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第二十四章 戦後処理
アメリカ海軍の処遇
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「さて、もう一つ、国連軍の考えをお伝えします」
「ロンメル元帥のお考えですか?」
「その通りです。つまりは、アメリカ海軍の扱いについてです」
国連海軍相手では圧倒されるしかなかったアメリカ海軍であるが、その戦力はなお十分に強大である。日本海軍には及ばないが、ドイツ海軍相手ならやや劣勢、ソ連海軍には優勢と言った具合である。その艦隊が今後誰のものになるかは、全世界の関心事だ。
「考えられる処遇は、大きく分けて三つでしょう。アメリカ海軍を解体してその艦艇を各国に分配するか、そのままアメリカが保有し続けるか、全てスクラップにするか。無論、これらを混合した方法も考えられますが」
「我々は無条件降伏をする身です。何も口出しはできないのですから、早く結論を仰って欲しいものです」
「では、そうしましょう。結論としては、アメリカの軍備は接収しないことになりました。スクラップにもしません」
「我々に武装を許してくださると? 理由を聞かせてもらっても?」
「普通はアメリカ軍を解体するところですが、アメリカの艦艇を分配した場合でも全て解体した場合でも、ドイツが不利になるからです」
アメリカ軍が消滅すると、ドイツは日ソ同盟に対し軍事的に不利な立場に立たされる。各国にアメリカの艦艇を分配した場合でも、アメリカ軍をそっくり消滅させた場合でも、それは同じだ。ドイツはアメリカを自らの勢力圏に引き入れなければならないのである。
「なるほど。それは理解しました。僭越ながらお尋ねしますが、それはロンメル元帥の職権乱用なのでは?」
ニクソン首相はロンメル元帥が国連軍最高司令官の地位を濫用してドイツに有利な決定を下したのだと予想した。
「いいえ、そうではありません。確かにドイツ国はアメリカ軍の温存を要求していましたが、この決定自体は国連軍司令部の賛成を得たものです」
「つまり、日本かソ連に利益を与える代償ということですか。……それが何かと考えれば、アメリカを分割するくらいしか考えられませんね」
「その通りです。このような物言いは貴国を侮辱しているようで個人的には嫌いですが、既に戦後の領土分割は決定しています。ソ連にはカナダの共産化を約束し、日本にはメキシコがテキサス州とニューメキシコ州を併合することを約束しました」
「なるほど。その対価に、アメリカはドイツの傀儡になるということですか」
日独ソ三国による北アメリカ大陸の分割は、既に決定されている。ソ連はカナダを獲得し、日本の友邦メキシコは米墨戦争で失った領土を全て回復し、ドイツは残ったアメリカを引き入れるという寸法である。
「傀儡というのは違います。そこまですれば日本とソ連が反発することは必至でしたから、あくまでアメリカの独立を維持するというのが国連軍の条件です」
「なるほど。そうだとしても、アメリカは再びドイツと組むのは必然という訳ですか」
アメリカとしても、ドイツに頼らなければ日本やソ連に対抗できない。
「ええ。結局のところは戦前の状態に復帰するということです。まあ戦前と比べれば、ドイツは寧ろ損をしていますが」
同盟関係は戦前に戻るとは言え、カナダはソ連陣営に取り込まれるし、アメリカの国力は低下する。ドイツにとっては損でしかない。
「その損を、ゲッベルス大統領は許容したのですか?」
「そうでもしなければ、更に不利なことになりかねません。日本とドイツの戦いはもう始まっているのです。言うなれば、冷たい戦い――冷戦とでも言いましょうか」
「直接には戦火を交えない陣取り合戦という訳ですか。よく分かりました。それでは我々は、カナダを手放し、メキシコに奪った領土を全て返還すればよいのですね?」
「はい。主なところはそうなります。ロンメル元帥は交渉の余地はあるとしていますが――」
「その必要はありません。最初から無条件降伏なんですから。今の条件でもアメリカにとっては十分です。下手な手を打って事態を悪化させたくはありませんからね」
アメリカの独立を維持できるのならそれでいい。奪った領土を失うくらい、どうということではない。ニクソン首相はそう判断し、降伏文書にサインすることを伝えた。シュニーヴィント元帥は降伏文書を用意させる。
「しかし、我々は誰に対して降伏することになるんですかね? 国際連盟との戦争なんて未だかつて例がありませんから」
「首相閣下の仰る通り、国際連盟が降伏の相手ですが」
シュニーヴィント元帥は不思議そうに応えた。何を当然のことを聞いているのかと、逆に聞き返す。
「国際連盟が法的な主体になり得ると?」
「そうでなければ、どうなるのですか? 生憎、私は純粋な軍人なものでして」
「この場合は、国際連盟に加盟している全ての国に対して降伏することになるでしょうね。降伏文書が大量のサインで凄まじく長くなってしまいそうですが」
「なるほど……。そういうことですか。でしたら、我々の認識としては、国際連盟は法的な主体です」
