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ノクスフォードの名の元に
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旧セリオ軍は、王城の前に整列していた。私は観兵を行う。
軍の先頭に立つのは、セバスチャンとガンツだ。
私は軍の指揮官の一人として、トモオに声をかけた。
「ねえ、どれだけ誘導魔術を使ったの?」
「それが、ほとんど使ってないんだよ。というか、逆なんだ」
「え、じゃあ、セリオが魔術を使ってたの?」
「その通り。酷いことをさせられていたと気づいて、みんな憤慨してたよ」
それなら、すべて腑に落ちる。
「まあ、セリオ派の偉い連中が数人いたから、そいつらには引退してもらったけどね」
「もう使っちゃダメよ!」
トモオはつまらなそうな顔をしながらも、素直に頷いた。
「リリカ様、一言お願いします」
セバスチャンが呼びに来た。私は壇上に上がる。
「先ほど、国王より正式にノクスフォード侯爵として任じられ、再びシュバルトへ戻ることになりました。私の行いで心配をかけましたが、父の意志を継ぎ、この国に尽くすつもりです」
旧セリオ軍が、再びノクスフォード軍へと戻った瞬間だった。
※
「お待ちしておりました。リリカ殿」
カンザブローの屋敷に迎え入れられる。規模はそれほど大きくないが、モダンな造りで、ブンザエモンの屋敷の近くだ。
人影はなく、がらんとしている。
「いえ、遅くなりました。ご主人自らお出迎えとは、恐縮してしまいます」
「お忙しい中、ありがとうございます。ワインでもいかがですか?」
「いえ、パーティで飲みすぎてしまって」
「そうでしたか。気がつきませんでした。高級な一品物のワインなのですが……」
残念そうな雰囲気を滲ませている。同行者は、私のほかにはエマだけだ。
「エマ、せっかくですから、いただいて帰りましょう。よろしいかしら?」
「もちろんです。それでは取引と参りましょうか?」
「そうね。まずお渡しする薬は、最上級のポーションよ。どんな怪我も治すわ」
「……噂に聞いた通りですな。これはありがたい。後ほど、お支払いします」
彼は大事そうに懐へしまった。エマの尻尾が、横に揺れている。
「それで、冒険者ギルドのアミンはどこにいるの?」
「奴は、我々やリリカ様、それに帝国からも命を狙われていましてね。ですが、冒険者としては優秀で、一つ特技がありました」
「よく調べましたね?」
「ははは、何度も逃げられましたから。得意とする魔術は認識阻害。他人に化けるんですよ。それと、真のジョブは暗殺者です」
次の瞬間、攻撃が来ると見越し、私は自分の周囲に強力な風の防壁を張っていた。
男は吹き飛ばされ、天井に叩きつけられて床に落ちる。
エマが出口を塞いだ。
「何をする!」
「それはこっちのセリフよ。そもそも、パーティなんてなかったの」
私は会場でカンザブローを見かけたが、明らかに私を避けていた。夜に会う約束がある相手の態度じゃない。
それに、この屋敷に他の人間がいないのも不自然だ。
……無能な奴。
私は躊躇なく、彼の両足を岩で貫いた。
「ぐあぁぁぁ! 助けてくれ、誤解だ! 本物だ!」
「これで逃げられないわね。エマ、人を探しに行って」
「わかりました」
エマは指示に従い、部屋を出ていった。
その瞬間、男は薬を飲み込んだ。だが、効果は現れない。
「……え、どういうことだ?」
「子供の頃、親に言われなかった? わからない物を口にしちゃいけません、って」
「騙したな……」
男の目は虚ろだ。もう、私の罠から逃げられない。
「アミンでしょ。聞こえるかしら? 聞こえたら右手を上げて」
彼は大人しく、右手を上げた。
「成功しましたね」
エマが笑いながら戻ってくる。
「ところで、屋敷の人は?」
「眠らされて、縛られていましたぁ」
「よかった」
捕まえてトモオに魔術をかけさせる手もあったが、それは私が却下したばかりだ。代替策として、自白剤を飲んでもらった。
※
ほどなくして、本物のカンザブローが戻ってきた。
「なんたること……リリカ・ノクスフォード侯爵のお手を煩わせ、誠に申し訳ありません。間抜けなカンクローには、きつく言っておきます。それと、私の大切な執事とメイドをお守りいただき……」
口が閉じない。うるさい男だ。
「とりあえず、尋問をしましょう」
アミンを縛りつける。もちろん、治療はしない。
「それで、どうして今日、こんなことをしたの?」
「なぜ今日かって? 今頃、バステーン監獄の周りは市民で溢れてるさ。市民革命が起きるんだ。偽物勇者の国王反対ってな。セリオ軍も混乱に拍車をかけてくれるはずだ」
「それを煽っているのは帝国なの?」
「は? 浅いな、リリカ。帝国は俺たちの蒔いた毒餌を喰っただけだ。気づいた時には手遅れ。もう帝国と王国の関係は修復不可能だろう。モリス教授は今頃脱獄して、市民を煽ってるはずさ」
その不愉快な名前に、私の顔が歪む。
彼は最初から、他国のスパイだった。
「共和国なのね?」
「いつまでも古臭い王政のくせに、同盟国気取りで大陸の盟主? 国力もないのに、笑わせる。頭が足りないんだよ」
私は窓を開け、バステーン監獄の方角を見た。
王都はいつもより多くの明かりが灯っている。だが、暴動らしきものは見当たらない。
「なぜだ……?」
アミンが叫ぶ。
「新国王は、ハインリヒ国王よ。バステーン監獄付近の偽市民は、今頃全員捕まってるわね」
