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第十二章 ドイツ訪問(上陸編)
作戦開始
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「正気か、帝国政府は……。瑞鶴に全面的に協力すると言っているようなものではないか」
石橋首相から送られてきた電文を見て、長門は意味もなく恨み言を呟いた。それを聞いているのは電文を持ってきた信濃だけである。
「長門は瑞鶴に手を貸したくはないのか?」
信濃は問う。今後瑞鶴相手に何かをするとなれば、第五艦隊がいいように使われることは間違いないだろう。
「奴に手助けなど、したい訳がなかろうが。奴は裏切り者なのだ。何をしようが、その事実は覆らん」
「そうか。しかし命令は命令。勝手なことはできまい」
「そんなことは分かっている。命令に背くなどすれば、それは奴と同じだ」
「懸命な判断」
「信濃、瑞鶴にそのように伝えてくれるか?」
「承知した」
かくして信濃から瑞鶴に、帝国政府が瑞鶴の要求を受け入れたことが伝えられた。
○
「え、本当に通ったの? 書き間違えじゃない?」
自分宛に届いた電文を見て、瑞鶴は思わず一人芝居を始めてしまった。まさかあんな馬鹿げた要求が受け入れられるとは、実際のところ思っていなかったのである。
「なれば瑞鶴、作戦を始めようではないか。皆でドイツに行くぞ!」
ツェッペリンは勇ましく拳を振り上げる。随分楽しそうである。
「分かった。そうしましょう。私もアメリカがもう一度負けるところは是非とも見たいし」
「同感だな、瑞鶴。妙高と高雄もそれでよいな?」
「妙高は大丈夫です」
「わたくしも……大丈夫です」
高雄はまだ不安を拭いきれていないという様子だった。それも当然だろう。ドイツや日本が月虹を騙す気で結託していないとは、誰にも保証できない。寧ろその可能性の方が高いとすら言えるだろう。
「お姉ちゃんは不安なのね。でも大丈夫。何があっても私がお姉ちゃんを守ってあげるわ」
「あ、愛宕? まさかあなたも来る気なのですか?」
「当たり前じゃない。もう二度とお姉ちゃんから離れたりはしないわ」
「わたくしが第五艦隊にいた時は随分と離れていた気がするのですが……」
「まあ、これまでは命令に縛られていたからね。でももう帝国海軍は辞めたのよ」
「え……?」
「ふふふ。私ね、お姉ちゃん、あなた達月虹に加わることにしたの。よろしくね」
「は、はあ……。瑞鶴さんはご存じだったのですか?」
「え、聞いてないけど」
愛宕の傍若無人に高雄は溜息を吐いた。
「しかし月虹に加わるということは、最悪の場合は陛下に弓引くことになるということですよ? 分かっているのですか?」
「気にしないわ、そんなこと。お姉ちゃんとの仲を引き裂くあらゆるものは、例え陛下だったとしても、私の敵よ」
「そ、そうですか……。瑞鶴さん、よろしいですか?」
「仲間が増えるのは大歓迎よ。でもあんた、勝手に軍を抜け出して来たの?」
「ちゃんと扶桑に辞表を突き付けてきたわよ」
「そう。なら問題ないわね」
「そんな制度はどこにもない筈なのですが……」
という訳で、月虹の五隻目として愛宕が加わった。ささやかな戦力増強である。
「お前達、話は終わったか?」
「は、はい。わたくしと愛宕は作戦に参加します」
「よろしい。では全艦、出陣の支度をせよ!」
ツェッペリンはまるで将軍になったかのように命令するが、瑞鶴がすぐに水を差す。
「ねえ、作戦名とかないの?」
「作戦名? そうだな……。では黒色作戦とでもしよう」
「そ、そう。まあいいけど」
「何だその微妙な反応は」
「いやー、なんか絶妙に格好良くない名前だなあって」
「貴様に言われたくないわ!」
「えっ……」
瑞鶴は心底意外そうであった。名付けが上手と勝手に自認していたからである。
○
一九五五年十二月五日、大西洋沖合。
月虹艦隊はグアンタナモ基地から出撃し、そのまま大西洋に出た。シャルンホルストはそれを知ってわざと哨戒に穴を開けたので、ドイツがそれに気付いたのは月虹がバミューダ諸島の東方300kmほどにまで到達してからであった。
しかしシャルンホルストも知らなかった。月虹が大西洋を航行している給油艦の動向を知っていて、それを襲っていることまでは。
「――私達は月虹。世間では海賊なんて呼ぶ奴もいるわね。私はその旗艦瑞鶴。今すぐ給油艦を私達に明け渡しなさい。さもなくば殲滅あるのみよ」
相手はドイツ海軍の小規模な護送船団、給油艦3隻と輸送船2隻、護衛の駆逐艦4隻の部隊であった。一応は護衛が付いているが、とても実際に戦うことを想定して編成ではなく、警備用程度であろう。
とは言え、軍の正式な部隊であることは確か。これで月虹は事実上ドイツに宣戦布告したということになる。
『……本船団の司令官、ハインリヒ・エルドマン大佐だ。この行為が何を意味するのか、お前は分かっているのか?』
「ええ、もちろん。ドイツと戦争することになるわね」
『それが分かって――』
