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第二章
第二十九話 治癒騎士の喝破
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「あの不埒な冒険者共の内、二人は婦女暴行の現行犯で衛兵隊に引き渡して連行させたわ。顎を砕かれたひとりについては、緊急治療が必要と判断したため別室で隔離中。まあ、絶対安静って状態ね」
諸々の処理を終えたカティアさんは、呆れた様子を隠そうともせず淡々と説明を終える。これ見よがしな溜息をひとつ混ぜて、ベッドに横たわるシェーナを見下ろした。
「いくら蔑称で呼ばれたからと言っても明らかにやりすぎね。あの男、顎を掌底でダメにされただけじゃなく、脳天から床に叩きつけられたことで生死の境を彷徨っていたわ。まぁ、この私がギリギリのところで繋ぎ止めてやったけど」
「すまないカティア、迷惑をかけた」
ベッドに背中を付けたまま、シェーナは悄然とした声で謝った。
「全くね。私も暇じゃないんだから、あまり余計な仕事を増やさないでもらいたいわ。あんたの治療だってまだ終わっていなかったんだから」
腕を組んで憮然とシェーナを見下ろしていたカティアさんの眼差しが、私の方へと移った。
「これ、あんたにも言ってんのよ。分かってる?」
「はい……。ごめんなさい……」
私は視線を落として力無くそう答えた。申し訳無さと居た堪れなさで、カティアさんの顔をまともに見られない。
「けどまぁ、安易に魔法を使わなかったことは褒めてあげるわ。あんな場所で人間相手に魔法をぶっ放していたら、どだい理由に正当性があろうともっと面倒なことになっていただろうし」
「けどカティアさん、それはあんまりですよ。それじゃあまるで、シッスルさんが無抵抗だったのが正解みたいじゃないですか!」
私達を心配して一緒に居てくれた眼鏡の受付嬢が、何も言わない私とシェーナに代わって抗議する。それに対して、カティアさんはもう一度溜息を吐いて答えた。
「そこまでは言ってないわ。でも魔術士がこの国でどういう扱いなのか、あんたも公職に連なる身なら分かってるでしょ? 魔法は教国法の名の下で厳しく管理されている。当局の許可を得ずに対人で使うなど以ての外。少なくとも、お付きの守護聖騎士も居ない上にあんな多くの人目が有る場所ではね。もし問題になったら、議会で槍玉に挙げられて魔術士全体に都合の悪い波が押し寄せることになりかねないわよ、最悪の場合」
厳しい未来を予想するカティアさんの言葉に、眼鏡の受付嬢は反論の言葉を飲み込んだ。
自分の問題だけでは無かったと改めて実感し、私は身震いして自分の身体を抱き締める。
以前、師匠から独り立ちする時に課せられた最終試験で、街で見かけたスリを人気のない郊外で幻術に掛けて自首させたことがあったけど、あれだって相当な綱渡りだったのだ。あの時は師匠に護られているという意識が心の何処かにあった。だから人に向けて魔法を使う危険性も、その結果として起こりうるであろう悪い未来も、今のように強く認識してはいなかった。
自分が魔術士であること。危ういバランスの上に立つ存在であること。私は遅まきながら、ようやくその事実を痛感している。今も止まってくれないこの身体の震えは、暴漢に犯されそうになったことだけが理由じゃない。
今までが都合が良すぎた。幸運に恵まれていたんだ……!
