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第二十八章 海上補給線
大和の安全
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さて、瑞鶴はフロリダ海峡でソ連艦隊攻撃の準備をしつつ、大和のことを常に気に掛けていた。それも当然であろう。彼女の行動原理は全て大和と一緒に暮らす為であって、彼女の行動は全て大和が安全であることが前提である。
大和が安全であるというのは、大和自身の防御力の高さによってある程度保証されていたが、それが今や崩れ去った。敵には大和の装甲を貫通できる兵器があると分かったのだから。
瑞鶴は、CA海軍軍令部長シャーマン大将に早速電話を掛ける。シャーマン大将は月虹の頭目である瑞鶴をかなり丁重に扱っており、すぐさま通信に応じた。月虹に万が一にも裏切られたら、アメリカ連邦が消滅することは間違いないからである。
「――ねえ、大和が中破したって本当?」
『ああ、事実だ。わざわざ私に聞く必要もないと思うが』
瑞鶴の艦載機は40分くらいで現場に到着するだろうから、その時に自分の目で確かめればいい話なのである。
「大和の状態は逸早く知りたいに決まってるでしょ」
『それを聞いて⋯⋯君はどうしようと言うんだ?』
「決まってるでしょ? 大和が傷付くことは許せない。大和は引き上げさせてもらうわ」
『そう言われるとは、予想していたがね⋯⋯』
「だったら話が早いわ。私もツェッペリンも協力はしてあげるけど、大和は引き上げる。分かった?」
瑞鶴は大和をこれ以上戦わせるなと要求する。もちろんシャーマン大将としては、それを認める訳にはいかない。
『落ち着いてくれ、瑞鶴。もう少し話し合おう』
「話し合いの余地なんてないわ。大和の安全は大前提よ」
『ならば、私の話を聞くだけ聞いてくれ。現状、我々は大和なしでは、モンタナ級戦艦に対抗できない。アイオワ級では歯が立たない。そうなれば、連中はここに来るぞ。君自身の安全が脅かされると思うが、どうするつもりなんだ?』
「別にフロリダ海峡に居続けなければいけない訳じゃないでしょ。その時は逃げるだけよ」
『海上要塞を手放していいのか?』
「あった方が快適に過ごせるけど、なくても困りはしないわ。私が何年宿なしで生きてきたと思ってるの?」
『愚問だったか⋯⋯。とは言え、逃げると言っても簡単ではないだろう。君とて、陸地は必要な筈だ』
軍艦といっても永遠に海上にいる訳にはいかない。空母であれば艦載機の積み込み、戦艦や巡洋艦であれば主砲弾の積み込みなどは、陸地で行わなければならない。
もしも大和を全く戦いに参加させず、アメリカ東海岸の制海権を失えば、軍艦の整備を行えるような場所はなくなってしまうだろう。ドイツ海軍の基地に逃げ込むという選択肢もあるが、何をされるか分からないし、必ずしも安全とは言えない。普通の国ならドイツの勢力圏を直接攻撃することなどないだろうが、相手はアメリカ合衆国であり、理性など期待できない。
つまるところ、大和を戦場から遠ざけると、かえって大和にとっても不利益が生じるということである。だが、そうは言っても瑞鶴は、大和を危険に晒すことに納得できない。
「⋯⋯でも、大和を傷付ける訳にはいかない」
『ならば、君がしっかりと守ればいいだろう。今回は先手を打たれてしまったが、二度とそんなことは起こるまい』
「それは⋯⋯」
『月虹の戦力は、大和を守る為に使ってくれて構わない。ソ連の相手は、我々で何とかするさ』
「そういう条件なら⋯⋯。分かった。認めてあげるわ。但し、大和が本当に危険な状態になったら、退かせてもらう。いい?」
『ああ。そんな状況になったら、戦い続ける意味もあるまい』
「契約成立ね」
という訳で、月虹の空母達は大和の直援に専念することになった。ツェッペリンには無許可であるが、特に問題ないだろう。
問題は、エンタープライズも参加させるかということである。エンタープライズ自身は瑞鶴が頼めば喜んでやってくれるだろうが、大和がよく思うとは思えない。瑞鶴は大和にその是非を尋ねてみた。
「――という訳なんだけど、どう思う?」
『エンタープライズさんが、護衛、ですか⋯⋯』
人に憎悪をほとんど向けない大和も、複雑な感情を隠せなかった。
「嫌なら嫌って言って。エンタープライズは近寄らせないから」
『そこまででは、ありません。エンタープライズさんがいれば、瑞鶴さんも安心できますよね?』
「え、ええ、まあね」
瑞鶴としては心外だが、客観的に見てエンタープライズの戦闘能力は非常に高く評価せざるを得ない。大和を守るのに欠かせない戦力だ。
『でしたら、エンタープライズさんには護衛をお願いしようと思います』
「そ、そう。私に遠慮しなくてもいいのよ?」
『大丈夫です。大和はそもそも、エンタープライズさんにそこまでの恨みはないですから』
「分かった⋯⋯。じゃあ、あなたを全力で守るわ。もう誰にも傷付けさせない」
