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第五章 合従連衡
ホテルの一夜Ⅱ
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「それか。あれは我がドイツ海軍を見限ってからすぐのことであったな。元より瑞鶴はイタリアに匿われていた。我もイタリアに誘われたから、そこで瑞鶴に会ったという訳だ」
「なるほど……。もうちょっと詳しく聞いてもいいですか?」
「何だ?」
「どうして瑞鶴さんはイタリアにいたんですか?」
「それは我もよくは知らん。だが、イタリアと日本は基本的に敵対関係だし、日本から脱走した瑞鶴を匿うのに不思議はないのではないか?」
第二次世界大戦の時は協力関係にあった日独伊三国だが、戦争が終結するとすぐに対立関係に転じた。瑞鶴のしているのはつまり亡命な訳で、そう考えればイタリアが瑞鶴を受け入れたのは自然なことである。
「じゃあ、ツェッペリンさんはどうしてイタリアに匿ってもらえたんですか? イタリアとドイツは同盟しているんじゃないんですか?」
「周りに思われているほどドイツとイタリアの関係は良好ではない。かつては我が総統とムッソリーニの個人的な友好関係が国の友好関係になっていたが、ゲッベルスが最高指導者になってから関係はすっかり冷えているのだ。それに、我もイタリア本土にいた訳ではない。アフリカの西海岸の……名前は忘れた島に匿われていた」
イタリアとしてはドイツに対する駒として確保しておきたかったというところだろう。
「それで、今はどうしてイタリアにはいないんですか?」
「1952年の3月くらいだったか、ドイツが圧力をかけてきて、イタリアに我を返すように言ってきたらしい。ムッソリーニがそう教えてくれたから、我は瑞鶴と共にとっとと逃げた。その後はムッソリーニから細々と支援を受けつつ各所を転々としていて、キューバ戦争が始まってからは暫くキューバに逗留していたが、それも追い出されたという訳だ」
「大変だったんですね……」
「ああ。燃料を調達するのが一番面倒であった」
瑞鶴とツェッペリンはアフリカ西岸や南米で油槽船を襲って生き延びていたらしい。妙高はそれで納得したが、強盗に必要な兵士をどうやって調達していたのかなど、高雄には更に聞きたいことが何個かあった。だが質問するのは止めておくことにした。
「他に聞きたいことはあるか?」
「そうですね……では、ツェッペリンさんと瑞鶴さんって、どのくらい仲がいいんですか?」
「な、何だその質問はっ」
ツェッペリンは途端に顔を赤くした。妙高は何となく何かを察して「やっぱりいいです」と質問を取り下げた。たちまち会話が途絶えて気まずい空気だけが3名の間を流れる。
「そ、それでは、ツェッペリンさん」
高雄は咳払いして会話を再始動させる。
「ツェッペリンさんの方からわたくし達に聞いておきたいことは、何かありませんか?」
「そうだな……。お前達はいつから知り合いなのだ?」
「わたくし達が出会ったのは、ほんの4ヶ月ほど前のことです。妙高がわたくしのいた第五艦隊に転任されてきたという形で」
「そうなのか。意外だな。もっと付き合いが長いものかと思っていたが」
「そ、そう見えるのですか?」
「ただの勘だ。根拠などない」
「高雄と私はもう親友です!」
妙高は誇らしげに言った。だが、ツェッペリンは面白がって不敵な笑みを浮かべ、高雄は恥ずかしがって目を泳がせていた。
「あ、な、何かごめん……」
「いえ、別に謝ることはありません。ただ余りにも突然で、驚いたもので」
「面白い奴だな、お前は」
「お、面白い、ですか……」
ツェッペリンが褒め言葉として言っているとは思えなかった。
「さて、では次は――」
ツェッペリンは躊躇なく妙高と高雄を質問責めにして、少なくとも二人が出会ってからのことは粗方聞き出した。そんなことをしている内に2時間が経とうとしていた。
「もうこんなに経ったか。長居しすぎてしまった」
「いえいえ、私もツェッペリンさんとお話できて楽しかったです」
「素直な奴だな、お前は。だが我は疲れた。そろそろ戻る」
「そうですか……。お休みなさい」
少し残念そうに、妙高はツェッペリンを見送った。結局ツェッペリンの寝ずの番が終わるまで妙高も高雄も起きていたので、ツェッペリンが起きている意味はなかった。
「11時きっかり。次は私の番だね」
「わたくしも起きていますよ」
「え、ダメだよ! 高雄が3時間しか寝れなくなっちゃう。ちゃんと寝て!」
想像の数倍は妙高に怒られて、高雄は面食らってしまった。
「わ、分かりました。お休みなさい、妙高」
「うん。お休み」
妙高は事前に持ち込んでおいた本を読んで暇を潰した。これならいつもやっているのと変わらないので、特に退屈と感じることはなかった。そして高雄の番になると、妙高はあっという間に眠ってしまった。
「さて……。わたくしは今、非常にマズい状況にあるようです……」
