完結 断罪された悪役令嬢に、引きこもり廃ゲーマーが転生。ゲーム終了後の貧乏平民からの無双。リリカ・ノクスフォードのリベリオン

織部

文字の大きさ
103 / 128

リリカ・ノクスフォードの結婚

しおりを挟む

「ドノバン・ヴァレンシア。リリカ・ノクスフォードを妻とし、病に伏す時も健やかに歩める時も満ち足りる時も何も持たぬ時もこの命が尽き海へ還るその日まで、共に生きると、精霊王に誓うか?」

 島の司教が、同時に手に持っている杖で、舞台上の床を叩く。
 それは、シシルナ島の年に一度行われる、精霊王信仰の冬の祭り、祝祭での一場面だ。
「もちろんだ! 一緒にいて満ち足りぬなんてことは無い!」

 ドノバンは、誓いの言葉を逸脱する。
「余分な言葉はいらない」
 司教は、ムッとした顔で、彼を睨むが、この島中から、祝祭の会場に集まってきた民衆が、拍手と歓声を巻き起こす。

「いいぞ! 若様!」
「熱い言葉が足りねえぞ!」
「そんなんじゃ、落ちねえぞ! 若ぼっちゃん!」

 時は、夜。しかも、何故かこの日前後には、雪が降る。ちらちら、と雪が舞い落ちるが、地上に落ちる前に消える。

 もちろん、篝火がありこちに焚かれている。さっきまで、賑わっていた露天で仕入れた魚串やワインを手にして、島民は出し物に夢中だ。

「リリカ・ノクスフォードドノバン・ヴァレンシアを夫とし、病に伏す時も健やかに歩める時も満ち足りる時も何も持たぬ時もこの命が尽き海へ還るその日まで、共に生きると、精霊王に誓うか?」

 私は、恥ずかしさで、言葉が震えるかなと思ったが、大きく答えていた。
「誓います。私が必ず幸せにします」

 え? ええ? えええ?
 私の中のリリカの野郎が仕掛けやがった。
「おいおい! 坊ちゃん。負けてるぞ!」
「いや、負けてこそのシシルナ島魂だ!」
「リリカ! リリカ! リリカ!」
「鎮まれ!」

 厳粛な儀式を台無しに、杖をダンダンと地団駄のように叩く司教。
 この茶番に、華を添えたのは、伝説のドラゴン。ティア様だ。もちろん、今宵の雪の演出も……。

「おい! あれは近頃、再び現れた神の使いだ!」
「古き物語のドラゴン、ありがたや!」
 会場は、司教の杖ではなく、竜の登場によって厳格な祝祭のフィナーレに変わった。
 一度だけ島をかすめるように旋回し、雲の向こうへ消えた。

――が。
 広場の端に一羽の大きな鷹が、いつの間にか肉をもらっていた。渡しているのは、エマだ。

 茶番、正しくは祝祭に行われる奉納演劇に、私が参加させられたのは、最初から仕組まれたものだった。

「サクナ商会連合の慰安旅行兼薬草農園視察」
 この一大イベントには、私の悪の軍団と、スミカちゃんらサクナ薬局スタッフ、何故かついてくるカンちゃん。

「お小遣いは、渡したからね。じゃ解散!」
 この島には、チョコ村や陶芸の村、カジノ村、それに農園。数日は全員自由行動として、祝祭と呼ばれる祭りの日に、島の中心である港町に集合することにした。

 宿屋や食事も、ドノバンの手下たちがコーディネートしてアテンドしてくれていた。
「悪いわね、ドノバン」
「いや、俺も色々とやることがあって、アテンドできないけど」

 地元に帰って来た彼はやることが多いらしく忙しそうで、私のところにはあまり顔を出さなかった。

 代わりに、島の老女が私の世話をしてくれた。今回は、セバスチャンもエマにも暇をとらせた。なんか、エマは休みあげすぎの気もするが。

 話上手な老女ニコラ。腕や顔についている傷や佇まいから冒険者の匂いは消せていない。
「あんた、面白いな! 気に入った!」
「私もよ! ニコラ!」

 私が彼女の話を聞き出そうとしているのに、いつのまにか、私が喋らされている。商人としても一流だ。

 農園視察やそこでの教育、少しの観光をしているとあっという間に、祝祭の日になり、
「ドノバン様から、お礼はこれを着て、芝居に参加してほしい」とウエディングドレスを老女から渡された。

 大事な精霊王信仰の物語の終わり、村のカップルが結婚し精霊王が祝福をしてくれて終わる奉納劇。

 出番はラストだけ。
 セリフは、「はい」だけでいいらしい。
「まあ、それくらいなら……」
 衣装はずっしり重く、半端なく高級。さすが伝統ある祭り。


「今日のよき日に、私から皆に話をしよう」
 司教が、退席し、代わりに島主であるドノバンの祖母が現れた。

 島民が、主人に対して、全員頭を下げた。
 私の身の回りをしてくれた老女ニコラだった。

「ど、どういうこと、ドノバン?」
 私は静かに尋ねたが、彼は黙っている。
「……」

「リリカ、この島は楽しかったかい?。 そなたは侯爵として王国に仕える身。精霊王は“島に嫁ぐ”ことではなく、島と響き合う者となるかを問うておられる。答えてもらえまいか?」

その言葉で、リリカの胸が強く鳴った。
精霊の気配は、演技ではない。
逃げ道も、台本も、ここにはない。
一瞬、焦りが込み上げる。

それでも。
風が、拒まぬように髪を揺らした。
精霊たちは、待っている。

「はい」
リリカは胸に手を当て、はっきりと告げる。
「私は王国の責務を捨てません。ノクスフォードの名も、背負い続けます。ですが、精霊王の理のもと、ドノバンと魂を共にすることを選びます」

精霊が、一斉に揺らめいた。
祝福だった。
島主ニコラは静かに宣言する。

「ここに宣す。二人は王国法の婚姻にあらず、精霊王の盟約により結ばれし伴侶である」

 海賊の策略によって、私は婿を娶った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

政治家の娘が悪役令嬢転生 ~前パパの教えで異世界政治をぶっ壊させていただきますわ~

巫叶月良成
ファンタジー
政治家の娘として生まれ、父から様々なことを学んだ少女が異世界の悪徳政治をぶった切る!? //////////////////////////////////////////////////// 悪役令嬢に転生させられた琴音は政治家の娘。 しかしテンプレも何もわからないまま放り出された悪役令嬢の世界で、しかもすでに婚約破棄から令嬢が暗殺された後のお話。 琴音は前世の父親の教えをもとに、口先と策謀で相手を騙し、男を篭絡しながら自分を陥れた相手に復讐し、歪んだ王国の政治ゲームを支配しようという一大謀略劇! ※魔法とかゲーム的要素はありません。恋愛要素、バトル要素も薄め……? ※注意:作者が悪役令嬢知識ほぼゼロで書いてます。こんなの悪役令嬢ものじゃねぇという内容かもしれませんが、ご留意ください。 ※あくまでこの物語はフィクションです。政治家が全部そういう思考回路とかいうわけではないのでこちらもご留意を。 隔日くらいに更新出来たらいいな、の更新です。のんびりお楽しみください。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

ぽっちゃり令嬢の異世界カフェ巡り~太っているからと婚約破棄されましたが番のモフモフ獣人がいるので貴方のことはどうでもいいです~

翡翠蓮
ファンタジー
幼い頃から王太子殿下の婚約者であることが決められ、厳しい教育を施されていたアイリス。王太子のアルヴィーンに初めて会ったとき、この世界が自分の読んでいた恋愛小説の中で、自分は主人公をいじめる悪役令嬢だということに気づく。自分が追放されないようにアルヴィーンと愛を育もうとするが、殿下のことを好きになれず、さらに自宅の料理長が作る料理が大量で、残さず食べろと両親に言われているうちにぶくぶくと太ってしまう。その上、両親はアルヴィーン以外の情報をアイリスに入れてほしくないがために、アイリスが学園以外の外を歩くことを禁止していた。そして十八歳の冬、小説と同じ時期に婚約破棄される。婚約破棄の理由は、アルヴィーンの『運命の番』である兎獣人、ミリアと出会ったから、そして……豚のように太っているから。「豚のような女と婚約するつもりはない」そう言われ学園を追い出され家も追い出されたが、アイリスは内心大喜びだった。これで……一人で外に出ることができて、異世界のカフェを巡ることができる!?しかも、泣きながらやっていた王太子妃教育もない!?カフェ巡りを繰り返しているうちに、『運命の番』である狼獣人の騎士団副団長に出会って……

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢 十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう 好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ 傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する 今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった

処理中です...