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第十五章 第二次世界大戦(攻勢編)
キール
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一九四四年十一月十日、レニングラード近海。
レニングラードに30万の部隊を上陸させて守りを固めたドイツ軍であるが、依然としてソ連は強大な勢力を保っており、ソ連を降伏させるなど夢のまた夢であった。
戦線が安定し、多少の余裕が出てきた国防軍はいよいよ、この戦争を終わらせる為の一手を打つことを決定した。
「ツェッペリン、我が総統からのご命令だ。キールに帰還せよ、とのことだ」
「我が総統のご判断を疑うつもりはないが、我がおらずしてレニングラード戦線は大丈夫なのか?」
「海からの支援はこれからも継続する予定だ。それにレニングラードはソ連軍のお陰で要塞のようになっている」
「よかろう。では戻るとしよう」
レニングラードにはソ連軍がドイツ軍に対して構築した陣地などが大量に残されており、整備すれば非常に強力な要塞となる。また、アトミラール・ヒッパーなど4隻は引き続きレニングラードに残り、艦砲射撃で地上部隊を援護する予定である。
さて、命令を受けたツェッペリンは早々にキール軍港に戻ってきた。軍港に降りて兵士に案内されると、港の一角で総統が待ち受けていた。
「わ、我が総統……!」
「ああ、久しぶりだね。怪我をしたりはしていないな?」
「い、いえ、私は何も問題ありません。赤軍ごときに私を傷つけることなどできません!」
ツェッペリンは誇らしげに胸を張って。
「そうか。素晴らしいな」
「そ、それほどでも……」
「まあまずは、座ってくれ」
ツェッペリンは総統のすぐ向かいに座った。シュニーヴィント上級大将もツェッペリンの隣に座って、総統の隣にはレーダー元帥などが座っている。また党官房長官ボルマンの姿も見える。
「本当のところ、君にはもっといい勲章をあげたいところなのだが、前にあげた勲章よりいいものがなくてね。まあ正確には、もう一つ上があるのだが」
ツェッペリンが授与された黄金柏葉・剣・ダイヤモンド付騎士鉄十字章の上に、大鉄十字章というのが制定されているのだが、これは軍功への勲章というより政治的な勲章であり、実際に授与されているのはゲーリング国家元帥ただ一人である。
「総統、私としては別に、他に大鉄十字章を持っている者がいても構いませんよ。ツェッペリンの勲功は私などより遥かに高く聳え立っていますからね」
と、当のゲーリング国家元帥は言った。
「そうなのか。しかし、大鉄十字章は前例からして、流石にツェッペリンに授与するのはどうかと思うのだが」
「そうですかね?」
「まあ、検討しておこう。いやいや、そんな話をしに来たのではないんだ。ツェッペリン、今日は君に話しておくべきことがある」
「何でしょうか?」
「国防軍はイギリスへの上陸を計画している。君にはその露払いをしてもらいたい」
「なるほど。イギリス海軍など雑魚も同然です。何も問題ありません。陸軍は何の障害もない砂浜に悠々と上陸できることでしょう!」
「実に頼もしいな。作戦の成否は君にかかっている。よろしく頼んだよ」
「はっ……!」
ツェッペリンは喜んでこの任務を受けた。
○
一九四四年十一月十六日、イギリス、ロンドン、ダウニング街10番地。
それから数日。珍しくアイゼンハワー大将が自らが首相官邸のチャーチルに報告しに来ていた。
「――ドイツ軍の艦艇が英仏海峡に多数集結しています。イギリスへの上陸を再度試みていると見て、間違いはないかと」
「まあ、いずれそう来るとは思っていた」
チャーチルは特に驚かなかった。ドイツ軍が戦況を動かす為にイギリスを潰しに来るのは十分に予想内だからである。
「閣下、我々はフランスで主力部隊と数え切れないほどの兵器を失い、イギリスを防衛する戦力はマトモに残されていません。一年の訓練も受けていない士官が指揮する、一ヶ月程度の訓練しか受けていない兵士が、我々の主力なのです」
「どうしてお前は上陸される前提で話しているんだ? 上陸される前に食い止めろ」
「お言葉ですが、先のネーデルラント沖海戦の経過は閣下もご存知でしょう。我々の戦力では、グラーフ・ツェッペリンにはまるで太刀打ちできません」
「じゃあアメリカがもっと支援物資を寄越せ。こっちはアメリカの不沈空母として働いてやってるんだぞ?」
「申し訳ありませんが、我が軍もアジアで瑞鶴と交戦中でして、そのような余裕はありません」
「……お前は何が言いたいんだ?」
チャーチルはアイゼンハワー大将が放とうとしている言葉を予想して彼を睨みつけたが、大将が怯むことはなかった。
「誠に遺憾ではありますが、ドイツに講和交渉を申し出るべきかと。今の段階ならばドイツは喜んで和平を受け入れる筈です」
そう言うと、チャーチルはわざとらしく深い溜息を吐いた。
「前にも言ったよな? ドイツとの和平などありえんと」
「閣下、大陸に再び上陸してドイツに攻め込む余力など、我々には最早ありません」
「だったらイギリス人が絶滅するまで戦うまでだ。本土決戦だ。我々はドイツと交渉することも、ドイツに膝を屈することもない!」
「正気ですか、閣下?」
「ああ。こっちも船魄が完成すれば、戦局はひっくり返る」