「そもそもあんた、何でさっさと逃げなかったのよ? あいつらがヤバいこと考えてるって、見て分かりそうなものでしょ?」
カティアさんの言うことはまたも正論だった。私は項垂れたまま、ボソボソと小さな声で答える。
「だってギルド内ですし、彼らもそこまで極端なことはしないだろうと思って……。毅然と対処すれば、きっと丸く収まるだろうって……」
私の頭上で、またもや盛大に溜息が吐き出された。
「それでいけると思ったの? んなワケないじゃない。ただでさえ魔術士は難しい立場な上に、あんた見た目はもろにか弱い女なのよ。大の男三人が相手なら舐められるに決まっているわ。男ってのは、大半がそもそも女を下に見る生き物なんだから」
しれっと男性に対する偏見を混ぜているところが、何というかカティアさんらしい。気が強く、モードさんやブロムさんのような屈強な男にも物怖じしない彼女の性格が、私には何だか羨ましく思えた。
「それだけじゃなくて、魔術士はお付きの守護聖騎士からあまり離れちゃ……むぐっ!」
と、思わず言いかけたところで慌てて口を噤む。それじゃまるで、シェーナやカティアさんの所為で逃げるに逃げられなかったと言っているようなものだ。
だがカティアさんは、尻切れトンボになった私の言葉から敏感に意図を悟ったようだった。顔を見なくとも、彼女の不機嫌ボルテージが上がってゆくのが分かる。
「私やシェーナの居るこの部屋まで逃げてくれば良かったでしょう? あんただって冒険者やってんだから、連中の間を掻い潜って奥に走るくらい出来たんじゃないの?」
「さっきは“か弱い女”だって言ってたのに……」
「“見た目は”ってちゃんと付け加えてたわよ」
あまりにも簡単に言ってのけるカティアさんに流石に少しムッとして思わず揚げ足を取ろうとしたけど、言い方に抜かりがなかった彼女には通じなかった。
「大体ねぇ、あんたってば肝が据わってなさすぎなのよ。自分が何のために冒険者やってるのか、魔術士としてどう世の中と折り合いをつけていくのか、真剣に考えたことあるの?」
「そんな! 私だってちゃんと考えて……!」
「考えていたら今日のような無様は晒さないわよ。あんたを見ていてずっと思ってたことだけど、主体性に欠けているわ。その時その時の状況に流されて、仕方なくそこからどう動くのが良いのかを見極めているだけ。冒険者になるって決めたのは自分の意思なんだろうけど、それだってどこまで本気で腰を据えて考えだした結論なのか疑わしいものね。大方デイアンの死に責任を感じて、冒険者として街に貢献しながらあの事件の謎に迫ることで償おうって腹積もりなんじゃないの?」
「……それの、何処がいけないんですか?」
図星を指されたことと、一方的に上から目線で言われ続けることに私の噴懣も溜まってゆく。別にデイアンさんのことだけじゃない、あの事件を突き詰めることがアヌルーンを守ることに繋がると思って冒険者を始めたんだ。それを主体性に欠けるなんて……!
「いけなくは無いわ。ただ、シェーナの力を端から当てにし過ぎているのが気に入らない」
「それは……っ!?」
膨張した怒気の勢いがたちまちに萎む。言葉を詰まらせた私に、カティアさんは畳み掛けてきた。
「そりゃ私だってね、強力な《スキル》を駆使するリョス・ヒュム族であるシェーナを高く評価してるし、オーガ事件の時は彼女の力を計算の要に組み込んでいたわよ。けどあんたの場合は違う。はっきり言わせてもらうけど、私から見たらあんたのそれは依存よ」
「っ……!」
思い切り、急所を刺されたような痛みが胸から全身に広がった。
「あんたはシェーナに守ってもらうことが当然って顔で行動を決めている。魔術士付きの守護聖騎士なんだからシェーナがあんたを守るのは職務の一環なんだけど、それだって本来は持ちつ持たれつよ。あんた、オーガ事件の時だって私が言うまでシェーナの援護をしようとしなかったじゃない」
そんなことはない、とは言えなかった。シェーナを助けなきゃと頭では思っても、実際に身体が動いたのはカティアさんに叱咤された後だった。先日のガーゴイルの時だってそうだ。自分が幻術しか使えないという意識に甘えて、ギシュールさんに促されるまで積極的に戦おうとしなかった。
その結果、シェーナが怪我することになったんだ。
「自分に不都合なことは全部シェーナに押し付けて、でも彼女には何も返そうとしないで、その癖自分は流されるままにその時その時でやりたいことだけやろうとするなんて……最低よ。あんた、大教会で洗礼を受けた日に誓った筈よね? 神の使徒として身も心も捧げ、公の為に生きるって。最初から、それを全てにするべきだったのよ。あんたの意志は主に預けておくべきもので、友人を縛る為のものじゃない」
カティアさんは、正しい。私は何も言い返せなかった。振り返ってみれば、私は事あるごとにシェーナに頼り過ぎていた。そしてその事実に、自分で気付いていなかった。『シェーナはお守りじゃない、自分の意志は自分で決める』なんてギシュールさんに言っておいて、そんなことが出来るのは誰のお陰なのかとか考えていなかった。
