世紀末な異世界で餌付けした少年は番犬へと成長した

メカラウロ子

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白の番犬/10年後

過去4

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田中は魔法でできた手錠のようなもので動きを封じられている。悠斗同様全く魔法は使えないから抵抗もしなかった。

最も、そんな気はさらさらなかったかもしれない。


「僕は悠斗くんと近い時代の人間だけど、最初にこの世界に召喚されたのは110年近く前。その時代の召喚技術は酷いもので、僕は奇跡的に無傷だった。

当時はインフラも整ってなくて真っ当に暮らしたい一心だったよ。魔法ってチートもある事だしね。上下水道周りを整えたの褒めて欲しいな。

上下水道のおかげで劇的に病気が減ったらしい。
そしたら功績を称えられて王になって欲しいって言われた。僕が来た頃にはもう既に王は血筋が絶えていて、みんなの希望として、この世界の象徴としていて欲しいって言われた。まだ僕は若かったから、純粋に誰かの為になるのならって受け入れたよ。

その時出会ったのがスイだ。代々魔力が多くて王家の番犬と呼ばれている家の末裔だから王に使える事ができて誇らしいと言ってくれた。

僕もスイに手伝ってもらって君達みたいに色々実験したから懐かしいなって微笑ましく見てた。

それなりに楽しく暮らしていたと思う。スイとは君達みたいな関係ではなかったけど、僕にとって大切な人だった。

だけど、ある日僕は知ってしまったんだ。
召喚された日以来ゲートに入る事ができなかった。だけどゲートを厳重に閉じていた理由が分かったよ。最初から往復できる設計だったんだ。

もちろん、成功率は100%ではないけど失敗してもいいから帰りたいって君だって思うよね?

だから僕は帰る事にした。事実が公表されるのを恐れたこの国の政治家達は掌返して見送ってくれたよ。

僕はこの世界全てに裏切られた気分だったんだ。だからもう帰る事しか考えていなかった。

スイとはそれっきりだよ。

10代の頃に異世界に呼び寄せられて20年くらいは経っていた。

だけどそこからが辛かった。

僕は日本に戻って神隠しから生還したとニュースにもなった。

でも実際の所は腫れ物扱いだった。今更まともに就職なんてできないし、いや、それ以前に、まともな人間では居られない。

両親も還暦、兄は結婚して子供もいて、電話くらいでしか話さなかった。きっと僕をどう扱えば良いのかわからなかったんだと思う。

あぁ、誰も歓迎していない、帰ってきてはいけなかったんだと思い知らされたよ」

これは自分だってあり得る未来だ。悠斗がもし日本に帰っても、家族や友人は子供の頃のように受け入れてくれるだろうか。


「ずっと家に引きこもっていたんだけど、向こうから戻って来た時にハブになっていた機械を偶然見つけたんだ」

差し出され中の物を手のひらに置かれた。小さい四角い媒体を悠斗は受け取った。

「もう一度スイに会いたくて、それ使って戻ってきたらみんな大喜びでさ、王の再来だって。馬鹿みたいでしょ?

でもその時にはもうスイも居なくて、何のために戻って来たんだろうってガッカリしてた所だった。日本にまた帰ろうと思っていたんだけど、ゲートを閉鎖するにはどうしたらいいか、この国の中枢から相談を受けたんだ。

砂嵐ってゲートが発動する時のエネルギーによって起きてるんだけど、政府はそれを止めたかったらしい。

国民の為じゃなくて、被害が出た後の復興資金が膨大だからだって。

そして、国民からも異世界から人を呼び寄せるなんて人権侵害だと不平不満が出ていた。つまり国からしたらゲートの稼働を止める事はwin-winだった。

だけど不公平だよね?僕はこんなに辛い思いをしてきたのに」

「だから…暴走させたって事ですか?」

「暴走と言っても一時的なものだよ?僕だって帰れなくなるのも困るからね」

彼は全く悪びれていない。さも当たり前かのように、自分の行いに何も疑問を持っていないようだった。

「悠斗くん達に初めて会った時は驚いたよ。スイに似た見た目の少年が自分と同じ日本人の側に居るから。君の事を全身で愛してる彼を見て、僕と君とは何が違うんだろうって嫉妬したよ。でもね、もう疲れたんだ。君達を見て、今までの努力は何だったんだろうって思ったから」

自分にはレインとジフが居た。ライフラインも整理されていたし、食糧についても解決してくれたのは彼だ。もし最初に召喚されたのが自分だとしたらここまでできるとは思えないから、やっぱり凄い人なんだと思う。

お互いのスタートラインが違うから彼を否定する事ができない。でも…。

「同情なんかはしません。あなたがゲートを暴走させたせいで来たくもない人に迷惑をかけて、危険に晒され砂漠から見つけられなくて亡くなった人もいる。だからあなたがもう戻って来れないように、シェルターにいる帰りたい人達を彼らの世界へ返したらゲートを破壊します」

「悠斗くんみたいに、優しくて賢くて、ちょっと抜けてる方が可愛げがあって、その方がみんなに愛されるのかな?」

「そんなっ…」

その時レインがずいっと二人の間に立った。

「結局お前は自分が注目されないからって駄々をこねているだけだ。アンタ、自分が一番じゃないと気が済まないクチだろ?悠斗はここに居ようが元いた世界に戻ろうが上手くやるさ。自分の事しか考えていないお前と一緒にするな」

「…そうだね」

スイ…。悠斗は確かに彼がそう呟くのを聞いた。


ーーーーーー

元々プロットでは絶対悪な設定だった田中(偽名)。
紆余曲折あって湿度高めな男へ変貌する。
スイ(レイン)にまた会いたくて悠斗を誘拐したのかもしれない。
どうしてこうなった。
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