執着の茶室〜無垢なスーツは和装男子に暴かれる〜

メカラウロ子

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桐生樹①

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「……」

「ん…」

「……!!」

自身の肩にもたれかかり寝息を立てる玲に肝が冷える。

お互いの着衣の乱れがないかを確認し、安堵の息を漏らす。

目元を押さえながら今の状況を思い出す。

昨日はあの後玲を着物から着替えさせ、夕飯の際に明日も休みだからと晩酌をしたらそのまま二人して寝落ちしてしまったようだ。

この子は危うい。

初めて会った時から、子犬が迷い込んできたかのような、どこか無条件で世話を焼きたくなるような不思議な気持ちにさせる子だった。

自分に本当にそんなものがあるのかは分からないけれど、母性本能をくすぐられるような感覚。

意思はしっかりあって、けどいつもどこか自信がなさそうで放っておけない。

危機感がなく無垢で信頼し切ったあの瞳を汚したくなるような…。

だけど、みだりに手を出してはならない聖域のような子だ。

そんな事をしたらあっという間に自分の前からいなくなるだろう。

羨望の眼差しを感じるが、何処か他の者とは違う、下衆びた下心など感じない。

彼から感じる完璧な男であるという期待から必死に演じ、飽きられないように、逃げられないように、失望させないように取り繕う。


自分がまだ若い頃、歳の離れた兄が居たせいかどこか家からは何も期待されていないと感じていた。

今思えば親からしたらせめて下の子は自由にとの気遣いだったのだと分かる。

しかし判断を間違え、周りが見えていなかった自分とは未だに口では説明が難しい、うっすらとした消えない溝があった。


好きと言われれば喜び、その深さは関係なくその日暮らしで隙間を埋めるようにその場だけの関係を結ぶ。

碌に家にも帰らず、気まずい思いをしていた自分に声をかけたのは祖母だ。

広い家なんだから、あんた一人が居ようが居まいが変わらないわよ。と。

ただその一言だけ。

自堕落な生活が続いていても何も言わない。時折お茶の手伝いをさせる以外は。

特にお茶や着物が好きという訳ではなかったが、何となく続けていた。

そんな自分の生活を変えたのは祖母が病気になってからだ。

「桐生くんって介護なんかするんだ。」

「お金あるんだしヘルパーに丸投げすれば?」

そう言葉を投げかけてきた者達は今や自分の前には誰一人として残っていない。

それからはどこか人と線引きするような関係を結んでいた。

夏のあの日、川瀬玲という人物に出会うまでは。

久しぶりの人との関係に、長らく空いていた孤独感が埋まる感覚がした。

そのせいか柄にもなく家に呼び、年甲斐もなくはしゃぎ過ぎてしまった。


先程の食事の時に「こんなに料理が上手いなら彼女や奥さんになる方は毎日食べられて羨ましいですね。」なんて言われた。

必死に恋人の存在を否定する自分は滑稽にうつらなかっただろうか。

実際の年齢よりも幼く見える玲は、仕事が忙しく疲労困憊だったらしい。

顔にかかった髪を優しく払うとすうすうと寝息を立てている。

玲を来客用の部屋へ移動し、遅めのシャワーを浴びた。

朝焼けでぼんやりと色づく外とは対照的に、自身の頭は冴えていた。
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