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第六章 アメリカ核攻撃
ある科学者
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『丸2日……暇じゃないですか?』
サウスカロライナ州沿岸部に待機してすぐ、妙高は呑気なことを言う。
「別に2日何もないなんて、珍しくもないでしょ」
『いやー、その、やっぱり何もない海でも航海するのはそれなりに楽しいと言いますか』
『我も妙高に同感だぞ。こんなつまらん場所に長居するなどつまらん』
「つまらん以外の感想ないの?」
『まあまあ、どう考えてもアメリカ海軍が襲いかかってくることは明白なのですから、丸2日何もないということはないですよ』
高雄は言った。48時間もあればアメリカ東海岸に待機しているアメリカ艦隊が全部駆けつけることも可能だろう。
「それもそうね。ツェッペリン、楽しい戦争が待ってるわよ」
『アメリカ人を皆殺しにするのは楽しそうだ』
『殺すとか言わないでくださいよお……』
『妙高よ、お前は軍艦としての自覚が足りないのではないか?』
『そ、そう言われたら……言い返せはしないのですが……』
『まあ、全部が全部我や瑞鶴のような船魄であったら、それもそれで気味が悪いか』
『は、はあ』
このように軽口を叩いたり、話題が尽きると各自読書をしたりなどして時間を潰していると、10時間ほどで状況に変化が起こる。
『皆さん! 北から商船と思しき船がこちらに接近しています!』
高雄が逸早くそれを発見した。
「商船? ただここを通りたいだけじゃないの?」
『いえ、確実にここに向かってきていると見受けられます』
「あ、そう……。近寄ってくるのは1隻だけ?」
『はい』
「商船に見せかけて自爆でもしようとしてるのかしら。まあいずれにせよ、警戒する方がいいわね。高雄、妙高、対応は任せるわ」
最悪の場合の耐久性も、小型船に対する対応能力も、巡洋艦の方が優れている。妙高と高雄は商船を通せんぼするように単縦陣を組んで待ち構える。
「ねえ高雄、あの船、白旗を掲げてるみたいなんだけど……」
『そのようですね。戦闘の意思はない、ということでしょうか』
「敵じゃない? でもこっちに寄ってくるし……」
『いずれにせよ、いつでも攻撃できる準備は整えておきましょう』
「うん、そうだね」
距離は10kmほど。主砲を不審船に向け、妙高と高雄はいつでもそれを撃沈できる構えを取る。と、その時、妙高の無線機に呼び掛けが入った。恐らく目の前の不審船からだろう。
「うわっ、受けたくない」
とは思いつつ、無視する訳にもいかないので、妙高は通信を受けた。
「何の御用でしょうか……?」
聞こえて来たのはハッキリとした男の声。
『我々は科学者である。君達に話さなければならないことがあって来た。君達と戦闘をする意思はない。どうか直接顔を会わさせてもらえないだろうか?』
「なるほど……。ちょ、ちょっと待ってもらえますか?」
妙高は高雄に助けを求める。
『――それなら、瑞鶴さんにお話するのがよろしいのでは?』
「そ、そうだね。分かった」
妙高は不審船の男を待たせつつ、瑞鶴に伺いを立てた。瑞鶴は取り敢えず自分に不審船を案内するよう妙高に伝えた。かくして特に武器も積んでいない船は瑞鶴に横付けした。
「ゲバラ、よろしく」
「分かってる」
こういう時の為に兵士達はいるのだ。相手の船にタラップを繋げ、同時に数名のキューバ軍の兵士が瑞鶴の入口で銃を構える。妙な動きをすれば即座に射殺する構えである。
上がってきたのは一人だけだった。きっちりと背広を来た、そう歳は取っていなさそうだが、やけにやつれて死にそうな男である。