その罰が、とうとう巡り巡ってやってきたのだ。さっきの事態を招いたのは、シェーナに甘えた自分だ。
「私は恵まれた家系に生まれた。幸いにも、魔法の素質も無かった。何不自由なく育ち、豊富な選択肢も与えられた。守護聖騎士団に入ったのだって、コネを利用しなかったかと訊かれれば『違う』と答えざるを得ないわ。でも、それは自分で決めたこと。主の導きを信じ、自分を信じ、自分の行為がより良い未来に繋がると信じた。治癒騎士を拝命した今だって、自分の歩んできた道に一点の疑問も抱いていないわ。私は、今の自分に誇りを持っている」
カティアさんの眼差しはとても厳しく、しかし自信に満ちあふれて澄んでいた。その瞳が、私を真っすぐ射抜いている。
「あんたはどうなの? 自分の中に芯はある? シェーナの隣を並んで歩けるような、確かな意志はあるの? もし、あんたがこの先も――」
「もうそれくらいで良いだろう、カティア」
シェーナの静かな声が、カティアさんの言葉を遮った。
「言いたいことは全部シッスルに言ったんじゃないか? これ以上は、もう良いだろう?」
「シェーナ……。ふん、あんたも大概お人好しね」
カティアさんは呆れたように首を振りつつも、シェーナの意を汲んで続く言葉を飲み込んでくれた。
「少し、シッスルを二人で話がしたい。外してくれるか?」
カティアさんは寝台に近付き、横たわるシェーナの様子を今一度検めると、
「分かったわ。それじゃあ、あんたが顎砕いた強姦魔の方でも見てくるとしましょうか。……ほら、あんたも行くわよ」
「ふぇっ!? は、はいっ!」
カティアさんは眼鏡の受付嬢を伴って、さっさと部屋から出て行ってしまった。
そして、部屋には私とシェーナだけが残される。
「……シッスル」
しばらくの沈黙を経て、シェーナは何も言えない私に向かって口を開いた。
「少し、私の話を聴いてくれる?」
「……うん」
私はただ、親友の言葉に頷くことしか出来なかった。
諸々の処理を終えたカティアさんは、呆れた様子を隠そうともせず淡々と説明を終える。これ見よがしな溜息をひとつ混ぜて、ベッドに横たわるシェーナを見下ろした。
「いくら蔑称で呼ばれたからと言っても明らかにやりすぎね。あの男、顎を掌底でダメにされただけじゃなく、脳天から床に叩きつけられたことで生死の境を彷徨っていたわ。まぁ、この私がギリギリのところで繋ぎ止めてやったけど」
「すまないカティア、迷惑をかけた」
ベッドに背中を付けたまま、シェーナは悄然とした声で謝った。
「全くね。私も暇じゃないんだから、あまり余計な仕事を増やさないでもらいたいわ。あんたの治療だってまだ終わっていなかったんだから」
腕を組んで憮然とシェーナを見下ろしていたカティアさんの眼差しが、私の方へと移った。
「これ、あんたにも言ってんのよ。分かってる?」
「はい……。ごめんなさい……」
私は視線を落として力無くそう答えた。申し訳無さと居た堪れなさで、カティアさんの顔をまともに見られない。
「けどまぁ、安易に魔法を使わなかったことは褒めてあげるわ。あんな場所で人間相手に魔法をぶっ放していたら、どだい理由に正当性があろうともっと面倒なことになっていただろうし」
「けどカティアさん、それはあんまりですよ。それじゃあまるで、シッスルさんが無抵抗だったのが正解みたいじゃないですか!」
私達を心配して一緒に居てくれた眼鏡の受付嬢が、何も言わない私とシェーナに代わって抗議する。それに対して、カティアさんはもう一度溜息を吐いて答えた。
「そこまでは言ってないわ。でも魔術士がこの国でどういう扱いなのか、あんたも公職に連なる身なら分かってるでしょ? 魔法は教国法の名の下で厳しく管理されている。当局の許可を得ずに対人で使うなど以ての外。少なくとも、お付きの守護聖騎士も居ない上にあんな多くの人目が有る場所ではね。もし問題になったら、議会で槍玉に挙げられて魔術士全体に都合の悪い波が押し寄せることになりかねないわよ、最悪の場合」
厳しい未来を予想するカティアさんの言葉に、眼鏡の受付嬢は反論の言葉を飲み込んだ。
自分の問題だけでは無かったと改めて実感し、私は身震いして自分の身体を抱き締める。
以前、師匠から独り立ちする時に課せられた最終試験で、街で見かけたスリを人気のない郊外で幻術に掛けて自首させたことがあったけど、あれだって相当な綱渡りだったのだ。あの時は師匠に護られているという意識が心の何処かにあった。だから人に向けて魔法を使う危険性も、その結果として起こりうるであろう悪い未来も、今のように強く認識してはいなかった。
自分が魔術士であること。危ういバランスの上に立つ存在であること。私は遅まきながら、ようやくその事実を痛感している。今も止まってくれないこの身体の震えは、暴漢に犯されそうになったことだけが理由じゃない。
今までが都合が良すぎた。幸運に恵まれていたんだ……!
