この冒険者、メシマズにつき! ~ウマイメシを食べる魔王軍を食べる冒険者が食べさせるマズイメシ~

オセアニアの常識

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第一章「生き血をすするまで」

九品目 ラミアのハンバーグ5

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「のわっ!」

 私は素っ頓狂な声を上げた。それが自分でも聞いたことがないほど間の抜けた声だったために、食べようと頭上に掲げていたブドウが手を離れ、空中へと投げ出されたことへの反応が遅れてしまった。
 だから何? と思われるかもしれないが、咄嗟に伸ばした私の手がブドウに届くことはなかった。否、たとえすぐに伸ばしたとしても私の手がブドウを掴むことはなかっただろう。
 背中に強烈な衝撃を感じた次の瞬間には、私は地面へとうつ伏せで倒れ伏していた。
 それでも。諦めきれずに、意味など無いというのにまた未練がましく伸ばし続けた手が、宙を舞うブドウと共に仲良く灰色に変わったところで、私はようやくそれどころではないらしいなと、キリボシに助けられたことを理解する。
 そう、私の右手、その手首から先は一瞬で、それも一切の抵抗を受け付けず、またその猶予も間もなく、石へと変貌していた。
 だというのに。
 私は迂闊にもほとんど反射的に背後へと振り返る。振り返った先で私を見るキリボシの驚きの眼に、自分でも何をやっているんだろうと驚く。
 ただ振り向いてしまったものは仕方がない。
 結果的に大通りを目の端に収めた私は、完全に動きを止めた灰色の世界で、唯一動き続ける、ある者の後ろ姿をはっきりと見ることになる。
 そして余計に分からなくなる状況。目の前の石化と建物の影に消えていった後ろ姿――半人半蛇ラミアが結びつかずに、今すぐにでも後を追いかけてその関係性を問い詰めたくなる。
 無論、思うだけでそんなバカなことはしないのだが。
 しかしどういうことだろうか。
 ラミアがバルバラにいるのもそうだが、街の人々と私の右手、そしてブドウを石化したのがラミアだとするのなら、バルバラは魔王軍の前にラミアと一戦交えることになるのだが……。

「ブドウ?」

 と私は頭に引っ掛かった言葉を声に出して繰り返す。
 そういえばブドウは二つあったのだ。
 その内の一つは投げ出し、一つは正面に抱えていたわけだが……緊急的な回避の果てに私は今うつ伏せに倒れている。
 そして私を押し倒したキリボシもまた、私の背中の上でうつ伏せに倒れていた。

「キリボシ、そろそろいいんじゃないか?」
「そうだね」

 先にキリボシが立ち上がり、私も覚悟を決めて立ち上がる。それだけで分かる残酷な結果。ああ、あのラミア許すまじ。
 正面を紫に染める私とキリボシは、爽やかな甘い香りを漂わせながら、どちらからともなく足早に路地を引き返し、周囲を警戒しながらそっと大通りをのぞく。

「もういないみたいだね。相手は随分と足が速いみたいだ」
「ラミアを見た。だからこそ余計に状況が分からなくて困ってるんだが……見ろ、向かいの寝具屋。いくらなんでも形がよいだけの石の枕に、白金貨一枚は高すぎると思わないか?」
「石になってるのは人だけじゃないみたいだね。アザレアさんのほうは大丈夫?」
「大丈夫、と言いたいのは山々なんだがな」

 私はブドウを掴もうとして、無様にも開いたまま石化した右手をチラと見る。

「完全に血は止まっているな。それにこんなことを言うのもなんだが、ここまで見事な石化を見たのは初めてだ。マンドラゴラ程度で元に戻るのならいいが、有効でなかった場合に一生このままだろうなと思えるほどにな」

 私は自分の至らなさに苦笑する。

「お前の判断は早かったというのに、この始末。それもよりによって利き手を石化されるとはな。だが心配は無用だ。剣を振るうのに腕は二本も必要ない」
「そっか、でも大丈夫。石化を解く方法には心当たりがあるから。まずはラミアをどうするか考えようか」

 キリボシはあっけらかんと言う。
 そもそもラミアと現状の関係性すら不明なわけだが、仮にキリボシの言うように石化を解く方法があるとして、高度な石化だけでなく、それを使えるかもしれないラミアまで問題視しないのはどうなのだろうか?
 少しは動揺しろと思うのも変な話だが、もしかするとキリボシには、私にはない前例というものがすでにあるのかもしれない。

「キリボシ、お前もしかして今と似たような状況にでも、出くわしたことがあるのか?」
「似たような状況? うーん、まっ、全身石にされたことはあるかな。それにラミアなら狩ったことがあるからね。だから大丈夫。アザレアさんも全身石にされたことはないかもしれないけど、ラミアなら狩ったことがあるでしょ?」
「あるわけないだろ。そもそも冒険者がラミアを狩ること自体、稀なことだ。それに人にとってと私がお前に人を語るのも変な話だが……」

 私は言いながら強い呆れからか、不意に目が眩むような感覚を覚えて、そっと目頭を指で押さえる。

「同じ魔王軍を相手取るラミアはまず積極的に狩るべき対象ではないし、ゴブリンやハーピィといった蛮族とも違って対話も不可能ではない。要するに、だ。種族は違えど、人にとってのラミアはそれなりに良き隣人と呼べなくもない」
「そうなの? って、ああ、僕も別に積極的に狩ってたわけじゃないよ? ただどういうわけか、よく襲われたから……」
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