完結 シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣

織部

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蠱惑の魔剣

誇りなき島、誇りある者

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「だから、お願いしますよ。ノルドさん」
ギルドの受付嬢、ミミが頼んできた。
「いや、しかし俺は、貴族の相手なんて出来ないぞ!」

ノルドは珍しく厳しい口調で話す。
「他にいないんですよ。ノルドさんも知ってますよね、他の荷運び人の方々」
 確かに、このギルドに所属する荷運び人たちは、ガラが悪い。もっとも、もとはそうではなかった。
「でも、彼らだけの責任じゃないよ」

 くたびれて、皮肉屋で、いつも飲んだくれている彼らの顔が脳裏に浮かぶ。
 荷運び人の貰える報酬は少ない。同行したパーティがダンジョン攻略に失敗すれば、一ゴールドも貰えない。ただ働きの上に、遺品の回収や家族への連絡など、心が痛くなる作業を任されることもある。
 
ノルドは荷運び人としてまだ二年だが、その苦労は骨身にしみてわかっていた。
 このシシルナ島は中位ダンジョンの拠点だ。冒険者は運良く成長すれば上位ダンジョンへと旅立つ。そうでなければ、ダンジョンで命を落とす。

 荷運び人は基本的に遠征ごとの契約だ。気に入られれば、同じパーティと長期契約を結ぶこともある。

 だが、例外なく、彼らは最後に置き去りにされる。
 成功して生き延びた冒険者は若いうちに稼ぎ、体力が衰えた頃に引退する。
 しかし、荷運び人は戦闘に参加しない。引退のタイミングも自由に生きる金もない。

「頼むよ、ノルド。この間も大事件があっただろう?」
 副ギルド長ドラガンが現れて、深く頭を下げた。
 それは荷運び人が預かった財宝や金銭を横領していたことが発覚した事件だった。どのギルドでも、たまに発生する軽微な不正ではあった。

 だが、シシルナ島でのそれは特に悪質で、組織的な犯行とされた。
 そのため、島内のほとんどの荷運び人が調査対象となり、ほぼ全員が黒と判定される異常事態にまで発展した。
 島の警備隊が動員され、冒険者ギルドにも緊張が走る。

 当然、ノルドも捜査の対象となった。
 事件の発端は、シシルナ島の島主がヴァルターク王国の依頼で採掘していた貴重な鉱物資源だった。
 
納期に合わせて献上された鉱物は、王国から多額の謝礼金と敬意を受け取るにふさわしい……はずだった。だが、王国が箱を開けた瞬間、異変に気づいた。

 鑑定の結果、依頼されたものとは異なる鉱物が大量に混入していたのだ。
 島主は激怒し、犯人捜しを命じた。

「徹底的に調べろ!  面目が丸潰れだ!」
 捜査の途中、鑑定人と商人の家から裏帳簿が発見された。
 そこには荷運び人たちとの裏取引の記録が記されていた。

 彼らは業務には含まれない、冒険者から預かった財宝や採取物の換金を代行していたが、不正流用していたのだ。
 その瞬間、ノルドの心臓が強く脈打った。

(やっぱり……)
 特にシシルナ島では、荷運び人がほぼ固定されていたため、こうした不正は容易だった。

 監察官サガンは、ノルドという少年を呼び出した。
「ノルド君。君だけは裏帳簿が出てこなかった。だから、これは形式的な取り調べと考えてほしい。君も取引代行をしているよね?」
「はい。でも僕は、マージンやキックバックを受け取っていません」
「キックバックはともかく、マージンは君の正当な権利だろう? なぜ取らない?」

「別にいらないんです」それは、ノルドの矜持でもあった。

「……君に少し興味が湧いてきたよ。君のお母さん、サナトリウムにいるよね? あそこは相当な金がないと入れない場所だが……お母さんも君を心配していたよ」

 その言葉を聞いた瞬間、ノルドの体が燃え上がるような怒りに包まれた。

「お前!  母さんに何をした!」
 ノルドの声は低く、怒りに満ちていた。
 サガンはわざと間を空けてから、さらに冷酷な言葉を放つ。

「何もしてないさ。ただ少し話をしただけだ。お前の母親、病気がひどいようだな。頭も禿げて、顔も爛れてきているんだな。子供の頃、怖かっただろう?」
 ——母さんが、僕を守るために命をかけてついた傷だ。
 物心つく前のことだ。何も覚えていない。

 けれど、母の姿を見るたび、心の奥に何かが突き刺さるような痛みがあった。

「バカにするな!」
 ノルドは激しい怒りに突き動かされ、サガンを殴り倒した。
 どんな誹謗中傷にも耐えられたが、母親を侮辱されたことだけは、許せなかった。
 サガンは目を見開き、驚いたような表情を浮かべた。だがすぐに顔を歪め、余裕を持って言った。

「おや、やっと素顔を見せたか」
 警備員たちに取り押さえられたノルドは、監察局の独房へと収監された。

「ノルド、大丈夫?」
 ひと気のない監獄に、妖精ビュアンが現れ、心配そうに声をかける。
「あれくらいで手を出すなんて……反省しているよ」

「何言ってるの? あいつ、殺そうか?」
「いや、いい。そんな価値もないさ。ヴァルは大丈夫か?」
 ビュアンの言葉に、ノルドは少し驚いて慌てて否定した。

「ヴァルなら、走って行っちゃったよ。冷たい狼ね」
「その方が安心だ」
「ノルドと二人きりなんて久しぶり。少し嬉しいな」

 ビュアンはノルドの周りを軽やかに飛び回った。けれど、その目は笑っていなかった。
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