77 / 221
二部
ダンジョン森の最深部
しおりを挟む
「何が起こっているんだろう?」
「うーん、わからないけど、森の奥の方ね」
「今日は、二本目のエルフツリーのアルテアを目指そう」
昨日、冒険者達が歩いていた道を、歩いて行く。まだまだ、小さい魔物か弱い魔物しかいない。
冒険者が切り開いた道は、昨日の平原、練習場から、さらに奥に続いていた。
「これは楽だな。どこまで続いてるんだろうか?」
森を進むと、又、軽い地震で地面が揺れた。少しずつ、地震が激しく間隔が狭くなっている。
ノルドが、物心ついてから初めての経験と言っても良い。リコやヴァルは、恐怖で顔を引き攣らせている。ビュアンは、我関せずの知らないふりをしている。
今朝、ノゾミたちとお茶をしていた時にも、地震が起きていた。
「シチリア島の伝記を聞いたことがあるわ。『それは、精霊王の怒りだ』って」ノゾミは、子供の頃にニコラから読み聞かせてもらったと言う。
「今回の理由は何でしょうか?」ノルドは尋ねた。
「それはわからないわ。でも本当に怖いのは、シシルナ岳が火を吹くことよ!」
シシルナ島は、火山でできた島。そしてその火山こそシシルナ岳だ。
※
「大丈夫かな? ビュアンは精霊の子だよね。何か事情を知らない?」
「さあ、ただの癇癪よ。ほっとけばそのうち収まるわ」
ビュアンは、この話題に触れたくないのか、素っ気なく言った。
精霊の世界のことは、人が安易に口を挟むべきではないのかもしれない——ノルドはそう感じた。
その日は、アルテアで夕寝をすることにした。ここまで来るのに少し距離はあったが、冒険者たちが作った道が一直線に伸びており、この森の中央にそびえるエルフツリーまで迷うことなくたどり着けた。
エルフツリーの周囲の芝生には、二つの立て看板が立っていた。
〈冒険者ギルドより通達〉
◆ エルフツリーの樹液の採取について
ギルドからの正式な依頼以外での採取は禁止する。ただし、緊急事態の場合は例外とする。
◆ ダンジョンの森最深部の探索について
行方不明となる冒険者が後を絶たない。
探索は各人の能力をよく見極め、自己責任で行うこと。
※バインドカズラの発生事例あり。発見者は報告のみでも報酬あり。
通告の看板には、冒険者ギルドの印が入った紙が貼られており、随時更新されているようだった。
※
目を覚ますと、微かだがモリユ茸の匂いが風に乗って運ばれてきた。
「どうしようか?」
「せっかくだもん、探しましょう!」
ここから先は森の最深部だ。だが、これまで遭遇した魔物はどれも弱く、強い魔物の気配すら感じなかった。それでも、油断はできない。
「だけど、この先は山岳地帯だ。僕には登れない段差がある」
「ヴァルがもう少し大きくなれば……」
「クウーン」リコに指摘され、ヴァルは情けない声をあげた。
「リコ、それは言い過ぎだよ。ヴァルはいつも頑張って、ものすごく食べてる。早く、大きくなろうとしてるんだ!」
「へっ?」リコの顔には疑惑の表情が浮かんでいた。
「ワオーン」ヴァルは嘘をついた。
リコは納得していない様子でヴァルをじっと見つめたが、「まあ、ヴァルが頑張ってるならいいけど。私も美味しいもの食べるのは大好きよ!」と肩をすくめた。
進むことに決めたノルド達だったが、ノルドが登れない場所はリコが背負って登ることになった。
「へへん、お姉さんに任せなさい」そのたびに、ノルドを背負い跳躍して登る。恥ずかしかったが仕方がない。
「何なの? ノルド、リコにべったりして、もう知らない!」ビュアンは機嫌を悪くして消えてしまった。
匂いはどんどん強くなり、ノルド達はただひたすら進んだ。ただ、ダンジョン森の深奥部には、ここにしか生えない珍しい薬草もあり、そのたびにノルドが植物図鑑や薬物図鑑で確認していたため、時間がかかってしまった。
モリユ茸を発見したのは、早朝になってからだった。
「あった! ここら辺の樹の根元にあるよ!」
「地図に書くよ! 取りすぎちゃダメだからね!」
「でもいい匂いね!」
次々にリュックに放り込んでいく。茸採取に夢中になり、匂いの強さに気を取られて、ノルド達の感覚が鈍り始めた。静かに動く魔物に囲まれているのに気づくのが遅れてしまう。
「ワオーン」ヴァルが警告の遠吠えをあげた。ノルドのところに、リコとヴァルが駆け寄る。
「囲まれた。まずい、かなりの数だ。逃げよう!」
十匹、数十匹、いや、もっといるかも。どんどんと数が増えていく。
木の上から、石が飛んでくる。ノルドが足を踏み外す。違う、罠だ。
危うく落ちそうになるところを、「風」が起きて、飛び越えてその先の地面に転がった。
「ありがとう、ビュアン」落とし穴の罠の底には、鋭い杭が並んでいた。落ちたら無事では済まない。
「何者だ?」木の上に、隠れながら手の長い人の姿。いや、猿の魔物だ。
「グリムエイプ」集団で狩りをする知力の高い魔物だ。知らない間に、彼らの縄張りに入っていたのだろう。
「ヴァル、リコ、罠に気をつけろ!」
木の上から、猿のボスの指示で、一斉に石が投げられる。きっと罠に誘導しているのだろう。
「一直線に逃げるな!」
逃げるばかりではまずい。ノルドはリュックから催涙弾を取り出した。
「ビュアン、風を頼む!」
ノルドが袋を投げ、ダーツで穴を開ける。そこにビュアンが風を送り、粉を霧状に広げた。
追撃が止んだ。いや、一瞬だ。被害を受けていない魔物が入れ替わり、次の群れが迫ってくる。
ノルド達は、誘導された方向とは逆の、禿げた岩山へと走った。
ノルドの足は遅い。ようやく森の間を抜け、空の見える岩場にたどり着く。そこからは、大森林が見渡せた。
「ふぅ……」息を整えようとした瞬間、
ゴゴゴゴ……!
何本もの大木が転がってきた。集団で木を蹴り落としているのだ。
「ああ、しまった!」
山を降りれば、攻撃されやすくなる。しかし、もう避ける余裕はない。
轟音とともに、大木が襲いかかる。
ノルド達は、岩山の崖から転落した。
「うーん、わからないけど、森の奥の方ね」
「今日は、二本目のエルフツリーのアルテアを目指そう」
昨日、冒険者達が歩いていた道を、歩いて行く。まだまだ、小さい魔物か弱い魔物しかいない。
冒険者が切り開いた道は、昨日の平原、練習場から、さらに奥に続いていた。
「これは楽だな。どこまで続いてるんだろうか?」
森を進むと、又、軽い地震で地面が揺れた。少しずつ、地震が激しく間隔が狭くなっている。
ノルドが、物心ついてから初めての経験と言っても良い。リコやヴァルは、恐怖で顔を引き攣らせている。ビュアンは、我関せずの知らないふりをしている。
今朝、ノゾミたちとお茶をしていた時にも、地震が起きていた。
「シチリア島の伝記を聞いたことがあるわ。『それは、精霊王の怒りだ』って」ノゾミは、子供の頃にニコラから読み聞かせてもらったと言う。
「今回の理由は何でしょうか?」ノルドは尋ねた。
「それはわからないわ。でも本当に怖いのは、シシルナ岳が火を吹くことよ!」
シシルナ島は、火山でできた島。そしてその火山こそシシルナ岳だ。
※
「大丈夫かな? ビュアンは精霊の子だよね。何か事情を知らない?」
「さあ、ただの癇癪よ。ほっとけばそのうち収まるわ」
ビュアンは、この話題に触れたくないのか、素っ気なく言った。
精霊の世界のことは、人が安易に口を挟むべきではないのかもしれない——ノルドはそう感じた。
その日は、アルテアで夕寝をすることにした。ここまで来るのに少し距離はあったが、冒険者たちが作った道が一直線に伸びており、この森の中央にそびえるエルフツリーまで迷うことなくたどり着けた。
エルフツリーの周囲の芝生には、二つの立て看板が立っていた。
〈冒険者ギルドより通達〉
◆ エルフツリーの樹液の採取について
ギルドからの正式な依頼以外での採取は禁止する。ただし、緊急事態の場合は例外とする。
◆ ダンジョンの森最深部の探索について
行方不明となる冒険者が後を絶たない。
探索は各人の能力をよく見極め、自己責任で行うこと。
※バインドカズラの発生事例あり。発見者は報告のみでも報酬あり。
通告の看板には、冒険者ギルドの印が入った紙が貼られており、随時更新されているようだった。
※
目を覚ますと、微かだがモリユ茸の匂いが風に乗って運ばれてきた。
「どうしようか?」
「せっかくだもん、探しましょう!」
ここから先は森の最深部だ。だが、これまで遭遇した魔物はどれも弱く、強い魔物の気配すら感じなかった。それでも、油断はできない。
