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薔薇
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「何が恋人との逢瀬だ。世間ではそれを売春と言うんだ」
「俺に賃金を支払って愛のこもった協力を得るんだから似たようなもんでしょ?」
俺達は男が予約したホテルの一室で向かい合って座っている。
俺はというと見世物小屋での服装とは打って変わり、黒髪を一つに束ねリボンタイのシャツといった装いはホテルに出入りしても遜色ない見た目だ。
見世物小屋では基本的に外出は許可されないが例外がある。自身を買った者からの金を七割返上する事で外出を許可される。全くもって守銭奴はなはだしい。
基本的に身体を売る以外ないのだが、外出中は何をしても自由、最悪死んでも自己責任、亡骸は引き取りません。である。
俺は細いからとよく飯を奢ってもらえた。最近の流行りの雑貨類も貰った事もある。
この贈り物は管轄外な為、俺たちにとってちょうどいい小遣い稼ぎだ。
「まあ、いい。とにかく改めて自己紹介をしよう。俺は東条だ。ご想像通り軍でとある事について調べている」
「はい、東条さん。俺はシエと呼ばれているのでそれでお願いします」
「ああ、わかった。それと…もっと楽にしていいぞ。敬語は不要だ。軍人とバレないように接してくれ」
「うーん…俺はお客さんにはよく敬語を使うけど、アンタがそれでいいって言うのなら」
「それでいい。その喋り方の方が俺は好きだ」
今までのは外行き用で対お客様向けだ。お客が付いた事にした方が疑われないで済むと思うんだけどな?
「それで?東条さんは何であそこにいたか教えてくれる?」
「その前に君に確認したい。これからする話を聞けば君は後には戻れない。何故なら非常に危険で命に関わる機密事項だからだ。安全は保証できない。今なら示談金を受け取って昨日あった出来事を忘れる事が出来る。引き返すなら今だ」
「危険なんて今更ですよ。元より俺は危険なショーから逃れたい一心でアンタに協力を持ち掛けたんだからな。このまま引き返しても遅かれ早かれ死ぬんだったら少しでも可能性がある方に賭けたいね」
「そうか…分かった。本当にいいんだね?」
東条がふうっ…と大きなため息を吐きながら問いかけてきた。
俺はコクリと頷くと、東条は目で軽くそれに返すと口を開いた。
***
「君は"薔薇"と呼ばれている薬物を知っているか?」
「薔薇…って花の薔薇?」
「ああ、この薬物は使用すると気分が高揚し、幸福感がみなぎる。五感が鋭くなり疲労も吹き飛ぶといった代物だ。媚薬のような効果もあるからごく稀に高級娼婦に使用されたというケースも聞く。この薬の特徴は、使用者の呼気が薔薇の香りがするということだ」
「なるほど、だから"薔薇"と呼ばれているのか」
子供の頃からこの肌を治す為に強い薬を使用され、副作用に何度も苦しんだ。良薬は口に苦しなんて生易しいものではない。
ショック症状で死にかけた事もあるのだ。
いくら簡単に快楽を得られるとは言え、悪いけど自ら進んでそんな怪しげな薬を飲もうとは思わない。
良い効果だけの薬なんてあり得ないだろう。
「しかしこの薬、使用後の喪失感と不調が著しいらしく軍では危険薬物として扱う事が決定した」
やっぱりな。
「危険薬物か。残念ながらまだこっちまで降りてきていないなぁ…聞いている限りだと副作用が酷そうだし、もし使った演者が居たらあっという間に知れ渡るだろうな」
そもそも今まで見世物小屋に降りてきていた媚薬に近いものはイモリの黒焼き程度の眉唾物である。
そんな高級な薬をお目にかかる機会は一度もなかった。
