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第二十三章 ワシントン決戦
ドイツの秘密兵器
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「鳳翔! 逃げて!」
瑞鶴は咄嗟にそんなことを言うが、鈍重な富嶽が戦闘機から逃げ切ることは不可能である。唯一の手段は敵を撃墜することだ。
しかし、それは船魄化とは関係なく知れたことであるから、富嶽には大量の機銃が備え付けられている。攻撃を回避することが不可能であるなら、殺られる前に殺るしかないのだ。
『私も船魄の端くれです。舐めてもらっては困ります!』
富嶽の機銃が一斉に火を噴いた。上空から弾を落としているので射程はこちらの方が圧倒的に長い。生まれてすぐとは言え世界最高の技術で創られた船魄に制御されれば、並の船魄がその弾幕の中で生き延びるのは不可能だ。それはまさに弾丸の暴風と言った有様であり、富嶽に突撃しようとした15機ばかりの米軍機は全て撃墜された。
「や、やるじゃない、鳳翔」
『ありがとうございます。少し疲れてしまいましたが』
「ちゃんと爆弾落とすところまでやってよ?」
『もちろんです。参りましょう』
敵は全滅した。富嶽は高度を5,000m程度にまで下げ、4箇所の要塞砲に地中貫通爆弾を投下する。地中貫通爆弾の威力は凄まじく、要塞砲の天蓋を軽く突き破って地中の火薬庫に到達して爆発し、巨大な砲塔が空高く吹き飛んで爆発四散した。
『あら、1つ外してしまいました』
3つの砲塔は原型が分からないほど粉砕されたが、残り1つは隣に大穴が開いているだけで無事であった。
「ちょ、どうすんのよ!?」
『ご安心を。予備があります』
「え、あ、そう……」
貸してもらった富嶽は6機。全てに地中貫通爆弾が1つずつ積み込んであるので、予備は2発ある。そもそも爆撃に百発百中を求める方がおかしいのである。鳳翔は予備の爆弾を投下し、最後の41cm砲台も破壊した。
○
一九五六年七月二十五日、ドイツ国、大ベルリン大管区ベルリン、ミッテ区、新総統官邸。
リッチモンドの戦況は絶えずベルリンのゲッベルス大統領にもたらされていた。そして今、全ての41cm要塞砲が破壊されたとの報告が入った。
「これでリッチモンド攻略に大きく前進したな……。よかった」
「我が大統領、これで敵に残っている大砲は最大でも15cmと思われます。脅威はなくなったと言っていいでしょう」
陸軍参謀総長のグデリアン元帥は言った。
「本当だな? 予想外の要塞砲があったりはしないな?」
「私は現場の報告を信じています」
「……分かった。僕も元帥を信じよう」
「では、ラーテを投入します。本当によろしいですね?」
「ああ。失われたところで、所詮はただの鉄の塊だ。また造ればいい。ちゃんと予算は下ろすよ」
「非常に有り難いお言葉です。気兼ねなく戦えます」
「破壊されないよう努力はしてくれよ」
80cm砲に並ぶドイツの秘密兵器が、初めての実戦投入の日を迎えたのである。
○
ゲッベルス大統領の決定から数時間後。リッチモンドの南方に、異様な物体が現れた。
「お、おい、あれは何なんだ……?」
「戦艦に車輪が生えてやがる……」
「動く砦か何かか……?」
「ドイツのラーテだ。確か陸上巡洋艦と名乗っていたな……。抑止力として保有していると思っていたが、本当に投入してくるとは……」
「陸上巡洋艦ラーテ」というのはドイツ国防軍も公式に使う名前である。その名の通り、超重戦車すら軽く踏み潰せそうな規格外の巨体を誇る戦車である。全長は39m、重量は1,000トンに達し、その主砲はシャルンホルスト級戦艦の主砲だった28cm砲を連装砲塔に作り替えたものである。陸上の戦艦か、或いは動く要塞と言ってもいい。それが3両も投入された。
ラーテとリッチモンド要塞はおよそ10kmの距離で相対した。兵士達は生きた心地がしなかったが、戦いを放棄するなど論外である。
「何としてでもラーテを撃破する! 全ての火力をラーテに投入せよ!!」
要塞にとって主要な脅威である戦車を撃滅する為、リッチモンド要塞には数百の対戦車砲が配備されている。標準的な76mm砲から、ドイツの超重戦車を撃破できる128mm砲も多数用意があった。
「総員、撃ちまくれ!」
ラーテ1両を50門以上の対戦車砲が攻撃する。普通の戦車であれば即座に粉々にされているところだが、ラーテの防御力は桁が違った。
「対戦車砲、まるで役に立ちません!」
「128mm砲も、傷一つ与えられていません!」
「クソッ。化け物め……」
それもその筈。ラーテの防御力は主砲と同様シャルンホルスト級戦艦の防御と同等であり、つまり重巡洋艦の主砲程度までなら余裕で耐えることができるのだ。対戦車砲で戦艦を攻撃するがどれほど馬鹿げているか、という話である。
「秘蔵の12インチ砲も出せ!」
「はっ!」
ドイツ軍は察知できていなかったが、弩級戦艦の主砲並の30.5cm連装砲塔も隠顕されていた。位置がバレればラーテの主砲に吹き飛ばされるだろうが、これ以外にラーテを破壊できる可能性を持った兵器はない。
「撃ち方始め!!」
「…………。命中!!」
爆炎やら砂煙やらがラーテの姿を覆い隠した。だが、その次に彼らが見たのは、主砲発射の閃光であった。
「クソッ! ダメかッ!」
「海軍国立博物館から徹甲弾を持ってくる必要があるかと……」