「……なるほど。閣下のご意志はよく分かりました」
本土決戦で時間を稼いでいる間に船魄を完成させる。辛うじて現実的と言えるプランだ。アイゼンハワー大将は全く賛成できなかったが、許容することはできた。
レニングラードに30万の部隊を上陸させて守りを固めたドイツ軍であるが、依然としてソ連は強大な勢力を保っており、ソ連を降伏させるなど夢のまた夢であった。
戦線が安定し、多少の余裕が出てきた国防軍はいよいよ、この戦争を終わらせる為の一手を打つことを決定した。
「ツェッペリン、我が総統からのご命令だ。キールに帰還せよ、とのことだ」
「我が総統のご判断を疑うつもりはないが、我がおらずしてレニングラード戦線は大丈夫なのか?」
「海からの支援はこれからも継続する予定だ。それにレニングラードはソ連軍のお陰で要塞のようになっている」
「よかろう。では戻るとしよう」
レニングラードにはソ連軍がドイツ軍に対して構築した陣地などが大量に残されており、整備すれば非常に強力な要塞となる。また、アトミラール・ヒッパーなど4隻は引き続きレニングラードに残り、艦砲射撃で地上部隊を援護する予定である。
さて、命令を受けたツェッペリンは早々にキール軍港に戻ってきた。軍港に降りて兵士に案内されると、港の一角で総統が待ち受けていた。
「わ、我が総統……!」
「ああ、久しぶりだね。怪我をしたりはしていないな?」
「い、いえ、私は何も問題ありません。赤軍ごときに私を傷つけることなどできません!」
ツェッペリンは誇らしげに胸を張って。
「そうか。素晴らしいな」
「そ、それほどでも……」
「まあまずは、座ってくれ」
ツェッペリンは総統のすぐ向かいに座った。シュニーヴィント上級大将もツェッペリンの隣に座って、総統の隣にはレーダー元帥などが座っている。また党官房長官ボルマンの姿も見える。
「本当のところ、君にはもっといい勲章をあげたいところなのだが、前にあげた勲章よりいいものがなくてね。まあ正確には、もう一つ上があるのだが」
ツェッペリンが授与された黄金柏葉・剣・ダイヤモンド付騎士鉄十字章の上に、大鉄十字章というのが制定されているのだが、これは軍功への勲章というより政治的な勲章であり、実際に授与されているのはゲーリング国家元帥ただ一人である。
「総統、私としては別に、他に大鉄十字章を持っている者がいても構いませんよ。ツェッペリンの勲功は私などより遥かに高く聳え立っていますからね」
と、当のゲーリング国家元帥は言った。
「そうなのか。しかし、大鉄十字章は前例からして、流石にツェッペリンに授与するのはどうかと思うのだが」
「そうですかね?」
「まあ、検討しておこう。いやいや、そんな話をしに来たのではないんだ。ツェッペリン、今日は君に話しておくべきことがある」
「何でしょうか?」
「国防軍はイギリスへの上陸を計画している。君にはその露払いをしてもらいたい」
「なるほど。イギリス海軍など雑魚も同然です。何も問題ありません。陸軍は何の障害もない砂浜に悠々と上陸できることでしょう!」
「実に頼もしいな。作戦の成否は君にかかっている。よろしく頼んだよ」
「はっ……!」
ツェッペリンは喜んでこの任務を受けた。
○
一九四四年十一月十六日、イギリス、ロンドン、ダウニング街10番地。
それから数日。珍しくアイゼンハワー大将が自らが首相官邸のチャーチルに報告しに来ていた。
「――ドイツ軍の艦艇が英仏海峡に多数集結しています。イギリスへの上陸を再度試みていると見て、間違いはないかと」
「まあ、いずれそう来るとは思っていた」
チャーチルは特に驚かなかった。ドイツ軍が戦況を動かす為にイギリスを潰しに来るのは十分に予想内だからである。
「閣下、我々はフランスで主力部隊と数え切れないほどの兵器を失い、イギリスを防衛する戦力はマトモに残されていません。一年の訓練も受けていない士官が指揮する、一ヶ月程度の訓練しか受けていない兵士が、我々の主力なのです」
「どうしてお前は上陸される前提で話しているんだ? 上陸される前に食い止めろ」
「お言葉ですが、先のネーデルラント沖海戦の経過は閣下もご存知でしょう。我々の戦力では、グラーフ・ツェッペリンにはまるで太刀打ちできません」
「じゃあアメリカがもっと支援物資を寄越せ。こっちはアメリカの不沈空母として働いてやってるんだぞ?」
「申し訳ありませんが、我が軍もアジアで瑞鶴と交戦中でして、そのような余裕はありません」
「……お前は何が言いたいんだ?」
チャーチルはアイゼンハワー大将が放とうとしている言葉を予想して彼を睨みつけたが、大将が怯むことはなかった。
「誠に遺憾ではありますが、ドイツに講和交渉を申し出るべきかと。今の段階ならばドイツは喜んで和平を受け入れる筈です」
そう言うと、チャーチルはわざとらしく深い溜息を吐いた。
「前にも言ったよな? ドイツとの和平などありえんと」
「閣下、大陸に再び上陸してドイツに攻め込む余力など、我々には最早ありません」
「だったらイギリス人が絶滅するまで戦うまでだ。本土決戦だ。我々はドイツと交渉することも、ドイツに膝を屈することもない!」
「正気ですか、閣下?」
「ああ。こっちも船魄が完成すれば、戦局はひっくり返る」
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