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最終章 牙狼の王
ノルドという名
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豪華な馬車と、揃った隊列。それは、聖妹アマリの行列だ。
白布と金具が陽光を受けて輝き、質素なテント村の景色の中でひときわ鮮烈に映える。
「聖妹様、お待ちしてました!」
「我らにお任せ下さい!」
テント村にいる者は、皆、通る道の両側に並び歓迎する。
その顔に疲弊の色はない。
聖妹の言葉に背を押され、自ら戦場へ向かうと決めた者たちだ。
歓声は祝福というより、始まりの合図に近い。
先頭を行くのは、大司教ルカ。しんどそうな顔をしている。民衆の熱気とは対照的に、その額には消えぬ疲労が刻まれていた。
「こちらです!」
教会の前で、彼女が降り立ち、民衆へ手を振る。白い指先が揺れるたび、波のように歓喜がじんわりと広がる。
「ノルド、お待たせ!」
議会や打ち合わせで見せた作った表情を投げ捨てて、彼に駆け寄り抱きつく。
その一瞬だけ、聖妹ではなく年相応の少女に戻る。
「色々とお噂は!」
「もう、演技なんです。作戦は?」
「計画通りだよ。でも……」
「恥ずかしいんだよね。でも、そんな気持ちにならないものを持ってきたわ」
アマリが、付き人から荷物を受け取り、ノルドに手渡した。
丁寧に包まれた布から、ほのかに懐かしい匂いがする。
「今日からノルドが公式の場で着る服よ」
その言葉は軽やかだが、意味は重い。
「……ありがとう」
短い返事。だが、指先はわずかに強く包みを握った。
「もちろん、セラ母さんの手作りよ。着替えてきて、これから軍事会議よ」
「わかった」
ノルドは衣装を改めるため、奥の間へと進んだ。
足音が静かに響き、これから背負うものの重さを測るようだった。
そこには、セイとガブリエルが静かに待ち受けている。
いつもの軽口はなく、ただ見守る空気があった。
袋の中には、一通の書簡。
「ノルド王へ。僭越ながら、正装軍服を誂えさせていただきました。どうか御身ご無事にて、シシルナ島へ凱旋あそばされますよう。――セラ」
母の筆跡は、整っている。だが最後の一画に、わずかな震えがあった。
「やめてよ、母さん」
ノルドは一瞬、視線を落とした。
それから何も言わず、衣服に袖を通す。
セラの作る服は、大陸中の羨望の的だ。王侯貴族すら順番を待つ名匠の技。
そしてこれは、彼の無事を願い、持てる技術と財、そして眠れぬ夜までも惜しみなく注ぎ込んだ一着。
黒を基調とし、縁は深い金糸で精緻に縫い取られている。
光を受けるたび、静かな炎のように揺らめく。
胸には獣王家の紋章が控えめに刺繍され、肩章には威厳を示す飾緒。
誇示ではなく、責任を示すための装い。
無駄はなく、だが一目で王とわかる威容。
重みはある。
だが、不思議と身体に吸い付くように馴染む。
それは寸法だけではない。成長を見続けてきた者だけが知る、癖まで計算された仕立て。
それは鎧ではない。母の祈りだった。
「見違えたよ! ノルド! 鏡を見てみろ」
ガブリエルは、目を細めた。
そこに立っているのは、もう少年ではない。
「動かないで、絵を描いてるから」
セイは、手慣れた手つきで、ノルドの絵を描く。
今この瞬間を未来へ残すかのように、迷いなく線を重ねる。
「ワオーン!」
ヴァルが入ってきて吠えた。
空気を読みながらも、誇らしげに胸を張る。
「そうだ。ヴァルにも母さんから」
首輪に、獣王国の紋章を落ちないようにつける。王だけでなく、共に戦う者の証。満足そうに、ノルドに並ぶ。
「うん、良いね! そのポーズでもう一枚」
