見世物小屋ノ蛇男

メカラウロ子

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怪シイ男

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「ふう…春先とは言え、まだまだ冷えるな」

本当なら風呂にでも入ってさっぱりしたい所だが、異形が銭湯なんて行った日にはどんな扱いを受けるか想像に難くない。

だから仕方なく寒空の下、桶に水を溜める他ない。

こんなに綺麗な夜空、こんな日でなきゃ今日の星空を楽しめたもんだが。

ぼーっと空を眺めていると背後から何やら気配がした。

「…!」

振り返るとこの辺りには珍しい、体格が良く長身で、整った身なりの男がそこに立っていた。

男は俺の裸に驚いたのか、太腿を伝う白濁に目を留めると視線を逸らす。

俺は急いで羽織りをとって身につけると男にこちらから声をかける。



「アンタ、さっき客席に居たろ?困るんだよねぇ…熱烈な歓声は投書でもしてくれよ」

こいつは客席の端の方にいた、侮蔑の目を向けてきた内の一人だ。

「い、いや違う!俺は…迷ってしまって…」

「迷った、ねぇ。会場から帰りは一本道なのにわざわざここに来るなんて、とんだおっちょこちょいだな?」

そもそもまだ開演中だけどな。

演目を不快に思ったのならばさっさと帰ればいい。
それをしないこの男は間違いなくが本命だ。

俺はするりと男ににじり寄ると手を絡め、がっちりとした男の胸板をなぞる。

男はびくりと戸惑ったものの、その後の俺の行動を測りかねているようだった。

ああ、やはりこの男。

「ふむ…そうだな、俺の熱狂的な支持者にしては、さっきはこんな所に人が居るなんて!って顔してたしなぁ?あのショーの時は俺の事を汚物を見るような目で見ていたし、ただの客人という訳では無さそうだが?」

男の胸板をつつつ…と撫で上げる。

「俺は最上階に居たが…まさかそこまで見えるのか?」

「俺は蛇だからね、夜目は効くのさ。それで?何かご入用かい?軍人さん?」


男は反射的に俺を突き飛ばすと腰に手を掛けたが、求める物がないと気付くとこちらをギラギラと睨みつけた。

全く…そんなに警戒しなくとも、俺は華奢で軟弱なんだからアンタなんかに殴られたら一巻の終わりだよ。


「イテテ…何故分かった?って顔ですね。簡単ですよぉ。ワタクシ、これでもとある財閥の出だから軍人さんにお会いする機会があって。その手の豆、刀をもつ者特有のものですよ。それに体格も良い。警官か?とも思ったけれど、奴らは癒着しているからこんな風にコソコソ嗅ぎ回らない。だから少しカマをかけてみました」

尻もちをついた俺は泥を払いながら立ち上がった。

「…っ、この催しは違法だ。その捜査といえば納得するか?」

「ヤダなあ、軍人さん。俺たちを路頭に迷わす気ですかぁ?あ、そうだ!俺って舌使いが上手いって評判なんですよ。試してみます?」

輪にした指に舌なめずりをするとさすがの男も顔を赤くした。

「結構だ!」

男はパシリと俺の手を払う。

この男、どうやら見世物小屋の非人道的な催しを取り締まりに来たわけではないらしい。

何か別の目的で忍び込んだ…ほほう、使えるぞ。


「軍人さん。取引をしませんか?」

「何だと!……お前の目的はなんだ。金か?」

「もちろん、先立つものも必要ですから協力金は頂きたい。しかし一番の目的は、ここから出たいのです」

「……何?」

「赤く燃ゆる夕暮れや、チラチラと舞い散る桜、雨の後の虹に、闇夜の雪景色…ここにいては自由に見る事が出来ません」

俺は恭しく手を広げ演説をする。

「…というのは建前で、もっと自由に遊べる金が欲しい。あなたに協力したらお給金と身元保証を約束いただきたい」

「だったら違法行為だと通報すれば良い話だろう。一定の保護と補償金は出るはずだ」

俺はノンノンと男の目の前で人差し指を振った。

「野暮ですねぇ…我々みたいな者がそう簡単に身元引受人が現れるはずもないし、そんな一時凌ぎで自立出来る訳がないでしょう?お上の懐にちょっと忍ばせたら終わりですよぉ。それは貴方もご存知のはずでしょう?」

男はバツが悪そうな顔をした。

実際にこうして違法な催しを容認されているのは、俺たちのような異形を受け入れる場所がないからである。

この点に関して言えば都合が良いから放置しているのだ。

「それにそうも待っていられません。どうやら近々私の命に関わる危険なショーをやらせようと話が出ているのです」

「今日よりも酷いものなんてあるのか?」

「俺を大蛇と一緒の檻に放り込んで犯させるらしいですよ。挿れるも良し、絞め殺すも良し、勿論毒だって何でもござれです。だけど俺、ただの蛇の皮みたいな皮膚病の普通の人間だから蛇と交流なんて出来ないし、血清もないから普通に死んじゃいますね」

「君の主人は人の命を何だと思って………っ!」

屋敷からポツポツ灯が点り、演目を終えた者達が戻ってきた。

「すまないがこれ以上はここに居るのは難しいみたいだ。だが君からの提案は非常に魅力的だ。…が、まだ信用し切れない。改めて時間を設けたいのだが……君はここから出る事が出来るのか?」

「勿論、方法はありますよ。恋人との逢瀬です」
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