兵士達が警戒する中、瑞鶴とゲバラは男を出迎えた。
「あんたは? どこのどいつ?」
「私は、ロバート・オッペンハイマーだ」
「……誰?」
「原子爆弾の産み出した奴だよ、こいつは」
この男、瑞鶴は知らなかったが世界的には有名人である。アメリカの原子爆弾開発計画、マンハッタン作戦を主導した物理学者であり、大東亜戦争の敗戦後は核軍縮思想に転向して冷遇されている男だ。
「へえ。面白い奴じゃない。どうぞ入って」
「正確には基礎理論を構築したと言ったところだが、ありがとう、話す機会をくれて」
「こっち来て」
瑞鶴は艦内の会議室にオッペンハイマーを案内する。ソファに彼を座らせ、机を挟んだ反対側のソファに瑞鶴とゲバラは座る。
「で、何しに来たの?」
「単刀直入に言おう。原子爆弾を使わないでくれ。あれは使ってはならないのだ」
「へえ。何で?」
「君達は原子爆弾をただの強力な爆弾のように思っているのだろうが、実際は違うのだ。原子爆弾は大量の放射線を撒き散らし、爆風に巻き込まれなかった人間を苦しませて殺す武器なのだ。法的に言えば、不要な苦痛を敵に与えるのは国際法違反だ」
「だから何? アメリカがこの戦争で何万人殺したと思ってるの? アメリカ人が多少苦しんで死んだくらいで私達が躊躇するとでも?」
「それは君の意思だろう。ゲバラ君、君の意思はどうなのだ?」
「僕も瑞鶴と同感だね」
「……そうか。いや、しかし、誰かが原子爆弾を使ってしまえば、原子爆弾は使える兵器になってしまう。世界が地獄になるんだぞ?」
「大丈夫よ。ドイツがアメリカに核は使わせないらしいし、それにそもそも、私達は事前に予告しているんだから、原子爆弾に巻き込まれるのは自殺志願者だけよ」
「それがいけないのだ。そんなことをすれば、原子爆弾は普通に使える兵器だと、誤ったメッセージを世界に伝えてしまう!」
オッペンハイマーは必死に訴えるが、瑞鶴はまるで聞く耳を持たなかった。
サウスカロライナ州沿岸部に待機してすぐ、妙高は呑気なことを言う。
「別に2日何もないなんて、珍しくもないでしょ」
『いやー、その、やっぱり何もない海でも航海するのはそれなりに楽しいと言いますか』
『我も妙高に同感だぞ。こんなつまらん場所に長居するなどつまらん』
「つまらん以外の感想ないの?」
『まあまあ、どう考えてもアメリカ海軍が襲いかかってくることは明白なのですから、丸2日何もないということはないですよ』
高雄は言った。48時間もあればアメリカ東海岸に待機しているアメリカ艦隊が全部駆けつけることも可能だろう。
「それもそうね。ツェッペリン、楽しい戦争が待ってるわよ」
『アメリカ人を皆殺しにするのは楽しそうだ』
『殺すとか言わないでくださいよお……』
『妙高よ、お前は軍艦としての自覚が足りないのではないか?』
『そ、そう言われたら……言い返せはしないのですが……』
『まあ、全部が全部我や瑞鶴のような船魄であったら、それもそれで気味が悪いか』
『は、はあ』
このように軽口を叩いたり、話題が尽きると各自読書をしたりなどして時間を潰していると、10時間ほどで状況に変化が起こる。
『皆さん! 北から商船と思しき船がこちらに接近しています!』
高雄が逸早くそれを発見した。
「商船? ただここを通りたいだけじゃないの?」
『いえ、確実にここに向かってきていると見受けられます』
「あ、そう……。近寄ってくるのは1隻だけ?」
『はい』
「商船に見せかけて自爆でもしようとしてるのかしら。まあいずれにせよ、警戒する方がいいわね。高雄、妙高、対応は任せるわ」
