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3月編
歩く道の途中で①
しおりを挟む結局、はっちーが集合場所に着いたのは予定時間より秒針が何周かした後で、彼の後ろには蕎麦原友也がたっていた。彼も小学校の時からの同級生である。小学生の時は誰とでも仲良く話し、率先して何かをするタイプだったはずだ。中学受験もして藤井市の中で一番頭のいい私立に入学した。
今のともやは少しふっくらした体つきに、くるくるの天然パーマ、まだ冬の終わりかけだというのに、白いロンT一枚にハーフ短パン、サンダルという小学生の時の彼を縦と横に引き延ばしたかのような見た目だった。
「ともやは何も変わってないね」
私がそう言うと彼は、
「そうかな?そうやってよくいわれるかも」
と少し暗めな返事をした。何かあったのかな、心配する隙も与えずにはっちーが、
「それじゃ行こうねん」
というのでとりあえず考えるのはやめてついて行くことにした。
はっちーもそれこそ見た目なんて何も変わってなくて、黒の革ジャンにタイトめなジーパン、白いスニーカー、といった具合だった。
2人とも私に気を遣ってくれているのか、何もしゃべらない。たぶん私の合否結果は知らないけれど、何か察してくれているのだろうなと思うと、私の心がキュッと声を上げた。
「合否どうだったんご?」
はっちーがこの凍てついた空間に素手で殴り込むようなか弱い声で私に問いかけた。
「えーっとね、だめ、だったんだ、、、」
「そっか、お疲れ様。でもこれでじゅんも立派な大学生だな」
「それなん。大学生はたのしいよん。お酒飲んで女と遊んでたら一回生終わったよん。」
「お酒って19から飲んでいいんだっけ?」
「知らないよん」
私の質問はどうやら愚問だったようだ。それからは大学生ってどういうものなのか、大学ではどういうことを勉強するのか、サークルはどのようにして選べばいいのか。大学で友達を作るのは簡単なのか難しいのか。そんなある種入学してしまえばすべてわかってしまうような“どうでもいいこと”をすごく興味津々で聞きながら松風台の方へ向かってあるいていく。
私たちの住む竹園町と松風台はおよそ4キロ離れた場所にある。歩く時間にすれば大体40分から1時間程度。2つの町は竹松街道と呼ばれる大きな街道でつながれている。
ちょうど半分くらいの距離にさしかかったところで、私はふと気になった。
「何でこっち側に歩いていくの?」
「え、そんなの紅葉家いくからに決まってるくね?」
「それなん。疲れてる日には家系ラーメンを体にぶち込むのが最高なんだよねん。」
「な、なるほど、、」
今まで私は、浪人以外、親が敷いてくれたレールに乗って生きてきた。こういう外れ方もあるのだなと思うとちょっとだけ心が軽くなった。反抗期の子供みたいだ。そう考えたら自然と笑みがこぼれてきた。
「ありがとうね、連れ出してくれて。多分このまま連れ出してくれなかったら部屋でずっと泣いてた。なんか久しぶりに笑ったかも。」
「友達が困ってたら助けるのは当たり前だよん。逆に僕が困ったことがあったら助けてねん」
ともやも無言で微笑んでいる。なんか本当にいい友達に恵まれたな、心からそう思えた。ありきたりだけど。でも口に出すことはやめておこう。そんなこと口にしたら絶対あおられるもの。
「二人はさ、彼女ってもういたりするの?」
自分でもわかるくらい二ヤついて聞いた。
「いないよん」
「いるわけなだろ」
「そうなの?大学生ってみんな彼氏彼女いるものなのかなーって思ってた」
「は?そんなわけないだろ。逆に彼氏彼女いるやつの方が少ないで。」
「それなん」
若干信じがたかった。確かにはっちーは理系だから研究とかが忙しくて彼女できないのかなとか勝手に思っていた。でもともやは私立文系の大学生だ。私文といえば、合コンだ、サークルだ、バイトだ、で出会いの宝庫かと思っていた。
「そんなに彼女ってできないものなの?」
おそるおそる聞いた。
「そもそも出会い自体が少ないし、俺の周りにいる女はいいやつ一人もいないから、もう諦めてる」
ともやは少し怒りをにじませながらいった。
「そっか。」
私は大学に入ったらとにかく彼女がほしいなと思っていた。中学高校は共学だったのにもかかわらず、彼女ができなかったからだ。もちろん自分に彼女ができるような優秀な人間ではないことはわかっている。でも、一度でいいから男女二人でどこかへ出かけてみたい、エッチもしたい。大学生になったらそういうことし放題じゃん、とか勝手に思っていた自分に少し情けなくなる。結局、何者かになりたいという感情も裏を返せば承認欲の塊であることを再認識させられ、またうちひしがれる。
「お、新しくできるショッピングモールみえてきたんごよ。」
はっちーが指を指す先には新しくできるショッピングモールとその横に大きな橋が架かっていた。
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