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第27話 016 日本支部東京区新市街下層階行きエレベーター(2)
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結局のところ、俺たちの消極的な目的地であった49階までに止まった階で、同種が少数しかいない通路は存在しなかった。
エレベーターへの侵入はすべて阻止することに成功したが、その先の通路にはまだ大量の同種が残ったままだった。その状態ではエレベーターを降りても先に進むことは叶わない。俺たちが最下層までエレベーターに搭乗することになったのはある意味当然の結果だ。
そしてそれは、これから俺たちの目の前に現れる同種はすべてではないにしても、相当数を殲滅する必要があることを意味している。
要はエレベーターから先に抜ける道を造るための戦いが今から始まるということだ。
だが、もう間もなく49階に到着しようかという現在、そのようなことが果たして可能なのかという疑問がエレベーター内では渦巻いていた。
弾薬を節約したからといってこの状況下を乗り切ることはできるのだろうかというような声が絵麻と美雪の会話の節々から聞こえてくる。
弾数は心もとない数しかないことがすでに判明しており、彼女たちの表情は焦燥感に満ちていた。
その他の者も口や態度には出さないが、総じて無言であることを鑑みると、それぞれ現状に不安を抱えているであろうことは容易に想像がつく。
かくいう俺もその内のひとりだ。
ついに電光掲示板上に49という数字が表示された。
「これから先はどうなるのかしら?」
「絵麻ちゃん。なるようにしかならないです」
「……絶望的という事実は変わらないということかしら?」
「希望はありますよ……ね? 絵麻ちゃん」
「そうね、そう信じでもしないと心が折れてしまうわ」
絵麻と美雪がまだ見ぬ未来を語り合う。
おそらくこの会話は全員の現在の気持ちを代弁しているはずだ。
そして、ほぼすべてのメンバーの息を飲む音が、集合体となってエレベーター内を包み込んだ。
俺たちの不安をよそにそのドアは無機質な音を立てて開く。
いきなり想定した最低人数以上の同種がエレベーターへと乗り込んできた。
背後にはどれだけの個体数がいるかは不明だ。
だが、結論から先にいうと、そのようなことを見積もる必要はなかった。
ここにいるだけでもそれは山のような数に見える。いつ終わるとも知れない戦いになることは火を見るより明らかだった。
鬨の声を上げて俺はランボー・ナイフを振り回し、洋平はネイルガンを連射する。
早野は失笑を漏らしながらスナイパーライフルで同種に対し無差別攻撃を行い、芽衣は同種たちの股の間をすり抜け喉元に釘を刺していった。
俺が確認できたのはそこまでだった。
迫りくる同種たちの圧迫により視界が揺れ、エレベーター内の状況がほとんど把握できなくなった。
隣にいる芹香を俺の足元に座らせ、向かってくる同種たちの攻撃を防ぐことが精一杯だった。
だが、その間も絵麻の方角からはコルトパイソンの音。美雪の方角からはアサルトライフルの音。そして八神の方角からはそのふたつの音と、さらにランボー3・シース・ナイフを振り回す音。彼らの生存を示す合図が俺の耳に入ってはくる。
それだけを頼りに俺はランボー・ナイフを振り回し続けた。
エレベーター内の同種の数が多少減ったので、徐々に視界が開けてきた。
全員無事のようだが、もれなく肩で息をしている。あの八神でさえも薄く口を開けていた。
まだこの中と奥を合わせて半分以上同種は残っていると思われる。
弾薬は足りるのだろうか。いや、それ以上に俺たちの体力が持つのだろうか。
と、俺の背中に重い鎖がかかりかけた時だった。
ドン、とエレベーターの天井に何かがのしかかる音がした。次の瞬間、今度は蓋が横滑りするような音が鳴った。
これを聞いた俺の心はさらに折れそうになった。だが、諦めるわけにはいかないとばかりに天井を見上げる。
少し胸を撫でおろした。
同種ではない。
それは、チャイナドレスに、丈の短いパンツを身に着けたエキゾチックな褐色の肌を持つショートレイヤーの髪型をした女だった。彼女は天井に空いた穴から、じっとこちらを見つめていた。
そして、束の間の後口を開く。
「芹香、助けに来たよ。八神は死ね」
そう言ったかと思うと、その女はエレベーターへと降り立ち、手に持っていたピンクの風呂敷を上へと放り投げた。
少林寺拳法なのだろうか、計算されつくされているのであろう女性らしい立ち振る舞いを兼ね備えた動きで、同種の首を足や手とうで次々とへし折っていく。
瞬く間にエレベーター内にいる同種は事切れていった。
すべてを処理し終えたタイミングで、空中を舞っていた風呂敷が彼女の手元へと降りてくる。
「あなたは……?」
彼女の近くにいた俺は訊いた。
「レヴィ・ジェット・リー。生まれは香港よ」
風呂敷をキャッチしながら、その褐色の肌を持つ女は答えた。
「違うでしょ、うららちゃん。いけませんよ、お友達になる人には、ちゃんと本名を言わなきゃ。圭介君、彼女の本名は田中麗です。それに麗ちゃんの生まれは香港じゃなくて、正真正銘疑う余地もなくど田舎の農村生まれなの。もちろん出身地は日本」
「芹香、おまえ……」
麗と呼ばれたその女はよほど腹立たしかったのか語気を荒げながらそう言って、芹香の脳天にゲンコツを落とした。
直後、ううっ、と呻いたかと思うと頭を抱えて芹香はその場に蹲った。
「ちっ、馬鹿が二人揃っちまった」
そうぼそりと呟いてから、八神は極端に嫌な顔をした。
エレベーターへの侵入はすべて阻止することに成功したが、その先の通路にはまだ大量の同種が残ったままだった。その状態ではエレベーターを降りても先に進むことは叶わない。俺たちが最下層までエレベーターに搭乗することになったのはある意味当然の結果だ。
そしてそれは、これから俺たちの目の前に現れる同種はすべてではないにしても、相当数を殲滅する必要があることを意味している。
要はエレベーターから先に抜ける道を造るための戦いが今から始まるということだ。
だが、もう間もなく49階に到着しようかという現在、そのようなことが果たして可能なのかという疑問がエレベーター内では渦巻いていた。
弾薬を節約したからといってこの状況下を乗り切ることはできるのだろうかというような声が絵麻と美雪の会話の節々から聞こえてくる。
弾数は心もとない数しかないことがすでに判明しており、彼女たちの表情は焦燥感に満ちていた。
その他の者も口や態度には出さないが、総じて無言であることを鑑みると、それぞれ現状に不安を抱えているであろうことは容易に想像がつく。
かくいう俺もその内のひとりだ。
ついに電光掲示板上に49という数字が表示された。
「これから先はどうなるのかしら?」
「絵麻ちゃん。なるようにしかならないです」
「……絶望的という事実は変わらないということかしら?」
「希望はありますよ……ね? 絵麻ちゃん」
「そうね、そう信じでもしないと心が折れてしまうわ」
絵麻と美雪がまだ見ぬ未来を語り合う。
おそらくこの会話は全員の現在の気持ちを代弁しているはずだ。
そして、ほぼすべてのメンバーの息を飲む音が、集合体となってエレベーター内を包み込んだ。
俺たちの不安をよそにそのドアは無機質な音を立てて開く。
いきなり想定した最低人数以上の同種がエレベーターへと乗り込んできた。
背後にはどれだけの個体数がいるかは不明だ。
だが、結論から先にいうと、そのようなことを見積もる必要はなかった。
ここにいるだけでもそれは山のような数に見える。いつ終わるとも知れない戦いになることは火を見るより明らかだった。
鬨の声を上げて俺はランボー・ナイフを振り回し、洋平はネイルガンを連射する。
早野は失笑を漏らしながらスナイパーライフルで同種に対し無差別攻撃を行い、芽衣は同種たちの股の間をすり抜け喉元に釘を刺していった。
俺が確認できたのはそこまでだった。
迫りくる同種たちの圧迫により視界が揺れ、エレベーター内の状況がほとんど把握できなくなった。
隣にいる芹香を俺の足元に座らせ、向かってくる同種たちの攻撃を防ぐことが精一杯だった。
だが、その間も絵麻の方角からはコルトパイソンの音。美雪の方角からはアサルトライフルの音。そして八神の方角からはそのふたつの音と、さらにランボー3・シース・ナイフを振り回す音。彼らの生存を示す合図が俺の耳に入ってはくる。
それだけを頼りに俺はランボー・ナイフを振り回し続けた。
エレベーター内の同種の数が多少減ったので、徐々に視界が開けてきた。
全員無事のようだが、もれなく肩で息をしている。あの八神でさえも薄く口を開けていた。
まだこの中と奥を合わせて半分以上同種は残っていると思われる。
弾薬は足りるのだろうか。いや、それ以上に俺たちの体力が持つのだろうか。
と、俺の背中に重い鎖がかかりかけた時だった。
ドン、とエレベーターの天井に何かがのしかかる音がした。次の瞬間、今度は蓋が横滑りするような音が鳴った。
これを聞いた俺の心はさらに折れそうになった。だが、諦めるわけにはいかないとばかりに天井を見上げる。
少し胸を撫でおろした。
同種ではない。
それは、チャイナドレスに、丈の短いパンツを身に着けたエキゾチックな褐色の肌を持つショートレイヤーの髪型をした女だった。彼女は天井に空いた穴から、じっとこちらを見つめていた。
そして、束の間の後口を開く。
「芹香、助けに来たよ。八神は死ね」
そう言ったかと思うと、その女はエレベーターへと降り立ち、手に持っていたピンクの風呂敷を上へと放り投げた。
少林寺拳法なのだろうか、計算されつくされているのであろう女性らしい立ち振る舞いを兼ね備えた動きで、同種の首を足や手とうで次々とへし折っていく。
瞬く間にエレベーター内にいる同種は事切れていった。
すべてを処理し終えたタイミングで、空中を舞っていた風呂敷が彼女の手元へと降りてくる。
「あなたは……?」
彼女の近くにいた俺は訊いた。
「レヴィ・ジェット・リー。生まれは香港よ」
風呂敷をキャッチしながら、その褐色の肌を持つ女は答えた。
「違うでしょ、うららちゃん。いけませんよ、お友達になる人には、ちゃんと本名を言わなきゃ。圭介君、彼女の本名は田中麗です。それに麗ちゃんの生まれは香港じゃなくて、正真正銘疑う余地もなくど田舎の農村生まれなの。もちろん出身地は日本」
「芹香、おまえ……」
麗と呼ばれたその女はよほど腹立たしかったのか語気を荒げながらそう言って、芹香の脳天にゲンコツを落とした。
直後、ううっ、と呻いたかと思うと頭を抱えて芹香はその場に蹲った。
「ちっ、馬鹿が二人揃っちまった」
そうぼそりと呟いてから、八神は極端に嫌な顔をした。
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