最悪の場合の耐久性も、小型船に対する対応能力も、巡洋艦の方が優れている。妙高と高雄は商船を通せんぼするように単縦陣を組んで待ち構える。
「ねえ高雄、あの船、白旗を掲げてるみたいなんだけど……」
『そのようですね。戦闘の意思はない、ということでしょうか』
「敵じゃない? でもこっちに寄ってくるし……」
『いずれにせよ、いつでも攻撃できる準備は整えておきましょう』
「うん、そうだね」
距離は10kmほど。主砲を不審船に向け、妙高と高雄はいつでもそれを撃沈できる構えを取る。と、その時、妙高の無線機に呼び掛けが入った。恐らく目の前の不審船からだろう。
「うわっ、受けたくない」
とは思いつつ、無視する訳にもいかないので、妙高は通信を受けた。
「何の御用でしょうか……?」
聞こえて来たのはハッキリとした男の声。
『我々は科学者である。君達に話さなければならないことがあって来た。君達と戦闘をする意思はない。どうか直接顔を会わさせてもらえないだろうか?』
「なるほど……。ちょ、ちょっと待ってもらえますか?」
妙高は高雄に助けを求める。
『――それなら、瑞鶴さんにお話するのがよろしいのでは?』
「そ、そうだね。分かった」
妙高は不審船の男を待たせつつ、瑞鶴に伺いを立てた。瑞鶴は取り敢えず自分に不審船を案内するよう妙高に伝えた。かくして特に武器も積んでいない船は瑞鶴に横付けした。
「ゲバラ、よろしく」
「分かってる」
こういう時の為に兵士達はいるのだ。相手の船にタラップを繋げ、同時に数名のキューバ軍の兵士が瑞鶴の入口で銃を構える。妙な動きをすれば即座に射殺する構えである。
上がってきたのは一人だけだった。きっちりと背広を来た、そう歳は取っていなさそうだが、やけにやつれて死にそうな男である。
兵士達が警戒する中、瑞鶴とゲバラは男を出迎えた。
「あんたは? どこのどいつ?」
「私は、ロバート・オッペンハイマーだ」
「……誰?」
「原子爆弾の産み出した奴だよ、こいつは」
この男、瑞鶴は知らなかったが世界的には有名人である。アメリカの原子爆弾開発計画、マンハッタン作戦を主導した物理学者であり、大東亜戦争の敗戦後は核軍縮思想に転向して冷遇されている男だ。
「へえ。面白い奴じゃない。どうぞ入って」
「正確には基礎理論を構築したと言ったところだが、ありがとう、話す機会をくれて」
「こっち来て」
瑞鶴は艦内の会議室にオッペンハイマーを案内する。ソファに彼を座らせ、机を挟んだ反対側のソファに瑞鶴とゲバラは座る。
「で、何しに来たの?」
「単刀直入に言おう。原子爆弾を使わないでくれ。あれは使ってはならないのだ」
「へえ。何で?」
「君達は原子爆弾をただの強力な爆弾のように思っているのだろうが、実際は違うのだ。原子爆弾は大量の放射線を撒き散らし、爆風に巻き込まれなかった人間を苦しませて殺す武器なのだ。法的に言えば、不要な苦痛を敵に与えるのは国際法違反だ」
「だから何? アメリカがこの戦争で何万人殺したと思ってるの? アメリカ人が多少苦しんで死んだくらいで私達が躊躇するとでも?」
「それは君の意思だろう。ゲバラ君、君の意思はどうなのだ?」
「僕も瑞鶴と同感だね」
「……そうか。いや、しかし、誰かが原子爆弾を使ってしまえば、原子爆弾は使える兵器になってしまう。世界が地獄になるんだぞ?」
「大丈夫よ。ドイツがアメリカに核は使わせないらしいし、それにそもそも、私達は事前に予告しているんだから、原子爆弾に巻き込まれるのは自殺志願者だけよ」
「それがいけないのだ。そんなことをすれば、原子爆弾は普通に使える兵器だと、誤ったメッセージを世界に伝えてしまう!」
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