「そうだな、だがこの薬の恐ろしい所はそれだけではなく異常なまでの依存性だ。薬欲しさに事件を起こす者や禁断症状が後を絶たない。軍でも度々中毒者が出ていて問題視されていたんだが、今のところ高額で取引されていて数も少ないからと問題解決を先送りにしていたんだが…この薬が安価で量産される可能性が高く、今…開発の最終段階だととある情報筋から入ってきてな」
そろそろ人体実験の段階だろうと東条は言った。
「それは…我々みたいな者が真っ先に実験対象になりますねぇ…それで、ウチと何の関係が?」
「薔薇の出どころだと噂される場所は複数あって、今手分けして捜査中なんだが…その一つがあの見世物小屋だったという訳だ」
「それで昨日捜査をする為に会場に忍び込んだ…と。でもアンタ、全く溶け込めてなかったぜ?せめて手淫くらいはしていないとな」
東条が飲みかけた紅茶を吹き出しむせた。
「…まさかあんなに悪趣味な催しだと誰が思う?君の事じゃない。あの会場に居た殆どが何も疑問に感じていなかった事がだ。だが、薔薇が蔓延するにはもってこいの場所だ」
確かに、あの見世物小屋は警察の目をかい潜り違法行為も平気で行なっているから薬物どころか何でも有りである。
観客も違法だと知っているから多少の事件に巻き込まれても泣き寝入りするしかない。
だから水面下で広げるにはあそこより適した場所はないだろう。
「お巡りさんには握らせてるって話だからなぁ。それで?見世物小屋探索で薔薇は見つかったのか?」
「いや、今の所は薔薇の"ば"の字も聞かなかったな。だが、昨日実際見て思った事だが…君達やあの建物を管理し、清潔なシートにちょっとした食事。相当な予算が必要だろう?」
東条は机に見世物小屋のチケットを置く。
「君はこれがいくらか知っていたか?」
「いや、セックスショーでは別途払いがいい客から金を取っていると聞いているだけで、チケット代は聞いた事がないな」
「3銭だ。あの会場で一晩で稼ぐ金額にしては安すぎる」
何だと…つまり俺たちの価値は一枚3銭ぽっちの紙切れということか。
「会場は席と席が適度に離れ特別ぎゅうぎゅう詰めにされていたわけではない。だから君の主人は見世物小屋で稼ぐ気はないと確信した」
「つまり…アンタはあの店には他に収益があり、それが薔薇だと言いたいのか」
ーーーーーー
ファンタジーお薬です!
3銭=300円程度
「俺に賃金を支払って愛のこもった協力を得るんだから似たようなもんでしょ?」
俺達は男が予約したホテルの一室で向かい合って座っている。
俺はというと見世物小屋での服装とは打って変わり、黒髪を一つに束ねリボンタイのシャツといった装いはホテルに出入りしても遜色ない見た目だ。
見世物小屋では基本的に外出は許可されないが例外がある。自身を買った者からの金を七割返上する事で外出を許可される。全くもって守銭奴はなはだしい。
基本的に身体を売る以外ないのだが、外出中は何をしても自由、最悪死んでも自己責任、亡骸は引き取りません。である。
俺は細いからとよく飯を奢ってもらえた。最近の流行りの雑貨類も貰った事もある。
この贈り物は管轄外な為、俺たちにとってちょうどいい小遣い稼ぎだ。
「まあ、いい。とにかく改めて自己紹介をしよう。俺は東条だ。ご想像通り軍でとある事について調べている」
「はい、東条さん。俺はシエと呼ばれているのでそれでお願いします」
「ああ、わかった。それと…もっと楽にしていいぞ。敬語は不要だ。軍人とバレないように接してくれ」
「うーん…俺はお客さんにはよく敬語を使うけど、アンタがそれでいいって言うのなら」
「それでいい。その喋り方の方が俺は好きだ」
今までのは外行き用で対お客様向けだ。お客が付いた事にした方が疑われないで済むと思うんだけどな?