「だけど、この先は山岳地帯だ。僕には登れない段差がある」
「ヴァルがもう少し大きくなれば……」
「クウーン」リコに指摘され、ヴァルは情けない声をあげた。
「リコ、それは言い過ぎだよ。ヴァルはいつも頑張って、ものすごく食べてる。早く、大きくなろうとしてるんだ!」
「へっ?」リコの顔には疑惑の表情が浮かんでいた。
「ワオーン」ヴァルは嘘をついた。
リコは納得していない様子でヴァルをじっと見つめたが、「まあ、ヴァルが頑張ってるならいいけど。私も美味しいもの食べるのは大好きよ!」と肩をすくめた。
進むことに決めたノルド達だったが、ノルドが登れない場所はリコが背負って登ることになった。
「へへん、お姉さんに任せなさい」そのたびに、ノルドを背負い跳躍して登る。恥ずかしかったが仕方がない。
「何なの? ノルド、リコにべったりして、もう知らない!」ビュアンは機嫌を悪くして消えてしまった。
匂いはどんどん強くなり、ノルド達はただひたすら進んだ。ただ、ダンジョン森の深奥部には、ここにしか生えない珍しい薬草もあり、そのたびにノルドが植物図鑑や薬物図鑑で確認していたため、時間がかかってしまった。
モリユ茸を発見したのは、早朝になってからだった。
「あった! ここら辺の樹の根元にあるよ!」
「地図に書くよ! 取りすぎちゃダメだからね!」
「でもいい匂いね!」
次々にリュックに放り込んでいく。茸採取に夢中になり、匂いの強さに気を取られて、ノルド達の感覚が鈍り始めた。静かに動く魔物に囲まれているのに気づくのが遅れてしまう。
「ワオーン」ヴァルが警告の遠吠えをあげた。ノルドのところに、リコとヴァルが駆け寄る。
「囲まれた。まずい、かなりの数だ。逃げよう!」
十匹、数十匹、いや、もっといるかも。どんどんと数が増えていく。
木の上から、石が飛んでくる。ノルドが足を踏み外す。違う、罠だ。
危うく落ちそうになるところを、「風」が起きて、飛び越えてその先の地面に転がった。
「ありがとう、ビュアン」落とし穴の罠の底には、鋭い杭が並んでいた。落ちたら無事では済まない。
「何者だ?」木の上に、隠れながら手の長い人の姿。いや、猿の魔物だ。
「グリムエイプ」集団で狩りをする知力の高い魔物だ。知らない間に、彼らの縄張りに入っていたのだろう。
「ヴァル、リコ、罠に気をつけろ!」
木の上から、猿のボスの指示で、一斉に石が投げられる。きっと罠に誘導しているのだろう。
「一直線に逃げるな!」
逃げるばかりではまずい。ノルドはリュックから催涙弾を取り出した。
「ビュアン、風を頼む!」
ノルドが袋を投げ、ダーツで穴を開ける。そこにビュアンが風を送り、粉を霧状に広げた。
追撃が止んだ。いや、一瞬だ。被害を受けていない魔物が入れ替わり、次の群れが迫ってくる。
ノルド達は、誘導された方向とは逆の、禿げた岩山へと走った。
ノルドの足は遅い。ようやく森の間を抜け、空の見える岩場にたどり着く。そこからは、大森林が見渡せた。
「ふぅ……」息を整えようとした瞬間、
ゴゴゴゴ……!
何本もの大木が転がってきた。集団で木を蹴り落としているのだ。
「ああ、しまった!」
山を降りれば、攻撃されやすくなる。しかし、もう避ける余裕はない。
轟音とともに、大木が襲いかかる。
ノルド達は、岩山の崖から転落した。
7
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。
国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。
悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
婚約破棄から50年後
あんど もあ
ファンタジー
王立学園の卒業パーティーで、王子が婚約者に婚約破棄を宣言した。王子は真に愛する女性と結ばれ、めでたしめでたし。
そして50年後、王子の孫の王子は、婚約破棄された女性の孫と婚約する事に。そこで明かされた婚約破棄の真実とは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる