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ep.3
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「ねえアダム、イギリスってさ食事どうにかならないの?」
シェアを始めて1週間。いい加減まともな食事にありつきたい。
アダムはこの家から更に1時間程離れた家に住んでいたが、通学が大変で引越してきたのだそうだ。
だから多少の土地勘はあるし、美味い店くらい知っている…と信じたい。
アダムはムスっとした顔を上げた。
「あまり家から出ないからよく知らない」
だよね。そんな感じしてた。
「スコーンと、パンが美味しいカフェは知ってる」
「炭水化物ばっかじゃ嫌だ!タンパク質がしっかり摂れる野菜の料理が食べたい!じゃがいもと固いキャベツばっかりはやだ!!」
「だとすると…自炊かな?」
「自炊かぁ…」
ろくに包丁を持った事がない。
アダムは普段自炊が多く、何を作っているのかと思えば茹でたじゃがいもやチキンが多い。
夏樹は普段料理なんてしないから近くの店で買ってはいるけれどそこまで美味しくないし塩気が強い。
そして一つ一つの量が多いしデカい。
「夏樹が満足できる野菜と肉があるかは分からないけど、これからご飯食べに行くつもりだから一緒に行く?その後で良ければ俺がよく行くスーパー教えてあげる」
「えっ、いいの?行く!」
アダムに連れて行かれたのは街にあるシンプルな作りのイタリアンカフェだ。
二人分の食事が並び、アダムはサラダを多めに注文してくれた。
「ずっと気になってたんだけど、アダムってなんでそんなに日本語上手いの?家族が日本人とか?」
久しぶりの美味しい食事だったので夏樹は少し機嫌が戻る。
「母親が日本人だから言ってる事は分かる。だけど漢字は分からない。無理」
「普段は日本語使う機会ある?」
「母親と話す以外はない」
「日本の番組とか見る?」
「アニメは見た事ある」
「何か面白いものはあった?」
「凄いとは思った」
「そう…」
「……」
「……」
「えっと…絵画修復師ってなんでやりたいの?絵を描くのが好きだから?」
「絵を描くのは好き。だけど自分にはオリジナルの絵を描けないから、絵画修復師を目指してる」
「そうなんだ…学校ではどんな勉強してるの?」
「ドローイング、デッサン、オイルペインティング、パネルに貼ったり、道具の使い方を勉強する。ヒストリーもある」
「そっか…」
「……」
「……」
会話が続かない。
まるでインタビューのようだ。
悪い奴ではない事は分かるのだが他人に興味がないのか聞かれた事を答えるだけで会話のキャッチボールがない。
「このお店、美味しいね」
もうこれ以上は天気の話題しかないぞ。
「この店は初めて来た時から気に入ってる。母親曰く、海外旅行先で食事に困ったらイタリアンを選べと言っていた」
なるほど、言われてみればイタリア料理は大失敗はないイメージだ。
夏樹はその後もポツポツとアダムと会話をした。
喋っているのは殆どが夏樹だったから会話と呼べるか甚だ疑問ではあるけれど。
それにしても、ここのご飯は当たりだったからいい所聞いちゃったな。
食後にあのスパークリングワインも美味しそうだな…と隣の席を眺めているとアダムに咎められた。
「だめだよ。あれはお酒だからミセイネンは禁止」
「?…僕21歳なんだけど」
「!?…16歳くらいかと思ってた」
「パスポートの色が違うだろ!」
「日本人じゃないから分かんない…」
そう言われて夏樹はある事に気づく。
「まさか、子供だと思ったからシェアしてくれたって事…?僕、追い出される?」
「それもあるけど…君みたいな見た目の子はホームステイや住人が多い所は危ないと思ったから。違う?」
はっきり言ってに身に覚えがあるし、賃貸を探していた理由はこれだったりする。
日本ですら夏樹は何度も危うい目に遭った。
夏樹みたいなナヨナヨした人間がデカい外国人に襲われたらひとたまりもない。
「じゃあさ、アダムはいくつなの?」
「19」
なんと。年下だったのか。
その後のアダムは夏樹の事を歳上認定したのか、ほんの少しだけ素っ気ない気がした。
その後スーパーを回ってから帰路につく。
「今日は色々案内ありがとう」
「俺も楽しかった。…おやすみ」
楽しかった…のか?
凄く不機嫌そうな顔をしていたから、てっきり嫌々夏樹を連れて行ってくれたのかと思っていた。
普通だったら謙遜だと思うのだが、今の感じを見ると…あいつ、もしかして普段からあんななの?
だって見たか?さっきのもじもじした顔、本当に嬉しそうな顔しちゃって…。
今日はいつもよりたくさん喋ったぞ!充実した一日だったなぁ、なんて思っているのではないだろうか。
「…ねぇ、アダム。また時間あったらご飯行こうよ。昼でも、夜でも」
「うん」
そう言って笑顔を見せるアダムは年相応に見えた。
キュン…。
キュン?
思わずアダムの笑った顔にキュンとしてしまった。
いやまさか。
引く手数多のこの僕が?
待て待て、慣れない土地で優しくされてバイアスかかってるだけだろ。
夏樹は頭をフルフルと振り、思考を停止させた。
シェアを始めて1週間。いい加減まともな食事にありつきたい。
アダムはこの家から更に1時間程離れた家に住んでいたが、通学が大変で引越してきたのだそうだ。
だから多少の土地勘はあるし、美味い店くらい知っている…と信じたい。
アダムはムスっとした顔を上げた。
「あまり家から出ないからよく知らない」
だよね。そんな感じしてた。
「スコーンと、パンが美味しいカフェは知ってる」
「炭水化物ばっかじゃ嫌だ!タンパク質がしっかり摂れる野菜の料理が食べたい!じゃがいもと固いキャベツばっかりはやだ!!」
「だとすると…自炊かな?」
「自炊かぁ…」
ろくに包丁を持った事がない。
アダムは普段自炊が多く、何を作っているのかと思えば茹でたじゃがいもやチキンが多い。
夏樹は普段料理なんてしないから近くの店で買ってはいるけれどそこまで美味しくないし塩気が強い。
そして一つ一つの量が多いしデカい。
「夏樹が満足できる野菜と肉があるかは分からないけど、これからご飯食べに行くつもりだから一緒に行く?その後で良ければ俺がよく行くスーパー教えてあげる」
「えっ、いいの?行く!」
アダムに連れて行かれたのは街にあるシンプルな作りのイタリアンカフェだ。
二人分の食事が並び、アダムはサラダを多めに注文してくれた。
「ずっと気になってたんだけど、アダムってなんでそんなに日本語上手いの?家族が日本人とか?」
久しぶりの美味しい食事だったので夏樹は少し機嫌が戻る。
「母親が日本人だから言ってる事は分かる。だけど漢字は分からない。無理」
「普段は日本語使う機会ある?」
「母親と話す以外はない」
「日本の番組とか見る?」
「アニメは見た事ある」
「何か面白いものはあった?」
「凄いとは思った」
「そう…」
「……」
「……」
「えっと…絵画修復師ってなんでやりたいの?絵を描くのが好きだから?」
「絵を描くのは好き。だけど自分にはオリジナルの絵を描けないから、絵画修復師を目指してる」
「そうなんだ…学校ではどんな勉強してるの?」
「ドローイング、デッサン、オイルペインティング、パネルに貼ったり、道具の使い方を勉強する。ヒストリーもある」
「そっか…」
「……」
「……」
会話が続かない。
まるでインタビューのようだ。
悪い奴ではない事は分かるのだが他人に興味がないのか聞かれた事を答えるだけで会話のキャッチボールがない。
「このお店、美味しいね」
もうこれ以上は天気の話題しかないぞ。
「この店は初めて来た時から気に入ってる。母親曰く、海外旅行先で食事に困ったらイタリアンを選べと言っていた」
なるほど、言われてみればイタリア料理は大失敗はないイメージだ。
夏樹はその後もポツポツとアダムと会話をした。
喋っているのは殆どが夏樹だったから会話と呼べるか甚だ疑問ではあるけれど。
それにしても、ここのご飯は当たりだったからいい所聞いちゃったな。
食後にあのスパークリングワインも美味しそうだな…と隣の席を眺めているとアダムに咎められた。
「だめだよ。あれはお酒だからミセイネンは禁止」
「?…僕21歳なんだけど」
「!?…16歳くらいかと思ってた」
「パスポートの色が違うだろ!」
「日本人じゃないから分かんない…」
そう言われて夏樹はある事に気づく。
「まさか、子供だと思ったからシェアしてくれたって事…?僕、追い出される?」
「それもあるけど…君みたいな見た目の子はホームステイや住人が多い所は危ないと思ったから。違う?」
はっきり言ってに身に覚えがあるし、賃貸を探していた理由はこれだったりする。
日本ですら夏樹は何度も危うい目に遭った。
夏樹みたいなナヨナヨした人間がデカい外国人に襲われたらひとたまりもない。
「じゃあさ、アダムはいくつなの?」
「19」
なんと。年下だったのか。
その後のアダムは夏樹の事を歳上認定したのか、ほんの少しだけ素っ気ない気がした。
その後スーパーを回ってから帰路につく。
「今日は色々案内ありがとう」
「俺も楽しかった。…おやすみ」
楽しかった…のか?
凄く不機嫌そうな顔をしていたから、てっきり嫌々夏樹を連れて行ってくれたのかと思っていた。
普通だったら謙遜だと思うのだが、今の感じを見ると…あいつ、もしかして普段からあんななの?
だって見たか?さっきのもじもじした顔、本当に嬉しそうな顔しちゃって…。
今日はいつもよりたくさん喋ったぞ!充実した一日だったなぁ、なんて思っているのではないだろうか。
「…ねぇ、アダム。また時間あったらご飯行こうよ。昼でも、夜でも」
「うん」
そう言って笑顔を見せるアダムは年相応に見えた。
キュン…。
キュン?
思わずアダムの笑った顔にキュンとしてしまった。
いやまさか。
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待て待て、慣れない土地で優しくされてバイアスかかってるだけだろ。
夏樹は頭をフルフルと振り、思考を停止させた。
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