アルカディア・クロノクル ゲーム世界に囚われた俺を救うのは、妹か、かつての仲間か

織部

文字の大きさ
109 / 138

魔女セツハ

しおりを挟む
 クロガミは、大森林の北端、そびえ立つ塔の最上層で、大魔女セツハと対面していた。

「それで、お話というのは?」
 セツハが慎重に言葉を選ぶと、クロガミは笑みを含んで応じた。

「ああ。そろそろ、お前にも戦いの地に赴いてもらえないかと思ってな。直接話に来たんだ」
「……ご存知でしょう。この魔物の森から、外に出るのは容易ではありません」

 塔をも超える雪山が、北方を塞いでいる。その山脈は大地を二分し、この北東の地と、ハイエルフたちの住む北西の地すら分断している。
 セツハは窓の外、遠く連なる白銀の峰を一瞥した。

「まあ、そんなに身構えるな、セツハ。それより……いつの間にあれほど人を従えるようになった?」
 塔の麓には、小さな城下町のように、整然と家々が並んでいる。

「勝手に住み着いただけです。しかも、人族以外の者ばかり。私は――何も命じていません」
「彼らを戦に駆り出すつもりはありません」

 セツハは静かに、けれどはっきりと告げた。クロガミが、わざとその話題を出したことは承知の上で。

「ははは。あんな連中に期待はしておらん。お前に、指揮を取ってほしいと思っただけだ」
「ならば、ヴァルミラにでも任せれば? 死者が増えるほど、あの女は喜ぶでしょう」

 クロガミは軽く首を振った。
「近いうちに、この魔物の森と人族の地が繋がる。知ってのとおり、一箇所はすでに開いた。そして……もう一箇所も開く」
「……まさか、この地と?」

 セツハの声が、わずかに震えた。
 この地をアルカディアのようにしたいのか――冷酷と謳われた魔女が、ただの人に情けをかけてしまう。

「安心しろ。それは無い。開くとしたら南東だ」
「……あそこには、リザードマンや野獣の魔物が多く棲んでいたはず。露払いには……確かに適任かと。そして東方のグリフィンやドラゴンも、そこから侵攻させる……と」

「そう。その総大将に、お前を任じたい」
 セツハは視線を落とし、しばし沈黙する。
「……ですが」
「一つ面白い話をしよう。ラピスが……降臨しておる。外に出れば、会えるかもしれんぞ?」

「……ほんとう、ですか? ラピス様が……? たった一言でも、お声を聞けるのなら……!」
 冷酷さなど微塵も残っていなかった。

 ヴァルミラにしろセツハにしろ――彼女たちは、自らの姿を“デザイン”した存在であるラピスに、クロガミよりも深い敬意を抱いている節がある。困ったもんだ。

 だが、脳筋揃いの魔物陣営の中では、セツハは数少ない知恵者。どうしても働いてもらわねばならない。

「じゃあ、任せたぞ。準備は、こちらで整えておく」



 ウエストグレンは緊張に包まれていた。そこの中心的な役割を果たしていた鉱山は既に閉山し、新たな町の主となった商会連合も、夜逃げをするように王都に引き上げてしまったのだ。

「マリスフィアか、王都か、どちらかに行くのなら連れてってやる。これが最後の機会だぞ!」

 物流を担っているのは、ネグラロサだが、そこに商人の雰囲気は、既に無い。
 彼らの多くは大陸各地からやってきて、魔物の森へと消えていく。

 ケイオスは、マリスフィアに。ハートフェルトは、王都に本拠地を移している。ダリオスからの指示だった。

「これだけの人と物が、行き場もなく、ウエストグレンに取り残されています」
「金は渡したろ。どうした?」
 ネグラロサのコールは、町長に怒こっている。

「ダリオスがいれば、何とかなったでしょうが……わしのいうことを信じてくれませんので」

「ふむ……いつ魔物が攻めてくるかわからんのだがな」
 コールは、多忙なダリオスを呼ぶのは気が引けたが、それしか手がない。リストの中には、孤児院や老人宅があったからだ。
「もちろん、喜んで行きます」

 その日のうちに、ダリオスはウエストグレンにやってきて、一軒ずつ回って説得した。
「ダリオスが言うのなら」
「ええ、ですが私と行くところは、特殊なところですよ」
「楽しみですね」

 ダリオスのことを信じている彼らは、疑うどころか、喜んでいるのだ。
「なんだ、ダリオス。ここにいる方が笑顔だな?」

 揶揄うコールに、思わず本音を漏らした。
「当たり前だ。フェニックスさんやアルマダさんたちを相手に仕事をしてるんだぞ。休まる時間が無いんだぞ。アキラさんも仕事振ってくるし……」
「ああ、一人でも大変だからな」

 コールは思わず同情して呟いた。
「少し、俺の家に帰っていいか。少し荷物を取って来たくて」
「大概のものならわざわざ取りに行かなくても新品があるぞ!」
「いや……」

 コールは事情を察して、それ以上何も言わなかった。

 ダリオスが残っていた人々に語ったウエストグレンでの魔物の脅威――それは実体験であり、彼の悲しい過去のことだったからだ。それは、別の場所でのコールの過去でもあった。

「そろそろ、最後の船を出す。急げ!」
 鉱山や建物を爆弾によって崩落させた。魔物たちに使われぬように。
 そして、ウエストグレンには人は誰もいなくなった。


 魔道船は、魔物の森の川を縫うようにして静かに進む。多くの移民を乗せて――


 そして、やがて彼らは辿り着く。三色旗が揺れる、あの塔のもとへ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。 獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。 俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。 単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。 ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。 大抵ガチャがあるんだよな。 幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。 だが俺は運がなかった。 ゲームの話ではないぞ? 現実で、だ。 疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。 そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。 そのまま帰らぬ人となったようだ。 で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。 どうやら異世界だ。 魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。 しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。 10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。 そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。 5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。 残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。 そんなある日、変化がやってきた。 疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。 その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣

織部
ファンタジー
 ノルドは、古き風の島、正式名称シシルナ・アエリア・エルダで育った。母セラと二人きりで暮らし。  背は低く猫背で、隻眼で、両手は動くものの、左腕は上がらず、左足もほとんど動かない、生まれつき障害を抱えていた。  母セラもまた、頭に毒薬を浴びたような痣がある。彼女はスカーフで頭を覆い、人目を避けてひっそりと暮らしていた。  セラ親子がシシルナ島に渡ってきたのは、ノルドがわずか2歳の時だった。  彼の中で最も古い記憶。船のデッキで、母セラに抱かれながら、この新たな島がゆっくりと近づいてくるのを見つめた瞬間だ。  セラの腕の中で、ぽつりと一言、彼がつぶやく。 「セラ、ウミ」 「ええ、そうよ。海」 ノルドの成長譚と冒険譚の物語が開幕します! カクヨム様 小説家になろう様でも掲載しております。

世界一簡単にレベルアップ ~魔物を倒すだけでレベルが上がる能力を得た俺は、弱小の魔物を倒しまくって異世界でハーレム作る事にしました~

きよらかなこころ
ファンタジー
 シンゴはある日、事故で死んだ。  どうやら、神の手違いで間違って死んでしまったシンゴは異世界に転生することになる。  転生する際にオマケに『魔物を倒すだけでレベルが上がる』能力を貰ったシンゴ。  弱小の魔物を倒してレベルを上げ、異世界でハーレムを作る事を企むのだった。

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

処理中です...