完結 断罪された悪役令嬢に、引きこもり廃ゲーマーが転生。ゲーム終了後の貧乏平民からの無双。リリカ・ノクスフォードのリベリオン

織部

文字の大きさ
46 / 128

毒には毒を

しおりを挟む
「待てよ……クルミは、むしろ噂が広がることを望んでいた」

 彼女の語ったことが真実なら、大衆にとっては──リリカとクルミが二人で暴れ回る方が、よほど面白いはずだ。

 やっぱり何かがおかしい。胸の奥でざらつく違和感が消えない。
「リリカ様、必ず噂の根を突き止めてみせます」
 セバスの低く静かな声。その自信に、いつも私は強く心を支えられる。

「お願い。それじゃあ──まずは副ギルド長、アミンの動きから教えて!」
 アミン。スカーフや武器を横流ししていた男。武器だけならまだしも、スカーフにまで手を出したのは尋常ではない。

「奴はギルドの受付に顔を出さず、副ギルド長室にこもって寝泊まりしている」
 報告するガンツの額には深い皺。濡れ衣をかけられた悔しさが刻み込まれていた。

「来客は?」
「最近は商人とも会っていない。顔を出すのは冒険者ばかり──しかも実力者揃いだ」
 高位の冒険者が犯罪に? 資金もプライドもあるはずなのに……。

「わかったわ。引き続き見張りをお願い!」
「部隊の戦える者は冒険者登録させている」
 ガンツは不器用な気遣いを見せる。
「ガンツ、死人が出たらあなたの責任よ!」

「わかってるさ、嬢ちゃん。……“いのち、大事に”だろ?」
 思わず笑ってしまう。けれど胸の奥では、拳を固く握っていた。死者は戻らない。油断は一瞬たりとも許されない。

 私は近いうちに、この新しい舞台──冒険者の戦場に立つ。
 ゲーム世界では全ダンジョンを制覇済み。地図は頭の中にある。
 ……ふふっ、自然と口元が緩んでしまった。

「薬局の件を報告します。利益は……ガンツ軍団の給料で吹き飛んでますがね」
 皮肉めかすナイルに、場が少し和む。
「助かってるわ、ナイル」
 私が笑みを返すと、彼は耳を赤くしつつ言葉を続けた。

「貧民街の薬局ですが、最近は転売ばかりで困ったものです」
「それなら一時閉店! もう充分に儲けたでしょうから」
 その一言に会議の空気がどよめく。
「代わりに住民自身に薬を売らせましょう。護衛は──ガンツ傘下のギャング団に」
 毒には毒を。いや、薬には薬を。これが私のやり方だ。

「面白ぇな、お嬢!」
 ガンツが豪快に笑う。その不器用な優しさに、胸の内で少し勝ち誇った。
 もともと薬局は二束三文で、貧民街の健康のために始めたもの。
 すでに常備薬は行き渡った。ならば次の一手。

「考えている飲み物があるの。健康に良いドリンクよ!」
「そんなもん、奴らが買うか?」
「ええ、自信があるわ。まだ、秘密よ」
 ──乳酸菌飲料とエナジードリンク。

 名付けて、“健康ドリンク販売レディ”計画、始動! 私も大好きだし、何より、どの世界もレディは凄いはず。

「話を続けます。繁華街の薬局は店舗の準備が整いました。優秀な販売員を揃えてください」
 ナイルの要望に私はにっこり。

「エマの出番ね!」
「お任せあれです! 明日にでも寮を回って、引っ越しとバイトの勧誘を!」
 元気いっぱいのエマなら大丈夫。彼女の人脈で人は集まる。私は教育を引き受けよう。
 知らない人と話すのは苦手。でも、薬のことなら──語らずにいられない。

「最後に、ドノバン。賠償金の件は?」
「ああ、リリカ様への結納金ね。もう闇金が動き出す頃だ」
「……違うけど。じゃあ監視よろしく!」
 他にも議題は残っていたが、料理の香りが会議室を満たし、皆そわそわし始める。
「仕方ないなぁ」

 私は恥ずかしさもあって、半ば強引に会議を締めくくった。
 問題は解決どころか、山積みのまま。裁判も、税務局も……やることは尽きない。
 ──深呼吸をひとつ。


 翌日。私はエマと共に、正式にソレリア寮に入寮することになった。
 ここにはベッドと家具が最低限あるだけ。エミリア寮のような最新設備も、食堂も、集会場もない。
 その代わり、自由がある。

 みんな自炊をし、庭では焚き火を囲んでスープを煮る寮生までいた。
 煙の匂いと笑い声──これがソレリア寮の日常だ。

「あれ? 見つけた!」
 私の視線が捕らえたのは、スミカちゃんたち。
 逃げようとしたが、俊足のエマに首根っこを掴まれる。
「どこ行くんですかぁ? 同じ寮生なんですから、仲良くしましょう!」

「リリカ様、本当に入寮されたんですね……家から通えるのに……」
「あ! そうだ、入寮前に家に招待する約束してたのに……ごめん。その代わりに割の良いバイトを紹介するわ!」

「遠慮しますっ!」
 必死に抵抗するスミカちゃん。だがエマの握力は容赦ない。
「やめて! 首が! これ仲良しじゃなくて監禁です!」
「まぁまぁ、抵抗は無駄ですよ~」

 スミカの友人ごと、エマの部屋へと連れ込んだ。
「じゃあ、説明するわ」
「変な話だったら訴えますからね!」
「ふふふ、貴女にぴったりの仕事よ」
 私は自然と笑みを浮かべた。

 ──新しい舞台の幕開けに、胸が高鳴っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

政治家の娘が悪役令嬢転生 ~前パパの教えで異世界政治をぶっ壊させていただきますわ~

巫叶月良成
ファンタジー
政治家の娘として生まれ、父から様々なことを学んだ少女が異世界の悪徳政治をぶった切る!? //////////////////////////////////////////////////// 悪役令嬢に転生させられた琴音は政治家の娘。 しかしテンプレも何もわからないまま放り出された悪役令嬢の世界で、しかもすでに婚約破棄から令嬢が暗殺された後のお話。 琴音は前世の父親の教えをもとに、口先と策謀で相手を騙し、男を篭絡しながら自分を陥れた相手に復讐し、歪んだ王国の政治ゲームを支配しようという一大謀略劇! ※魔法とかゲーム的要素はありません。恋愛要素、バトル要素も薄め……? ※注意:作者が悪役令嬢知識ほぼゼロで書いてます。こんなの悪役令嬢ものじゃねぇという内容かもしれませんが、ご留意ください。 ※あくまでこの物語はフィクションです。政治家が全部そういう思考回路とかいうわけではないのでこちらもご留意を。 隔日くらいに更新出来たらいいな、の更新です。のんびりお楽しみください。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

ぽっちゃり令嬢の異世界カフェ巡り~太っているからと婚約破棄されましたが番のモフモフ獣人がいるので貴方のことはどうでもいいです~

翡翠蓮
ファンタジー
幼い頃から王太子殿下の婚約者であることが決められ、厳しい教育を施されていたアイリス。王太子のアルヴィーンに初めて会ったとき、この世界が自分の読んでいた恋愛小説の中で、自分は主人公をいじめる悪役令嬢だということに気づく。自分が追放されないようにアルヴィーンと愛を育もうとするが、殿下のことを好きになれず、さらに自宅の料理長が作る料理が大量で、残さず食べろと両親に言われているうちにぶくぶくと太ってしまう。その上、両親はアルヴィーン以外の情報をアイリスに入れてほしくないがために、アイリスが学園以外の外を歩くことを禁止していた。そして十八歳の冬、小説と同じ時期に婚約破棄される。婚約破棄の理由は、アルヴィーンの『運命の番』である兎獣人、ミリアと出会ったから、そして……豚のように太っているから。「豚のような女と婚約するつもりはない」そう言われ学園を追い出され家も追い出されたが、アイリスは内心大喜びだった。これで……一人で外に出ることができて、異世界のカフェを巡ることができる!?しかも、泣きながらやっていた王太子妃教育もない!?カフェ巡りを繰り返しているうちに、『運命の番』である狼獣人の騎士団副団長に出会って……

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢 十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう 好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ 傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する 今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった

処理中です...