完結 断罪された悪役令嬢に、引きこもり廃ゲーマーが転生。ゲーム終了後の貧乏平民からの無双。リリカ・ノクスフォードのリベリオン

織部

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復讐は終わらない

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「怒んないでよ、リリカ」
 知恵比べに負けた私は、完全に拗ねていた。
 私の行動を縛るために、女子会を開いたのだ。

 ――正確には、その前に全員で作戦会議をしていた。
 私だけを、きれいに除け者にして。
「あなたは、本物の聖女だから。手を汚させない」
「何それ! もう十年後、一緒に旅行に行ってあげない!」

「ごめんって!」
 マリスフィアの諜報機関がもたらした情報は、残酷なほど正確だった。
 私たちの素人仕事など、最初から比較対象ですらなかったのだ。

 バステーン監獄を巡る偽の市民活動は、すでにマリスフィア軍によって制圧されていた。
 市民を装っていた共和国のスパイは、ほぼ壊滅。
 モリス教授は、捕らえられたままだ。

 パール裁判官が、今回の事件のすべてを白日の下に晒すだろう。
「じゃあ、俺と一生一緒だね」
 ドノバンは、いつものように訳のわからないことを言う。

 でも、私は知っている。
 国王にならない道を選んだのも、彼自身だ。
「国王を辞退する。代わりに、ノクスフォード侯爵を復活させろ」

 ハインリヒと、きっとそう取引したのだろう。
「もう。男たるもの、一番を目指さないと!」
「ははは。だからこそ、一番を手に入れるために努力してる」

 彼は、まっすぐ私を見た。
「残念。私は地位も、名誉も、金も、踊らされないわ」
 そう言い切ったはずなのに、頬が熱い。

「俺と同じこと言ってると思うけどな。でも――甘やかすのが、俺の甲斐性だ」
 それは、否定できない。

「一度、シシルナ島に農園の視察に行かないとね」
 どうしたら、こんな男に育つのか。
 親の顔を見てみたい、なんて――口が裂けても言わないけど。

「もう、バカップルね」
 クルミの冷たい視線が、やけに刺さる。
「違う! 十年後、旅しよう!」
 私は、完全に買い言葉だった。


 ナエルは帰国していった。
 しかも、エマまで連れて。
「両手に花だね!」
「そうです」
 相変わらず、無駄のない返事。

 ただ、片方の花であるエマは、旅行そのものを楽しみにしているだけにも見える。彼女が不在の間、店を回すのは正直きつい。

 野心家のスミカちゃんを、店長代理に任命した。カンクローや金持ちを手玉に取る才能だけは、一級品だ。

 セバスチャンは侯都シュバルトへ執政官として赴任。ガンツは防衛隊長に就任。その部下たちも、それぞれ家を借り、仕事に精を出している。

 ナエルは行商の旅。
 王都の邸宅は、驚くほど静かになった。
「……ちょっと、寂しいな」
 私は、会議の時だけ王都に戻り、それ以外はソレリア寮から学校へ通うことにした。

「エミリア寮に移らないのか?」
 ドノバンは不満そうだったが、こっちの方が面白い。寮生も、スミカ軍団もいて、毎日がお祭り騒ぎだ。疲れるけど。

 風紀委員会の活動も、相変わらず続いている。
「事件は、起き続ける」
 と言っても、飼い猫がいなくなったとか、お弁当が盗まれたとか――平和そのものだ。

 顧問のサリバン先生は、ちゃっかり学園長に出世していた。
「リリカ、いる?」
 訪ねてきたのは、聖女ソフィア。

「何の用かしら」
 私は身構え、無意識に逃げ道を探す。
「待ちなさい。最後に、話をしましょう」
 諦めて、パーシーたちを追い出し、二人きりになる。

 ディナモスとソフィアは、今日旅立つ。
 王国の北――後継者を失った、古い小国へ。王と王妃になるために。

「……どうして?」
「ハインリヒの邪魔になるでしょ」
「関係ないわ」
「関係あるの。それに……少しだけ休みたいの」
 理解できなかった。

 聖女局を作り、事実上、国王以上の権力を手にした人が――それを、こんなにも簡単に手放すなんて。

 話題は、ディナモスのことへ移る。
「理想を追い求めすぎたら、純粋培養の子ができてしまったのよ。澪」

「……え?」「ええ?」「えええ?」
「何を驚いてるの? 私が、神代湊よ」

 男だと、疑いもしなかった。
「声も、写真も、経歴も」
「そんなの、どうとでもなるわ」

 ソフィアは、少しだけ笑った。
「それより驚いたのは、あなた。私の想像を遥かに超えて、物語を壊した。リアルのゲーム世界は、私の作ったものと違って――登場人物が勝手に走りだすし、本当に厳しい世界だった」

「……重かったわ」
「でしょ?」
 それから、感想戦と、作者への容赦ないダメ出し。

「ひどいな、澪。少しは褒めてよ!」
「でも……ありがとう。ブラックティアラ、楽しかった」

 私は、なぜ新作を作らず、この世界に来たのか――聞かなかった。何となく理由を察したからだ。

「戻る? 無責任だけど……戻れるかは、わからない」
「それでもいい。神代湊の新作がない世界なんて、考えられないもの」
「最高の褒め言葉ね。この世界には、新作のアイデアを詰め込んでるの。まだ、隠し設定も、イベントも――残ってる」

 私は、やはり聞かなかった。ゲーマーとして、それを聞くのは、反則だ。
 再会を約束し、彼女と別れた。


 ドラゴンのティアに乗せてもらい、私は“始まりの場所”へ向かった。
 ただ、一人になりたかっただけだ。

「……よかったの?」 私の中のリリカが、静かに問いかける。
 それが、元のリリカの声なのか。それとも、もう完全に私自身の声なのか――区別はつかない。

「もちろん」
 私は、前を見て答えた。

「リリカ・ノクスフォードの復讐は――終わらない」
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