要塞砲が発射したのは、装甲目標への効果が低い榴弾であった。まさか戦艦を相手にするなど想定している筈もなく、榴弾しか用意がないのだ。もしも徹甲弾があればラーテを破壊できていたかもしれないが、もう遅い。
瑞鶴は咄嗟にそんなことを言うが、鈍重な富嶽が戦闘機から逃げ切ることは不可能である。唯一の手段は敵を撃墜することだ。
しかし、それは船魄化とは関係なく知れたことであるから、富嶽には大量の機銃が備え付けられている。攻撃を回避することが不可能であるなら、殺られる前に殺るしかないのだ。
『私も船魄の端くれです。舐めてもらっては困ります!』
富嶽の機銃が一斉に火を噴いた。上空から弾を落としているので射程はこちらの方が圧倒的に長い。生まれてすぐとは言え世界最高の技術で創られた船魄に制御されれば、並の船魄がその弾幕の中で生き延びるのは不可能だ。それはまさに弾丸の暴風と言った有様であり、富嶽に突撃しようとした15機ばかりの米軍機は全て撃墜された。
「や、やるじゃない、鳳翔」
『ありがとうございます。少し疲れてしまいましたが』
「ちゃんと爆弾落とすところまでやってよ?」
『もちろんです。参りましょう』
敵は全滅した。富嶽は高度を5,000m程度にまで下げ、4箇所の要塞砲に地中貫通爆弾を投下する。地中貫通爆弾の威力は凄まじく、要塞砲の天蓋を軽く突き破って地中の火薬庫に到達して爆発し、巨大な砲塔が空高く吹き飛んで爆発四散した。
『あら、1つ外してしまいました』
3つの砲塔は原型が分からないほど粉砕されたが、残り1つは隣に大穴が開いているだけで無事であった。
「ちょ、どうすんのよ!?」
『ご安心を。予備があります』
「え、あ、そう……」
貸してもらった富嶽は6機。全てに地中貫通爆弾が1つずつ積み込んであるので、予備は2発ある。そもそも爆撃に百発百中を求める方がおかしいのである。鳳翔は予備の爆弾を投下し、最後の41cm砲台も破壊した。
○
一九五六年七月二十五日、ドイツ国、大ベルリン大管区ベルリン、ミッテ区、新総統官邸。
リッチモンドの戦況は絶えずベルリンのゲッベルス大統領にもたらされていた。そして今、全ての41cm要塞砲が破壊されたとの報告が入った。
「これでリッチモンド攻略に大きく前進したな……。よかった」
「我が大統領、これで敵に残っている大砲は最大でも15cmと思われます。脅威はなくなったと言っていいでしょう」
陸軍参謀総長のグデリアン元帥は言った。
「本当だな? 予想外の要塞砲があったりはしないな?」
「私は現場の報告を信じています」
「……分かった。僕も元帥を信じよう」
「では、ラーテを投入します。本当によろしいですね?」
「ああ。失われたところで、所詮はただの鉄の塊だ。また造ればいい。ちゃんと予算は下ろすよ」
「非常に有り難いお言葉です。気兼ねなく戦えます」
「破壊されないよう努力はしてくれよ」
80cm砲に並ぶドイツの秘密兵器が、初めての実戦投入の日を迎えたのである。
○
ゲッベルス大統領の決定から数時間後。リッチモンドの南方に、異様な物体が現れた。
「お、おい、あれは何なんだ……?」
「戦艦に車輪が生えてやがる……」
「動く砦か何かか……?」
「ドイツのラーテだ。確か陸上巡洋艦と名乗っていたな……。抑止力として保有していると思っていたが、本当に投入してくるとは……」
「陸上巡洋艦ラーテ」というのはドイツ国防軍も公式に使う名前である。その名の通り、超重戦車すら軽く踏み潰せそうな規格外の巨体を誇る戦車である。全長は39m、重量は1,000トンに達し、その主砲はシャルンホルスト級戦艦の主砲だった28cm砲を連装砲塔に作り替えたものである。陸上の戦艦か、或いは動く要塞と言ってもいい。それが3両も投入された。
ラーテとリッチモンド要塞はおよそ10kmの距離で相対した。兵士達は生きた心地がしなかったが、戦いを放棄するなど論外である。
「何としてでもラーテを撃破する! 全ての火力をラーテに投入せよ!!」
要塞にとって主要な脅威である戦車を撃滅する為、リッチモンド要塞には数百の対戦車砲が配備されている。標準的な76mm砲から、ドイツの超重戦車を撃破できる128mm砲も多数用意があった。
「総員、撃ちまくれ!」
ラーテ1両を50門以上の対戦車砲が攻撃する。普通の戦車であれば即座に粉々にされているところだが、ラーテの防御力は桁が違った。
「対戦車砲、まるで役に立ちません!」
「128mm砲も、傷一つ与えられていません!」
「クソッ。化け物め……」
それもその筈。ラーテの防御力は主砲と同様シャルンホルスト級戦艦の防御と同等であり、つまり重巡洋艦の主砲程度までなら余裕で耐えることができるのだ。対戦車砲で戦艦を攻撃するがどれほど馬鹿げているか、という話である。
「秘蔵の12インチ砲も出せ!」
「はっ!」
ドイツ軍は察知できていなかったが、弩級戦艦の主砲並の30.5cm連装砲塔も隠顕されていた。位置がバレればラーテの主砲に吹き飛ばされるだろうが、これ以外にラーテを破壊できる可能性を持った兵器はない。
「撃ち方始め!!」
「…………。命中!!」
爆炎やら砂煙やらがラーテの姿を覆い隠した。だが、その次に彼らが見たのは、主砲発射の閃光であった。
「クソッ! ダメかッ!」
「海軍国立博物館から徹甲弾を持ってくる必要があるかと……」
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