10 / 42
第一章「生き血をすするまで」
六品目 生野草4
しおりを挟む
「そうだね」
キリボシは笑う。まあ野盗のことは扱き下ろしたが、こんな状況で清く正しく生きるほうが難しいというのも分からないでもない。
だからこそあえてそんな難しい生き方を選ぶというのも一興だろう。ただそれには並大抵ではない覚悟がいる。
そう、例えば主食をゴブリンや野草に……うっ、これ以上はやめておこう。
「まあ、なんだ。とにかくバルバラになら入れる。まあ、入れるだけなんだが」
「入ってそこから先、どうするかだね。バルバラに知り合いは? ちなみに僕はいないけど」
「私が人付き合いがいいように見えるか? 一応言っておくが――そういえばお前は聞かないんだな」
「何を?」
「白々しいな。そういうのは嫌いだ」
「じゃあ聞くけど……アザレアさんって、もしかして……エルフ?」
「どう見てもエルフだろ!」
私は思わず叫んでいた。いけない、いけない。落ち着かなくては。キリボシはもう二度も目にしている。もはや気のせいで済ませられる話でもない。
しかし身体変化を使い始めてから一度も他人に話したことの無いことを今さら言葉にするというのもなかなかに難しいし、気恥ずかしい。
いっそのことキリボシのほうからあれこれと聞いてくれたほうが楽なのに。そう思ってしまうのはキリボシがあまりにも興味なさそうにしているからだろうか?
シャビエルたちのように気持ちの悪い食いつき方をされるのも不快だが、これはこれでと不満に思ってしまうのは、さすがに自分で言うのも何だがわがままが過ぎるのかもしれない。
「ご、ごめんっ。昔会ったことのあるエルフはもっとこう、なんて言ったらいいのかな」
「傲慢か?」
「そう! って言ったら失礼になるかもしれないけど、とにかく上から目線で、自分たちは絶対に間違わないとでも思ってるみたいで……何かにつけて否定的だし、すぐ怒るし」
「かなり解像度が高いな。まあ、私がそこまででもないのは、かなり長いこと人の側に立っているというのもあるだろうが――いや、そうだな。キリボシのほうこそどうなんだ? あの吸血鬼が言っていたが、エルフの国は滅んだらしいぞ。エルフに会ったことがあるなんて今時珍しいんじゃないか?」
「レティシアに来る前の話だね。砂漠でギザギザの赤い葉をつけた植物を食べてたら捕まっちゃって」
「百年草を食べたのか? あれは中毒性が高いからエルフの間では採取や所持が禁止されている……って、完全にお前が悪いじゃないか」
「そうなんだよね。でもお腹減っちゃって。ただ中毒性が高いってのはよく分からなかったかな。味も普通だったし、食べすぎるってこともないと思うんだけど」
「そもそもが神聖な儀式に使用する特別なものだからな。国で禁じていたのも全体の数を減らさないように、そういった側面があったのかもな」
「確かに自分の手で育てるのは難しそうな見た目をしてたけど」
「いや――お前……」
キリボシのあまりの無知ぶりに私は頭を抱えそうになる。いや、人間なら知らなくてもおかしくはないか。
「花をつけるのに百年かかるから百年草って、聞かされなかったか?」
「ずっとすごい剣幕でまくしたてられてたから……その、あれだね。そんなに貴重ならもう一度くらい、見る機会があっても良いかもね」
「そうだな」
本音では砂漠に近づくのもごめんだと思っていたが、嘘でもそうだと答えられたことに自分でも少しだけ驚いた。
それに嘘をついたのは詮索されるとどう答えても変な空気になりそうだったからだが、そもそもキリボシが詮索してくるとは思えない上に、正直に話したところで変な空気にもならなかったような気がする。
まあ理由は何となくでしかないのだが。
「でもあんなに栄えてたエルフの国がなくなっちゃうなんてね。あんまりいい思い出はないけど、それでももう行けないって考えると、少しだけ寂しく感じるよ」
「私を売り飛ばした連中の国だ。気を遣う必要はない。それも他国から軍を引っ張るためだけにな。見ろ、この痛々しい赤髪。これがどこぞの権力者の趣味だと思うとそれだけで吐き気がする」
「えっ、また吐きそう?」
「それぐらい気持ち悪い……って、比喩だバカ」
まったく、本気なんだか冗談なんだか。ただ一つだけ分かったことがある。キリボシは相手がエルフでも、態度を変えない人間だということだ。
まあどうでもいいと思っているだけなのかもしれないが。
「私たちはバルバラに行く。それでいいな?」
「うん。実は一度、商人ってのになってみたかったんだよね」
「お前は料理人のほうが合ってるよ」
「僕はアザレアさんの赤い髪も似合ってると思うけどね。コルジリネみたいで」
「急に相手の知らないもので例えるな。褒められてるのか分からないだろ」
「あれ? エルフの国の近くで結構見かけた花なんだけど……」
「花ねぇ。まっ、花ならそのうちに見に行ってもいいかもな」
「そのためにはまず英気を養わないとね。お待たせ。栄養満点の野草スープ、出来上がり」
「やれやれ」
私は苦笑いを浮かべて、キリボシをチラ見する。こいつはまた飲み干したところで拍手で出迎えてくれるだろうか?
すでに笑顔と言ってもいいキリボシを前に、これでしないなんてことがありうるのか? と私は笑みを堪えながら口をつけたお椀を傾けた。
キリボシは笑う。まあ野盗のことは扱き下ろしたが、こんな状況で清く正しく生きるほうが難しいというのも分からないでもない。
だからこそあえてそんな難しい生き方を選ぶというのも一興だろう。ただそれには並大抵ではない覚悟がいる。
そう、例えば主食をゴブリンや野草に……うっ、これ以上はやめておこう。
「まあ、なんだ。とにかくバルバラになら入れる。まあ、入れるだけなんだが」
「入ってそこから先、どうするかだね。バルバラに知り合いは? ちなみに僕はいないけど」
「私が人付き合いがいいように見えるか? 一応言っておくが――そういえばお前は聞かないんだな」
「何を?」
「白々しいな。そういうのは嫌いだ」
「じゃあ聞くけど……アザレアさんって、もしかして……エルフ?」
「どう見てもエルフだろ!」
私は思わず叫んでいた。いけない、いけない。落ち着かなくては。キリボシはもう二度も目にしている。もはや気のせいで済ませられる話でもない。
しかし身体変化を使い始めてから一度も他人に話したことの無いことを今さら言葉にするというのもなかなかに難しいし、気恥ずかしい。
いっそのことキリボシのほうからあれこれと聞いてくれたほうが楽なのに。そう思ってしまうのはキリボシがあまりにも興味なさそうにしているからだろうか?
シャビエルたちのように気持ちの悪い食いつき方をされるのも不快だが、これはこれでと不満に思ってしまうのは、さすがに自分で言うのも何だがわがままが過ぎるのかもしれない。
「ご、ごめんっ。昔会ったことのあるエルフはもっとこう、なんて言ったらいいのかな」
「傲慢か?」
「そう! って言ったら失礼になるかもしれないけど、とにかく上から目線で、自分たちは絶対に間違わないとでも思ってるみたいで……何かにつけて否定的だし、すぐ怒るし」
「かなり解像度が高いな。まあ、私がそこまででもないのは、かなり長いこと人の側に立っているというのもあるだろうが――いや、そうだな。キリボシのほうこそどうなんだ? あの吸血鬼が言っていたが、エルフの国は滅んだらしいぞ。エルフに会ったことがあるなんて今時珍しいんじゃないか?」
「レティシアに来る前の話だね。砂漠でギザギザの赤い葉をつけた植物を食べてたら捕まっちゃって」
「百年草を食べたのか? あれは中毒性が高いからエルフの間では採取や所持が禁止されている……って、完全にお前が悪いじゃないか」
「そうなんだよね。でもお腹減っちゃって。ただ中毒性が高いってのはよく分からなかったかな。味も普通だったし、食べすぎるってこともないと思うんだけど」
「そもそもが神聖な儀式に使用する特別なものだからな。国で禁じていたのも全体の数を減らさないように、そういった側面があったのかもな」
「確かに自分の手で育てるのは難しそうな見た目をしてたけど」
「いや――お前……」
キリボシのあまりの無知ぶりに私は頭を抱えそうになる。いや、人間なら知らなくてもおかしくはないか。
「花をつけるのに百年かかるから百年草って、聞かされなかったか?」
「ずっとすごい剣幕でまくしたてられてたから……その、あれだね。そんなに貴重ならもう一度くらい、見る機会があっても良いかもね」
「そうだな」
本音では砂漠に近づくのもごめんだと思っていたが、嘘でもそうだと答えられたことに自分でも少しだけ驚いた。
それに嘘をついたのは詮索されるとどう答えても変な空気になりそうだったからだが、そもそもキリボシが詮索してくるとは思えない上に、正直に話したところで変な空気にもならなかったような気がする。
まあ理由は何となくでしかないのだが。
「でもあんなに栄えてたエルフの国がなくなっちゃうなんてね。あんまりいい思い出はないけど、それでももう行けないって考えると、少しだけ寂しく感じるよ」
「私を売り飛ばした連中の国だ。気を遣う必要はない。それも他国から軍を引っ張るためだけにな。見ろ、この痛々しい赤髪。これがどこぞの権力者の趣味だと思うとそれだけで吐き気がする」
「えっ、また吐きそう?」
「それぐらい気持ち悪い……って、比喩だバカ」
まったく、本気なんだか冗談なんだか。ただ一つだけ分かったことがある。キリボシは相手がエルフでも、態度を変えない人間だということだ。
まあどうでもいいと思っているだけなのかもしれないが。
「私たちはバルバラに行く。それでいいな?」
「うん。実は一度、商人ってのになってみたかったんだよね」
「お前は料理人のほうが合ってるよ」
「僕はアザレアさんの赤い髪も似合ってると思うけどね。コルジリネみたいで」
「急に相手の知らないもので例えるな。褒められてるのか分からないだろ」
「あれ? エルフの国の近くで結構見かけた花なんだけど……」
「花ねぇ。まっ、花ならそのうちに見に行ってもいいかもな」
「そのためにはまず英気を養わないとね。お待たせ。栄養満点の野草スープ、出来上がり」
「やれやれ」
私は苦笑いを浮かべて、キリボシをチラ見する。こいつはまた飲み干したところで拍手で出迎えてくれるだろうか?
すでに笑顔と言ってもいいキリボシを前に、これでしないなんてことがありうるのか? と私は笑みを堪えながら口をつけたお椀を傾けた。
0
あなたにおすすめの小説
娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る
ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。
異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。
一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。
娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。
そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。
異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。
娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。
そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。
3人と1匹の冒険が、今始まる。
※小説家になろうでも投稿しています
※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!
よろしくお願いします!
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件
さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ!
食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。
侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。
「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」
気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。
いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。
料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
異世界で大往生した私、現代日本に帰還して中学生からやり直す。~最強の補助魔法で、冴えないおっさんと最強美女を操って大金持ちになります~
タカノ
ファンタジー
異世界へ転移し、聖女として崇められ、愛する家族に囲まれて88歳で大往生した……はずだった。 目が覚めると、そこは現代日本。 孤児の中学2年生、小金沢ヒナ(14)に戻っていた。
時間は1秒も進んでおらず、待っていたのは明日のご飯にも困る極貧生活。 けれど、ヒナの中身は酸いも甘いも噛み分けたおばあちゃん(88歳)のまま!
「もう一度、あの豊かで安らかな老後(スローライフ)を手に入れてみせる!」
ヒナは決意する。異世界で極めた国宝級の【補助魔法】と【回復魔法】をフル活用して、現代社会で大金を稼ぐことを。 ただし、魔法は自分自身には使えないし、中学生が目立つと色々面倒くさい。 そこでヒナがビジネスパートナー(手駒)に選んだのは――
公園で絶望していた「リストラされた冴えないおっさん」と、 借金取りに追われる「ワケあり最強美女」!?
おっさんを裏から魔法で強化して『カリスマ社長』に仕立て上げ、 美女をフルバフで『人間兵器』に変えてトラブルを物理的に粉砕。 表向きはニコニコ笑う美少女中学生、裏では彼らを操るフィクサー。
「さあ善さん、リオちゃん。稼ぎますよ。すべては私の平穏な老後のために!」
精神年齢おばあちゃんの少女が、金と魔法と年の功で無双する、痛快マネー・コメディ開幕!
喪女なのに狼さんたちに溺愛されています
和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です!
聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。
ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。
森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ?
ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
ゴミスキルと追放された【万物鑑定】の俺、実は最強でした。Sランクパーティが崩壊する頃、俺は伝説の仲間と辺境で幸せに暮らしています
黒崎隼人
ファンタジー
Sランク勇者パーティのお荷物扱いされ、「ゴミスキル」と罵られて追放された鑑定士のアッシュ。
失意の彼が覚醒させたのは、森羅万象を見通し未来さえも予知する超チートスキル【万物鑑定】だった!
この力を使い、アッシュはエルフの少女や凄腕の鍛冶師、そして伝説の魔獣フェンリル(もふもふ)といった最強の仲間たちを集め、辺境の町を大発展させていく。
一方、彼を追放した勇者たちは、アッシュのサポートを失い、ダンジョンで全滅の危機に瀕していた――。
「今さら戻ってこい? お断りだ。俺はこっちで幸せにやってるから」
底辺から駆け上がる痛快逆転ファンタジー、ここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる