18 / 20
白の番犬/10年後
過去4
しおりを挟む
田中は魔法でできた手錠のようなもので動きを封じられている。悠斗同様全く魔法は使えないから抵抗もしなかった。
最も、そんな気はさらさらなかったかもしれない。
「僕は悠斗くんと近い時代の人間だけど、最初にこの世界に召喚されたのは110年近く前。その時代の召喚技術は酷いもので、僕は奇跡的に無傷だった。
当時はインフラも整ってなくて真っ当に暮らしたい一心だったよ。魔法ってチートもある事だしね。上下水道周りを整えたの褒めて欲しいな。
上下水道のおかげで劇的に病気が減ったらしい。
そしたら功績を称えられて王になって欲しいって言われた。僕が来た頃にはもう既に王は血筋が絶えていて、みんなの希望として、この世界の象徴としていて欲しいって言われた。まだ僕は若かったから、純粋に誰かの為になるのならって受け入れたよ。
その時出会ったのがスイだ。代々魔力が多くて王家の番犬と呼ばれている家の末裔だから王に使える事ができて誇らしいと言ってくれた。
僕もスイに手伝ってもらって君達みたいに色々実験したから懐かしいなって微笑ましく見てた。
それなりに楽しく暮らしていたと思う。スイとは君達みたいな関係ではなかったけど、僕にとって大切な人だった。
だけど、ある日僕は知ってしまったんだ。
召喚された日以来ゲートに入る事ができなかった。だけどゲートを厳重に閉じていた理由が分かったよ。最初から往復できる設計だったんだ。
もちろん、成功率は100%ではないけど失敗してもいいから帰りたいって君だって思うよね?
だから僕は帰る事にした。事実が公表されるのを恐れたこの国の政治家達は掌返して見送ってくれたよ。
僕はこの世界全てに裏切られた気分だったんだ。だからもう帰る事しか考えていなかった。
スイとはそれっきりだよ。
10代の頃に異世界に呼び寄せられて20年くらいは経っていた。
だけどそこからが辛かった。
僕は日本に戻って神隠しから生還したとニュースにもなった。
でも実際の所は腫れ物扱いだった。今更まともに就職なんてできないし、いや、それ以前に、まともな人間では居られない。
両親も還暦、兄は結婚して子供もいて、電話くらいでしか話さなかった。きっと僕をどう扱えば良いのかわからなかったんだと思う。
あぁ、誰も歓迎していない、帰ってきてはいけなかったんだと思い知らされたよ」
これは自分だってあり得る未来だ。悠斗がもし日本に帰っても、家族や友人は子供の頃のように受け入れてくれるだろうか。
「ずっと家に引きこもっていたんだけど、向こうから戻って来た時にハブになっていた機械を偶然見つけたんだ」
差し出され中の物を手のひらに置かれた。小さい四角い媒体を悠斗は受け取った。
「もう一度スイに会いたくて、それ使って戻ってきたらみんな大喜びでさ、王の再来だって。馬鹿みたいでしょ?
