軍艦少女は死に至る夢を見る~戦時下の大日本帝国から始まる艦船擬人化物語~

takahiro

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幕間

峯風

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 時に一九四九年某日、横須賀鎮守府。

 秋月型駆逐艦三番艦の涼月は、撃沈寸前の大損害を受けながらも、大東亜戦争を生き延びた数少ない駆逐艦の一隻である。秋月型駆逐艦は島風型駆逐艦と並んで大型の駆逐艦であり、向こう20年程度は主力駆逐艦として運用することが想定されていたから、涼月の船魄化はかなり優先して行われた。

 そういう訳で船魄としては最古参の部類に入り、かつ再建造ではない本物ということで、涼月は軍令部からその能力を期待されていた。実際、その戦闘能力については期待通りだったのだが、戦時中のトラウマがそのまま受け継がれているのか、その性格は非常に臆病で人と話したがらなかった。

 そんな涼月は、船魄の生みの親こと岡本平八技術少将に呼び出された。

「な、何の御用、でしょうか……?」
「君は船魄としては最古参の部類に入る。瑞鶴と大和はどこかに行ってしまったし、君より早く生まれた君の姉妹達は再建造だからね」
「は、はい……。そうですね……」
「そんな君に、うってつけの仕事がある」
「な、何でしょうか……?」
「新しく生まれた船魄の世話係を君に任せたい。生まれたばかりの船魄というのは基本的に不安定だが、この子は特にでね」
「どなた、でしょうか……?」
「島風型駆逐艦五番艦、峯風だ。君と同じく主力駆逐艦の一角ということになる。頼んだよ」
「私には向いていないと、思うのですが……」

 人の教育係など全く向いていないとは思いつつ、命令を拒否する気概もなかったので、涼月は仕方なく仕事に移ることにした。

 峯風は横須賀海軍工廠で建造され、その船魄の生まれもまた横須賀である。涼月は峯風が与えられている部屋に向かった。扉を叩いて自己紹介をすると、消え入りそうな声で「ど、どうぞ……」と返事がきた。涼月はゆっくり扉を開けた。

 部屋の広さは六畳くらいであり、布団一枚と机などがあるだけであった。一般的に言えば広い部屋ではないが、軍人一人に与えられる空間としては十分に広いと言えるだろう。

 部屋の中では、一人の少女が掛け布団にくるまって、部屋の隅にくっつくようにうずくまっていた。

「あの、あなたが峯風さん、ですよね……?」
「は、はい……。私が峯風、ですけど……」

 峯風は怯えているようだった。余程警戒心が強いと見える。生まれたて故に混乱しているというのが大きいらしい。

 ――私が生まれた時はこんな感じではなかったけど、過去のない新造艦というのが大きいのかな。

 涼月は色々と考えを巡らせつつ、取り敢えず峯風を見下ろすのはよくないと思って、部屋の入口付近で正座する。

「ええと、私は峯風さんのお世話係というか、教育係というかを、任された者です。これから……よろしくお願いします、峯風さん」
「そ、そうですか……。別にそんなの要らないけど……」
「な、何と言いますか……取り敢えず、私は峯風さんの味方ですよ。警戒を解いてもらうというのは、できませんか……?」
「味方……? 本当に……?」
「も、もちろんです! 峯風さんを傷付けたりなんてしません。まずは、そっちに行ってもいいですか……?」

 涼月と峯風は部屋の対角線上で会話を交わしている状態である。

「は、はい……。どうぞ……」
「行きますね……」

 涼月は子供のお守りなど全く経験はないが、取り敢えず最善と思われることをするしかない。その結果として、峯風を怖がらせないよう四つん這いになりながら峯風に接近するという滑稽なことになってしまう。

 そんな様子の涼月を見ると、峯風は呆気に取られてしまい、逆に冷静になってきた。

「ちょ、わ、私は赤ん坊じゃないですから、そんなことまでしなくていいです!」
「そ、そうですか……? すみません……」

 涼月は普通に峯風に歩み寄り、その隣に腰を下ろした。峯風は特に警戒する様子も見せなかった。今の一件ですっかり警戒が解けたらしい。チョロいと言えばその通りではあるのだが。

「峯風さん、答えたくなかったら答えてもらわなくていいんですけど、どうしてそんなに、周りの人を警戒しているんですか……?」
「警戒っていうか……知らない人を信用できないのが、普通じゃないですか?」
「なるほど……。確かに、峯風さんにとってはそうですよね」

 駆逐艦としての過去を持たない峯風にとっては、横須賀鎮守府の全てが初めて見るものなのだ。警戒するのも当然だろう。

「大丈夫です。少しずつ知っている人を増やしていきましょう。軍人の人は怖いですけど……まずは他の船魄の方々と知り合いになっていけばいいかと思います」
「涼月さんが最初の知り合い、ですね」
「え? は、はい、そうですね。峯風さんに信用していただけたなら、嬉しいです」
「最初は怪しい人かと思いましたけど、今はそんな風には思いません」
「あ、怪しかった、ですか……?」
「ええと、正直、そう思いました……」

 とにもかくにも、峯風が普通に話してくれるようになって、涼月は安堵した。帝国海軍は再建途上であるし、広い大東亜連盟圏や北米に艦艇を分散させているので、横須賀鎮守府で会える船魄は少ないが、峯風は何隻かの船魄と知り合いくらいにはなることができた。
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