「くそっ……クルミに出し抜かれた……」
王国の剣が、振り下ろされた。
軍の先頭に立つのは、セバスチャンとガンツだ。
私は軍の指揮官の一人として、トモオに声をかけた。
「ねえ、どれだけ誘導魔術を使ったの?」
「それが、ほとんど使ってないんだよ。というか、逆なんだ」
「え、じゃあ、セリオが魔術を使ってたの?」
「その通り。酷いことをさせられていたと気づいて、みんな憤慨してたよ」
それなら、すべて腑に落ちる。
「まあ、セリオ派の偉い連中が数人いたから、そいつらには引退してもらったけどね」
「もう使っちゃダメよ!」
トモオはつまらなそうな顔をしながらも、素直に頷いた。
「リリカ様、一言お願いします」
セバスチャンが呼びに来た。私は壇上に上がる。
「先ほど、国王より正式にノクスフォード侯爵として任じられ、再びシュバルトへ戻ることになりました。私の行いで心配をかけましたが、父の意志を継ぎ、この国に尽くすつもりです」
旧セリオ軍が、再びノクスフォード軍へと戻った瞬間だった。
※
「お待ちしておりました。リリカ殿」
カンザブローの屋敷に迎え入れられる。規模はそれほど大きくないが、モダンな造りで、ブンザエモンの屋敷の近くだ。
人影はなく、がらんとしている。
「いえ、遅くなりました。ご主人自らお出迎えとは、恐縮してしまいます」
「お忙しい中、ありがとうございます。ワインでもいかがですか?」
「いえ、パーティで飲みすぎてしまって」
「そうでしたか。気がつきませんでした。高級な一品物のワインなのですが……」
残念そうな雰囲気を滲ませている。同行者は、私のほかにはエマだけだ。
「エマ、せっかくですから、いただいて帰りましょう。よろしいかしら?」
「もちろんです。それでは取引と参りましょうか?」
「そうね。まずお渡しする薬は、最上級のポーションよ。どんな怪我も治すわ」
「……噂に聞いた通りですな。これはありがたい。後ほど、お支払いします」
彼は大事そうに懐へしまった。エマの尻尾が、横に揺れている。
「それで、冒険者ギルドのアミンはどこにいるの?」
「奴は、我々やリリカ様、それに帝国からも命を狙われていましてね。ですが、冒険者としては優秀で、一つ特技がありました」
「よく調べましたね?」
「ははは、何度も逃げられましたから。得意とする魔術は認識阻害。他人に化けるんですよ。それと、真のジョブは暗殺者です」
次の瞬間、攻撃が来ると見越し、私は自分の周囲に強力な風の防壁を張っていた。
男は吹き飛ばされ、天井に叩きつけられて床に落ちる。
エマが出口を塞いだ。
「何をする!」
「それはこっちのセリフよ。そもそも、パーティなんてなかったの」
私は会場でカンザブローを見かけたが、明らかに私を避けていた。夜に会う約束がある相手の態度じゃない。
それに、この屋敷に他の人間がいないのも不自然だ。
……無能な奴。
私は躊躇なく、彼の両足を岩で貫いた。
「ぐあぁぁぁ! 助けてくれ、誤解だ! 本物だ!」
「これで逃げられないわね。エマ、人を探しに行って」
「わかりました」
エマは指示に従い、部屋を出ていった。
その瞬間、男は薬を飲み込んだ。だが、効果は現れない。
「……え、どういうことだ?」
「子供の頃、親に言われなかった? わからない物を口にしちゃいけません、って」
「騙したな……」
男の目は虚ろだ。もう、私の罠から逃げられない。
「アミンでしょ。聞こえるかしら? 聞こえたら右手を上げて」
彼は大人しく、右手を上げた。
「成功しましたね」
エマが笑いながら戻ってくる。
「ところで、屋敷の人は?」
「眠らされて、縛られていましたぁ」
「よかった」
捕まえてトモオに魔術をかけさせる手もあったが、それは私が却下したばかりだ。代替策として、自白剤を飲んでもらった。
※
ほどなくして、本物のカンザブローが戻ってきた。
「なんたること……リリカ・ノクスフォード侯爵のお手を煩わせ、誠に申し訳ありません。間抜けなカンクローには、きつく言っておきます。それと、私の大切な執事とメイドをお守りいただき……」
口が閉じない。うるさい男だ。
「とりあえず、尋問をしましょう」
アミンを縛りつける。もちろん、治療はしない。
「それで、どうして今日、こんなことをしたの?」
「なぜ今日かって? 今頃、バステーン監獄の周りは市民で溢れてるさ。市民革命が起きるんだ。偽物勇者の国王反対ってな。セリオ軍も混乱に拍車をかけてくれるはずだ」
「それを煽っているのは帝国なの?」
「は? 浅いな、リリカ。帝国は俺たちの蒔いた毒餌を喰っただけだ。気づいた時には手遅れ。もう帝国と王国の関係は修復不可能だろう。モリス教授は今頃脱獄して、市民を煽ってるはずさ」
その不愉快な名前に、私の顔が歪む。
彼は最初から、他国のスパイだった。
「共和国なのね?」
「いつまでも古臭い王政のくせに、同盟国気取りで大陸の盟主? 国力もないのに、笑わせる。頭が足りないんだよ」
私は窓を開け、バステーン監獄の方角を見た。
王都はいつもより多くの明かりが灯っている。だが、暴動らしきものは見当たらない。
「なぜだ……?」
アミンが叫ぶ。
「新国王は、ハインリヒ国王よ。バステーン監獄付近の偽市民は、今頃全員捕まってるわね」
「くそっ……クルミに出し抜かれた……」
王国の剣が、振り下ろされた。
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