15 / 18
俺と夜(過去編)
12話(過去編)
しおりを挟む「両思いなら早く言えよ…お前」
誰かが俺の手を掴んでいる。
懐かしい声、俺の好きな落ち着く声。
俺は恐る恐る声の主の方へ振り向いた。
それと同時に、腰に手をまわされ体が洸夜に向かって縺れた。
「…なんでっ…んっ!」
塞がれる唇、目の前に迫る好きだった人。
いつまでそうしていたのだろうか?
お互いの唇が離れると、洸夜そっと俺の髪を数本手に絡めるとそこに唇を落とす。
「お前の髪が好きだ。そうやって自分に素直になれないお前も好きだ。卑屈な部分も含めて全部受け入れてる。お前はゴミなんかじゃない、綺麗だ。俺だけを瞳に写したい。けど、流石にやりすぎたって後悔してる、ごめん。お前の気持ちに気づかなくてごめん。次はちゃんとお前も俺に話せ、辛いことも楽しいことも悩みも、全部だ。今度はお前を幸せにする、今更なんて言うなよ。
俺は今もお前が好きだ___日陰」
温かいぬくもり、日陰って名前は嫌いだけど、洸夜に呼ばれると胸の奥がじんわりと熱を持つ。
「お前は俺のこと嫌いになった?」
少し苦しそうな顔で洸夜は俺に言葉を求めてくる。
「嫌いじゃ無いよ…!むしろ好きだ!けど…っそれじゃあダメだ…俺はお前に最低なことした…だからっ!」
「それがなんだって言うんだ?俺言ったよな?全部受け入れてるって。お前の言う最低な事ってのはもう過去の話だ。お前はそうやって過去に縛られて本当の気持ちを閉じ込めるのか?」
「っ…」
まっすぐな瞳、洸夜は出会ってからも出会う前からもずっとそうだ。
正しくないことは正しくないってはっきり言うし、正しいことは正しいと真正面から言い張る。
俺には出来ないこと、俺には出来なかったこと。
洸夜はいつだって前を歩きつづける。
俺は、止まってばかりだ。
誰かに支えてもらわないと進めない。
「最低だ…俺は…最低で!お前に…ッ酷いことして!」
目から溢れた暖かい涙で、しっとりと肌が湿って行く。
泣くなんていつ以来だろうか。
「俺だって酷いことした。お前を閉じ込めた…けど、今度はお前と向き合ってる。やっと前に進めるんだよ…俺とお前」
気づけば洸夜の腕の中に居て、力強く抱きしめられていた。
それに、なんだか凄く落ち着く自分がいた。
今までのことが全て嘘で、まやかしで、誰かが苦しんでいた事実なんて無かったかのように暖かく包み込まれる。
「泣いてばかりじゃわかんねぇぞ…言ってみろ、お前の本音を」
こうやって優しく問いかけてくれる誰かがいて、こうやって俺の言葉と俺自身に向き合おうとしてくれる人がいる。
俺だってわかってる。
立ち止まっては行けない、前と同じに戻りたくない。
亮太や、不良で喧嘩もするけど優しい人たち、俺を変えてくれた洸夜との出会い。
全てなかったことになんかしたくない、なかったことになんか出来ない。
「言ってみろ…お前がこれからどうしたいのか」
どうしたいのか…俺は、
俺は______…!
0
あなたにおすすめの小説
執着
紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。
バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?
cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき)
ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。
「そうだ、バイトをしよう!」
一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。
教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった!
なんで元カレがここにいるんだよ!
俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。
「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」
「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」
なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ!
もう一度期待したら、また傷つく?
あの時、俺たちが別れた本当の理由は──?
「そろそろ我慢の限界かも」
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
俺の居場所を探して
夜野
BL
小林響也は炎天下の中辿り着き、自宅のドアを開けた瞬間眩しい光に包まれお約束的に異世界にたどり着いてしまう。
そこには怪しい人達と自分と犬猿の仲の弟の姿があった。
そこで弟は聖女、自分は弟の付き人と決められ、、、
このお話しは響也と弟が対立し、こじれて決別してそれぞれお互い的に幸せを探す話しです。
シリアスで暗めなので読み手を選ぶかもしれません。
遅筆なので不定期に投稿します。
初投稿です。
みどりとあおとあお
うりぼう
BL
明るく元気な双子の弟とは真逆の性格の兄、碧。
ある日、とある男に付き合ってくれないかと言われる。
モテる弟の身代わりだと思っていたけれど、いつからか惹かれてしまっていた。
そんな碧の物語です。
短編。
【本編完結】死に戻りに疲れた美貌の傾国王子、生存ルートを模索する
とうこ
BL
その美しさで知られた母に似て美貌の第三王子ツェーレンは、王弟に嫁いだ隣国で不貞を疑われ哀れ極刑に……と思ったら逆行!? しかもまだ夫選びの前。訳が分からないが、同じ道は絶対に御免だ。
「隣国以外でお願いします!」
死を回避する為に選んだ先々でもバラエティ豊かにkillされ続け、巻き戻り続けるツェーレン。これが最後と十二回目の夫となったのは、有名特殊な一族の三男、天才魔術師アレスター。
彼は婚姻を拒絶するが、ツェーレンが呪いを受けていると言い解呪を約束する。
いじられ体質の情けない末っ子天才魔術師×素直前向きな呪われ美形王子。
転移日本人を祖に持つグレイシア三兄弟、三男アレスターの物語。
小説家になろう様にも掲載しております。
※本編完結。ぼちぼち番外編を投稿していきます。
後宮に咲く美しき寵后
不来方しい
BL
フィリの故郷であるルロ国では、真っ白な肌に金色の髪を持つ人間は魔女の生まれ変わりだと伝えられていた。生まれた者は民衆の前で焚刑に処し、こうして人々の安心を得る一方、犠牲を当たり前のように受け入れている国だった。
フィリもまた雪のような肌と金髪を持って生まれ、来るべきときに備え、地下の部屋で閉じ込められて生活をしていた。第四王子として生まれても、処刑への道は免れられなかった。
そんなフィリの元に、縁談の話が舞い込んでくる。
縁談の相手はファルーハ王国の第三王子であるヴァシリス。顔も名前も知らない王子との結婚の話は、同性婚に偏見があるルロ国にとって、フィリはさらに肩身の狭い思いをする。
ファルーハ王国は砂漠地帯にある王国であり、雪国であるルロ国とは真逆だ。縁談などフィリ信じず、ついにそのときが来たと諦めの境地に至った。
情報がほとんどないファルーハ王国へ向かうと、国を上げて祝福する民衆に触れ、処刑場へ向かうものだとばかり思っていたフィリは困惑する。
狼狽するフィリの元へ現れたのは、浅黒い肌と黒髪、サファイア色の瞳を持つヴァシリスだった。彼はまだ成人にはあと二年早い子供であり、未成年と婚姻の儀を行うのかと不意を突かれた。
縁談の持ち込みから婚儀までが早く、しかも相手は未成年。そこには第二王子であるジャミルの思惑が隠されていて──。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる