188 / 263
外伝
サクナ•ノクスフォード
王都、王城の私の部屋。
気候を気にして、リドリーが住まいをここに移したのだ。彼は、どんなに用事で出掛けても、夜には必ず帰ってきてくれた。
すっかり衰えてしまった私は、部屋の窓から見える庭園を眺めるのが、今では数少ない楽しみの一つとなっていた。
それに気がついたのだろうか、サクナが指示して、庭師や手伝いの少年たちによって、いつも美しい花を咲かせてくれている。大変な労力だろう。
私には、先立つ前に一つだけ、不安があった。……いや、過保護なのかもしれない。
それは、兄・スサノオにべったりな、娘・サクナのことだ。
「彼女に、良い相手がいないかしら?」
そう言った私に、リドリーは困ったような顔で答えた。
「それは運命だからな。まさか、王族としてふさわしい相手じゃなきゃダメだなんて考えてないんだろ?」
「……そんなことは、ないけれど」
サクナは、本当に普通の子だ。神の恩寵もなければ、魔力も人族の平均に過ぎない。だから私、彼女を守れる強い男、英雄のような存在を探した。
けれど、同年代の魔女が産んだ子は、なぜかすべて女の子だった。
「どうして?」
「ははは……みんな、スサノオに嫁がせようとしていたんだよ」
冗談なのか、本当なのか、氷雪の魔女がそんな話を私にしたことがあった。彼女の口元には笑みがあったが、どこか呆れたようにも見えた。
「王立学園で見つけてくれるといいんだけど」
それは、私が設立した、大陸一の教育機関。
貴族も市民も関係なく、大陸中から優秀な若者たちが集まってくる。きっと良い出会いがあるはずだと、私は信じていた。
「母様に会わせたい人がいるの」
「まあ……どんな人かしら?」
「……一応、貴族だけど……男爵家の七男なんだ」
彼女が見初めた人物。私は、期待に胸を高鳴らせた。
「剣術部かしら? 魔術部かしら?」
しかし、サクナはうつむいて小さく答えた。
「ううん。園芸部」
私は驚いた。
彼女の理想であるリドリーやスサノオに匹敵するような人物――そこまではいかなくとも、彼女なりに認められるだけの男を選ぶと思っていたからだ。
「はぁ?」思わず、声が漏れた。
泣きそうな顔になったサクナを見て、リドリーが苦笑しながら私をたしなめた。
「会わせたいんだろ? 連れておいで」
──その日、彼がサクナに連れられて、私の面会に部屋を訪れた。スサノオもリドリーも立ち会った。
「レオナール・ノクスフォードです」
ガタガタと震えながらも、彼は名乗った。
彼らを前にすると、恐れから声すら出なくなる者も少なくない。だが彼は、耐えていた。
いきなり、スサノオが試練を課した。
「もし、膝をついたら――お前に、サクナをもらう資格はない。いくぞ!」
既に、優秀と目された少年たちには同じ試験を課してきた。だが、誰一人として、スサノオの偉大なる威光に耐えることはできなかった。
スサノオが剣を抜いた。
恐るべき威圧と魔力が、四方八方から襲いかかる。怒涛の如き圧力が空間を揺らす。
だが彼は、唇を噛み締めて必死に耐えた。そして、魔力の盾を顕現され、嵐のような魔力は、やがて静かに止んだ。
「ほぉ、お前やるな!」
スサノオが声をかけたが、返事がない。
彼は、立ったまま気を失っていた。失禁して。
「お、お漏らししてるぞ!」
スサノオが冗談めかして言うと、サクナは見たこともないような顔で兄を睨みつけた。
「お兄様なんて……嫌い」
ショックを受けたスサノオを放置して、私はリドリーに、彼を着替えに連れていってもらった。
「サクナ、彼は合格よ。……いえ、合格なんて失礼ね。彼に、大切にしてもらいなさい」
「はい!」
その夜、リドリーとスサノオと私は話し合った。
リドリーでさえ耐えるのが難しいスサノオの威光に、彼は耐え、さらには奇跡の盾を顕現させた。
「そんな魔力も武力もない男なんだがな……」
強者である彼らですら、理由がわからず不思議そうな顔をしていた。翌日、サクナは嬉しそうに、彼のことを色々と私に語ってくれた。
「庭園のお花は、彼が提案してくれたのよ。母様を喜ばせようって。季節の花を一緒に探して」
「そうなの……ありがとう、と伝えて」
※
私は、窓から庭を見る。
そこには、サクナと――レオナールが、一緒に庭仕事をしていた。とても楽しそうに。サクナが、指示していたのではなかった。彼と一緒に、この庭を作ってくれていたのだ。
……そうね。強さとは、力ではなく、優しさと思いに宿るものなのかもしれない。
※
それは、王国の盾と呼ばれ、やがて王国を支える宰相家――ノクスフォード家の、始まりの物語。
気候を気にして、リドリーが住まいをここに移したのだ。彼は、どんなに用事で出掛けても、夜には必ず帰ってきてくれた。