「それで?東条さんは何であそこにいたか教えてくれる?」
「その前に君に確認したい。これからする話を聞けば君は後には戻れない。何故なら非常に危険で命に関わる機密事項だからだ。安全は保証できない。今なら示談金を受け取って昨日あった出来事を忘れる事が出来る。引き返すなら今だ」
「危険なんて今更ですよ。元より俺は危険なショーから逃れたい一心でアンタに協力を持ち掛けたんだからな。このまま引き返しても遅かれ早かれ死ぬんだったら少しでも可能性がある方に賭けたいね」
「そうか…分かった。本当にいいんだね?」
東条がふうっ…と大きなため息を吐きながら問いかけてきた。
俺はコクリと頷くと、東条は目で軽くそれに返すと口を開いた。
***
「君は"薔薇"と呼ばれている薬物を知っているか?」
「薔薇…って花の薔薇?」
「ああ、この薬物は使用すると気分が高揚し、幸福感がみなぎる。五感が鋭くなり疲労も吹き飛ぶといった代物だ。媚薬のような効果もあるからごく稀に高級娼婦に使用されたというケースも聞く。この薬の特徴は、使用者の呼気が薔薇の香りがするということだ」
「なるほど、だから"薔薇"と呼ばれているのか」
子供の頃からこの肌を治す為に強い薬を使用され、副作用に何度も苦しんだ。良薬は口に苦しなんて生易しいものではない。
ショック症状で死にかけた事もあるのだ。
いくら簡単に快楽を得られるとは言え、悪いけど自ら進んでそんな怪しげな薬を飲もうとは思わない。
良い効果だけの薬なんてあり得ないだろう。
「しかしこの薬、使用後の喪失感と不調が著しいらしく軍では危険薬物として扱う事が決定した」
やっぱりな。
「危険薬物か。残念ながらまだこっちまで降りてきていないなぁ…聞いている限りだと副作用が酷そうだし、もし使った演者が居たらあっという間に知れ渡るだろうな」
そもそも今まで見世物小屋に降りてきていた媚薬に近いものはイモリの黒焼き程度の眉唾物である。
そんな高級な薬をお目にかかる機会は一度もなかった。
「そうだな、だがこの薬の恐ろしい所はそれだけではなく異常なまでの依存性だ。薬欲しさに事件を起こす者や禁断症状が後を絶たない。軍でも度々中毒者が出ていて問題視されていたんだが、今のところ高額で取引されていて数も少ないからと問題解決を先送りにしていたんだが…この薬が安価で量産される可能性が高く、今…開発の最終段階だととある情報筋から入ってきてな」
そろそろ人体実験の段階だろうと東条は言った。
「それは…我々みたいな者が真っ先に実験対象になりますねぇ…それで、ウチと何の関係が?」
「薔薇の出どころだと噂される場所は複数あって、今手分けして捜査中なんだが…その一つがあの見世物小屋だったという訳だ」
「それで昨日捜査をする為に会場に忍び込んだ…と。でもアンタ、全く溶け込めてなかったぜ?せめて手淫くらいはしていないとな」
東条が飲みかけた紅茶を吹き出しむせた。
「…まさかあんなに悪趣味な催しだと誰が思う?君の事じゃない。あの会場に居た殆どが何も疑問に感じていなかった事がだ。だが、薔薇が蔓延するにはもってこいの場所だ」
確かに、あの見世物小屋は警察の目をかい潜り違法行為も平気で行なっているから薬物どころか何でも有りである。
観客も違法だと知っているから多少の事件に巻き込まれても泣き寝入りするしかない。
だから水面下で広げるにはあそこより適した場所はないだろう。
「お巡りさんには握らせてるって話だからなぁ。それで?見世物小屋探索で薔薇は見つかったのか?」
「いや、今の所は薔薇の"ば"の字も聞かなかったな。だが、昨日実際見て思った事だが…君達やあの建物を管理し、清潔なシートにちょっとした食事。相当な予算が必要だろう?」
東条は机に見世物小屋のチケットを置く。
「君はこれがいくらか知っていたか?」
「いや、セックスショーでは別途払いがいい客から金を取っていると聞いているだけで、チケット代は聞いた事がないな」
「3銭だ。あの会場で一晩で稼ぐ金額にしては安すぎる」
何だと…つまり俺たちの価値は一枚3銭ぽっちの紙切れということか。
「会場は席と席が適度に離れ特別ぎゅうぎゅう詰めにされていたわけではない。だから君の主人は見世物小屋で稼ぐ気はないと確信した」
「つまり…アンタはあの店には他に収益があり、それが薔薇だと言いたいのか」
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ファンタジーお薬です!
3銭=300円程度
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