でもその時にはもうスイも居なくて、何のために戻って来たんだろうってガッカリしてた所だった。日本にまた帰ろうと思っていたんだけど、ゲートを閉鎖するにはどうしたらいいか、この国の中枢から相談を受けたんだ。
砂嵐ってゲートが発動する時のエネルギーによって起きてるんだけど、政府はそれを止めたかったらしい。
国民の為じゃなくて、被害が出た後の復興資金が膨大だからだって。
そして、国民からも異世界から人を呼び寄せるなんて人権侵害だと不平不満が出ていた。つまり国からしたらゲートの稼働を止める事はwin-winだった。
だけど不公平だよね?僕はこんなに辛い思いをしてきたのに」
「だから…暴走させたって事ですか?」
「暴走と言っても一時的なものだよ?僕だって帰れなくなるのも困るからね」
彼は全く悪びれていない。さも当たり前かのように、自分の行いに何も疑問を持っていないようだった。
「悠斗くん達に初めて会った時は驚いたよ。スイに似た見た目の少年が自分と同じ日本人の側に居るから。君の事を全身で愛してる彼を見て、僕と君とは何が違うんだろうって嫉妬したよ。でもね、もう疲れたんだ。君達を見て、今までの努力は何だったんだろうって思ったから」
自分にはレインとジフが居た。ライフラインも整理されていたし、食糧についても解決してくれたのは彼だ。もし最初に召喚されたのが自分だとしたらここまでできるとは思えないから、やっぱり凄い人なんだと思う。
お互いのスタートラインが違うから彼を否定する事ができない。でも…。
「同情なんかはしません。あなたがゲートを暴走させたせいで来たくもない人に迷惑をかけて、危険に晒され砂漠から見つけられなくて亡くなった人もいる。だからあなたがもう戻って来れないように、シェルターにいる帰りたい人達を彼らの世界へ返したらゲートを破壊します」
「悠斗くんみたいに、優しくて賢くて、ちょっと抜けてる方が可愛げがあって、その方がみんなに愛されるのかな?」
「そんなっ…」
その時レインがずいっと二人の間に立った。
「結局お前は自分が注目されないからって駄々をこねているだけだ。アンタ、自分が一番じゃないと気が済まないクチだろ?悠斗はここに居ようが元いた世界に戻ろうが上手くやるさ。自分の事しか考えていないお前と一緒にするな」
「…そうだね」
スイ…。悠斗は確かに彼がそう呟くのを聞いた。
ーーーーーー
元々プロットでは絶対悪な設定だった田中(偽名)。
紆余曲折あって湿度高めな男へ変貌する。
スイ(レイン)にまた会いたくて悠斗を誘拐したのかもしれない。
どうしてこうなった。
最も、そんな気はさらさらなかったかもしれない。
「僕は悠斗くんと近い時代の人間だけど、最初にこの世界に召喚されたのは110年近く前。その時代の召喚技術は酷いもので、僕は奇跡的に無傷だった。
当時はインフラも整ってなくて真っ当に暮らしたい一心だったよ。魔法ってチートもある事だしね。上下水道周りを整えたの褒めて欲しいな。
上下水道のおかげで劇的に病気が減ったらしい。
そしたら功績を称えられて王になって欲しいって言われた。僕が来た頃にはもう既に王は血筋が絶えていて、みんなの希望として、この世界の象徴としていて欲しいって言われた。まだ僕は若かったから、純粋に誰かの為になるのならって受け入れたよ。
その時出会ったのがスイだ。代々魔力が多くて王家の番犬と呼ばれている家の末裔だから王に使える事ができて誇らしいと言ってくれた。
僕もスイに手伝ってもらって君達みたいに色々実験したから懐かしいなって微笑ましく見てた。
それなりに楽しく暮らしていたと思う。スイとは君達みたいな関係ではなかったけど、僕にとって大切な人だった。
だけど、ある日僕は知ってしまったんだ。
召喚された日以来ゲートに入る事ができなかった。だけどゲートを厳重に閉じていた理由が分かったよ。最初から往復できる設計だったんだ。
もちろん、成功率は100%ではないけど失敗してもいいから帰りたいって君だって思うよね?
だから僕は帰る事にした。事実が公表されるのを恐れたこの国の政治家達は掌返して見送ってくれたよ。
僕はこの世界全てに裏切られた気分だったんだ。だからもう帰る事しか考えていなかった。
スイとはそれっきりだよ。
10代の頃に異世界に呼び寄せられて20年くらいは経っていた。
だけどそこからが辛かった。
僕は日本に戻って神隠しから生還したとニュースにもなった。
でも実際の所は腫れ物扱いだった。今更まともに就職なんてできないし、いや、それ以前に、まともな人間では居られない。
両親も還暦、兄は結婚して子供もいて、電話くらいでしか話さなかった。きっと僕をどう扱えば良いのかわからなかったんだと思う。
あぁ、誰も歓迎していない、帰ってきてはいけなかったんだと思い知らされたよ」
これは自分だってあり得る未来だ。悠斗がもし日本に帰っても、家族や友人は子供の頃のように受け入れてくれるだろうか。
「ずっと家に引きこもっていたんだけど、向こうから戻って来た時にハブになっていた機械を偶然見つけたんだ」
差し出され中の物を手のひらに置かれた。小さい四角い媒体を悠斗は受け取った。
「もう一度スイに会いたくて、それ使って戻ってきたらみんな大喜びでさ、王の再来だって。馬鹿みたいでしょ?