すっかり衰えてしまった私は、部屋の窓から見える庭園を眺めるのが、今では数少ない楽しみの一つとなっていた。
それに気がついたのだろうか、サクナが指示して、庭師や手伝いの少年たちによって、いつも美しい花を咲かせてくれている。大変な労力だろう。
私には、先立つ前に一つだけ、不安があった。……いや、過保護なのかもしれない。
それは、兄・スサノオにべったりな、娘・サクナのことだ。
「彼女に、良い相手がいないかしら?」
そう言った私に、リドリーは困ったような顔で答えた。
「それは運命だからな。まさか、王族としてふさわしい相手じゃなきゃダメだなんて考えてないんだろ?」
「……そんなことは、ないけれど」
サクナは、本当に普通の子だ。神の恩寵もなければ、魔力も人族の平均に過ぎない。だから私、彼女を守れる強い男、英雄のような存在を探した。
けれど、同年代の魔女が産んだ子は、なぜかすべて女の子だった。
「どうして?」
「ははは……みんな、スサノオに嫁がせようとしていたんだよ」
冗談なのか、本当なのか、氷雪の魔女がそんな話を私にしたことがあった。彼女の口元には笑みがあったが、どこか呆れたようにも見えた。
「王立学園で見つけてくれるといいんだけど」
それは、私が設立した、大陸一の教育機関。
貴族も市民も関係なく、大陸中から優秀な若者たちが集まってくる。きっと良い出会いがあるはずだと、私は信じていた。
「母様に会わせたい人がいるの」
「まあ……どんな人かしら?」
「……一応、貴族だけど……男爵家の七男なんだ」
彼女が見初めた人物。私は、期待に胸を高鳴らせた。
「剣術部かしら? 魔術部かしら?」
しかし、サクナはうつむいて小さく答えた。
「ううん。園芸部」
私は驚いた。
彼女の理想であるリドリーやスサノオに匹敵するような人物――そこまではいかなくとも、彼女なりに認められるだけの男を選ぶと思っていたからだ。
「はぁ?」思わず、声が漏れた。
泣きそうな顔になったサクナを見て、リドリーが苦笑しながら私をたしなめた。
「会わせたいんだろ? 連れておいで」
──その日、彼がサクナに連れられて、私の面会に部屋を訪れた。スサノオもリドリーも立ち会った。
「レオナール・ノクスフォードです」
ガタガタと震えながらも、彼は名乗った。
彼らを前にすると、恐れから声すら出なくなる者も少なくない。だが彼は、耐えていた。
いきなり、スサノオが試練を課した。
「もし、膝をついたら――お前に、サクナをもらう資格はない。いくぞ!」
既に、優秀と目された少年たちには同じ試験を課してきた。だが、誰一人として、スサノオの偉大なる威光に耐えることはできなかった。
スサノオが剣を抜いた。
恐るべき威圧と魔力が、四方八方から襲いかかる。怒涛の如き圧力が空間を揺らす。
だが彼は、唇を噛み締めて必死に耐えた。そして、魔力の盾を顕現され、嵐のような魔力は、やがて静かに止んだ。
「ほぉ、お前やるな!」
スサノオが声をかけたが、返事がない。
彼は、立ったまま気を失っていた。失禁して。
「お、お漏らししてるぞ!」
スサノオが冗談めかして言うと、サクナは見たこともないような顔で兄を睨みつけた。
「お兄様なんて……嫌い」
ショックを受けたスサノオを放置して、私はリドリーに、彼を着替えに連れていってもらった。
「サクナ、彼は合格よ。……いえ、合格なんて失礼ね。彼に、大切にしてもらいなさい」
「はい!」
その夜、リドリーとスサノオと私は話し合った。
リドリーでさえ耐えるのが難しいスサノオの威光に、彼は耐え、さらには奇跡の盾を顕現させた。
「そんな魔力も武力もない男なんだがな……」
強者である彼らですら、理由がわからず不思議そうな顔をしていた。翌日、サクナは嬉しそうに、彼のことを色々と私に語ってくれた。
「庭園のお花は、彼が提案してくれたのよ。母様を喜ばせようって。季節の花を一緒に探して」
「そうなの……ありがとう、と伝えて」
※
私は、窓から庭を見る。
そこには、サクナと――レオナールが、一緒に庭仕事をしていた。とても楽しそうに。サクナが、指示していたのではなかった。彼と一緒に、この庭を作ってくれていたのだ。
……そうね。強さとは、力ではなく、優しさと思いに宿るものなのかもしれない。
※
それは、王国の盾と呼ばれ、やがて王国を支える宰相家――ノクスフォード家の、始まりの物語。
あなたにおすすめの小説
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
おっさんが雑魚キャラに転生するも、いっぱしを目指す。
