誘惑の茶室〜箱入り息子は異国の男に恋をする〜

メカラウロ子

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ep.2

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引越し当日、やっとこのホテル暮らしともおさらばだ。

ホテルって色んな人の監視の目がある気がしてリラックスできなくて苦手だ。

でもこれでようやくちゃんとした部屋でゆっくりできる。

何より洗濯をまともにできないのが辛かった。

僕は心が広い人間だからな。大したホスピタリティなんてなかったけど、最後くらいチップは弾んでやろうじゃないか。



Uberを呼び、荷物を運び込んだ。

運転手はトルコ人の移民で、夏樹が日本人だと分かると最近話題になっていたアニメの話を延々とされた。

申し訳ないけどアニメって見ないんだよね…。

彼らは日本国民全員が知っているものと思っているに違いない。


車で30分程して、やっと新しい家に着いた。

アニメトークからようやく解放される…。

体感2時間くらいだよ…着く前からこんなに疲れるとは。

これから荷解きをしたり、すべき事がたくさんあるのに…。

到着5分前にアダムに連絡しておいたので、庭先に出て待ってくれていた。

アダムは背がひょろっと長く、黒い服を着て不機嫌そうな顔だから威圧感がある。


「お疲れ様」

「うん…もう既にへとへとだよ…」

「荷物運ぶからとりあえずリュック置いてきなよ」

「分かった」

夏樹は玄関にリュックとコートを置いた。

戻る頃にはアダムが夏樹の荷物を車から出し、アニメ好きなトルコ人の車が去っていく所だった。


「キャリーケース2つだけ?」

「うん、後から荷物は送ってもらおうと思ってて」

お金と携帯電話とパスポートさえあれば何とかなる。

服やなんかは買えば良いし、ホテルから移動する時大荷物なのも嫌だった。

自分の家族は、旅行の時は化粧品だの美容液だのたくさん持って行っていたけど夏樹自身は極力荷物は少なくしたい派だ。

だって海外まで来て日本製品に囲まれるの勿体なくない?

しかし、それを言うと母や姉にはこれだから生まれ持った天性の艶肌はよ。玉肌に生まれた事に感謝しろ。とうるさいので黙っている。

「そう。部屋に案内するからついてきて」

アダムは不機嫌そうな顔で夏樹の荷物を運びながらずいずい家の中へ入って行った。

夏樹に対してそこまで興味がないのかあっさりしている。

「ここが夏樹の部屋だよ。ハンガーとタオルは好きに使って良いから」

案内された部屋は6~7畳くらいの大きさで、ベッドに机、収納スペースにタンスがある。

一人で暮らすにはちょうどいいまとまったサイズだ。

以前内見した時にはなかった、布団が準備されている。

「わ…布団ふかふかそう。ありがとう、アダムが準備してくれたの?」

「いや、母親が」

「そっか!直接挨拶できるかわからないから後でお礼言っておいてくれる?」

「分かった」



「じゃあ家の中を案内するからついてきて」

「うん」

「先ずトイレはここ。洗面台もあるから。奥にお風呂。一応湯船は貯められるけど、俺は使った事ない」

風呂はガラス扉になっており、お湯が簡単に溢れ出しそうだ。

そして何とは言わないが繁華街によくあるあの建物を連想させる。

「シャワー浴びる時は換気扇回してね。スイッチはここ」

アダムはパチパチと電気と換気扇を付けてみせた。


「次はランドリー教える」

地下に向かうと、コンクリート打ちっぱなしの空間があった。

ボイラー機器のようなものがゴウンゴウンと轟音を立て動いている。

「こっちが洗濯、こっちがドライヤーね」

同じような形をしたドラム式の洗濯機が二つ並んでいる。

「でっか…ドライヤーって?」

「あ、えっと…なんだっけ。乾燥機?」

「乾燥機」

「昔のよりは縮んだりはしないと思う。ビニール製の服は溶けるかもしれないけど」

「溶け…る?そう、なんだ…気をつけるよ」

「洗剤はこれ使って」

「でっか…」

アダムは業務用でも見た事ないようなプラスチックのボトルを指差した。

映画で見るガソリンを入れるタンクくらいのデカさがある。

「ねぇ、もし良かったら後で使い方教えて?洗いたいものたくさんあって…」

「分かった」

その後アダムは庭先やゴミを捨てる日などを案内をしてくれた。


「これ、冷蔵庫ね。俺と共用で使うから」

「でっか…」

「戸棚にあるコーヒーや紅茶は好きに飲んでいいよ。あとチョウミリョウ?も使っていいから」

その後も、食器洗い機やカトラリーの説明を受ける。



「とりあえず家の説明終わり。ランドリー行く?」

「あ、うん。お願い」

夏樹は急いで洗濯物をかき集めた。

「はい、このカゴ使って」

「ありがとう」

地下まで移動し、使い方の説明を受ける。

「洗うのに1時間、ドライヤーで1時間くらいかな。オーナーによっては1週間に一回しか洗わせてくれない人が居るみたいだけど二人だけだし気にせず洗っていいから」

「ありがとう、助かる。けどそんなに時間かかるなら何日かに一回でいいかな…」

リビングに戻る途中、アダムは奥の扉を指差した。

「あれが俺の部屋。あと、一階にも色々道具置いてある。もし夏樹も空いてる部屋使いたかったら言って」

「僕は絵を描く訳じゃないからあの部屋だけで充分だよ」

「分かった。何かあれば部屋にいるから呼んで。はい、これ鍵」

そういうとアダムはスタスタと自室に戻って行った。

「ふぅ…なんか、どっと疲れが…」

夏樹はその後、軽く荷物の整理をして近くの店で軽食を買ってから洗濯を乾燥機にセットした。

その後ご飯を食べてからシャワーを浴び終える頃には洗濯物もすっかり乾き、睡魔が襲ってきた。

ベッドに倒れ込むようにして寝転がると、シーツは洗い立ての暖かい匂いがした。

久しぶりの心地よい感触に、あっという間に眠りに落ちて行った。
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