「そもそもあんた、何でさっさと逃げなかったのよ? あいつらがヤバいこと考えてるって、見て分かりそうなものでしょ?」
カティアさんの言うことはまたも正論だった。私は項垂れたまま、ボソボソと小さな声で答える。
「だってギルド内ですし、彼らもそこまで極端なことはしないだろうと思って……。毅然と対処すれば、きっと丸く収まるだろうって……」
私の頭上で、またもや盛大に溜息が吐き出された。
「それでいけると思ったの? んなワケないじゃない。ただでさえ魔術士は難しい立場な上に、あんた見た目はもろにか弱い女なのよ。大の男三人が相手なら舐められるに決まっているわ。男ってのは、大半がそもそも女を下に見る生き物なんだから」
しれっと男性に対する偏見を混ぜているところが、何というかカティアさんらしい。気が強く、モードさんやブロムさんのような屈強な男にも物怖じしない彼女の性格が、私には何だか羨ましく思えた。
「それだけじゃなくて、魔術士はお付きの守護聖騎士からあまり離れちゃ……むぐっ!」
と、思わず言いかけたところで慌てて口を噤む。それじゃまるで、シェーナやカティアさんの所為で逃げるに逃げられなかったと言っているようなものだ。
だがカティアさんは、尻切れトンボになった私の言葉から敏感に意図を悟ったようだった。顔を見なくとも、彼女の不機嫌ボルテージが上がってゆくのが分かる。
「私やシェーナの居るこの部屋まで逃げてくれば良かったでしょう? あんただって冒険者やってんだから、連中の間を掻い潜って奥に走るくらい出来たんじゃないの?」
「さっきは“か弱い女”だって言ってたのに……」
「“見た目は”ってちゃんと付け加えてたわよ」
あまりにも簡単に言ってのけるカティアさんに流石に少しムッとして思わず揚げ足を取ろうとしたけど、言い方に抜かりがなかった彼女には通じなかった。
「大体ねぇ、あんたってば肝が据わってなさすぎなのよ。自分が何のために冒険者やってるのか、魔術士としてどう世の中と折り合いをつけていくのか、真剣に考えたことあるの?」
「そんな! 私だってちゃんと考えて……!」
「考えていたら今日のような無様は晒さないわよ。あんたを見ていてずっと思ってたことだけど、主体性に欠けているわ。その時その時の状況に流されて、仕方なくそこからどう動くのが良いのかを見極めているだけ。冒険者になるって決めたのは自分の意思なんだろうけど、それだってどこまで本気で腰を据えて考えだした結論なのか疑わしいものね。大方デイアンの死に責任を感じて、冒険者として街に貢献しながらあの事件の謎に迫ることで償おうって腹積もりなんじゃないの?」
「……それの、何処がいけないんですか?」
図星を指されたことと、一方的に上から目線で言われ続けることに私の噴懣も溜まってゆく。別にデイアンさんのことだけじゃない、あの事件を突き詰めることがアヌルーンを守ることに繋がると思って冒険者を始めたんだ。それを主体性に欠けるなんて……!