お茶飲み人の愛自好吾(あいじこうご)
ファンタジー
どこにでも居るような冴えないおっさん、山田 太郎(独身)は、かつてやり込んでいたファンタジーシミュレーションRPGの世界に転生する運びとなった。しかし、ゲーム序盤で倒される山賊の下っ端キャラだった。女神様から貰ったスキルと、かつてやり込んでいたゲーム知識を使って、生き延びようと決心するおっさん。はたして、モンスター蔓延る異世界で生き延びられるだろうか?ザコキャラ奮闘ファンタジーここに開幕。
『お前の針仕事など誰でもできる』——なら社交界のドレスの裏地を、めくってごらんなさい
歩人
ファンタジー
「地味な針仕事しかできない令嬢は要らない」——公爵家の嫡男にそう言い渡された伯爵令嬢ティナは、
裁縫道具だけを持って屋敷を出た。その翌週、社交界が凍りつく。王妃の夜会服も、公爵令嬢の舞踏会
ドレスも、第一王女の外交用ローブも——仕立てた職人が消えたのだ。しかもティナが十年かけて縫った
全てのドレスの裏地には、二重縫いで隠された署名が残されていて——。
辺境の小さな仕立て屋で穏やかに暮らすティナの元に、王都から使者がやってくる。
知識スキルで異世界らいふ
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ
クラス転移したからクラスの奴に復讐します
wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。
ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。
だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。
クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。
まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。
閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。
追伸、
雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。
気になった方は是非読んでみてください。
ボンクラ王子の側近を任されました
里見知美
ファンタジー
「任されてくれるな?」
王宮にある宰相の執務室で、俺は頭を下げたまま脂汗を流していた。
人の良い弟である現国王を煽てあげ国の頂点へと導き出し、王国騎士団も魔術師団も視線一つで操ると噂の恐ろしい影の実力者。
そんな人に呼び出され開口一番、シンファエル殿下の側近になれと言われた。
義妹が婚約破棄を叩きつけた相手である。
王子16歳、俺26歳。側近てのは、年の近い家格のしっかりしたヤツがなるんじゃねえの?
26番目の王子に転生しました。今生こそは健康に大地を駆け回れる身体に成りたいです。
克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー。男はずっと我慢の人生を歩んできた。先天的なファロー四徴症という心疾患によって、物心つく前に大手術をしなければいけなかった。手術は成功したものの、術後の遺残症や続発症により厳しい運動制限や生活習慣制限を課せられる人生だった。激しい運動どころか、体育の授業すら見学するしかなかった。大好きな犬や猫を飼いたくても、「人獣共通感染症」や怪我が怖くてペットが飼えなかった。その分勉強に打ち込み、色々な資格を散り、知識も蓄えることはできた。それでも、自分が本当に欲しいものは全て諦めなければいいけない人生だった。だが、気が付けば異世界に転生していた。代償のような異世界の人生を思いっきり楽しもうと考えながら7年の月日が過ぎて……
魔道具は歌う~パーティ追放後に最高ランクになった俺を幼馴染は信じない。後で気づいてももう遅い、今まで支えてくれた人達がいるから~
喰寝丸太
ファンタジー
異世界転生者シナグルのスキルは傾聴。
音が良く聞こえるだけの取り柄のないものだった、
幼馴染と加入したパーティを追放され、魔道具に出会うまでは。
魔道具の秘密を解き明かしたシナグルは、魔道具職人と冒険者でSSSランクに登り詰めるのだった。
そして再び出会う幼馴染。
彼女は俺がSSSランクだとは信じなかった。
もういい。
密かにやってた支援も打ち切る。
俺以外にも魔道具職人はいるさ。
落ちぶれて行く追放したパーティ。
俺は客とほのぼのとした良い関係を築きながら、成長していくのだった。