから、八神はスナイパーライフルを前へと構えた。
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