執着の茶室〜無垢なスーツは和装男子に暴かれる〜

メカラウロ子

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何だか嫌な予感かする①

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「ねえ、西谷。あれから池辺さんとこの進捗どう?」

「それが…代理店と事務所とは連絡つくんだけど全然本人がスケジュール合わないみたいでさ。空いてるって聞いてたのにな。」

イベントまで一ヶ月を切っていた。

ネットニュースに上がった事でイベント前にちょっとした特集記事をを書きたいとお願いしたら代理店からは許可が出たと西谷は言っていた。

それに本番のイベントのリハーサルも兼ねて確認したかったのだが本人との顔合わせができていなかった。

会場に使うポスターやなんかも、もう本当に入稿しないとまずい。

「リモートでミーティングも難しいの?」

「そうなんだよ、予定立てても急遽スケジュールが変更になりって言われて。…ちょっと怪しいよな。」

「うーん…無理なら早めに言って欲しいよね。」

「違約金とかもあるからウチからは何も言えなくてさ。向こうは絶対大丈夫ってそれしか言わないし。当日さえ来ればいいって思ってんのかな?」

「部長に相談しとくよ。入稿物は名前を入れずに無地のにして、最悪翌日出力できる所に頼むか。」

「当日ドタキャンだったらかなり印象悪いよなぁ。一応清純派女優で通ってるのに。」

「最悪、会場では各社製品の映像流すかだな…一応プロジェクター用意しとこうか。」

「動画作ってない企業もあるからなぁ。他の企画何か考えるか?つっても今からコンセプトに合うゲストとか難しいし、大々的にニュースになったし、向こうから何も言われないから動けないしなぁ」

今日日、タレントのちょっとした炎上なんて日常茶飯事だ。

SNSで無意識に呟いた内容も、どこから火が出るかは分からない。

体調不良でキャンセルや代理なんてよくある事で無理して出演させた側が叩かれたりもする。

今回のEXPOに関して言えば、企業側からしたらゲストはおまけだから、事情を説明すればそうですか。で終わるはずだ。

しかし、今回の対応…なんか嫌な感じがする。

席に戻ると樹からメッセージが来ている事に気づいた。



"なつくんが茶器を見つけてくれたのでお時間ある時にお渡しできればと思います。"

最近は忙しく、休日出勤で時間も取れなかったのでお抹茶はお休みしていた。

時折体調や近況等をやりとりしていたけれど、忙しさを理由にちゃんと返していない。

先日の件から気まずさが少し抜けないまま、顔を合わせるのが憚られた。

"なつくんも会いたがっているので、お渡しする日は誘っていいですか?"

夏樹くんも一緒なんだ…。

あれ?何二人きりじゃなくてほっとしてるんだろ。

この前まで散々会いたくて仕方がなかったのに。勝手に自分が気まずいって思ってるだけなのに。

良くしてくれている人になんて失礼なんだと自己嫌悪に陥る。

"もし、休日の空いた時間でも良ければ伺います"


勝手に心の中で懺悔するように玲は返信をした。


ーーーーー


「わ…!玲さん、もしかして仕事だったんですか?」

「あ、いえ。午前中確認する事があって。午後は休みですから。」

結局代理店からの連絡は無かった為、全て池辺の名前が入った制作物は再入稿し、現品が上がったのが金曜の夜。

それを朝バイク便で受け取り、午前中に校正をして返信をしてきたのだ。

その足で玲は樹の店へ向かった。

明らかに疲れた顔をしていたのだろう、樹は心配そうに玲を覗き込んだ。

「午後は休みって、仕事してんじゃん。それに今日土曜日だけどね。」

樹の後ろから夏樹の元気な声がした。

「何だか、急かしてしまったようで申し訳ないですね。茶器を渡すのはいつでも良かったのに。」

「いえ…気晴らしも必要なので…」

「玲さんの会社もしかしてブラック?働きすぎなんじゃない?」

「いや…基本的に休日出勤は代休が取れるから僕は気にしてないんだけど。今仕事でちょっとトラブルがあってね…」

「ふぅん?そうなんだ?でも、樹兄さん良かったじゃん。玲さんが本当に忙しくて。」

「ちょっと!なつくん!!」

「玲さんに嫌われる事したかなぁ~って泣きそうになってたんだから。いい大人が!」

実際、理由をつけて避けていたと言っても過言ではないから何も言えない。

「ほ、ほら!なつくん!!茶器見せてあげて。茶筅が悪くなっていたので買い直していたらお渡しするのが遅れてしまって…」

「えっ!わざわざ買い直してくれたんですか!!」

「本当は自分で選んだ方がいいのかなとも思ったけど、こういう消耗品はいくらあってもいいですからね。」

夏樹が運んできた木箱には打ち出の小槌柄の器が入っており縁起が良さそうだ。

「それと、千保堂のお抹茶も差し上げます。うちで使っているものと同じだから味が近付くんじゃないかな。」

「わあ…ありがとうございます…!何とお礼を言っていいか…」

「だからー。お礼は樹兄さんと仲良くする事だって!」

「それは対価にはならないんじゃないかな…ん?」

ポケットに入れたままの会社用携帯がブンブンと鳴り響く。電話の主は西谷だった。

「玲さん、急ぎなんじゃないですか?」

「あ、すみません。ちょっと失礼しますね。」

あまり意味はないが部屋の隅へ移動した。

「もしもし西谷?どうかした?」

「ごめん、午後休みなのに。テレビ!ネットニュースとかなんでもいいけど見れる?池辺カヨ不祥事!逮捕だって!」

「は?」

逮捕?呆然と立ち尽くす。

「玲さんどうかしたの?」

樹が心配そうに声をかけてきた。

「あ…すみません、テレビって見れますか?チャンネルは…何でもいいです。」

樹が付けてくれた店のテレビには速報が流れていた。

"速報!池辺カヨ薬物所持で逮捕"
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