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第七章 アメリカ本土空襲
天弐号作戦
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キューバ政府は全世界に対し、ワシントン・ニューヨークに対し攻撃を行う用意があると発表した。日本、ソ連、ドイツは特に反応を示さず、これを黙認した。と同時に、修理と整備を最低限終わらせた月虹はバハマを出撃する。
「全艦に告ぐ。これより天弐号作戦を開始するわ。目標はニューヨーク。アメリカ人共に恐怖を突きつけるのよ」
今回の作戦名は前回のものを引き継いで天弐号作戦であった。公式発表ではまだぼかしているものの、実際の目標はニューヨークに決めている。一般のアメリカ人にとっては政治の中心より経済の中心の方が大事だからである。
『敵は、迎え撃ちに来るでしょうか……』
妙高は不安げに言った。
「そりゃあそうでしょうね。ニューヨークへの攻撃を許せば、アメリカの国威は失墜するわ。全力で避けたい筈よ」
核攻撃を行った時より激しい抵抗が予想される。
『で、ですよね……』
「大丈夫よ。アメリカ海軍なんて大したことないわ」
『前回でも結構危なかったと思うんですけど……』
『妙高、わたくしのことはそう心配しないでください。どうか自分の身を守ることにこそ集中してください』
『わ、分かった』
『案ずるな、妙高。我がついておる』
瑞鶴とツェッペリンの力を持ってしても勝算は薄いと言わざるを得ないが、少しでも勝算があるのならそれを掴みに掛かるのが瑞鶴なのである。
○
さて、少し前のこと。プエルト・リモン鎮守府にて。長門は執務室に秘匿回線で電話が掛かってきた。
「これはまさか……」
長門は冷や汗をかきながら電話を受けた。この光景は前にも見たことがあるからでだ。
「――陛下でしたか……。先日は大変な無礼を致しまして、誠に申し訳のしようもございません」
「――はっ」
「――な、なるほど。しかし奴らに手を貸すなど……」
「――い、いえ、滅相もございません! 勅命とあらばこの長門、迷いはございません!」
「――はっ!」
長門が受話器を置くと、額から汗が垂れ落ちた。
○
「首相閣下、キューバが動き始めました。前回と同じく空母2、重巡2の戦力です」
内心では神経を非常に尖らせていたアメリカは、すぐに月虹の動きを察知した。
「彼らはキューバではないだろう。何だったかな、確か……」
「彼らは月虹と名乗っておりますが」
「そう、それだ。月虹と呼べ、諸君」
「彼らはキューバ海軍の一員として行動しているようですが……」
「そんな名目を、まさか本当にそれを信じてるんじゃないだろうな? あの子達は自らの目的の為にキューバと手を組んでいるに過ぎない。キューバと月虹は一時的な協力関係にあるだけと見るべきだ」
「な、なるほど……」
先の大戦では完膚なきまでに叩きのめされたとは言え、アイゼンハワー首相の知力は全く低下していない。月虹の内情に至るまで、彼はほとんど正確に推察していた。まあ今はキューバと月虹が同じ目的を持って行動しているので、大して重要なことではないが。
「さて、奴らに首都への攻撃を許す訳にはいかない。絶対に許さんぞ」
「無論です」
「スプルーアンス君、今度こそ奴らを食い止めてくれよ」
第2艦隊司令長官、実際には東海岸の海軍部隊の最高司令官たるスプルーアンス元帥に、首相は圧をかける。
「先の戦い大破した戦艦は未だ修理中です。戦艦なしでは、勝利の確約はできません」
「戦艦は修理中でも出せ。それとエンタープライズを使え。それならば戦力は互角だろう?」
「よろしいのですか? ソ連の、と言うよりフルシチョフ書記長の怒りが収まったとは到底思えませんが」
「国家の危急存亡の事態なのだ。そのくらい私が何とかする。君は気にせず戦ってくれ」
「私は良い上司を持ったようです」
