487 / 766
第二十四章 戦後処理
反乱の終わり
しおりを挟む
一九五六年九月十六日、カリフォルニア州サンフランシスコ。
「閣下、サンディエゴは陥落しました。日本・メキシコ連合軍はこのままロサンゼルスに攻め込むことでしょう」
ルメイの幕僚長、ティベッツ大佐は報告する。ルメイの作戦は脆くも崩れ、サンディエゴはメキシコに奪還された。
「サンディエゴは一人残らず玉砕したんだな?」
「サンディエゴは音信不通ですから、不明です」
「まあいい。降伏した奴は専制の手先だ。どうせ役に立たなかった連中だろう」
「はぁ。それはともかく、ロサンゼルスもサンディエゴと同様、長くは持たないかと」
「最後の一人になっても戦い続けろと言っただろうが! 徹底抗戦だ!」
「お言葉ですが閣下、我々に勝ち目などありません。敗北までの時間を少し長くすることに、何の意味があるのですか」
「その時は、全員死ねばよい。民主主義は決して独裁に屈しないと世界に示し、我々は殺されるのだ。いずれ我々の意志を継ぐ誰かが、民主主義を復活させるだろう。我々は、民主主義の生贄となるのだ!」
自らの罪の重さに耐えかねて、イデオロギーを信じ込むことで罪悪感を薄れさせうとしているのか。或いは本当に生来の狂人なのか。ルメイの心中を知る者は誰もいない。
○
一九五六年九月二十日、サンフランシスコ沿岸。
ルメイ討伐に出撃したアメリカ第1艦隊は、早々にサンフランシスコに到達していた。信濃率いる帰還途中の小部隊すら撃退できないルメイの海軍に、第1艦隊を食い止める術などある筈もない。海で使える戦力と言えば、信濃と大鳳に容易に完封されたPTボートくらいなものなのだ。
海に面したサンフランシスコからは、まるで水平線が軍艦によって埋め尽くされているかのように見える。と言うのも、実は日本海軍も第1艦隊に助力するという名目で参戦していたからである。和泉と摂津など日本の第一・第二艦隊を中核とする臨時編成の艦隊が、サンフランシスコ攻略に加わっている。
『手柄を奪うようなら戦争だ。分かっているな、和泉?』
ハワイは敵意を剥き出しにして和泉に呼び掛ける。
「手柄なんて興味はないよ。私はただ、圧倒的な戦力でルメイを絶望させるのが楽しいだけだ」
『変な奴め。これだから黄色い猿共は』
「はは。白い猿の能力では目先のことを考えるのが限界のようだね」
「おい、やめるんだ、和泉。それにハワイも」
放っておくとすぐさま喧嘩を始める両名を、連合艦隊司令長官草鹿龍之介大将が諌める。連合艦隊旗艦和泉がいるならば、連合艦隊司令長官もいるのである。大将はこの件に限ってはシャーマン大将と密接な協力関係を築いていた。
「せっかく面白いところだったのに」
和泉は呆れたような表情をわざとらしく作る。
「こんなことを面白がるな。我々の目的はアメリカ海軍を支援することで、喧嘩をしに来た訳ではない」
「そんなことは分かっているよ。私を馬鹿にしているのかな?」
「分かっているのなら、それに相応しい行動を取れ」
内情はともかくとして、和泉型戦艦とハワイ級戦艦という世界最強の戦艦同士が表面上は協力しているのである。ルメイ陣営はさぞ絶望していることだろう。
サンフランシスコを海上封鎖したところで、シャーマン大将はルメイに降伏を呼び掛けた。ルメイが戦争犯罪の咎で処刑されることは間違いないだろうが、この反乱については不問にし、部下の誰も罪に問わないという寛大な処置であった。これはニクソン首相直々の指示でもある。
しかし、ルメイは降伏しなかった。
『我々は民主主義の砦である! 我々は独裁者の手先には決して屈しない! 我々は民主主義の勝利を勝ち取るか、或いは専制の手先によって殺されるまで、決して歩みを停めないのだ!』
ルメイはそう宣言したのである。
『これは、話になりませんな』
シャーマン大将は草鹿大将に通信を繋いで、心底呆れたように言った。
「ええ、まったくです。ルメイが降伏することはないでしょう。徹底的に武力で殲滅するか、或いは内部崩壊を促すか、くらいしかありません」
『後者であれば楽ですが、上手くいきましょうか』
「まさかルメイの部下までもが奴のような狂人ではないでしょう。マトモな人間が残っていれば、十分に期待できるかと」
『そう願います』
一先ずサンフランシスコは包囲するだけで手を出さず、草鹿大将とシャーマン大将は様子を見ることにした。
○
「閣下、選択肢は二つです。降伏するか、サンフランシスコを放棄して内陸部で抵抗するか。どうされますか?」
「どちらも論外だ! 私は決して退きはしない!!」
「では、ここで殲滅されるのを待つしかありませんね」
ティベッツ大佐はこんな土壇場で裏切ることを好まず、ルメイと心中して名誉を守るつもりでいた。
「…………そうだ、原子爆弾を使えばいい! あの独裁者の手先共を、原子爆弾で殲滅しろ!!」
即応体制を維持するべくルメイが管理していた核兵器は、今なお彼の手元にある。原子爆弾を投入することは、技術的には可能である。
「本気ですか、閣下?」
「当たり前だ!」
「閣下、戦術核兵器の使用は、地獄の門でしかありません」
戦略核兵器は戦争の抑止に有益であるが、戦術核兵器は戦場を地獄に変えるだけだ。
「国連の奴らも使っていただろうが!」
「あれは確かに戦術核とも言えますが、グレーです。直接の被害は出ていません」
「そんな御託は聞いていない!! これは命令だ! 今すぐあの目障りな連中を原子爆弾で吹き飛ばせ!!」
「閣下……。閣下がその気ならば、私は個人的な名誉より、人類の幸福を優先せざるを得ません」
ティベッツ大佐はルメイの頭に拳銃の銃口を向けた。一度誰かがそう決意すれば、ルメイの幕僚達が彼を見限るのは一瞬であった。
「閣下、サンディエゴは陥落しました。日本・メキシコ連合軍はこのままロサンゼルスに攻め込むことでしょう」
ルメイの幕僚長、ティベッツ大佐は報告する。ルメイの作戦は脆くも崩れ、サンディエゴはメキシコに奪還された。
「サンディエゴは一人残らず玉砕したんだな?」
「サンディエゴは音信不通ですから、不明です」
「まあいい。降伏した奴は専制の手先だ。どうせ役に立たなかった連中だろう」
「はぁ。それはともかく、ロサンゼルスもサンディエゴと同様、長くは持たないかと」
「最後の一人になっても戦い続けろと言っただろうが! 徹底抗戦だ!」
「お言葉ですが閣下、我々に勝ち目などありません。敗北までの時間を少し長くすることに、何の意味があるのですか」
「その時は、全員死ねばよい。民主主義は決して独裁に屈しないと世界に示し、我々は殺されるのだ。いずれ我々の意志を継ぐ誰かが、民主主義を復活させるだろう。我々は、民主主義の生贄となるのだ!」
自らの罪の重さに耐えかねて、イデオロギーを信じ込むことで罪悪感を薄れさせうとしているのか。或いは本当に生来の狂人なのか。ルメイの心中を知る者は誰もいない。
○
一九五六年九月二十日、サンフランシスコ沿岸。
ルメイ討伐に出撃したアメリカ第1艦隊は、早々にサンフランシスコに到達していた。信濃率いる帰還途中の小部隊すら撃退できないルメイの海軍に、第1艦隊を食い止める術などある筈もない。海で使える戦力と言えば、信濃と大鳳に容易に完封されたPTボートくらいなものなのだ。
海に面したサンフランシスコからは、まるで水平線が軍艦によって埋め尽くされているかのように見える。と言うのも、実は日本海軍も第1艦隊に助力するという名目で参戦していたからである。和泉と摂津など日本の第一・第二艦隊を中核とする臨時編成の艦隊が、サンフランシスコ攻略に加わっている。
『手柄を奪うようなら戦争だ。分かっているな、和泉?』
ハワイは敵意を剥き出しにして和泉に呼び掛ける。
「手柄なんて興味はないよ。私はただ、圧倒的な戦力でルメイを絶望させるのが楽しいだけだ」
『変な奴め。これだから黄色い猿共は』
「はは。白い猿の能力では目先のことを考えるのが限界のようだね」
「おい、やめるんだ、和泉。それにハワイも」
放っておくとすぐさま喧嘩を始める両名を、連合艦隊司令長官草鹿龍之介大将が諌める。連合艦隊旗艦和泉がいるならば、連合艦隊司令長官もいるのである。大将はこの件に限ってはシャーマン大将と密接な協力関係を築いていた。
「せっかく面白いところだったのに」
和泉は呆れたような表情をわざとらしく作る。
「こんなことを面白がるな。我々の目的はアメリカ海軍を支援することで、喧嘩をしに来た訳ではない」
「そんなことは分かっているよ。私を馬鹿にしているのかな?」
「分かっているのなら、それに相応しい行動を取れ」
内情はともかくとして、和泉型戦艦とハワイ級戦艦という世界最強の戦艦同士が表面上は協力しているのである。ルメイ陣営はさぞ絶望していることだろう。
サンフランシスコを海上封鎖したところで、シャーマン大将はルメイに降伏を呼び掛けた。ルメイが戦争犯罪の咎で処刑されることは間違いないだろうが、この反乱については不問にし、部下の誰も罪に問わないという寛大な処置であった。これはニクソン首相直々の指示でもある。
しかし、ルメイは降伏しなかった。
『我々は民主主義の砦である! 我々は独裁者の手先には決して屈しない! 我々は民主主義の勝利を勝ち取るか、或いは専制の手先によって殺されるまで、決して歩みを停めないのだ!』
ルメイはそう宣言したのである。
『これは、話になりませんな』
シャーマン大将は草鹿大将に通信を繋いで、心底呆れたように言った。
「ええ、まったくです。ルメイが降伏することはないでしょう。徹底的に武力で殲滅するか、或いは内部崩壊を促すか、くらいしかありません」
『後者であれば楽ですが、上手くいきましょうか』
「まさかルメイの部下までもが奴のような狂人ではないでしょう。マトモな人間が残っていれば、十分に期待できるかと」
『そう願います』
一先ずサンフランシスコは包囲するだけで手を出さず、草鹿大将とシャーマン大将は様子を見ることにした。
○
「閣下、選択肢は二つです。降伏するか、サンフランシスコを放棄して内陸部で抵抗するか。どうされますか?」
「どちらも論外だ! 私は決して退きはしない!!」
「では、ここで殲滅されるのを待つしかありませんね」
ティベッツ大佐はこんな土壇場で裏切ることを好まず、ルメイと心中して名誉を守るつもりでいた。
「…………そうだ、原子爆弾を使えばいい! あの独裁者の手先共を、原子爆弾で殲滅しろ!!」
即応体制を維持するべくルメイが管理していた核兵器は、今なお彼の手元にある。原子爆弾を投入することは、技術的には可能である。
「本気ですか、閣下?」
「当たり前だ!」
「閣下、戦術核兵器の使用は、地獄の門でしかありません」
戦略核兵器は戦争の抑止に有益であるが、戦術核兵器は戦場を地獄に変えるだけだ。
「国連の奴らも使っていただろうが!」
「あれは確かに戦術核とも言えますが、グレーです。直接の被害は出ていません」
「そんな御託は聞いていない!! これは命令だ! 今すぐあの目障りな連中を原子爆弾で吹き飛ばせ!!」
「閣下……。閣下がその気ならば、私は個人的な名誉より、人類の幸福を優先せざるを得ません」
ティベッツ大佐はルメイの頭に拳銃の銃口を向けた。一度誰かがそう決意すれば、ルメイの幕僚達が彼を見限るのは一瞬であった。
0
あなたにおすすめの小説
【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記
糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。
それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。
かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。
ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。
※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。
義姉妹百合恋愛
沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。
「再婚するから」
そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。
次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。
それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。
※他サイトにも掲載しております
対ソ戦、準備せよ!
湖灯
歴史・時代
1940年、遂に欧州で第二次世界大戦がはじまります。
前作『対米戦、準備せよ!』で、中国での戦いを避けることができ、米国とも良好な経済関係を築くことに成功した日本にもやがて暗い影が押し寄せてきます。
未来の日本から来たという柳生、結城の2人によって1944年のサイパン戦後から1934年の日本に戻った大本営の特例を受けた柏原少佐は再びこの日本の危機を回避させることができるのでしょうか!?
小説家になろうでは、前作『対米戦、準備せよ!』のタイトルのまま先行配信中です!
徳川慶勝、黒船を討つ
克全
歴史・時代
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
尾張徳川家(尾張藩)の第14代・第17代当主の徳川慶勝が、美濃高須藩主・松平義建の次男・秀之助ではなく、夭折した長男・源之助が継いでおり、彼が攘夷派の名君となっていた場合の仮想戦記を書いてみました。夭折した兄弟が活躍します。尾張徳川家15代藩主・徳川茂徳、会津藩主・松平容保、桑名藩主・松平定敬、特に会津藩主・松平容保と会津藩士にリベンジしてもらいます。
もしかしたら、消去するかもしれません。
もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら
俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。
赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。
史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。
もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる