シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣

織部

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ネフェル

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 シシルナ島は冬を迎えた。魔物の森も、冬風の冷たさを感じると、多くの魔物が冬眠に入り、普段の賑わいは嘘のように静まり返っていた。

 ノルドは勉強と薬作りに没頭し、日々を過ごしていた。時折、町へ出向いてノシロの店を手伝ったり、完成した薬をニコラの元へ届けたりもする。

 森へ足を運ぶたび、彼は古代遺跡を訪れて清掃作業を行い、祭壇に蝋燭を灯し、精霊王への祈りを捧げることを日課としていた。

 遺跡に彫られた祭壇の彫刻は「精霊王」を物語っていた。

 その日も、ノルドはヴァルを連れて遺跡に向かっていた。だが――

「あれ?  開いてない?」

 魔物が入り込まないように作った簡単な柵が、誰かの手によって開け放たれていた。

 周囲に魔物の気配は感じられない。それでも、普段とは異なる緊張感が空気に漂っていた。

「誰かが入ったのか……?」

 ノルドは低くつぶやき、ヴァルに合図を送る。小狼はすぐに反応し、静かに前進を始めた。ノルドも続いて遺跡の中へ足を踏み入れる。

 わずかな足音が響くのを感じながら進むと、部屋の中央に白い影が倒れているのが見えた。

 純白のローブを纏った少女が、冷たく硬い石床の上で横たわっている。金髪の長い髪が床に広がってた。

 ヴァルが慎重に近づき、低い姿勢で彼女の様子を伺う。一瞬の沈黙の後、小狼は振り返り、ノルドに向かって短く首を縦に振った。

「う……うん……」

 少女が微睡から目を覚ました。その瞳は、青空を映したように澄んでいる。はっきりとした声が、静まり返った礼拝堂に響いた。

「わぁぁ……!」

 目を開けた彼女は、最初にヴァルを見て驚きの声を上げた。

 しかしすぐに敵意がないと気づいたのか、「ごめん、ごめん!」と慌ててヴァルの頭を撫でる。その無邪気な仕草に、警戒していたヴァルも緊張を解いたようだった。

 少女はゆっくりと立ち上がり、純白のローブの裾を軽く払うと、礼拝堂を見回した。そして、堂々とした様子で岩陰を見つめる。

「私はネフェル。隠れていないで、出てきなさい!」

 その凛とした声に、ノルドは思わず岩陰から顔を出した。なぜだろう、彼女が勝手に忍び込んだはずなのに、叱られているような気がするのだ。

「ノルドだ。ここで、何をしてたの?」

「勝手に入ってごめんね。寒くて仕方なかったの。でも、この礼拝堂……とても綺麗ね。あなたのおかげなの?」

「ああ……でも、こんなに綺麗じゃなかった」

 ノルドが視線を壁へ向けると、古びた彫刻が微かな光に照らされ、神秘的な陰影を
浮かび上がらせていた。

「ふふふ」ネフェルが小さく笑う。

「ところでノルド、お腹が減ったわ! 何か食べるもの持ってない?」

 唐突な頼みに、ノルドは少し眉をひそめたが、すぐにリュックを下ろして中を探った。

 昼食用に用意していたモッツァレラチーズとトマトを挟んだパンを取り出し、丁寧に半分に切る。それを蜂蜜入りホットレモンの入った水筒と一緒に彼女に手渡した。

「ありがとうね。ねえ、ノルド、この島にあるサナトリウムって知ってる?」

「サナトリウム……療養院?」ノルドは眉をひそめた。思い当たる場所がないようだ。

「おかしいなぁ、この近くにあるはずなんだけど」彼女は懐から手紙を取り出し、じっと見つめた。

「もしかして、森の丘の上にある建物のことか?」ノルドは少し考えてから言った。町に降りると、丘の上に白く美しい建物が緑の中にちらりと見えたからだ。

「でも、道の途中に門があって入れなかったよ」

 彼は以前、町と反対側の道を歩いて探索したときのことを思い出す。

「でも、森を通れば行けるかもしれないわ」
 
 彼女は少し考えてから答えた。

「それで、何のために行くんだ?」ノルドは眉をひそめながらも、興味深そうに尋ねた。

 彼女が悪い人には見えなかったが、理由が気になったのだ。

「大切な人に会いに行くの!」

 彼女の声には確かな力がこもっていた。

 ノルドはその言葉に納得し、うなずいた。

「わかった。行ってみよう。でも、もし危険そうだったらすぐに戻るからな」

「ふふふ、大丈夫よ、ノルド!」

 彼女は笑顔を浮かべた。

 ノルドが小川に架けた橋を渡り、さらに森の奥へ進む。険しい森をゆっくりと進んでいくが、ネフェルの動きは飛び跳ねるように軽やかだ。

 まるで森の中で育ったような、すっとした歩き方。年齢は数歳しか上に見えないが、彼女は明らかに森を歩き慣れた冒険者のようだ。

 あの遺跡に到達できることからも、その推測は間違いないだろう。

「まるで母さんのようだ」

「へ?」ネフェルは不思議そうに声を出した。

 森の中では、何故か魔物に襲われることがなく、魔物が逃げていった。やがて、森は一面の大きな崖に突き当たり終わりを迎えた。

「きっと、この上だけど、登れないな」

 まるで世間と隔絶しているような壁だった。崖の中腹にある巣穴に、大きな鳥がいるのが見える。

 じろりとこちらを観察しているのがわかる。その鳥は、羽を広げて大きく空に飛び出し、鋭い鳴き声を上げながら旋回を始めた。

「ガギャァァ!」羽ばたきの音が轟き、威嚇するように森中に響き渡る。

「まずい。あれは鳥の魔物、いや、小さいがグリフォンだ。逃げよう!」

 ノルドと小狼は、森の中に隠れたが、ネフェルは平然と立っている。

 グリフォンは獲物を見つけ急降下し、堂々と立っているネフェルを襲おうとする。

「危ない! 逃げろ!」ノルドは腰のダーツに手をかけ構えた。

「大丈夫よ、ノルド!」

 ネフェルが片手を魔物に向かって差し出す。何も武器を持っていなかったから、魔術師だと思っていた彼の予測通りの動きだ。

 しかし、彼女の動きに何か魔力を感じたが、目に見える魔法は何も発動しなかった。

「何の魔法だ?」ノルドとヴァルは、戦闘体制のまま、見守ることにした。

 グリフォンは、地上に降り立ち、彼女から少し離れて対面し、ネフェルを睨みつけたが、その場から動かなかった。

 鋭い眼差しが、徐々に穏やかで柔らかなものへと変化していく。まるで彼女を認めるかのように、その威圧感は消えていった。

 しばらくすると、グリフォンは急上昇し、ゆっくりと上空を旋回すると、巣に戻って行った。

「うーん。逃げられたか……」

「ネフェル、何してるの? 大丈夫?」

「捕まえて、崖の上に運んでもらおうかと思って」

「え?」

 彼女は、ニタリと微笑んだ。

「私ね、魔物使いなの」

 【後がき】

 お時間を頂き、読んで頂き有難うございます。♡等で応援頂きますと、今後も励みになります。又、ご感想やレビュー等も一行でも頂けますと、飛び上がって喜びます。 引き続きよろしくお願いします!  織部
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