国際組織と一国の戦争というのは史上初めてのことであった。後に法律家から色々と文句を言われることになるのだが、今回はアメリカ合衆国が国際連盟に降伏するという形式を取り、降伏文書にはアメリカ政府を代表するニクソン首相の署名、アメリカ軍を代表するマーシャル元帥の署名、そして国際連盟を代表するシュニーヴィント元帥の署名、その三つだけが並んだ。
「ロンメル元帥のお考えですか?」
「その通りです。つまりは、アメリカ海軍の扱いについてです」
国連海軍相手では圧倒されるしかなかったアメリカ海軍であるが、その戦力はなお十分に強大である。日本海軍には及ばないが、ドイツ海軍相手ならやや劣勢、ソ連海軍には優勢と言った具合である。その艦隊が今後誰のものになるかは、全世界の関心事だ。
「考えられる処遇は、大きく分けて三つでしょう。アメリカ海軍を解体してその艦艇を各国に分配するか、そのままアメリカが保有し続けるか、全てスクラップにするか。無論、これらを混合した方法も考えられますが」
「我々は無条件降伏をする身です。何も口出しはできないのですから、早く結論を仰って欲しいものです」
「では、そうしましょう。結論としては、アメリカの軍備は接収しないことになりました。スクラップにもしません」
「我々に武装を許してくださると? 理由を聞かせてもらっても?」
「普通はアメリカ軍を解体するところですが、アメリカの艦艇を分配した場合でも全て解体した場合でも、ドイツが不利になるからです」
アメリカ軍が消滅すると、ドイツは日ソ同盟に対し軍事的に不利な立場に立たされる。各国にアメリカの艦艇を分配した場合でも、アメリカ軍をそっくり消滅させた場合でも、それは同じだ。ドイツはアメリカを自らの勢力圏に引き入れなければならないのである。
「なるほど。それは理解しました。僭越ながらお尋ねしますが、それはロンメル元帥の職権乱用なのでは?」
ニクソン首相はロンメル元帥が国連軍最高司令官の地位を濫用してドイツに有利な決定を下したのだと予想した。
「いいえ、そうではありません。確かにドイツ国はアメリカ軍の温存を要求していましたが、この決定自体は国連軍司令部の賛成を得たものです」
「つまり、日本かソ連に利益を与える代償ということですか。……それが何かと考えれば、アメリカを分割するくらいしか考えられませんね」
「その通りです。このような物言いは貴国を侮辱しているようで個人的には嫌いですが、既に戦後の領土分割は決定しています。ソ連にはカナダの共産化を約束し、日本にはメキシコがテキサス州とニューメキシコ州を併合することを約束しました」
「なるほど。その対価に、アメリカはドイツの傀儡になるということですか」
日独ソ三国による北アメリカ大陸の分割は、既に決定されている。ソ連はカナダを獲得し、日本の友邦メキシコは米墨戦争で失った領土を全て回復し、ドイツは残ったアメリカを引き入れるという寸法である。
「傀儡というのは違います。そこまですれば日本とソ連が反発することは必至でしたから、あくまでアメリカの独立を維持するというのが国連軍の条件です」
「なるほど。そうだとしても、アメリカは再びドイツと組むのは必然という訳ですか」
アメリカとしても、ドイツに頼らなければ日本やソ連に対抗できない。
「ええ。結局のところは戦前の状態に復帰するということです。まあ戦前と比べれば、ドイツは寧ろ損をしていますが」
同盟関係は戦前に戻るとは言え、カナダはソ連陣営に取り込まれるし、アメリカの国力は低下する。ドイツにとっては損でしかない。
「その損を、ゲッベルス大統領は許容したのですか?」
「そうでもしなければ、更に不利なことになりかねません。日本とドイツの戦いはもう始まっているのです。言うなれば、冷たい戦い――冷戦とでも言いましょうか」
「直接には戦火を交えない陣取り合戦という訳ですか。よく分かりました。それでは我々は、カナダを手放し、メキシコに奪った領土を全て返還すればよいのですね?」
「はい。主なところはそうなります。ロンメル元帥は交渉の余地はあるとしていますが――」
「その必要はありません。最初から無条件降伏なんですから。今の条件でもアメリカにとっては十分です。下手な手を打って事態を悪化させたくはありませんからね」
アメリカの独立を維持できるのならそれでいい。奪った領土を失うくらい、どうということではない。ニクソン首相はそう判断し、降伏文書にサインすることを伝えた。シュニーヴィント元帥は降伏文書を用意させる。
「しかし、我々は誰に対して降伏することになるんですかね? 国際連盟との戦争なんて未だかつて例がありませんから」
「首相閣下の仰る通り、国際連盟が降伏の相手ですが」
シュニーヴィント元帥は不思議そうに応えた。何を当然のことを聞いているのかと、逆に聞き返す。
「国際連盟が法的な主体になり得ると?」
「そうでなければ、どうなるのですか? 生憎、私は純粋な軍人なものでして」
「この場合は、国際連盟に加盟している全ての国に対して降伏することになるでしょうね。降伏文書が大量のサインで凄まじく長くなってしまいそうですが」
「なるほど……。そういうことですか。でしたら、我々の認識としては、国際連盟は法的な主体です」
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