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着物を着てみましょう④
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「では下着に履き替えたら長襦袢を羽織ってください。袖口を持ってピンとしてくださいね。」
初めて見た時は着物かと思っていた長襦袢は最終的に袖口と衿の部分くらいしか見えなくなるらしい。
中にまで柄はあるのだが、見えない方が美学みたいなものなのだろうか。
長襦袢を前で交差し整えると、失礼します…と言って腰紐を結ぶ為に樹がしゃがみ込んだ。
こ、この位置は…!
落ち着け自分。
相手は真面目に着せてくれてるってのに…うぅ。
こんなに色っぽい人にお腹の近くで喋られると何だかぞわぞわする。
「あっ…あの…樹さ…」
「……。」
伊達締めでぎゅっと結ばれて「ぐぇっ」と情けない声が出る。
「では着物を羽織ってください。長襦袢の袂は中に入れてくださいね。少し見えるくらいがちょうどいいです。」
衿を整えてから、二度目の伊達締めでぎゅっと結ばれて「うぇっ」とまた情けない声が出る。
「うーん…帯どっちにしようかな。玲さんどっちが好きですか?」
差し出されたのはグレーの唐草模様の帯とブラウンの市松模様の帯だ。
「どっちも素敵ですけど、着物はカーキだからブラウンかな…?」
「確かに!じゃあこっちにしよう。」
この人のこういう所いいなぁ。
別に自分だけで完結しても問題ないのに、きちんとこっちも巻き込んでくれる。
帯をぎゅっと結ばれて「おぇっ」と三度目の情けない声が出る。
「…はい、出来ましたよ!羽織りは今僕のしかないから色が合わないかもしれないけど。もし着たければお好みで。」
全身鏡がある場所まで案内された。
「ありがとうございます…おぉ…!」
樹の言った通り、カーキの着物は自分にぴったりだった。
着物を着る事によって自分のようなしがない会社員も権力者のような雰囲気を出せる。
ただ着物を着る。それだけで非現実的な体験ができるんだからみんな着てみるべきだ。
「凄い、教科書に載ってそうな昔の文豪みたいだ。賢く見えそう。」
「玲さんは元々賢い素敵な方じゃないですか。良ければ茶室に案内しますよ。こちらへどうぞ。」
さらりと言われた褒め言葉に照れる間もなく案内された茶室へ向かった。
「わ…こんな丸い窓枠、テレビやCMでしか見た事ないです。」
こぢんまりとした茶室だが、障子の木枠には桜の模様が施されていたり、にじり口から中庭が見えるようになっていたりと細部に拘りを感じる。
「ずっと長い事独り身だったから、祖母が拘って改装したらしいです。良ければ明日ここで席入りの練習をしませんか?僕が亭主で。」
「えっ!いいんですか!指導日じゃないのに。わー。楽しみです。」
最初の体験以来、樹のお抹茶を飲んでいない。
席入りももちろんだが、樹の点てたお抹茶が楽しみだった。
「それにしても、こんなに広いお屋敷に一人で住んでいて寂しくなっちゃいませんか?」
リビングから茶室に案内されるまでに広い廊下と幾つか部屋を見かけたしこの家は二階建てだ。
あと2~3人居ても十分に部屋の余裕があるだろう。
「………。そうですね、寂しいです。だからまた玲さんが遊びに来てくれると嬉しいな。」
この反応、何か触れてはいけない領域まで踏み込んでしまったのだろうか。
玲は聞き出したくてもそれを口にする勇気を持てないでいた。
▼▼▼▼▼▼
にじり口:茶室の小さい戸みたいな所
席入り:茶室に入る方法
初めて見た時は着物かと思っていた長襦袢は最終的に袖口と衿の部分くらいしか見えなくなるらしい。
中にまで柄はあるのだが、見えない方が美学みたいなものなのだろうか。
長襦袢を前で交差し整えると、失礼します…と言って腰紐を結ぶ為に樹がしゃがみ込んだ。
こ、この位置は…!
落ち着け自分。
相手は真面目に着せてくれてるってのに…うぅ。
こんなに色っぽい人にお腹の近くで喋られると何だかぞわぞわする。
「あっ…あの…樹さ…」
「……。」
伊達締めでぎゅっと結ばれて「ぐぇっ」と情けない声が出る。
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衿を整えてから、二度目の伊達締めでぎゅっと結ばれて「うぇっ」とまた情けない声が出る。
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「どっちも素敵ですけど、着物はカーキだからブラウンかな…?」
「確かに!じゃあこっちにしよう。」
この人のこういう所いいなぁ。
別に自分だけで完結しても問題ないのに、きちんとこっちも巻き込んでくれる。
帯をぎゅっと結ばれて「おぇっ」と三度目の情けない声が出る。
「…はい、出来ましたよ!羽織りは今僕のしかないから色が合わないかもしれないけど。もし着たければお好みで。」
全身鏡がある場所まで案内された。
「ありがとうございます…おぉ…!」
樹の言った通り、カーキの着物は自分にぴったりだった。
着物を着る事によって自分のようなしがない会社員も権力者のような雰囲気を出せる。
ただ着物を着る。それだけで非現実的な体験ができるんだからみんな着てみるべきだ。
「凄い、教科書に載ってそうな昔の文豪みたいだ。賢く見えそう。」
「玲さんは元々賢い素敵な方じゃないですか。良ければ茶室に案内しますよ。こちらへどうぞ。」
さらりと言われた褒め言葉に照れる間もなく案内された茶室へ向かった。
「わ…こんな丸い窓枠、テレビやCMでしか見た事ないです。」
こぢんまりとした茶室だが、障子の木枠には桜の模様が施されていたり、にじり口から中庭が見えるようになっていたりと細部に拘りを感じる。
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「えっ!いいんですか!指導日じゃないのに。わー。楽しみです。」
最初の体験以来、樹のお抹茶を飲んでいない。
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「それにしても、こんなに広いお屋敷に一人で住んでいて寂しくなっちゃいませんか?」
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あと2~3人居ても十分に部屋の余裕があるだろう。
「………。そうですね、寂しいです。だからまた玲さんが遊びに来てくれると嬉しいな。」
この反応、何か触れてはいけない領域まで踏み込んでしまったのだろうか。
玲は聞き出したくてもそれを口にする勇気を持てないでいた。
▼▼▼▼▼▼
にじり口:茶室の小さい戸みたいな所
席入り:茶室に入る方法
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