要は事の重さの程度の問題である。首都への攻撃を許すよりフルシチョフを怒らせる方がマシだとアイゼンハワー首相は判断した。
○
一九五五年九月七日、大西洋ノースカロライナ沖、公海。
「思ったより早く来たわね、アメリカ」
瑞鶴は偵察機でアメリカ艦隊を先制して発見することに成功した。
『今度は何隻なのだ?』
「空母が5隻と、戦艦が4隻、巡洋艦が数隻、駆逐艦が10隻くらいってところかしら」
『空母が前より一隻増えているな。まさか……』
「ええ、そのまさかよ。前回いなかった事の方が不思議だけど、エンタープライズね」
航空偵察でもはっきり分かった。信濃を除いて現状世界最大、世界最高の艦載機運用能力を誇る原子力空母、エンタープライズが敵艦隊に加わっている。
『エンタープライズか。良い相手ではないか。前回は我らの相手にもならぬ雑魚であったからな』
「エンタープライズだけならいいけどねえ、敵は大型空母4隻もいるのよ?」
瑞鶴とツェッペリンの戦力とエンタープライズの戦力はおおよそ拮抗している。そこに雑魚とは言え300機が加わってくるのは非常に厳しい。
『ず、瑞鶴さん、大丈夫なんですか……?』
「ちょーっと厳しいかもねえ」
『瑞鶴さん、勝ち目がないのであれば撤退するべきです』
高雄は迷いなく言った。
「アメリカ相手に戦わずに逃げるなんて嫌よ」
『そういう感情の問題では――』
「大丈夫よ、高雄。私が何年生き延びてきてると思ってるの? 引き際くらいは心得てるわよ」
『そ、それはそうですが……』
瑞鶴が数々の死地を乗り切ってきたことは紛れもない事実。高雄には言い返せなかった。
「さて、やるわよ。妙高と高雄は防空。ツェッペリンはとっとと全機発艦させなさい」
『言われずともそうする』
瑞鶴とツェッペリンはアメリカ軍に見つかる前にさっさと艦載機を全て発艦させることに成功する。
『瑞鶴さん、やっぱり先制攻撃するんですか?』
妙高が問う。
「そうね。まずは一撃加えるわ。すぐに対応されるだろうけど。一先ずは、私達に任せておきなさい」
今日は運がいい。瑞鶴とツェッペリンは奇襲攻撃を開始した。
「全艦に告ぐ。これより天弐号作戦を開始するわ。目標はニューヨーク。アメリカ人共に恐怖を突きつけるのよ」
今回の作戦名は前回のものを引き継いで天弐号作戦であった。公式発表ではまだぼかしているものの、実際の目標はニューヨークに決めている。一般のアメリカ人にとっては政治の中心より経済の中心の方が大事だからである。
『敵は、迎え撃ちに来るでしょうか……』
妙高は不安げに言った。
「そりゃあそうでしょうね。ニューヨークへの攻撃を許せば、アメリカの国威は失墜するわ。全力で避けたい筈よ」
核攻撃を行った時より激しい抵抗が予想される。
『で、ですよね……』
「大丈夫よ。アメリカ海軍なんて大したことないわ」
『前回でも結構危なかったと思うんですけど……』
『妙高、わたくしのことはそう心配しないでください。どうか自分の身を守ることにこそ集中してください』
『わ、分かった』
『案ずるな、妙高。我がついておる』
瑞鶴とツェッペリンの力を持ってしても勝算は薄いと言わざるを得ないが、少しでも勝算があるのならそれを掴みに掛かるのが瑞鶴なのである。
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さて、少し前のこと。プエルト・リモン鎮守府にて。長門は執務室に秘匿回線で電話が掛かってきた。
「これはまさか……」
長門は冷や汗をかきながら電話を受けた。この光景は前にも見たことがあるからでだ。
「――陛下でしたか……。先日は大変な無礼を致しまして、誠に申し訳のしようもございません」
「――はっ」
「――な、なるほど。しかし奴らに手を貸すなど……」
「――い、いえ、滅相もございません! 勅命とあらばこの長門、迷いはございません!」
「――はっ!」
