完結 シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣

織部

文字の大きさ
18 / 221

孤児院

しおりを挟む

 その屋敷はもともとニコラの家であったが、現在では孤児院としても利用されていた。

 厳密には、ニコラが会社を市場に移転させ、その空いた屋敷を孤児院として提供したのである。

 ノシロは子供の頃、やんちゃで周りに迷惑をかけることが多かった。

 そのたびに、ニコラは「またやったわね!」と駆け寄り、素早く厳しく対処した。

 大人になった今でも、その時の記憶が残っており、ノシロはどこかでニコラを恐れているが、同時に深く尊敬している。

 メグミは「全く、相変わらずね」とぼやきながらも、兄貴分のノシロの変わらぬ姿を好ましく思っていた。

 商談は、ノルドが製品の効能を説明することから始まった。

「つまり、この薬は、売られている薬の2倍近い効果があります。製薬方法や材料の分量は……あ、すみません、秘密です」

 ノルドはリュックからノートを取り出し、データを見せながら自慢げに話した。

「ははは、面白いな、お前!そんな薬師初めて見たよ!」ニコラは楽しそうに笑った。

「それじゃあ、取引価格を決めようか!」

 取引価格については、ニコラ、ノシロ、リジェ、ノルドがそれぞれ紙に金額と理由を書き、メグミがそれを読み上げる。

 ノルドがつけたポーションの価格は、普通に売られているポーションと変わらない価格だった。

 彼には、それ以外の価格の付け方がわからなかったのだ。

「悪いが、ノルド、あまり安い価格をつけると、他の薬師が困ることになる。いざという時、薬が手に入らなくなるし、お前以外の薬師がこの島からいなくなってしまう」

 ニコラは、少し真剣な口調で言った。

「そういうつもりでは……。」ノルドは焦って弁解した。

「お前の作る薬は、同じ種類の薬よりも効能が高いのだ。だから、それに見合った価格をつける必要がある」ノシロが冷静にアドバイスした。

 ノルドはノートにメモを取りながら、コメントを詳細に書き込んでいく。

 結局、セカンドプライスで取引金額を決めることになった。

「大量には売れないだろうが、私がまとめて買い取ろう。何せ、私の会社の奴らは傷や怪我をする奴が多いからな。それでいいか?」

 ニコラは、自信満々に言った。

 彼女は多くの漁船や貨物船を持ち、漁業、海運業、市場を一手に取り仕切る会社の社長でもある。

「はい、それで結構です」ノルドはほっとした表情を浮かべた。グラシアスにも卸さなければならないし、大量に同じ薬を作り続けるのは、彼にとってはあまり面白くなかったからだ。

「それと、新しい薬が完成したら、持ってきておくれ」

 ニコラは、この薬師の薬にますます興味を持っているようだ。

「勿論です」ノルドの顔がぱっと明るくなった。

「本当に、商売気のない奴だな。大丈夫か、心配になるよ」ニコラは、少し笑いながら言った。

 実は、ノルドが損をすることはほとんど無い。なぜなら、彼は一度でも製薬に成功すれば、その後失敗することが無いからだ。

 初級のリカバリーポーションは、ベテランの薬師でも成功率が極めて低く、材料が無駄になることが多い。通常、成功率は20回に1回程度だ。

 しかし、ノルドはすべて成功する。そのため、原価率が非常に低く、損益分岐点も極めて低い。

 ノルドは、材料や製薬方法を理論的に研究し尽くしているからこそ、成功するのだ。

 ほかの薬師が書物を真似するだけの中、彼の製薬は一線を画していた。

 だが、他の薬師を知らないノルドはこれが普通だと勘違いしていたし、セラもそのことをわざと教えなかった。

 学者セラの教育は、着実に実を結んでいた。


 
 商談も一息ついた時、ガーデンルームに、ばたばたと走ってくる人がいる。

「やっぱりだ、ノルドだぁ!」犬人族のリコの姿が、目の前に現れた。

「良かった。探してたんだ。どうしてここに?」彼の瞳には、光るものがあった。

「何泣いてるの? 大丈夫? へへへ、メグミに捕まっちゃった」リコは嬉しそうに答えた。

「呼び捨てですか!」メグミが怒った。

「大丈夫なのか?」ノルドは心配げに尋ねた。

「ここはとっても楽しいよ。勉強つまらないけど。でも、ばあば大好き」

 キラキラした目でリコは尻尾を振り、ニコラの椅子のアームに腰掛けて、ニコラに抱きついた。

「こら! ニコラ様から離れなさい。お前は、早く教室に戻りなさい!」

 ノシロやリジェもリコの自由さや、ニコラの寛容さに驚いている。

「はーい。残念。ノルドまたね。お休みの日に、遊びに行くね」

 ニコラに強く抱きつくと、ばっと離れ、テーブルの蜂蜜飴を盗んで、またばたばたと部屋から出て行った。

「魚市場の料理店さんに知らせなければ、休業してるみたいですが」

「そのことなら、お前が気をかける必要は無い」さっきまでの、でれでれとしたニコラの表情は、一転した厳しい顔を見せた。

「わかりました。あの、そろそろ帰ります」

 ノルドもあんな料理店の店主の事なんて、どうでも良かったのだ。それより、早く帰って母さんに話したい。

「ああ。ノルド、お前、取引証文とお金は……」ノシロが声を掛けようとしたが、その前にノルドは、慌てた様子で書類と金をリュックにしまい込んだ。

「それじゃ、失礼します」ノルドはニコラに軽く頭を下げ、部屋を後にした。

 ヴァレンシア孤児院を出ると、ヴァルが駆け寄ってきた。

「うん、リコが見つかったよ。なんだ、お前も見かけたのか。今日は、豪勢な料理を作ろう!」

 夕日が沈む海を見ながら、軽やかな足取りで坂を下っていく。狼の夜はもうそこだ。

「ワオーン!」



「しかし、面白い小狼だな。楽しませてもらったよ。」と、ニコラが感心する。

「そうだろう!」とシロノが胸を張るが、

「お前の言う“面白い”とは意味が違うよ!」と、老婆がきっぱり否定した。

「しかし、母さん、あの子はいったい何者なんでしょう?」とリジェが尋ねる。

「あの子は、天才だよ。育てた母親もただ者じゃないね」

「確かに、魔兎の調理の仕方は完璧だったな」とシロノが相槌を打つ。

 ニコラはやれやれと肩をすくめ、

「島主から無理やり聞いた話を思い出したよ。窃盗団を退治したのは、きっとあの親子さ」

「大男の腕の切り口も、並の者にはできない技だったな」

「ああ、そうだとも。グラシアスの野郎、ここはシシルナ島だ。独占はさせないよ」
 
 

【後がき】

 お時間を頂き、読んで頂き有難うございます。♡等で応援頂きますと、今後も励みになります。又、ご感想やレビュー等も一行でも頂けますと、飛び上がって喜びます。 引き続きよろしくお願いします!  織部
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

婚約破棄から50年後

あんど もあ
ファンタジー
王立学園の卒業パーティーで、王子が婚約者に婚約破棄を宣言した。王子は真に愛する女性と結ばれ、めでたしめでたし。 そして50年後、王子の孫の王子は、婚約破棄された女性の孫と婚約する事に。そこで明かされた婚約破棄の真実とは。

処理中です...