すやすや寝息を立てて、全く無防備に眠る妙高。その姿を見ていると、高雄の心臓が高鳴ってしまう。思えば先程ツェッペリンと話していた時から、高雄は妙高を見ると心がざわめいていた。この夜、高雄は本を幾ら読んでも内容がまるで入ってこなかった。
「なるほど……。もうちょっと詳しく聞いてもいいですか?」
「何だ?」
「どうして瑞鶴さんはイタリアにいたんですか?」
「それは我もよくは知らん。だが、イタリアと日本は基本的に敵対関係だし、日本から脱走した瑞鶴を匿うのに不思議はないのではないか?」
第二次世界大戦の時は協力関係にあった日独伊三国だが、戦争が終結するとすぐに対立関係に転じた。瑞鶴のしているのはつまり亡命な訳で、そう考えればイタリアが瑞鶴を受け入れたのは自然なことである。
「じゃあ、ツェッペリンさんはどうしてイタリアに匿ってもらえたんですか? イタリアとドイツは同盟しているんじゃないんですか?」
「周りに思われているほどドイツとイタリアの関係は良好ではない。かつては我が総統とムッソリーニの個人的な友好関係が国の友好関係になっていたが、ゲッベルスが最高指導者になってから関係はすっかり冷えているのだ。それに、我もイタリア本土にいた訳ではない。アフリカの西海岸の……名前は忘れた島に匿われていた」
イタリアとしてはドイツに対する駒として確保しておきたかったというところだろう。
「それで、今はどうしてイタリアにはいないんですか?」
「1952年の3月くらいだったか、ドイツが圧力をかけてきて、イタリアに我を返すように言ってきたらしい。ムッソリーニがそう教えてくれたから、我は瑞鶴と共にとっとと逃げた。その後はムッソリーニから細々と支援を受けつつ各所を転々としていて、キューバ戦争が始まってからは暫くキューバに逗留していたが、それも追い出されたという訳だ」
「大変だったんですね……」
「ああ。燃料を調達するのが一番面倒であった」
瑞鶴とツェッペリンはアフリカ西岸や南米で油槽船を襲って生き延びていたらしい。妙高はそれで納得したが、強盗に必要な兵士をどうやって調達していたのかなど、高雄には更に聞きたいことが何個かあった。だが質問するのは止めておくことにした。
「他に聞きたいことはあるか?」
「そうですね……では、ツェッペリンさんと瑞鶴さんって、どのくらい仲がいいんですか?」
「な、何だその質問はっ」
ツェッペリンは途端に顔を赤くした。妙高は何となく何かを察して「やっぱりいいです」と質問を取り下げた。たちまち会話が途絶えて気まずい空気だけが3名の間を流れる。
「そ、それでは、ツェッペリンさん」
高雄は咳払いして会話を再始動させる。
「ツェッペリンさんの方からわたくし達に聞いておきたいことは、何かありませんか?」
「そうだな……。お前達はいつから知り合いなのだ?」
「わたくし達が出会ったのは、ほんの4ヶ月ほど前のことです。妙高がわたくしのいた第五艦隊に転任されてきたという形で」
「そうなのか。意外だな。もっと付き合いが長いものかと思っていたが」
「そ、そう見えるのですか?」
「ただの勘だ。根拠などない」
「高雄と私はもう親友です!」
妙高は誇らしげに言った。だが、ツェッペリンは面白がって不敵な笑みを浮かべ、高雄は恥ずかしがって目を泳がせていた。
「あ、な、何かごめん……」
「いえ、別に謝ることはありません。ただ余りにも突然で、驚いたもので」
「面白い奴だな、お前は」
「お、面白い、ですか……」
ツェッペリンが褒め言葉として言っているとは思えなかった。
「さて、では次は――」
ツェッペリンは躊躇なく妙高と高雄を質問責めにして、少なくとも二人が出会ってからのことは粗方聞き出した。そんなことをしている内に2時間が経とうとしていた。
「もうこんなに経ったか。長居しすぎてしまった」
「いえいえ、私もツェッペリンさんとお話できて楽しかったです」
「素直な奴だな、お前は。だが我は疲れた。そろそろ戻る」
「そうですか……。お休みなさい」
少し残念そうに、妙高はツェッペリンを見送った。結局ツェッペリンの寝ずの番が終わるまで妙高も高雄も起きていたので、ツェッペリンが起きている意味はなかった。
「11時きっかり。次は私の番だね」
「わたくしも起きていますよ」
「え、ダメだよ! 高雄が3時間しか寝れなくなっちゃう。ちゃんと寝て!」
想像の数倍は妙高に怒られて、高雄は面食らってしまった。
「わ、分かりました。お休みなさい、妙高」
「うん。お休み」
妙高は事前に持ち込んでおいた本を読んで暇を潰した。これならいつもやっているのと変わらないので、特に退屈と感じることはなかった。そして高雄の番になると、妙高はあっという間に眠ってしまった。
「さて……。わたくしは今、非常にマズい状況にあるようです……」
すやすや寝息を立てて、全く無防備に眠る妙高。その姿を見ていると、高雄の心臓が高鳴ってしまう。思えば先程ツェッペリンと話していた時から、高雄は妙高を見ると心がざわめいていた。この夜、高雄は本を幾ら読んでも内容がまるで入ってこなかった。
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