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最終章 牙狼の王
獣人族の村
しおりを挟む褐色の肌に獣の耳と尾。獣人族の青年だった。年の頃は三十前後だろうか。
彼は武器を構えず、深く頭を下げた。
「これは失礼しました。我々は、この森の村の民です」
その言葉を合図にしたかのように、周囲の影から次々と獣人族が姿を現す。
弓を持つ者、槍を携えた者――やはり数十人。
「古き竜が、水淵迷宮に降り立つのを見まして。ただ事ではないと、こうして駆けつけた次第です」
ノルドは一瞬、アマリと視線を交わした。この大森林の森には人の村が点在している。それは、ここへ来るまでに何度も目にしていた。
「……前にも、ここへ?」
ノルドの問いに、青年はうなずく。
「はい。聖女様が倒れられる、その少し前にも」
――倒れられた。
その言葉が、ノルドの胸に小さな棘のように引っかかった。ネフェルは病に臥してるとしか公表されていない。
「その時の様子を、詳しく聞かせてもらいたい」
そう言うと、青年は一瞬だけ言葉を選ぶように間を置いた。
「立ち話では、アマリ様のお身体に障りましょう。どうか、我が村へお越しください」
敵意はない。むしろ、歓迎と敬意すら感じられる。
だが――
森は、思っていた以上に深い秘密を抱えていそうだった。
※
大森林の森の中の村。魔物の森と普通の森が入り混じる危険地帯。
そこに住む者たち。獣人族たち。
大きな柵と堀で囲まれた、大きな集落だった。村の中で遊ぶ子供たちは、楽しそうで、元気だ。
「こちらへどうぞ!」
村の中央にある一際大きな屋敷。村長の館だ。
ノルドたちは、濡れた服を着替えを済ませると、大広間に向かった。村の役職者がずらりと首を揃え、料理が並べられている。
「お口に合うかわかりませんが、どうぞ。お召し上がり下さい」
犬人族が大多数で、他に猫人族や鳥人族が少数。純粋な人族はいない。
「こう言っては失礼ですが、裕福な村なのですね」
「そう見えますか? お恥ずかしい話ですが精一杯のもてなしです」
嘘だ! 子供たちは痩せておらず、虐げられた者特有のくすんだ目でも無い。着ている服装も、比較的新しく良い材質だ。
余裕のある証拠だ。
「お気遣い申し訳ない。失礼ですが、狩猟を仕事にされてるのですか?」
「はい。我らもそれなりに力があります」
言葉を返してきたのは、さっきの青年だ。冒険者の仕事や、魔物の素材を売っているのだろう。手にしている武器や防具は、高価な物だ。
「冷めないうちにどうぞ!」
毒などの異物は無い。
「アマリ様、頂きましょう」
まるで、配下のような振りをするノルドを彼女は睨みながら、手をつける。
「美味しい!」
アマリの一言で、その場が一気に和んだ。
聖女の妹を囲む宴は、途中から、村人の娘による演舞や演奏が披露された。
酒も振る舞われたが、苦い過去を持つノルドは丁重に断った。
リコが、同じ犬人族と言うこともあり、さらに持ち前の社交術で村の事情を聞き出していた。
だが、肝心の狼人族についての情報とネフェルを見た時の状況については誰も話さない。
「お返しをさせて下さい。お姉ちゃんのように祝福は与えられませんが、私の友の演舞をお見せしましょう」
すでに夜。森は静まり返っている。村人全員が、広場に集まる。
『みんな、舞を見せてあげて』
アマリが声を出すと、村の全ての場所に精霊の子が一斉に現れた。
「集まれ!」 空に昇り、満点の星となり多彩な色を煌めかせる。
精霊の子は、指揮者であるアマリの手の動きに従って、踊る。
「美しい。これが聖妹様のお力」
「すごいよ、母ちゃん。精霊の子が踊ってる」
老人も子供も村人は皆、目に焼き付けようと目を見開く。
やがて、アマリに近ずくと報酬の魔力を吸い消える。
光に包まれたその姿は、誰にも侵されない高貴な姿に見えた。
誰もが話をしない。夢の中にいるようだ。
「お終いです」
アマリの声に、村民たちは我に戻った。
アマリが村民の挨拶を受けている間に、ノルドは、青年を呼び出した。アマリの警備はリコ。ヴァルは村の散歩だ。
「さて、二つのことを聞きます。一つは、ネフェル聖女がどうして倒れた知っているのですか?」
「……いや、そうじゃ無いのか……」
「じゃあ、この者に見覚えはありますか?」
ノルドは、収納していた狼人族の死体を出した。
「……」
「どうして答えないのですか?」
ノルドが問い詰める。
「……」
ノルドの声を聞きつけて、村の長老がやって来た。
「あ……」思わず死体を見て反応をしてしまった。
「どうしました?」
「いや、死体なんて見慣れていなくて」
嘘だ。そんなはずは無い。この村の人はすぐばれる嘘をつきすぎる。
ノルドは苛立ちを隠せなくなった。
「それでは、この魔術師の持っていた薬を見せましょうか?」
青年と長老の顔が、顔面蒼白となる。
その時、「ワオーン!」ヴァルの声だ。
散歩のふりをした村の中の調査で、もう目的の者を発見したようだ。
さっき、精霊の子をアマリが村に出現させたのは、最初の調査だったのだ。
「ノルド、狼人族がこの村にいるわ」と精霊の子に聞いたアマリに教えてもらっていたのだ。
「隠れている狼人族に聞いた方が良さそうですね」
ノルドは、怒って言った。
「知っていることを全て話す。だから、彼らに手を出さないでくれ」
「それは約束できません」
冷たく答えた。
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