シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣

織部

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蠱惑の魔剣

封印の果て

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 四階層では、再びアマリの精霊たちが躍動していた。
 まるで、私の活躍を見てと、精霊たちが競って役割をこなす。

 だが、五階層からは様相が一変する。
 ここから先は、中級冒険者のパーティですら全力で挑まねばならない危険域だ。

 空気が重く、岩壁からは熱気が滲み、薄暗いダンジョンの奥で何かが蠢いている。
 けれど、ネフェルは一歩も怯まない。

「始めます」
 その一言で、世界が変わった。
 彼女が操るヘルハウンドの群れが吠え、通路に現れる魔物たちを容赦なく屠っていく。その動きは無駄がない訓練された兵士。

 ネフェルは指先ひとつで指図し、獣たちは主の意を読み取っていた。
 その姿は、まるで羊飼いが牧羊犬を導くようだった。

 優雅で、恐ろしく、美しい。
「ご存知のように、古竜すら使役していますからね」
 ガブリエルが苦笑しながら呟く。
 恐れと敬意が入り混じった声だった。

 そして六階層――最後の難関であるマグマベアの棲む灼熱の洞。
 岩肌から溶岩が流れ落ち、地面が赤く脈打っている。
 だがネフェルは汗ひとつ見せず、獣を従わせる。

「これって……もはやダンジョン探索ですらないな」
 ノルドは呆れたように笑う。
 過去に彼女の術を見たことはあったが、その時の比ではない。

 魔術の強さも、制御の緻密さも、別次元だ。
「ここですね」
 ネフェルが立ち止まり、大神殿の巨大な扉に手をかけた。

 重厚な石扉がゆっくりと開くと、広間の中央には祭壇がある。風のないはずの空間で、衣の裾がふわりと揺れた。

「それでは、また後ほど」
 ノルドとヴァルは中に入らず、ネフェルに別れを告げた。
「ノルド、解放の儀式には時間はかからないし、失敗もしない。あなたはあなたの戦いを」
 ネフェルの声は強く、そして優しかった。

「私も行くよ!」
 リコが叫ぶが、ノルドは静かに首を振る。
「リコ、ここで待っていてくれ。決着は、俺がつける」

「……わかった! 気をつけてね!」
 リコはノルドの頬にそっとキスをした。その温もりに頬を赤く染め、ノルドは扉を閉める。

「悪いけど、私は立ち会うからね」
 妖精ビュアンが、光の羽をふるわせながら言う。
「わかってる。でも手出しは無用だよ。魔剣は危険だから」
「もちろん。ノルドの戦いを見届けて、セラやみんなに伝える。それが私の役目だから」

 攻撃スキルを持たない――ただの荷運び人の戦いが、いま始まる。
 ヴァルが「ワオーン!」と吠え、先導するように走り出す。ビュアンがラゼルの居場所を教えたのだ。

 四階層の開かずの扉の前でノルドが足を止めた。
「ここは、鍵が無いと開かないはずだ」
 すると、天井から銀色の鍵が落ちてきた。
「ふふふ」
 ビュアンが得意げに微笑む。ラゼルの手元からこっそり盗んでいたのだ。



 ノルドたちが三階層で、食事会を楽しんでいた頃。
 ラゼルは巨大なドーム、試練の間に立っていた。
 毒の沼があり、その中央には一本の魔剣が突き立っている。

 刃が妖しげな光を放ち、まるで呼吸するように脈打っていた。
「くそっ、くそっ、くそぉっ!」
 ラゼルは毒沼をかき分け、全身を焼くような痛みに耐えながら剣を引き抜いた。

 瞬間、体の内側で何かが軋み、赤い光が瞳に宿る。
 呼吸が荒く、胸が焼けるように熱い。

「あれ……あんなところに、礼拝堂があるじゃないか」
 視線の先、小さな祠のような建物が見えた。
 靴について泥に足を取られながら、礼拝堂へと向かう。

 扉に手をかけると、驚くほど簡単に開いた。
「鞄があるな……」
 それはアレンが残していったものだった。
 中には携帯食料、薬、予備の衣服――生き延びるための品々が詰まっていた。

「運が向いてきたな」
 ラゼルは貪るように食事をとり、喉を潤した。
 そしてアレンの服に着替え、硬い床に背を預けて長い眠りについた。

 ――しばらくは、ここを根城にして冒険者どもを仲間に引き入れよう。
「そうだ、奴らを呼ぼう!」
 目が覚めたらラゼルは、かつての奴隷たちとの契約を呼び覚まそうとした。それは、精神を削ることだが、魅了の解けた彼女たちを呼び寄せるにはそれしか方法がない。

 だが、返る気配はどこにもなかった。
「死んだのか……有能な奴らだったのにな。シシルナ島の奴らも容赦ねぇな」

 彼は知らなかった。聖女ネフェルの儀式によって、契約はすでに解かれていたことを。
 その時、礼拝堂の扉が軋みながら開いた。

「……何だ?」
 沈黙を破り、魔剣が囁く。
「敵が来た。準備をしろ」
「フン、ちょうどいい。暴れ足りなかったところだ」

 ラゼルは防具を装着し、薬をポケットに詰め込み、魔剣を構えた。
 ドームの空気が緊張で震える。

 そして扉が開く。
 立っていたのは、一人の少年と、一匹の狼。
「ノルドか? お前一人か?」
「いや、俺とヴァルだ。もちろん――お前を倒しに来た」
 ラゼルの口角が吊り上がる。

「俺を殺す? 助けてくれたら、お前の欲しいものを何でもやるぞ?」
 その声は、媚びと企みが混じっていた。
 だが、ノルドはためらわなかった。

「これが返事だ!」
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