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白の番犬/幼少期
プロローグ7
この土地に来て、初めての一人行動だ。
レインは入り口の受付へ何か話すと、用事があると言ってどこかへ行ってしまった。
悠斗はそのまま会場の中へ進むと、まずは撮影と測定器で髪や唾液などを採取された。
そして別の部屋へ通され、車の免許会場のような解説動画を見ている。
『ご安心ください。言語は自動で翻訳されています』
そう言われてみれば今の今まで気にも留めなかったけど、普通に会話できてるな。
後は概ねジフやレインから聞いていた内容ではあった。
新たな情報といえば、体調が悪くなれば無料で検査を受けられる事、転移時の持ち物は国が預かる事、国が管理する場所で衣食住無料で保証されるが研究や情報提供に協力する事などだ。
異邦者のコミュニティも入れるそうだが、すぐには行けないかもしれないと断ると、ちょっと残念そうな顔をされたがいつでもお気軽にお越しくださいとだけ言われた。
相談窓口の連絡先と端末を手渡され、担当事務員に丁寧に説明を受ける。
「お疲れ様でしたー!転移時のお荷物はこちらで回収させていただきまーす!」
やたらと明るくて、眼鏡をかけピッタリと髪を撫で付けた受付が両手を出している。
「す、すみません…実はここに来る前に売り払ってしまいまして…」
一瞬キョトンとした顔をしたものの、資料をめくり納得した様子で頷いた。
「あー。ジフさんトコの人でしたか!いやはや、さすが!ジフさんってちゃっかりしてるなぁー!!持ち物0、売却済みって書いときますね!」
「ジフさんのお知り合いですか?機械関係の方?」
「やだなぁ!僕がそんな細かい仕事できるように見えます?あ、レインくん来ましたよ。外で待ってるみたいですね。また何かあればいつでもお気軽にお越しください。では良い一日を」
そう言われると気付けば外に出ていた。
あまりの暴風のような挙動にポカンと開いた口が塞がらない。
「どうしたんだ?呆けた顔して」
レインが固まったままだった悠斗に声をかけてきた。
「ジフさんの知り合いって人に声をかけられたけど嵐のような人だった」
「ジフにも交友関係の一つや二つあるだろうが、特別親しい人間を見た事がない」
レインもだけど、ジフも大概謎だよな。
「そっか、じゃあ聞かなかった事にして」
「分かった。まだ時間があるから先に昼飯取ったら街を周るか」
「うん!街周るの楽しみ!!」
この街は煉瓦造りの高さの低い建物が多く活気にあふれている。
「じゃあ俺のおすすめの…」
食事に向かおうとした時、後方から叫び声が聞こえた。
「ひぃッ!ごめんなさい、ごめんなさい…助けてください…」
みると男性が複数の男達に囲まれてボコボコに殴られている。
そしてそれを周りはいつも通りの景色と言わんばかりに見て見ぬふりをしている。
殴られた男性はだんだんと声もあげることが出来なくなりぐったりしている。
「あれ…あの人死んじゃうんじゃ…」
同じく知らんぷりを決め込んでいたレインがため息をついた。
「可哀想だとか助けたいなんて思うなよ?お前の世界がどうだったかは知らないけど、あの男が盗みや殺人を犯したかもしれないだろ。複数人で報復は情けないとは思うけどな」
納得していなさそうな悠斗にレインは更に言葉を付け加えた。
「この国ではあらゆる場所で録画されてるから、行動の記録が確認できる。素人が手を出すと余計にややこしくなるから法に任せればいいんだよ。悠斗、この世界で生き残りたいなら自分ができる以上の事はしない方がいい」
「そっか…。そうだね」
レインの言う通り、警察官のような人物がすぐさま現れた。
「けどまあ、見ていて気分がいいものではないのは確かだ。メシ、持ち帰りでいいか?」
「うん…ありがとう」
***
帰りの車の中でさっき起きた出来事を思い返していた。レインも空気を読んで話しかけては来なかった。
もしジフに協力をしてもらえなくても国に頼らず生活しようと思っている。
そうする以上、さっきみたいな危険はついて回るだろう。
それが嫌なら国に守ってもらって、知らない異世界人と一緒に死ぬまで安全圏でシェルターの中で暮らせばいい。
だけどそうなると、異世界へ通じるゲートの研究はできなくなる。
