完結 シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣

織部

文字の大きさ
137 / 221
蠱惑の魔剣

ラゼル一行とダンジョン探索

しおりを挟む
ラゼル一行とのダンジョン探索は、無事に一日目を終えた。ノルドは彼らと共に冒険者ギルドへ戻り、副ギルド長の部屋へ直行した。

「ドラガンさん、ただいま戻りました」
「おお、ノルドか。入ってくれ。ラゼル王子様たちも、お疲れ様でした」
「いや、疲れてはいない。それに、噂ほど強い魔物もいなかったな」

 ラゼルは立ったまま腕を組み、余裕を漂わせていた。
 そこへ、受付嬢のミミが慌ただしくお茶を運んでくる。ラゼルは彼女に目をやり、にやりと笑った。
「可愛いギルド職員さんだね」

 その瞬間、ドラガンが前に出てミミの前に立ちはだかる。
「すみません、彼女は仕事中でして」
 そう言ってミミを外に誘導し、ヴァルも静かに後に続いた。去り際にラゼルを一瞥し、小さく鼻を鳴らす。

 ラゼルの同行者である女性陣は対照的に疲れ切った様子でお茶を口にしていた。新たなダンジョン探索で精神を削られたのだろう。特にカリスの疲労は明らかだった。

 あれほど魔力を使えば当然だ。ノルドも同情の眼差しを向けた。採掘作業の多くが、彼女の魔法頼りだったのだから。

「マジックポーションをどうぞ」
 ノルドは自家製の中級ポーションをそっと差し出した。
「でも……お金が。それに、私も作ってあるし」
 カリスは自分の薬を袋から取り出そうとしたが、魔力切れで手が震えて上手く取り出せない。
「ギルド持ちです。薬師の私のポーションの方が効きますよ」

 ノルドは囁くように言い、震えている手に握らせた。カリスは一瞬迷ったが、静かにノルドのポーションに口をつけた。

「ありがとう。さすがね……すぐ効いてきたわ」
 青白かった顔色が少しずつ戻っていく。
「いえいえ、ご利用ありがとうございました。次もぜひどうぞ」
 ノルドは柔らかく微笑んだ。

 魔力の回復はできても、精神の疲労までは癒せない。それでも、文句も弱音も吐かないカリスの姿に、ノルドは感心せざるを得なかった。

「今日回収した魔石を出します」
 ノルドは収納魔法で魔石を取り出し、机の上に整然と並べた。
「これで全部だな。お前の収納にあるものをすべて出せ」
 ラゼルが鋭い声で命じた。

「申し訳ありませんが、他のお客様の大切な預かり物もございますので」
「そんなはずはないだろ!」
「本当です、ラゼル様。聖王国のグラシアス商会などの物もあります」
 カリスが疲れた声で口を挟んだ。

「聖王国……それは本当ですか?」
 今まで無言だったフィオナが驚いたように声を上げた。
「ははは、ノルド君の後見人の一人だと島主様から聞いてますよ」
 ドラガンが余計な一言を添える。

「ラゼル様、私が数を数えております。換金でよろしいのですね?」
「ああ、それなら任せる。金は後で持ってこい。明日は休みだったな?」
「はい、休養日です」

「わーい、休みだぁ!」
 犬女族のサラが跳ねて、尻尾を振った。
「じゃあ俺は港町に行く。フィオナ、いつものところだぞ」

 そう言い残し、ラゼルは部屋を後にした。彼が姿を消すと、空気がほんの少し緩んだように感じられた――誰もそれを口にしなかったが。
「それじゃ、疲れたから宿に戻るわ。処理は任せたわね」
 カリスが重い腰を上げた。

「じゃあ私も帰る~。お腹減った!」
 サラも元気に立ち上がる。
「買取金額とか、確認しなくていいの?」フィオナが尋ねた。
「貴女だけなら心配だけど、ノルドがいるなら大丈夫。それじゃ、ポーションありがとう、ノル」

 扉の向こうに、重たい足音と軽やかな足音が消えていく。
「それでは、数えましょう」
 ノルドは魔石を種類ごとに丁寧に並べていった。
 フィオナは黙ってその様子を眺めていたが、ふと身を寄せてくる。その体温と、ふわりと香る匂いが気になった。

「フィオナさん、合ってますか?」
「さあ。全部出したなら、合ってるんじゃない? で、いくらになるの?」

 彼女はラゼルに嘘をついた――ノルドは迷いながらも正直に答える。
「販売方法によります。このままギルドの商人に売る方法と、私の知人の商人に売る方法です。後者のほうが高くなりますが、即金は難しいかと」

 その知人とは、グラシアス商会のことだ。他の冒険者にもしていることで、隠したくはない。
「実はあまり持ち合わせがなくて……モディナ村で使った支払いは、島主様かラゼル王子と聞いてるんだけど……」
「いえ、そんな訳が。本日の収入から頂きたいのです」

 実際、ギルドは数百ゴールドの立て替えをしていた。
「島主様に請求してくださいね。じゃあ、安心したわ。ノルド、即金でもらえる?」強引に話を進めるフィオナ。纏う雰囲気とは正反対でノルドは驚いた。

 ドラガンは渋い顔をしたがそれ以上何も言わなかった。
「では、下の商人カウンターへ行きましょう」
「あら、ノルドが知人の商人に売ってくれたら即金で私が受け取れるじゃない。薬師さんなんだから、お金いっぱい持ってるんでしょ?」

「すみません、小銭しか持ってないんです。お金の管理は他の人がしてまして……」
「ノルドは嘘ついてないよ。ニコラ孤児院が管理してるから!」
 ドラガンが口を挟んだ。

「あら……ごめんなさい。ノルドって、修道院の奉仕者だったのね。偉いわ」
 フィオナは勘違いしていたが、ノルドはあえて訂正しなかった。
 ドラガン立ち会いのもと、商人に換金を依頼する。ノルドが普段売る価格よりは高かった。

「きっかり百ゴールドだ。これで勘弁してくれ」商人は苦々しい顔をした。
「こんなに大量なのに?」

 上層で採れる鉱石では珍しいものは出にくい。だが、数と質が揃っていたからこその額だった。普通の冒険者なら二十ゴールドがいいところだ。

「普通の荷運び人は、管理費も交渉費も取るんだ。でも、ノルドは取らない」
「助かるわ、奉仕人ノルド。私はこれから港町に行くの。ラゼル王子のツケを払わないといけないから。これ、カリスに渡してくれる?」

 二十ゴールドをノルドに預けると、フィオナは用が済んだとばかりにギルドを出て行った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

婚約破棄から50年後

あんど もあ
ファンタジー
王立学園の卒業パーティーで、王子が婚約者に婚約破棄を宣言した。王子は真に愛する女性と結ばれ、めでたしめでたし。 そして50年後、王子の孫の王子は、婚約破棄された女性の孫と婚約する事に。そこで明かされた婚約破棄の真実とは。

処理中です...