18 / 238
孤児院
しおりを挟むその屋敷はもともとニコラの家であったが、現在では孤児院としても利用されていた。
厳密には、ニコラが会社を市場に移転させ、その空いた屋敷を孤児院として提供したのである。
ノシロは子供の頃、やんちゃで周りに迷惑をかけることが多かった。
そのたびに、ニコラは「またやったわね!」と駆け寄り、素早く厳しく対処した。
大人になった今でも、その時の記憶が残っており、ノシロはどこかでニコラを恐れているが、同時に深く尊敬している。
メグミは「全く、相変わらずね」とぼやきながらも、兄貴分のノシロの変わらぬ姿を好ましく思っていた。
商談は、ノルドが製品の効能を説明することから始まった。
「つまり、この薬は、売られている薬の2倍近い効果があります。製薬方法や材料の分量は……あ、すみません、秘密です」
ノルドはリュックからノートを取り出し、データを見せながら自慢げに話した。
「ははは、面白いな、お前!そんな薬師初めて見たよ!」ニコラは楽しそうに笑った。
「それじゃあ、取引価格を決めようか!」
取引価格については、ニコラ、ノシロ、リジェ、ノルドがそれぞれ紙に金額と理由を書き、メグミがそれを読み上げる。
ノルドがつけたポーションの価格は、普通に売られているポーションと変わらない価格だった。
彼には、それ以外の価格の付け方がわからなかったのだ。
「悪いが、ノルド、あまり安い価格をつけると、他の薬師が困ることになる。いざという時、薬が手に入らなくなるし、お前以外の薬師がこの島からいなくなってしまう」
ニコラは、少し真剣な口調で言った。
「そういうつもりでは……。」ノルドは焦って弁解した。
「お前の作る薬は、同じ種類の薬よりも効能が高いのだ。だから、それに見合った価格をつける必要がある」ノシロが冷静にアドバイスした。
ノルドはノートにメモを取りながら、コメントを詳細に書き込んでいく。
結局、セカンドプライスで取引金額を決めることになった。
「大量には売れないだろうが、私がまとめて買い取ろう。何せ、私の会社の奴らは傷や怪我をする奴が多いからな。それでいいか?」
ニコラは、自信満々に言った。
彼女は多くの漁船や貨物船を持ち、漁業、海運業、市場を一手に取り仕切る会社の社長でもある。
「はい、それで結構です」ノルドはほっとした表情を浮かべた。グラシアスにも卸さなければならないし、大量に同じ薬を作り続けるのは、彼にとってはあまり面白くなかったからだ。
「それと、新しい薬が完成したら、持ってきておくれ」
ニコラは、この薬師の薬にますます興味を持っているようだ。
「勿論です」ノルドの顔がぱっと明るくなった。
「本当に、商売気のない奴だな。大丈夫か、心配になるよ」ニコラは、少し笑いながら言った。
実は、ノルドが損をすることはほとんど無い。なぜなら、彼は一度でも製薬に成功すれば、その後失敗することが無いからだ。
初級のリカバリーポーションは、ベテランの薬師でも成功率が極めて低く、材料が無駄になることが多い。通常、成功率は20回に1回程度だ。
しかし、ノルドはすべて成功する。そのため、原価率が非常に低く、損益分岐点も極めて低い。
ノルドは、材料や製薬方法を理論的に研究し尽くしているからこそ、成功するのだ。
ほかの薬師が書物を真似するだけの中、彼の製薬は一線を画していた。
だが、他の薬師を知らないノルドはこれが普通だと勘違いしていたし、セラもそのことをわざと教えなかった。
学者セラの教育は、着実に実を結んでいた。
※
商談も一息ついた時、ガーデンルームに、ばたばたと走ってくる人がいる。
「やっぱりだ、ノルドだぁ!」犬人族のリコの姿が、目の前に現れた。
「良かった。探してたんだ。どうしてここに?」彼の瞳には、光るものがあった。
「何泣いてるの? 大丈夫? へへへ、メグミに捕まっちゃった」リコは嬉しそうに答えた。
「呼び捨てですか!」メグミが怒った。
「大丈夫なのか?」ノルドは心配げに尋ねた。
「ここはとっても楽しいよ。勉強つまらないけど。でも、ばあば大好き」
キラキラした目でリコは尻尾を振り、ニコラの椅子のアームに腰掛けて、ニコラに抱きついた。
「こら! ニコラ様から離れなさい。お前は、早く教室に戻りなさい!」
ノシロやリジェもリコの自由さや、ニコラの寛容さに驚いている。
「はーい。残念。ノルドまたね。お休みの日に、遊びに行くね」
ニコラに強く抱きつくと、ばっと離れ、テーブルの蜂蜜飴を盗んで、またばたばたと部屋から出て行った。
「魚市場の料理店さんに知らせなければ、休業してるみたいですが」
「そのことなら、お前が気をかける必要は無い」さっきまでの、でれでれとしたニコラの表情は、一転した厳しい顔を見せた。
「わかりました。あの、そろそろ帰ります」
ノルドもあんな料理店の店主の事なんて、どうでも良かったのだ。それより、早く帰って母さんに話したい。
「ああ。ノルド、お前、取引証文とお金は……」ノシロが声を掛けようとしたが、その前にノルドは、慌てた様子で書類と金をリュックにしまい込んだ。
「それじゃ、失礼します」ノルドはニコラに軽く頭を下げ、部屋を後にした。
ヴァレンシア孤児院を出ると、ヴァルが駆け寄ってきた。
「うん、リコが見つかったよ。なんだ、お前も見かけたのか。今日は、豪勢な料理を作ろう!」
夕日が沈む海を見ながら、軽やかな足取りで坂を下っていく。狼の夜はもうそこだ。
「ワオーン!」
※
「しかし、面白い小狼だな。楽しませてもらったよ。」と、ニコラが感心する。
「そうだろう!」とシロノが胸を張るが、
「お前の言う“面白い”とは意味が違うよ!」と、老婆がきっぱり否定した。
「しかし、母さん、あの子はいったい何者なんでしょう?」とリジェが尋ねる。
「あの子は、天才だよ。育てた母親もただ者じゃないね」
「確かに、魔兎の調理の仕方は完璧だったな」とシロノが相槌を打つ。
ニコラはやれやれと肩をすくめ、
「島主から無理やり聞いた話を思い出したよ。窃盗団を退治したのは、きっとあの親子さ」
「大男の腕の切り口も、並の者にはできない技だったな」
「ああ、そうだとも。グラシアスの野郎、ここはシシルナ島だ。独占はさせないよ」
【後がき】
お時間を頂き、読んで頂き有難うございます。♡等で応援頂きますと、今後も励みになります。又、ご感想やレビュー等も一行でも頂けますと、飛び上がって喜びます。 引き続きよろしくお願いします! 織部
11
あなたにおすすめの小説
召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?
浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。
「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」
ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。
ガチャと異世界転生 システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!
よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。
獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。
俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。
単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。
ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【 完 結 】スキル無しで婚約破棄されたけれど、実は特殊スキル持ちですから!
しずもり
ファンタジー
この国オーガスタの国民は6歳になると女神様からスキルを授かる。
けれど、第一王子レオンハルト殿下の婚約者であるマリエッタ・ルーデンブルグ公爵令嬢は『スキル無し』判定を受けたと言われ、第一王子の婚約者という妬みや僻みもあり嘲笑されている。
そしてある理由で第一王子から蔑ろにされている事も令嬢たちから見下される原因にもなっていた。
そして王家主催の夜会で事は起こった。
第一王子が『スキル無し』を理由に婚約破棄を婚約者に言い渡したのだ。
そして彼は8歳の頃に出会い、学園で再会したという初恋の人ルナティアと婚約するのだと宣言した。
しかし『スキル無し』の筈のマリエッタは本当はスキル持ちであり、実は彼女のスキルは、、、、。
全12話
ご都合主義のゆるゆる設定です。
言葉遣いや言葉は現代風の部分もあります。
登場人物へのざまぁはほぼ無いです。
魔法、スキルの内容については独自設定になっています。
誤字脱字、言葉間違いなどあると思います。見つかり次第、修正していますがご容赦下さいませ。
モフモフテイマーの、知識チート冒険記 高難易度依頼だって、知識とモフモフモンスターでクリアします!
あけちともあき
ファンタジー
無能テイマーとしてSランクパーティをクビになったオース。
モフモフテイマーという、モフモフモンスター専門のテイマーであった彼は、すぐに最強モンスター『マーナガルム』をテイムするが……。
実はオースこそが、Sランクパーティを支える最強メンバーだったのだ。
あらゆるモンスターへの深い知識。
様々なクラスを持つことによる、並外れた器用さ。
自由になったオースは、知識の力で最高の冒険者へと成り上がっていく。
降って湧いた凶悪な依頼の数々。
オースはこれを次々に解決する。
誰もがオースを最高の冒険者だと認めるようになっていく。
さらに、新たなモフモフモンスターが現れて、仲間も増えて……。
やがて、世界を巻き込む陰謀にオースは関わっていくのだ。
「平民が聖女になれただけでも感謝しろ」とやりがい搾取されたのでやめることにします。
木山楽斗
恋愛
平民であるフェルーナは、類稀なる魔法使いとしての才を持っており、聖女に就任することになった。
しかしそんな彼女に待っていたのは、冷遇の日々だった。平民が聖女になることを許せない者達によって、彼女は虐げられていたのだ。
さらにフェルーナには、本来聖女が受け取るはずの報酬がほとんど与えられていなかった。
聖女としての忙しさと責任に見合わないような給与には、流石のフェルーナも抗議せざるを得なかった。
しかし抗議に対しては、「平民が聖女になれただけでも感謝しろ」といった心無い言葉が返ってくるだけだった。
それを受けて、フェルーナは聖女をやめることにした。元々歓迎されていなかった彼女を止める者はおらず、それは受け入れられたのだった。
だがその後、王国は大きく傾くことになった。
フェルーナが優秀な聖女であったため、その代わりが務まる者はいなかったのだ。
さらにはフェルーナへの仕打ちも流出して、結果として多くの国民から反感を招く状況になっていた。
これを重く見た王族達は、フェルーナに再び聖女に就任するように頼み込んだ。
しかしフェルーナは、それを受け入れなかった。これまでひどい仕打ちをしてきた者達を助ける気には、ならなかったのである。
勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?
猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」
「え?なんて?」
私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。
彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。
私が聖女であることが、どれほど重要なことか。
聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。
―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。
前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。
転生したら鎧だった〜リビングアーマーになったけど弱すぎるので、ダンジョンをさまよってパーツを集め最強を目指します
三門鉄狼
ファンタジー
目覚めると、リビングアーマーだった。
身体は鎧、中身はなし。しかもレベルは1で超弱い。
そんな状態でダンジョンに迷い込んでしまったから、なんとか生き残らないと!
これは、いつか英雄になるかもしれない、さまよう鎧の冒険譚。
※小説家になろう、カクヨム、待ラノ、ノベルアップ+、NOVEL DAYS、ラノベストリート、アルファポリス、ノベリズムで掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる