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鍛錬の日々
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剣闘士の試合は、二週間に一度だ。それと全て、メインのコロシアムで行われる。
剣闘士達は、ファイトマネーで、武器や防具を揃えたり、怪我をした時に備えて、予め介護の手筈をとっている。
他人には絶対に言えないが、俺は怪我をしても治癒できるから、防具は最低限で良いし、介護の手配はいらない。その分を食費に回している。
ワッドは、カビース戦以降は、偉い人間なのか、多忙らしく、付き添ってくれることはなくなった。
アミンが色々と世話を焼いてくれるから、それに感謝しながらも、心のどこかで物足りなさを感じていた。やはり、あの強さと威厳が頼りだったのだろう。
「重い武器で、安いやつを二本」
と注文を伝えると、武器管理人アスリーハは少し驚いたような顔をした。
「あの、ギガンドブレードやアダマンタイトのナイフはいらないのか?」
「ああ、必要ない。今は金がないからな。相手を殺す必要もない。あの時しか貸さないんじゃなかったのか?」
「まあ、そうなんだが……」
アスリーハは、何かしらの期待を込めていたのか、少し残念そうな顔をした。結局、派手で強力な武器を使いたいという誘惑は、剣闘士なら誰でも持っているものだろう。
ライラから仕入れた情報によると、世話をしている剣闘士が勝つと、アミンにも少しだけお小遣いが出るらしい。
剣闘士付きの看守は、剣闘士からも小遣いを貰うこともあるらしい。それを知って、アミンが少しお金に対して淡々とした反応を見せるのは、ある意味で彼らしい。
「アミン、お前に小遣いを渡さないといけないな?」
「それは、試合に勝った時ですよ。普通は、その前に対戦相手の情報収集をするんですよ。どういった情報を集めますか?」
「いや情報はいらない。それと、小遣いは勝とうが負けようが渡すよ!」
「それなら、小遣いも受け取れませんよ」
「事前に情報を得られないことは戦場では当たり前だろう。だから、これは俺にとっても大事な練習なんだ。そのかわり、悪いが練習の手伝いをして欲しい」
この言葉を口にした時、俺は自分でも少し誇らしい気持ちになっていた。
試合に出るための準備は、ただの肉体的なものではない。
精神的な準備がもっと重要だということを、俺はようやく理解し始めていた。
自分の甘さを認め、改善しようとする姿勢こそが、強さに繋がるのだ。
それは、ほんの僅かでも自分自身を信じ始めた証だった。
剣闘士は、夕方にコロシアムで練習をする時間があり、必ず参加しないといけない。それは、観客が、賭けの対象である剣闘士達の状況を確認する場所であるからだ。だがそこで、手を明かすものはいない。
俺は、剣闘士になってしまったが、実力が足りないことは自分が一番自覚している。
俺の種族特性がなければ、ドラゴンの加護がなければ、カビースに逆に殺されていたからだ。
魔法を人前で使うつもりは無い。今の俺では、魔法だとばれてしまうし、周囲に依存することなく自分の力を証明したいという気持ちが強かった。
「アミンには、準備運動と柔軟運動の手伝いだ」
これがなかなかの重労働なのは、俺も知っている。
「うぐぅ……」
嫌そうな顔をしながらも断らないのが、彼の良いところだ。
練習の合間、アミンが無言で差し出す水筒に、言葉以上の信頼が滲んでいた。
朝起きると食事を終えると、コロシアムの周りを周回するところから一日が始まる。
基本的には、大部屋にいた時と同じルーチンをすることに決めている。
あれほど、自信を失くし挫折しかかったプログラムを、俺は今、喜んでやっている。
自分が変わったと実感できる瞬間が、少しずつだが確実に増えている。
昼寝をしてから、勉強もするし、夕方には河原で練習もする。契約金を払って、冒険者に個人レッスンも受けている。
決して最初から馬鹿にしていたわけじゃない。だが、結局のところ、俺は種族特性に甘えていたんだと気づいた。
強さだけに頼り、成長しようとしていなかった自分が、どこかにいた。
「あのトルサンが……人の話を聞いてる」
勉強では、通い始めたばかりのライラの方が上のクラスにすぐに移ってしまい、俺の心は折れそうになったが、逆にそれが俺を奮い立たせた。
ライラのように、何かを始めたばかりでも、すぐに成果を上げることができるのだと、彼女は俺に教えてくれている。
──ただの悔しさじゃない。小さな嫉妬と、言葉にできない憧れと。
それが俺を前に進ませてくれる。
まあ、人には、得意不得意がある。
「トルサン、来てくれ!」
珍しくワッドが俺のテントにやって来た。
「どこに行くのですか?」
仕方なくついていくと、そこは呪術師の所だった。
「お前、サーミヤ様の名を語ったという話が、御方のお耳に入って激怒しておられる。釈明に至急来いとのことだ」
「ワッド委員様、あ、用事を思い出しました。また、今度……」
俺は逃げ出したが、さすがワッド、取り押さえられてしまった。
「お前、早くなったな」
ワッドに手は出せない。やむなくサーミヤのいる塔に登ることにした。
剣闘士達は、ファイトマネーで、武器や防具を揃えたり、怪我をした時に備えて、予め介護の手筈をとっている。
他人には絶対に言えないが、俺は怪我をしても治癒できるから、防具は最低限で良いし、介護の手配はいらない。その分を食費に回している。
ワッドは、カビース戦以降は、偉い人間なのか、多忙らしく、付き添ってくれることはなくなった。
アミンが色々と世話を焼いてくれるから、それに感謝しながらも、心のどこかで物足りなさを感じていた。やはり、あの強さと威厳が頼りだったのだろう。
「重い武器で、安いやつを二本」
と注文を伝えると、武器管理人アスリーハは少し驚いたような顔をした。
「あの、ギガンドブレードやアダマンタイトのナイフはいらないのか?」
「ああ、必要ない。今は金がないからな。相手を殺す必要もない。あの時しか貸さないんじゃなかったのか?」
「まあ、そうなんだが……」
アスリーハは、何かしらの期待を込めていたのか、少し残念そうな顔をした。結局、派手で強力な武器を使いたいという誘惑は、剣闘士なら誰でも持っているものだろう。
ライラから仕入れた情報によると、世話をしている剣闘士が勝つと、アミンにも少しだけお小遣いが出るらしい。
剣闘士付きの看守は、剣闘士からも小遣いを貰うこともあるらしい。それを知って、アミンが少しお金に対して淡々とした反応を見せるのは、ある意味で彼らしい。
「アミン、お前に小遣いを渡さないといけないな?」
「それは、試合に勝った時ですよ。普通は、その前に対戦相手の情報収集をするんですよ。どういった情報を集めますか?」
「いや情報はいらない。それと、小遣いは勝とうが負けようが渡すよ!」
「それなら、小遣いも受け取れませんよ」
「事前に情報を得られないことは戦場では当たり前だろう。だから、これは俺にとっても大事な練習なんだ。そのかわり、悪いが練習の手伝いをして欲しい」
この言葉を口にした時、俺は自分でも少し誇らしい気持ちになっていた。
試合に出るための準備は、ただの肉体的なものではない。
精神的な準備がもっと重要だということを、俺はようやく理解し始めていた。
自分の甘さを認め、改善しようとする姿勢こそが、強さに繋がるのだ。
それは、ほんの僅かでも自分自身を信じ始めた証だった。
剣闘士は、夕方にコロシアムで練習をする時間があり、必ず参加しないといけない。それは、観客が、賭けの対象である剣闘士達の状況を確認する場所であるからだ。だがそこで、手を明かすものはいない。
俺は、剣闘士になってしまったが、実力が足りないことは自分が一番自覚している。
俺の種族特性がなければ、ドラゴンの加護がなければ、カビースに逆に殺されていたからだ。
魔法を人前で使うつもりは無い。今の俺では、魔法だとばれてしまうし、周囲に依存することなく自分の力を証明したいという気持ちが強かった。
「アミンには、準備運動と柔軟運動の手伝いだ」
これがなかなかの重労働なのは、俺も知っている。
「うぐぅ……」
嫌そうな顔をしながらも断らないのが、彼の良いところだ。
練習の合間、アミンが無言で差し出す水筒に、言葉以上の信頼が滲んでいた。
朝起きると食事を終えると、コロシアムの周りを周回するところから一日が始まる。
基本的には、大部屋にいた時と同じルーチンをすることに決めている。
あれほど、自信を失くし挫折しかかったプログラムを、俺は今、喜んでやっている。
自分が変わったと実感できる瞬間が、少しずつだが確実に増えている。
昼寝をしてから、勉強もするし、夕方には河原で練習もする。契約金を払って、冒険者に個人レッスンも受けている。
決して最初から馬鹿にしていたわけじゃない。だが、結局のところ、俺は種族特性に甘えていたんだと気づいた。
強さだけに頼り、成長しようとしていなかった自分が、どこかにいた。
「あのトルサンが……人の話を聞いてる」
勉強では、通い始めたばかりのライラの方が上のクラスにすぐに移ってしまい、俺の心は折れそうになったが、逆にそれが俺を奮い立たせた。
ライラのように、何かを始めたばかりでも、すぐに成果を上げることができるのだと、彼女は俺に教えてくれている。
──ただの悔しさじゃない。小さな嫉妬と、言葉にできない憧れと。
それが俺を前に進ませてくれる。
まあ、人には、得意不得意がある。
「トルサン、来てくれ!」
珍しくワッドが俺のテントにやって来た。
「どこに行くのですか?」
仕方なくついていくと、そこは呪術師の所だった。
「お前、サーミヤ様の名を語ったという話が、御方のお耳に入って激怒しておられる。釈明に至急来いとのことだ」
「ワッド委員様、あ、用事を思い出しました。また、今度……」
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ワッドに手は出せない。やむなくサーミヤのいる塔に登ることにした。
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