「そんなことはどうでもいいの。回答を聞かせて? うちの重巡洋艦一隻だけで殲滅できそうなショボい艦隊で私達と戦争するのか、素直に降伏するか」
『わ、分かった。降伏する。だがどうなっても知らないぞ』
「ご忠告ありがとう」
かくして月虹は護送船団を一つ奪い取った訳だが、そんなことをしてドイツにバレない訳がないのである。
石橋首相から送られてきた電文を見て、長門は意味もなく恨み言を呟いた。それを聞いているのは電文を持ってきた信濃だけである。
「長門は瑞鶴に手を貸したくはないのか?」
信濃は問う。今後瑞鶴相手に何かをするとなれば、第五艦隊がいいように使われることは間違いないだろう。
「奴に手助けなど、したい訳がなかろうが。奴は裏切り者なのだ。何をしようが、その事実は覆らん」
「そうか。しかし命令は命令。勝手なことはできまい」
「そんなことは分かっている。命令に背くなどすれば、それは奴と同じだ」
「懸命な判断」
「信濃、瑞鶴にそのように伝えてくれるか?」
「承知した」
かくして信濃から瑞鶴に、帝国政府が瑞鶴の要求を受け入れたことが伝えられた。
○
「え、本当に通ったの? 書き間違えじゃない?」
自分宛に届いた電文を見て、瑞鶴は思わず一人芝居を始めてしまった。まさかあんな馬鹿げた要求が受け入れられるとは、実際のところ思っていなかったのである。
「なれば瑞鶴、作戦を始めようではないか。皆でドイツに行くぞ!」
ツェッペリンは勇ましく拳を振り上げる。随分楽しそうである。
「分かった。そうしましょう。私もアメリカがもう一度負けるところは是非とも見たいし」
「同感だな、瑞鶴。妙高と高雄もそれでよいな?」
「妙高は大丈夫です」
「わたくしも……大丈夫です」
高雄はまだ不安を拭いきれていないという様子だった。それも当然だろう。ドイツや日本が月虹を騙す気で結託していないとは、誰にも保証できない。寧ろその可能性の方が高いとすら言えるだろう。
「お姉ちゃんは不安なのね。でも大丈夫。何があっても私がお姉ちゃんを守ってあげるわ」
「あ、愛宕? まさかあなたも来る気なのですか?」
「当たり前じゃない。もう二度とお姉ちゃんから離れたりはしないわ」
「わたくしが第五艦隊にいた時は随分と離れていた気がするのですが……」
「まあ、これまでは命令に縛られていたからね。でももう帝国海軍は辞めたのよ」
「え……?」
「ふふふ。私ね、お姉ちゃん、あなた達月虹に加わることにしたの。よろしくね」
「は、はあ……。瑞鶴さんはご存じだったのですか?」
「え、聞いてないけど」
愛宕の傍若無人に高雄は溜息を吐いた。
「しかし月虹に加わるということは、最悪の場合は陛下に弓引くことになるということですよ? 分かっているのですか?」
「気にしないわ、そんなこと。お姉ちゃんとの仲を引き裂くあらゆるものは、例え陛下だったとしても、私の敵よ」
「そ、そうですか……。瑞鶴さん、よろしいですか?」
「仲間が増えるのは大歓迎よ。でもあんた、勝手に軍を抜け出して来たの?」
「ちゃんと扶桑に辞表を突き付けてきたわよ」
「そう。なら問題ないわね」
「そんな制度はどこにもない筈なのですが……」
という訳で、月虹の五隻目として愛宕が加わった。ささやかな戦力増強である。
「お前達、話は終わったか?」
「は、はい。わたくしと愛宕は作戦に参加します」
「よろしい。では全艦、出陣の支度をせよ!」
ツェッペリンはまるで将軍になったかのように命令するが、瑞鶴がすぐに水を差す。
「ねえ、作戦名とかないの?」
「作戦名? そうだな……。では黒色作戦とでもしよう」
「そ、そう。まあいいけど」
「何だその微妙な反応は」
「いやー、なんか絶妙に格好良くない名前だなあって」
「貴様に言われたくないわ!」
「えっ……」
瑞鶴は心底意外そうであった。名付けが上手と勝手に自認していたからである。
○
一九五五年十二月五日、大西洋沖合。
月虹艦隊はグアンタナモ基地から出撃し、そのまま大西洋に出た。シャルンホルストはそれを知ってわざと哨戒に穴を開けたので、ドイツがそれに気付いたのは月虹がバミューダ諸島の東方300kmほどにまで到達してからであった。
しかしシャルンホルストも知らなかった。月虹が大西洋を航行している給油艦の動向を知っていて、それを襲っていることまでは。
「――私達は月虹。世間では海賊なんて呼ぶ奴もいるわね。私はその旗艦瑞鶴。今すぐ給油艦を私達に明け渡しなさい。さもなくば殲滅あるのみよ」
相手はドイツ海軍の小規模な護送船団、給油艦3隻と輸送船2隻、護衛の駆逐艦4隻の部隊であった。一応は護衛が付いているが、とても実際に戦うことを想定して編成ではなく、警備用程度であろう。
とは言え、軍の正式な部隊であることは確か。これで月虹は事実上ドイツに宣戦布告したということになる。
『……本船団の司令官、ハインリヒ・エルドマン大佐だ。この行為が何を意味するのか、お前は分かっているのか?』
「ええ、もちろん。ドイツと戦争することになるわね」
『それが分かって――』
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