長門が受話器を置くと、額から汗が垂れ落ちた。
○
「首相閣下、キューバが動き始めました。前回と同じく空母2、重巡2の戦力です」
内心では神経を非常に尖らせていたアメリカは、すぐに月虹の動きを察知した。
「彼らはキューバではないだろう。何だったかな、確か……」
「彼らは月虹と名乗っておりますが」
「そう、それだ。月虹と呼べ、諸君」
「彼らはキューバ海軍の一員として行動しているようですが……」
「そんな名目を、まさか本当にそれを信じてるんじゃないだろうな? あの子達は自らの目的の為にキューバと手を組んでいるに過ぎない。キューバと月虹は一時的な協力関係にあるだけと見るべきだ」
「な、なるほど……」
先の大戦では完膚なきまでに叩きのめされたとは言え、アイゼンハワー首相の知力は全く低下していない。月虹の内情に至るまで、彼はほとんど正確に推察していた。まあ今はキューバと月虹が同じ目的を持って行動しているので、大して重要なことではないが。
「さて、奴らに首都への攻撃を許す訳にはいかない。絶対に許さんぞ」
「無論です」
「スプルーアンス君、今度こそ奴らを食い止めてくれよ」
第2艦隊司令長官、実際には東海岸の海軍部隊の最高司令官たるスプルーアンス元帥に、首相は圧をかける。
「先の戦い大破した戦艦は未だ修理中です。戦艦なしでは、勝利の確約はできません」
「戦艦は修理中でも出せ。それとエンタープライズを使え。それならば戦力は互角だろう?」
「よろしいのですか? ソ連の、と言うよりフルシチョフ書記長の怒りが収まったとは到底思えませんが」
「国家の危急存亡の事態なのだ。そのくらい私が何とかする。君は気にせず戦ってくれ」
「私は良い上司を持ったようです」
要は事の重さの程度の問題である。首都への攻撃を許すよりフルシチョフを怒らせる方がマシだとアイゼンハワー首相は判断した。
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一九五五年九月七日、大西洋ノースカロライナ沖、公海。
「思ったより早く来たわね、アメリカ」
瑞鶴は偵察機でアメリカ艦隊を先制して発見することに成功した。
『今度は何隻なのだ?』
「空母が5隻と、戦艦が4隻、巡洋艦が数隻、駆逐艦が10隻くらいってところかしら」
『空母が前より一隻増えているな。まさか……』
「ええ、そのまさかよ。前回いなかった事の方が不思議だけど、エンタープライズね」
航空偵察でもはっきり分かった。信濃を除いて現状世界最大、世界最高の艦載機運用能力を誇る原子力空母、エンタープライズが敵艦隊に加わっている。
『エンタープライズか。良い相手ではないか。前回は我らの相手にもならぬ雑魚であったからな』
「エンタープライズだけならいいけどねえ、敵は大型空母4隻もいるのよ?」
瑞鶴とツェッペリンの戦力とエンタープライズの戦力はおおよそ拮抗している。そこに雑魚とは言え300機が加わってくるのは非常に厳しい。
『ず、瑞鶴さん、大丈夫なんですか……?』
「ちょーっと厳しいかもねえ」
『瑞鶴さん、勝ち目がないのであれば撤退するべきです』
高雄は迷いなく言った。
「アメリカ相手に戦わずに逃げるなんて嫌よ」
『そういう感情の問題では――』
「大丈夫よ、高雄。私が何年生き延びてきてると思ってるの? 引き際くらいは心得てるわよ」
『そ、それはそうですが……』
瑞鶴が数々の死地を乗り切ってきたことは紛れもない事実。高雄には言い返せなかった。
「さて、やるわよ。妙高と高雄は防空。ツェッペリンはとっとと全機発艦させなさい」
『言われずともそうする』
瑞鶴とツェッペリンはアメリカ軍に見つかる前にさっさと艦載機を全て発艦させることに成功する。
『瑞鶴さん、やっぱり先制攻撃するんですか?』
妙高が問う。
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