でもその時にはもうスイも居なくて、何のために戻って来たんだろうってガッカリしてた所だった。日本にまた帰ろうと思っていたんだけど、ゲートを閉鎖するにはどうしたらいいか、この国の中枢から相談を受けたんだ。
砂嵐ってゲートが発動する時のエネルギーによって起きてるんだけど、政府はそれを止めたかったらしい。
国民の為じゃなくて、被害が出た後の復興資金が膨大だからだって。
そして、国民からも異世界から人を呼び寄せるなんて人権侵害だと不平不満が出ていた。つまり国からしたらゲートの稼働を止める事はwin-winだった。
だけど不公平だよね?僕はこんなに辛い思いをしてきたのに」
「だから…暴走させたって事ですか?」
「暴走と言っても一時的なものだよ?僕だって帰れなくなるのも困るからね」
彼は全く悪びれていない。さも当たり前かのように、自分の行いに何も疑問を持っていないようだった。
「悠斗くん達に初めて会った時は驚いたよ。スイに似た見た目の少年が自分と同じ日本人の側に居るから。君の事を全身で愛してる彼を見て、僕と君とは何が違うんだろうって嫉妬したよ。でもね、もう疲れたんだ。君達を見て、今までの努力は何だったんだろうって思ったから」
自分にはレインとジフが居た。ライフラインも整理されていたし、食糧についても解決してくれたのは彼だ。もし最初に召喚されたのが自分だとしたらここまでできるとは思えないから、やっぱり凄い人なんだと思う。
お互いのスタートラインが違うから彼を否定する事ができない。でも…。
「同情なんかはしません。あなたがゲートを暴走させたせいで来たくもない人に迷惑をかけて、危険に晒され砂漠から見つけられなくて亡くなった人もいる。だからあなたがもう戻って来れないように、シェルターにいる帰りたい人達を彼らの世界へ返したらゲートを破壊します」
「悠斗くんみたいに、優しくて賢くて、ちょっと抜けてる方が可愛げがあって、その方がみんなに愛されるのかな?」
「そんなっ…」
その時レインがずいっと二人の間に立った。
「結局お前は自分が注目されないからって駄々をこねているだけだ。アンタ、自分が一番じゃないと気が済まないクチだろ?悠斗はここに居ようが元いた世界に戻ろうが上手くやるさ。自分の事しか考えていないお前と一緒にするな」
「…そうだね」
スイ…。悠斗は確かに彼がそう呟くのを聞いた。
ーーーーーー
元々プロットでは絶対悪な設定だった田中(偽名)。
紆余曲折あって湿度高めな男へ変貌する。
スイ(レイン)にまた会いたくて悠斗を誘拐したのかもしれない。
どうしてこうなった。
51
あなたにおすすめの小説
令嬢に転生したと思ったけどちょっと違った
しそみょうが
BL
前世男子大学生だったが今世では公爵令嬢に転生したアシュリー8歳は、王城の廊下で4歳年下の第2王子イーライに一目惚れされて婚約者になる。なんやかんやで両想いだった2人だが、イーライの留学中にアシュリーに成長期が訪れ立派な青年に成長してしまう。アシュリーが転生したのは女性ではなくカントボーイだったのだ。泣く泣く婚約者を辞するアシュリーは名前を変えて王城の近衛騎士となる。婚約者にフラれて隣国でグレたと噂の殿下が5年ぶりに帰国してーー?
という、婚約者大好き年下王子☓元令嬢のカントボーイ騎士のお話です。前半3話目までは子ども時代で、成長した後半にR18がちょこっとあります♡
短編コメディです
異世界で恋をしたのは不器用な騎士でした
たがわリウ
BL
年下騎士×賢者
異世界転移/両片想い
6年前に突然異世界にやってきたヒロナは、最初こそ戸惑ったものの、今では以前とは違う暮らしを楽しんでいた。
この世界を知るために旅をし様々な知識を蓄えた結果、ある国に賢者として仕えることに。
魔法の指導等で王子と関わるうちに、王子の警衛担当騎士、ルーフスにいつの間にか憧れを抱く。
ルーフスも不器用ながらもヒロナに同じような思いを向け、2人は少しずつ距離を縮めていく。
そんなある時、ヒロナが人攫いに巻き込まれてしまい――。
《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。
かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年
侯爵様の愛人ですが、その息子にも愛されてます
muku
BL
魔術師フィアリスは、地底の迷宮から湧き続ける魔物を倒す使命を担っているリトスロード侯爵家に雇われている。
仕事は魔物の駆除と、侯爵家三男エヴァンの家庭教師。
成人したエヴァンから突然恋心を告げられたフィアリスは、大いに戸惑うことになる。
何故ならフィアリスは、エヴァンの父とただならぬ関係にあったのだった。
汚れた自分には愛される価値がないと思いこむ美しい魔術師の青年と、そんな師を一心に愛し続ける弟子の物語。
中年冒険者、年下美青年騎士に番認定されたことで全てを告白するはめになったこと
mayo
BL
王宮騎士(24)×Cランク冒険者(36)
低ランク冒険者であるカイは18年前この世界にやって来た異邦人だ。
諸々あって、現在は雑用専門冒険者として貧乏ながら穏やかな生活を送っている。
冒険者ランクがDからCにあがり、隣国の公女様が街にやってきた日、突然現れた美青年騎士に声をかけられて、攫われた。
その後、カイを〝番〟だと主張する美青年騎士のせいで今まで何をしていたのかを文官の前で語ることを強要される。
語らなければ罪に問われると言われ、カイは渋々語ることにしたのだった、生まれてから36年間の出来事を。
【完結】おじさんダンジョン配信者ですが、S級探索者の騎士を助けたら妙に懐かれてしまいました
大河
BL
世界を変えた「ダンジョン」出現から30年──
かつて一線で活躍した元探索者・レイジ(42)は、今や東京の片隅で地味な初心者向け配信を続ける"おじさん配信者"。安物機材、スポンサーゼロ、視聴者数も控えめ。華やかな人気配信者とは対照的だが、その真摯な解説は密かに「信頼できる初心者向け動画」として評価されていた。
そんな平穏な日常が一変する。ダンジョン中層に災厄級モンスターが突如出現、人気配信パーティが全滅の危機に!迷わず単身で救助に向かうレイジ。絶体絶命のピンチを救ったのは、国家直属のS級騎士・ソウマだった。
冷静沈着、美形かつ最強。誰もが憧れる騎士の青年は、なぜかレイジを見た瞬間に顔を赤らめて……?
若き美貌の騎士×地味なおじさん配信者のバディが織りなす、年の差、立場の差、すべてを越えて始まる予想外の恋の物語。
助けたドS皇子がヤンデレになって俺を追いかけてきます!
夜刀神さつき
BL
医者である内藤 賢吾は、過労死した。しかし、死んだことに気がつかないまま異世界転生する。転生先で、急性虫垂炎のセドリック皇子を見つけた彼は、手術をしたくてたまらなくなる。「彼を解剖させてください」と告げ、周囲をドン引きさせる。その後、賢吾はセドリックを手術して助ける。命を助けられたセドリックは、賢吾に惹かれていく。賢吾は、セドリックの告白を断るが、セドリックは、諦めの悪いヤンデレ腹黒男だった。セドリックは、賢吾に助ける代わりに何でも言うことを聞くという約束をする。しかし、賢吾は約束を破り逃げ出し……。ほとんどコメディです。 ヤンデレ腹黒ドS皇子×頭のおかしい主人公
呪われ竜騎士とヤンデレ魔法使いの打算
てんつぶ
BL
「呪いは解くので、結婚しませんか?」
竜を愛する竜騎士・リウは、横暴な第二王子を庇って代わりに竜の呪いを受けてしまった。
痛みに身を裂かれる日々の中、偶然出会った天才魔法使い・ラーゴが痛みを魔法で解消してくれた上、解呪を手伝ってくれるという。
だがその条件は「ラーゴと結婚すること」――。
初対面から好意を抱かれる理由は分からないものの、竜騎士の死は竜の死だ。魔法使い・ラーゴの提案に飛びつき、偽りの婚約者となるリウだったが――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる