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第72話 040 南欧連合支部北部イタリア管理区域ミラノドリームピースランド・(ホテル)ミラノエスタ(1)
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大型テントで一晩を過ごした後支給された食事をとっていると、俺たちの代表管理番号が近くにあったスピーカーを通して呼ばれた。
すぐに受付のテントの隣にあった案内所に全員で向かい、そこにいたスタッフからホテルに宿泊する準備が整ったとの報告を受けた後、速やかに手荷物チェックを受けるよう案内された。
テントへの帰り道、
「武器がなくて本当に大丈夫なんですかね?」
美雪が誰ともなく尋ねた。
「まあ、同種が侵入してこないというのは本当みたいだしな。昨晩も何もなかったから、もう俺たちが武器を持って戦う必要はないんじゃないか」
そう言って、洋平は顔を上へとやった。
彼の視線の先には空かと見紛うほどの高い天井。所狭しとドーム状のタイルが敷き詰められていた。
擬似昼夜モードが働いているので、時間帯的に早朝である現在そこに取り付けられた照明はかなり明るかった。
「照明を消しても普段通り過ごせたし……その方法は不明だが、確かに同種の侵入からこの避難所は守れている。それに俺たちが武器を持たなくても、あそこにいた人たちが代わりに戦ってくれるんじゃないか」
昨晩の夜モード時点を思い返しながら、洋平に同調した。
「しかし、例えそうであるとしても、刀を渡さなければならぬというのは何とも……」
刑馬が口惜しそうに言う。
彼の場合、育ってきた環境が環境なので、おそらく刀を片時も離したことはないのだろう。
「けど、姫様。せっかく、おいらの刀に映蝉姐ちゃんの毒を仕込んだというのにな。刑馬兄ちゃんの爆弾矢尻も……」
刑馬と同じく又佐がぼやきを見せる。
「仕方なかろう、刑馬、又佐よ。ここはそういうところじゃ。この世界に所見のない妾たちの尺度で物事は測れぬ」
と慰めながらも、姫自ら吐息をつく。
「武器の件については、どうしようもない。同種さえいなければ、そんなものいならないんだからな」
俺はそう姫たちに声をかけた。
八神の顔へチラリと目をやった。
普段通り何も変わりないポーカフェースだが、昨晩の会話ではさすがに武器がない状態で同種に襲われたら厳しいと言っていた。
だが、彼の場合、武器がなくても何とかしてしまえそうな気はする。
「ねえ、麗ちゃん。麗ちゃんはピンヒールどうするの?」
芹香が無垢な感じで尋ねる。
「馬鹿、これは私の普段着だろ。何でヒールをわざわざ脱いで渡さなければならないの。裸足で行動させる気?」
麗は呆れた吐息をついてから、そう芹香に言葉を返した。
あの凶器と言ってもいいヒールを普段から履いているとはいったいどういう育ちをしているのかと、麗の言い分を耳にした俺は訝った。
次に早野へと視線を移す。
昨日、スタッフに武器を没収されてしまうことについて、一番拘っていたのは彼だった。
だが、今日は若干思い詰めた表情をしているが、それについては何も語っていない。
スタッフに交渉するとまで言っていたが、おそらくもう諦めたのだろう。
俺たちはまたテントに向かい自分たちの荷物を手にとった。
それから、それぞれ所持していた武器を大型のバックにまとめて詰め、そのテントを後にしようとした。
だが、その直前、
「みんな、相談なんだけど――念のため、ネイルガンくらいは持って行かないか」
と、早野が全員に呼びかけた。
「ネイルガン……確かにあった方がいいかもしれないけれど」
早野の提案に最初に反応を見せた絵麻はそう言ってから、次に確認するかのように八神へと視線を移した。
「ああ、早野。それくらいあった方がいいかもな。もしかすると没収されてしまうかもしれないが」
八神が承認するかのような台詞を述べる。
避難区域に今から入るというのに、あっさりと了承するとは思わなかった。
もしかすると、八神には何かしらこの先に危険が待ち受けているような直感があるのかもしれない。
俺は八神の顔を見ながらそう訝った。
「え、八神さん。いいの?」
早野は嬉々とした表情をしながら、すぐにネイルガンの分解し始めた。
そして、一分後にはそのネイルガンはただのプラスチックと金具数個になった。
さらにまだ分解を続けるつもりなのか、別のネイルガンをバッグの中から取り出そうとする。
「早野。でも、釘はどうするんだ? 危険物の持ち込みは禁止されているんじゃなかったのか?」
彼に向けそう尋ねた。
「釘については園内の中で手に入れるよ。同種の身体から抜くことを思えば造作もない」
平然とした顔でそう返す早野。
「まあ、テーマパークというか、アミューズメントパークで釘がどこにも使われていないなんてことはないだろうから、手には入るよな」
あっけらかんとした口調で、洋平が言う。
「おい、早野。頼むから、追い出されるようなことだけはしてくれるなよ。妾は布団でないと眠れんのじゃ。あのべっどとかいう柔らかい代物では疲れも取れぬ」
そう注意しながら、姫はネイルガンの分解を進めている早野の背中を見つめる。
「でも、姫ちゃん。泊まるのはホテルだから、たぶん寝るのはベッドだよ」
彼女の隣にいた芽衣が忠告する。
それは聞いた姫は、ショックからか、「なんと……」と絶句した後、呆然とその場に立ち尽くした。
すぐに受付のテントの隣にあった案内所に全員で向かい、そこにいたスタッフからホテルに宿泊する準備が整ったとの報告を受けた後、速やかに手荷物チェックを受けるよう案内された。
テントへの帰り道、
「武器がなくて本当に大丈夫なんですかね?」
美雪が誰ともなく尋ねた。
「まあ、同種が侵入してこないというのは本当みたいだしな。昨晩も何もなかったから、もう俺たちが武器を持って戦う必要はないんじゃないか」
そう言って、洋平は顔を上へとやった。
彼の視線の先には空かと見紛うほどの高い天井。所狭しとドーム状のタイルが敷き詰められていた。
擬似昼夜モードが働いているので、時間帯的に早朝である現在そこに取り付けられた照明はかなり明るかった。
「照明を消しても普段通り過ごせたし……その方法は不明だが、確かに同種の侵入からこの避難所は守れている。それに俺たちが武器を持たなくても、あそこにいた人たちが代わりに戦ってくれるんじゃないか」
昨晩の夜モード時点を思い返しながら、洋平に同調した。
「しかし、例えそうであるとしても、刀を渡さなければならぬというのは何とも……」
刑馬が口惜しそうに言う。
彼の場合、育ってきた環境が環境なので、おそらく刀を片時も離したことはないのだろう。
「けど、姫様。せっかく、おいらの刀に映蝉姐ちゃんの毒を仕込んだというのにな。刑馬兄ちゃんの爆弾矢尻も……」
刑馬と同じく又佐がぼやきを見せる。
「仕方なかろう、刑馬、又佐よ。ここはそういうところじゃ。この世界に所見のない妾たちの尺度で物事は測れぬ」
と慰めながらも、姫自ら吐息をつく。
「武器の件については、どうしようもない。同種さえいなければ、そんなものいならないんだからな」
俺はそう姫たちに声をかけた。
八神の顔へチラリと目をやった。
普段通り何も変わりないポーカフェースだが、昨晩の会話ではさすがに武器がない状態で同種に襲われたら厳しいと言っていた。
だが、彼の場合、武器がなくても何とかしてしまえそうな気はする。
「ねえ、麗ちゃん。麗ちゃんはピンヒールどうするの?」
芹香が無垢な感じで尋ねる。
「馬鹿、これは私の普段着だろ。何でヒールをわざわざ脱いで渡さなければならないの。裸足で行動させる気?」
麗は呆れた吐息をついてから、そう芹香に言葉を返した。
あの凶器と言ってもいいヒールを普段から履いているとはいったいどういう育ちをしているのかと、麗の言い分を耳にした俺は訝った。
次に早野へと視線を移す。
昨日、スタッフに武器を没収されてしまうことについて、一番拘っていたのは彼だった。
だが、今日は若干思い詰めた表情をしているが、それについては何も語っていない。
スタッフに交渉するとまで言っていたが、おそらくもう諦めたのだろう。
俺たちはまたテントに向かい自分たちの荷物を手にとった。
それから、それぞれ所持していた武器を大型のバックにまとめて詰め、そのテントを後にしようとした。
だが、その直前、
「みんな、相談なんだけど――念のため、ネイルガンくらいは持って行かないか」
と、早野が全員に呼びかけた。
「ネイルガン……確かにあった方がいいかもしれないけれど」
早野の提案に最初に反応を見せた絵麻はそう言ってから、次に確認するかのように八神へと視線を移した。
「ああ、早野。それくらいあった方がいいかもな。もしかすると没収されてしまうかもしれないが」
八神が承認するかのような台詞を述べる。
避難区域に今から入るというのに、あっさりと了承するとは思わなかった。
もしかすると、八神には何かしらこの先に危険が待ち受けているような直感があるのかもしれない。
俺は八神の顔を見ながらそう訝った。
「え、八神さん。いいの?」
早野は嬉々とした表情をしながら、すぐにネイルガンの分解し始めた。
そして、一分後にはそのネイルガンはただのプラスチックと金具数個になった。
さらにまだ分解を続けるつもりなのか、別のネイルガンをバッグの中から取り出そうとする。
「早野。でも、釘はどうするんだ? 危険物の持ち込みは禁止されているんじゃなかったのか?」
彼に向けそう尋ねた。
「釘については園内の中で手に入れるよ。同種の身体から抜くことを思えば造作もない」
平然とした顔でそう返す早野。
「まあ、テーマパークというか、アミューズメントパークで釘がどこにも使われていないなんてことはないだろうから、手には入るよな」
あっけらかんとした口調で、洋平が言う。
「おい、早野。頼むから、追い出されるようなことだけはしてくれるなよ。妾は布団でないと眠れんのじゃ。あのべっどとかいう柔らかい代物では疲れも取れぬ」
そう注意しながら、姫はネイルガンの分解を進めている早野の背中を見つめる。
「でも、姫ちゃん。泊まるのはホテルだから、たぶん寝るのはベッドだよ」
彼女の隣にいた芽衣が忠告する。
それは聞いた姫は、ショックからか、「なんと……」と絶句した後、呆然とその場に立ち尽くした。
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