セイは忙しげに手を動かす。筆先に込められるのは、友情と記録の意志。
「セイって、画家にもなれるんじゃない?」
「多才といえばマルカスさんだよね。習ってみるよ!」
雑談をしながらポーズをつけていると、扉を叩く音がした。
外の熱気が、次の局面を告げる。
「ノルド、アマリが呼んでるわよ! 開けるわよ」
リコたちが、返事も待たずに扉を開ける。
一瞬、息を呑む静寂。
「見違えたぁ、どこかの王子様みたい、違う、獣王国の真の王だ!」
その言葉は冗談ではなかった。
母の祈りを纏い、仲間の視線を背負い、そこに立っているのは、これから歴史の渦中へ踏み出す王だった。
「アマリ、着替えたよ!」
「うん。すごく似合ってる。皆さん、お待ちよ。エスコートして」
「あの……アマリもとても似合ってるよ!」
聖妹は、照れながらノルドに言った。
「当たり前でしょ。誰が作ったと思ってるの?」
「あ、母さんだ!」
「私も作ってって、おねだりしちゃったの。お姉ちゃんも作ってもらってたから。リコも何着も……」
二人が、会議室に入ると、大陸各国の軍司令官が座っていた。そして、彼女を見ると席を立った。
全員が、彼女に挨拶をした。
「私の呼びかけに答えて頂き感謝しています。軍事的なことは、よくわかりません。そこで、私の代行者を紹介します」
彼女の隣に立つ、ノルドに全員の目が集中する。
「彼の指揮に従って下さい。紹介します。獣王国の真の国王。ノルド殿下です」
「よろしくお願いします」
ノルドが挨拶をする。
「どのような指示でも承ります!」
「遠慮せずに、ご命令を。殿下」
「聖王国としては、これほど心強いことはない」
答えたのは、ガブリエルとレクシオンとルカ。
大国である共和国と王国の指揮官、それに聖王国の大司教が、そう答えた以上、他の国の指揮官は、従うしか無かった。
「これは、良い記事が書けそうだ!」
新聞記者セイは、メモを走らせた。
彼の名はここから広まっていく。
白布と金具が陽光を受けて輝き、質素なテント村の景色の中でひときわ鮮烈に映える。
「聖妹様、お待ちしてました!」
「我らにお任せ下さい!」
テント村にいる者は、皆、通る道の両側に並び歓迎する。
その顔に疲弊の色はない。
聖妹の言葉に背を押され、自ら戦場へ向かうと決めた者たちだ。
歓声は祝福というより、始まりの合図に近い。
先頭を行くのは、大司教ルカ。しんどそうな顔をしている。民衆の熱気とは対照的に、その額には消えぬ疲労が刻まれていた。
「こちらです!」
教会の前で、彼女が降り立ち、民衆へ手を振る。白い指先が揺れるたび、波のように歓喜がじんわりと広がる。
「ノルド、お待たせ!」
議会や打ち合わせで見せた作った表情を投げ捨てて、彼に駆け寄り抱きつく。
その一瞬だけ、聖妹ではなく年相応の少女に戻る。
「色々とお噂は!」
「もう、演技なんです。作戦は?」
「計画通りだよ。でも……」
「恥ずかしいんだよね。でも、そんな気持ちにならないものを持ってきたわ」
アマリが、付き人から荷物を受け取り、ノルドに手渡した。
丁寧に包まれた布から、ほのかに懐かしい匂いがする。
「今日からノルドが公式の場で着る服よ」
その言葉は軽やかだが、意味は重い。
「……ありがとう」
短い返事。だが、指先はわずかに強く包みを握った。
「もちろん、セラ母さんの手作りよ。着替えてきて、これから軍事会議よ」
「わかった」
ノルドは衣装を改めるため、奥の間へと進んだ。
足音が静かに響き、これから背負うものの重さを測るようだった。
そこには、セイとガブリエルが静かに待ち受けている。
いつもの軽口はなく、ただ見守る空気があった。
袋の中には、一通の書簡。
「ノルド王へ。僭越ながら、正装軍服を誂えさせていただきました。どうか御身ご無事にて、シシルナ島へ凱旋あそばされますよう。――セラ」
母の筆跡は、整っている。だが最後の一画に、わずかな震えがあった。
「やめてよ、母さん」
ノルドは一瞬、視線を落とした。
それから何も言わず、衣服に袖を通す。
セラの作る服は、大陸中の羨望の的だ。王侯貴族すら順番を待つ名匠の技。
そしてこれは、彼の無事を願い、持てる技術と財、そして眠れぬ夜までも惜しみなく注ぎ込んだ一着。
黒を基調とし、縁は深い金糸で精緻に縫い取られている。
光を受けるたび、静かな炎のように揺らめく。
胸には獣王家の紋章が控えめに刺繍され、肩章には威厳を示す飾緒。
誇示ではなく、責任を示すための装い。
無駄はなく、だが一目で王とわかる威容。
重みはある。
だが、不思議と身体に吸い付くように馴染む。
それは寸法だけではない。成長を見続けてきた者だけが知る、癖まで計算された仕立て。
それは鎧ではない。母の祈りだった。
「見違えたよ! ノルド! 鏡を見てみろ」
ガブリエルは、目を細めた。
そこに立っているのは、もう少年ではない。
「動かないで、絵を描いてるから」
セイは、手慣れた手つきで、ノルドの絵を描く。
今この瞬間を未来へ残すかのように、迷いなく線を重ねる。
「ワオーン!」
ヴァルが入ってきて吠えた。
空気を読みながらも、誇らしげに胸を張る。
「そうだ。ヴァルにも母さんから」
首輪に、獣王国の紋章を落ちないようにつける。王だけでなく、共に戦う者の証。満足そうに、ノルドに並ぶ。
「うん、良いね! そのポーズでもう一枚」
セイは忙しげに手を動かす。筆先に込められるのは、友情と記録の意志。
「セイって、画家にもなれるんじゃない?」
「多才といえばマルカスさんだよね。習ってみるよ!」
雑談をしながらポーズをつけていると、扉を叩く音がした。
外の熱気が、次の局面を告げる。
「ノルド、アマリが呼んでるわよ! 開けるわよ」
リコたちが、返事も待たずに扉を開ける。
一瞬、息を呑む静寂。
「見違えたぁ、どこかの王子様みたい、違う、獣王国の真の王だ!」
その言葉は冗談ではなかった。
母の祈りを纏い、仲間の視線を背負い、そこに立っているのは、これから歴史の渦中へ踏み出す王だった。
「アマリ、着替えたよ!」
「うん。すごく似合ってる。皆さん、お待ちよ。エスコートして」
「あの……アマリもとても似合ってるよ!」
聖妹は、照れながらノルドに言った。
「当たり前でしょ。誰が作ったと思ってるの?」
「あ、母さんだ!」
「私も作ってって、おねだりしちゃったの。お姉ちゃんも作ってもらってたから。リコも何着も……」
二人が、会議室に入ると、大陸各国の軍司令官が座っていた。そして、彼女を見ると席を立った。
全員が、彼女に挨拶をした。
「私の呼びかけに答えて頂き感謝しています。軍事的なことは、よくわかりません。そこで、私の代行者を紹介します」
彼女の隣に立つ、ノルドに全員の目が集中する。
「彼の指揮に従って下さい。紹介します。獣王国の真の国王。ノルド殿下です」
「よろしくお願いします」
ノルドが挨拶をする。
「どのような指示でも承ります!」
「遠慮せずに、ご命令を。殿下」
「聖王国としては、これほど心強いことはない」
答えたのは、ガブリエルとレクシオンとルカ。
大国である共和国と王国の指揮官、それに聖王国の大司教が、そう答えた以上、他の国の指揮官は、従うしか無かった。
「これは、良い記事が書けそうだ!」
新聞記者セイは、メモを走らせた。
彼の名はここから広まっていく。
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