「いけなくは無いわ。ただ、シェーナの力を端から当てにし過ぎているのが気に入らない」
「それは……っ!?」
膨張した怒気の勢いがたちまちに萎む。言葉を詰まらせた私に、カティアさんは畳み掛けてきた。
「そりゃ私だってね、強力な《スキル》を駆使するリョス・ヒュム族であるシェーナを高く評価してるし、オーガ事件の時は彼女の力を計算の要に組み込んでいたわよ。けどあんたの場合は違う。はっきり言わせてもらうけど、私から見たらあんたのそれは依存よ」
「っ……!」
思い切り、急所を刺されたような痛みが胸から全身に広がった。
「あんたはシェーナに守ってもらうことが当然って顔で行動を決めている。魔術士付きの守護聖騎士なんだからシェーナがあんたを守るのは職務の一環なんだけど、それだって本来は持ちつ持たれつよ。あんた、オーガ事件の時だって私が言うまでシェーナの援護をしようとしなかったじゃない」
そんなことはない、とは言えなかった。シェーナを助けなきゃと頭では思っても、実際に身体が動いたのはカティアさんに叱咤された後だった。先日のガーゴイルの時だってそうだ。自分が幻術しか使えないという意識に甘えて、ギシュールさんに促されるまで積極的に戦おうとしなかった。
その結果、シェーナが怪我することになったんだ。
「自分に不都合なことは全部シェーナに押し付けて、でも彼女には何も返そうとしないで、その癖自分は流されるままにその時その時でやりたいことだけやろうとするなんて……最低よ。あんた、大教会で洗礼を受けた日に誓った筈よね? 神の使徒として身も心も捧げ、公の為に生きるって。最初から、それを全てにするべきだったのよ。あんたの意志は主に預けておくべきもので、友人を縛る為のものじゃない」
カティアさんは、正しい。私は何も言い返せなかった。振り返ってみれば、私は事あるごとにシェーナに頼り過ぎていた。そしてその事実に、自分で気付いていなかった。『シェーナはお守りじゃない、自分の意志は自分で決める』なんてギシュールさんに言っておいて、そんなことが出来るのは誰のお陰なのかとか考えていなかった。
その罰が、とうとう巡り巡ってやってきたのだ。さっきの事態を招いたのは、シェーナに甘えた自分だ。
「私は恵まれた家系に生まれた。幸いにも、魔法の素質も無かった。何不自由なく育ち、豊富な選択肢も与えられた。守護聖騎士団に入ったのだって、コネを利用しなかったかと訊かれれば『違う』と答えざるを得ないわ。でも、それは自分で決めたこと。主の導きを信じ、自分を信じ、自分の行為がより良い未来に繋がると信じた。治癒騎士を拝命した今だって、自分の歩んできた道に一点の疑問も抱いていないわ。私は、今の自分に誇りを持っている」
カティアさんの眼差しはとても厳しく、しかし自信に満ちあふれて澄んでいた。その瞳が、私を真っすぐ射抜いている。
「あんたはどうなの? 自分の中に芯はある? シェーナの隣を並んで歩けるような、確かな意志はあるの? もし、あんたがこの先も――」
「もうそれくらいで良いだろう、カティア」
シェーナの静かな声が、カティアさんの言葉を遮った。
「言いたいことは全部シッスルに言ったんじゃないか? これ以上は、もう良いだろう?」
「シェーナ……。ふん、あんたも大概お人好しね」
カティアさんは呆れたように首を振りつつも、シェーナの意を汲んで続く言葉を飲み込んでくれた。
「少し、シッスルを二人で話がしたい。外してくれるか?」
カティアさんは寝台に近付き、横たわるシェーナの様子を今一度検めると、
「分かったわ。それじゃあ、あんたが顎砕いた強姦魔の方でも見てくるとしましょうか。……ほら、あんたも行くわよ」
「ふぇっ!? は、はいっ!」
カティアさんは眼鏡の受付嬢を伴って、さっさと部屋から出て行ってしまった。
そして、部屋には私とシェーナだけが残される。
「……シッスル」
しばらくの沈黙を経て、シェーナは何も言えない私に向かって口を開いた。
「少し、私の話を聴いてくれる?」
「……うん」
私はただ、親友の言葉に頷くことしか出来なかった。
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