さっきの動画でも危険だという理由でゲートに関わる事は禁忌と言っていたから国の管理下で、ましてや魔力がなく誰かに頼らなくてはならない状況でできる訳がない。
悠斗には確信があった。
一方通行なんてあり得ない。体を丸々元の世界に戻す事が出来なくても、向こうへ何らかのアプローチができれば帰る方法が見つかるはずだと。
気丈に振る舞ってはいても、帰りたいに決まっている。
その為には腹を括る必要がある。
「ねえ、レイン」
「何だ」
「ジフは協力してくるかな?」
「するだろ。間違いなく。お前は出会って日が浅いから知らないだろうがな、口を開けば俺ならもっとこうするだの、新しくアイディア思いついただのうるさいんだ。せっかくのチャンスを不意にするわけない。あいつは根っからの機械バカなんだ」
「機械バカ…」
「賭けてもいい。多分もう既に何か作っててお前に見せたくてうずうずしてるぞ」
「…そうなの?」
「これ、ボールペンやシャープペンが思ったより高く売れた事だし、ジフに言われていた金額よりかなり多めに資金ができたんだ。だからといって無駄遣いするなよ?」
ずいっと金が入った袋を渡された。
「この金を使ってどうしたいかはお前の自由だ。何をして、どう生きたいのかもな。好きに生きればいい」
「レイン…」
張り詰めていた緊張の糸が切れてしまったらしい。涙でぐしゃぐしゃの顔を見られたくなくて、レインの肩に顔を埋めた。
レインは最初はビクッと固まったものの、ぎこちなく背中を撫でてくれる。
やっぱりその手は温かくて、優しくて、なんだかホッとした。
***
「あー…。どうだった。いや、その何だ」
ジフが腰に手を当てウロウロしている。
「無事に登録して、身分証明書のようなものを発行してもらいました」
そうか…と言いながらまたジフはウロウロし始める。
「いいか、悠斗。預かるだけだ。いつかはお前に返すからな?」
手元には綺麗に包まれたPCとスマホがある。
「ジフのくせに気持ち悪いな。はっきり一緒に仕事しようって言ったらどうだ」
「ぐっ…このマセガキめ…」
レインの言う通り、ジフは新しく考えた設計図を見せてきた。
さて、これから忙しくなるぞ。
ーーーーーー
幼少期完。次回から大人編です。
レインは入り口の受付へ何か話すと、用事があると言ってどこかへ行ってしまった。
悠斗はそのまま会場の中へ進むと、まずは撮影と測定器で髪や唾液などを採取された。
そして別の部屋へ通され、車の免許会場のような解説動画を見ている。
『ご安心ください。言語は自動で翻訳されています』
そう言われてみれば今の今まで気にも留めなかったけど、普通に会話できてるな。
後は概ねジフやレインから聞いていた内容ではあった。
新たな情報といえば、体調が悪くなれば無料で検査を受けられる事、転移時の持ち物は国が預かる事、国が管理する場所で衣食住無料で保証されるが研究や情報提供に協力する事などだ。
異邦者のコミュニティも入れるそうだが、すぐには行けないかもしれないと断ると、ちょっと残念そうな顔をされたがいつでもお気軽にお越しくださいとだけ言われた。
相談窓口の連絡先と端末を手渡され、担当事務員に丁寧に説明を受ける。
「お疲れ様でしたー!転移時のお荷物はこちらで回収させていただきまーす!」
やたらと明るくて、眼鏡をかけピッタリと髪を撫で付けた受付が両手を出している。
「す、すみません…実はここに来る前に売り払ってしまいまして…」
一瞬キョトンとした顔をしたものの、資料をめくり納得した様子で頷いた。
「あー。ジフさんトコの人でしたか!いやはや、さすが!ジフさんってちゃっかりしてるなぁー!!持ち物0、売却済みって書いときますね!」
「ジフさんのお知り合いですか?機械関係の方?」
「やだなぁ!僕がそんな細かい仕事できるように見えます?あ、レインくん来ましたよ。外で待ってるみたいですね。また何かあればいつでもお気軽にお越しください。では良い一日を」
そう言われると気付けば外に出ていた。
あまりの暴風のような挙動にポカンと開いた口が塞がらない。
「どうしたんだ?呆けた顔して」
レインが固まったままだった悠斗に声をかけてきた。
「ジフさんの知り合いって人に声をかけられたけど嵐のような人だった」
「ジフにも交友関係の一つや二つあるだろうが、特別親しい人間を見た事がない」
レインもだけど、ジフも大概謎だよな。
「そっか、じゃあ聞かなかった事にして」
「分かった。まだ時間があるから先に昼飯取ったら街を周るか」
「うん!街周るの楽しみ!!」
この街は煉瓦造りの高さの低い建物が多く活気にあふれている。
「じゃあ俺のおすすめの…」
食事に向かおうとした時、後方から叫び声が聞こえた。
「ひぃッ!ごめんなさい、ごめんなさい…助けてください…」
みると男性が複数の男達に囲まれてボコボコに殴られている。
そしてそれを周りはいつも通りの景色と言わんばかりに見て見ぬふりをしている。
殴られた男性はだんだんと声もあげることが出来なくなりぐったりしている。
「あれ…あの人死んじゃうんじゃ…」
同じく知らんぷりを決め込んでいたレインがため息をついた。
「可哀想だとか助けたいなんて思うなよ?お前の世界がどうだったかは知らないけど、あの男が盗みや殺人を犯したかもしれないだろ。複数人で報復は情けないとは思うけどな」
納得していなさそうな悠斗にレインは更に言葉を付け加えた。
「この国ではあらゆる場所で録画されてるから、行動の記録が確認できる。素人が手を出すと余計にややこしくなるから法に任せればいいんだよ。悠斗、この世界で生き残りたいなら自分ができる以上の事はしない方がいい」
「そっか…。そうだね」
レインの言う通り、警察官のような人物がすぐさま現れた。
「けどまあ、見ていて気分がいいものではないのは確かだ。メシ、持ち帰りでいいか?」
「うん…ありがとう」
***
帰りの車の中でさっき起きた出来事を思い返していた。レインも空気を読んで話しかけては来なかった。
もしジフに協力をしてもらえなくても国に頼らず生活しようと思っている。
そうする以上、さっきみたいな危険はついて回るだろう。
それが嫌なら国に守ってもらって、知らない異世界人と一緒に死ぬまで安全圏でシェルターの中で暮らせばいい。
だけどそうなると、異世界へ通じるゲートの研究はできなくなる。
さっきの動画でも危険だという理由でゲートに関わる事は禁忌と言っていたから国の管理下で、ましてや魔力がなく誰かに頼らなくてはならない状況でできる訳がない。
悠斗には確信があった。
一方通行なんてあり得ない。体を丸々元の世界に戻す事が出来なくても、向こうへ何らかのアプローチができれば帰る方法が見つかるはずだと。
気丈に振る舞ってはいても、帰りたいに決まっている。
その為には腹を括る必要がある。
「ねえ、レイン」
「何だ」
「ジフは協力してくるかな?」
「するだろ。間違いなく。お前は出会って日が浅いから知らないだろうがな、口を開けば俺ならもっとこうするだの、新しくアイディア思いついただのうるさいんだ。せっかくのチャンスを不意にするわけない。あいつは根っからの機械バカなんだ」
「機械バカ…」
「賭けてもいい。多分もう既に何か作っててお前に見せたくてうずうずしてるぞ」
「…そうなの?」
「これ、ボールペンやシャープペンが思ったより高く売れた事だし、ジフに言われていた金額よりかなり多めに資金ができたんだ。だからといって無駄遣いするなよ?」
ずいっと金が入った袋を渡された。
「この金を使ってどうしたいかはお前の自由だ。何をして、どう生きたいのかもな。好きに生きればいい」
「レイン…」
張り詰めていた緊張の糸が切れてしまったらしい。涙でぐしゃぐしゃの顔を見られたくなくて、レインの肩に顔を埋めた。
レインは最初はビクッと固まったものの、ぎこちなく背中を撫でてくれる。
やっぱりその手は温かくて、優しくて、なんだかホッとした。
***
「あー…。どうだった。いや、その何だ」
ジフが腰に手を当てウロウロしている。
「無事に登録して、身分証明書のようなものを発行してもらいました」
そうか…と言いながらまたジフはウロウロし始める。
「いいか、悠斗。預かるだけだ。いつかはお前に返すからな?」
手元には綺麗に包まれたPCとスマホがある。
「ジフのくせに気持ち悪いな。はっきり一緒に仕事しようって言ったらどうだ」
「ぐっ…このマセガキめ…」
レインの言う通り、ジフは新しく考えた設計図を見せてきた。
さて、これから忙しくなるぞ。
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幼少期完。次回から大人編です。
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