『ありがとうございます、瑞鶴さん。よろしくお願いします』
かくして月虹の空母、瑞鶴・ツェッペリン・エンタープライズは大和(とイギリス艦隊)を護衛することになった。艦上戦闘機を全て出し、コメットを一機残らず落とすつもりである。
大和が安全であるというのは、大和自身の防御力の高さによってある程度保証されていたが、それが今や崩れ去った。敵には大和の装甲を貫通できる兵器があると分かったのだから。
瑞鶴は、CA海軍軍令部長シャーマン大将に早速電話を掛ける。シャーマン大将は月虹の頭目である瑞鶴をかなり丁重に扱っており、すぐさま通信に応じた。月虹に万が一にも裏切られたら、アメリカ連邦が消滅することは間違いないからである。
「――ねえ、大和が中破したって本当?」
『ああ、事実だ。わざわざ私に聞く必要もないと思うが』
瑞鶴の艦載機は40分くらいで現場に到着するだろうから、その時に自分の目で確かめればいい話なのである。
「大和の状態は逸早く知りたいに決まってるでしょ」
『それを聞いて⋯⋯君はどうしようと言うんだ?』
「決まってるでしょ? 大和が傷付くことは許せない。大和は引き上げさせてもらうわ」
『そう言われるとは、予想していたがね⋯⋯』
「だったら話が早いわ。私もツェッペリンも協力はしてあげるけど、大和は引き上げる。分かった?」
瑞鶴は大和をこれ以上戦わせるなと要求する。もちろんシャーマン大将としては、それを認める訳にはいかない。
『落ち着いてくれ、瑞鶴。もう少し話し合おう』
「話し合いの余地なんてないわ。大和の安全は大前提よ」
『ならば、私の話を聞くだけ聞いてくれ。現状、我々は大和なしでは、モンタナ級戦艦に対抗できない。アイオワ級では歯が立たない。そうなれば、連中はここに来るぞ。君自身の安全が脅かされると思うが、どうするつもりなんだ?』
「別にフロリダ海峡に居続けなければいけない訳じゃないでしょ。その時は逃げるだけよ」
『海上要塞を手放していいのか?』
「あった方が快適に過ごせるけど、なくても困りはしないわ。私が何年宿なしで生きてきたと思ってるの?」
『愚問だったか⋯⋯。とは言え、逃げると言っても簡単ではないだろう。君とて、陸地は必要な筈だ』
軍艦といっても永遠に海上にいる訳にはいかない。空母であれば艦載機の積み込み、戦艦や巡洋艦であれば主砲弾の積み込みなどは、陸地で行わなければならない。
もしも大和を全く戦いに参加させず、アメリカ東海岸の制海権を失えば、軍艦の整備を行えるような場所はなくなってしまうだろう。ドイツ海軍の基地に逃げ込むという選択肢もあるが、何をされるか分からないし、必ずしも安全とは言えない。普通の国ならドイツの勢力圏を直接攻撃することなどないだろうが、相手はアメリカ合衆国であり、理性など期待できない。
つまるところ、大和を戦場から遠ざけると、かえって大和にとっても不利益が生じるということである。だが、そうは言っても瑞鶴は、大和を危険に晒すことに納得できない。
「⋯⋯でも、大和を傷付ける訳にはいかない」
『ならば、君がしっかりと守ればいいだろう。今回は先手を打たれてしまったが、二度とそんなことは起こるまい』
「それは⋯⋯」
『月虹の戦力は、大和を守る為に使ってくれて構わない。ソ連の相手は、我々で何とかするさ』
「そういう条件なら⋯⋯。分かった。認めてあげるわ。但し、大和が本当に危険な状態になったら、退かせてもらう。いい?」
『ああ。そんな状況になったら、戦い続ける意味もあるまい』
「契約成立ね」
という訳で、月虹の空母達は大和の直援に専念することになった。ツェッペリンには無許可であるが、特に問題ないだろう。
問題は、エンタープライズも参加させるかということである。エンタープライズ自身は瑞鶴が頼めば喜んでやってくれるだろうが、大和がよく思うとは思えない。瑞鶴は大和にその是非を尋ねてみた。
「――という訳なんだけど、どう思う?」
『エンタープライズさんが、護衛、ですか⋯⋯』
人に憎悪をほとんど向けない大和も、複雑な感情を隠せなかった。
「嫌なら嫌って言って。エンタープライズは近寄らせないから」
『そこまででは、ありません。エンタープライズさんがいれば、瑞鶴さんも安心できますよね?』
「え、ええ、まあね」
瑞鶴としては心外だが、客観的に見てエンタープライズの戦闘能力は非常に高く評価せざるを得ない。大和を守るのに欠かせない戦力だ。
『でしたら、エンタープライズさんには護衛をお願いしようと思います』
「そ、そう。私に遠慮しなくてもいいのよ?」
『大丈夫です。大和はそもそも、エンタープライズさんにそこまでの恨みはないですから』
「分かった⋯⋯。じゃあ、あなたを全力で守るわ。もう誰にも傷付けさせない」
『ありがとうございます、瑞鶴さん。よろしくお願いします』
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