この冒険者、メシマズにつき! ~ウマイメシを食べる魔王軍を食べる冒険者が食べさせるマズイメシ~

オセアニアの常識

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第一章「生き血をすするまで」

六品目 生野草4

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「そうだね」

 キリボシは笑う。まあ野盗のことはき下ろしたが、こんな状況で清く正しく生きるほうが難しいというのも分からないでもない。
 だからこそあえてそんな難しい生き方を選ぶというのも一興だろう。ただそれには並大抵ではない覚悟がいる。
 そう、例えば主食をゴブリンや野草に……うっ、これ以上はやめておこう。

「まあ、なんだ。とにかくバルバラになら入れる。まあ、入れるだけなんだが」
「入ってそこから先、どうするかだね。バルバラに知り合いは? ちなみに僕はいないけど」
「私が人付き合いがいいように見えるか? 一応言っておくが――そういえばお前は聞かないんだな」
「何を?」
「白々しいな。そういうのは嫌いだ」
「じゃあ聞くけど……アザレアさんって、もしかして……エルフ?」
「どう見てもエルフだろ!」

 私は思わず叫んでいた。いけない、いけない。落ち着かなくては。キリボシはもう二度も目にしている。もはや気のせいで済ませられる話でもない。
 しかし身体変化を使い始めてから一度も他人に話したことの無いことを今さら言葉にするというのもなかなかに難しいし、気恥ずかしい。
 いっそのことキリボシのほうからあれこれと聞いてくれたほうが楽なのに。そう思ってしまうのはキリボシがあまりにも興味なさそうにしているからだろうか?
 シャビエルたちのように気持ちの悪い食いつき方をされるのも不快だが、これはこれでと不満に思ってしまうのは、さすがに自分で言うのも何だがわがままが過ぎるのかもしれない。

「ご、ごめんっ。昔会ったことのあるエルフはもっとこう、なんて言ったらいいのかな」
傲慢ごうまんか?」
「そう! って言ったら失礼になるかもしれないけど、とにかく上から目線で、自分たちは絶対に間違わないとでも思ってるみたいで……何かにつけて否定的だし、すぐ怒るし」
「かなり解像度が高いな。まあ、私がそこまででもないのは、かなり長いこと人の側に立っているというのもあるだろうが――いや、そうだな。キリボシのほうこそどうなんだ? あの吸血鬼が言っていたが、エルフの国は滅んだらしいぞ。エルフに会ったことがあるなんて今時珍しいんじゃないか?」
「レティシアに来る前の話だね。砂漠でギザギザの赤い葉をつけた植物を食べてたら捕まっちゃって」
「百年草を食べたのか? あれは中毒性が高いからエルフの間では採取や所持が禁止されている……って、完全にお前が悪いじゃないか」
「そうなんだよね。でもお腹減っちゃって。ただ中毒性が高いってのはよく分からなかったかな。味も普通だったし、食べすぎるってこともないと思うんだけど」
「そもそもが神聖な儀式に使用する特別なものだからな。国で禁じていたのも全体の数を減らさないように、そういった側面があったのかもな」
「確かに自分の手で育てるのは難しそうな見た目をしてたけど」
「いや――お前……」

 キリボシのあまりの無知ぶりに私は頭を抱えそうになる。いや、人間なら知らなくてもおかしくはないか。

「花をつけるのに百年かかるから百年草って、聞かされなかったか?」
「ずっとすごい剣幕でまくしたてられてたから……その、あれだね。そんなに貴重ならもう一度くらい、見る機会があっても良いかもね」
「そうだな」

 本音では砂漠に近づくのもごめんだと思っていたが、嘘でもそうだと答えられたことに自分でも少しだけ驚いた。
 それに嘘をついたのは詮索されるとどう答えても変な空気になりそうだったからだが、そもそもキリボシが詮索してくるとは思えない上に、正直に話したところで変な空気にもならなかったような気がする。
 まあ理由は何となくでしかないのだが。

「でもあんなに栄えてたエルフの国がなくなっちゃうなんてね。あんまりいい思い出はないけど、それでももう行けないって考えると、少しだけ寂しく感じるよ」
「私を売り飛ばした連中の国だ。気を遣う必要はない。それも他国から軍を引っ張るためだけにな。見ろ、この痛々しい赤髪。これがどこぞの権力者の趣味だと思うとそれだけで吐き気がする」
「えっ、また吐きそう?」
「それぐらい気持ち悪い……って、比喩だバカ」

 まったく、本気なんだか冗談なんだか。ただ一つだけ分かったことがある。キリボシは相手がエルフでも、態度を変えない人間だということだ。
 まあどうでもいいと思っているだけなのかもしれないが。

「私たちはバルバラに行く。それでいいな?」
「うん。実は一度、商人ってのになってみたかったんだよね」
「お前は料理人のほうが合ってるよ」
「僕はアザレアさんの赤い髪も似合ってると思うけどね。コルジリネみたいで」
「急に相手の知らないもので例えるな。褒められてるのか分からないだろ」
「あれ? エルフの国の近くで結構見かけた花なんだけど……」
「花ねぇ。まっ、花ならそのうちに見に行ってもいいかもな」
「そのためにはまず英気を養わないとね。お待たせ。栄養満点の野草スープ、出来上がり」
「やれやれ」

 私は苦笑いを浮かべて、キリボシをチラ見する。こいつはまた飲み干したところで拍手で出迎えてくれるだろうか?
 すでに笑顔と言ってもいいキリボシを前に、これでしないなんてことがありうるのか? と私は笑みを堪えながら口をつけたお椀を傾けた。
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