好感度“反転”、思った以上に地獄説

袋池

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Chapter.2 【信仰国家リュミエール公国】

10.邪法遠征-2

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 肌がひり付くような感覚が全身を襲う。濃厚な魔力の気配は、一定の範囲内に強力な魔術師の存在を報せてくれる。
 俺が最初に抱いた感想は、まさに剥き出し。一切隠すような真似はせず、溢れんばかりの殺意が俺達三人を狙っている事がわかった。──その気配は、複数。

「ビルグの得手は召喚術だったんだっけか」

「ええ。潜伏期間を考えれば、使役している数は十や二十じゃ利かないでしょうね」

 周囲を見渡しながらルイスが言う。聖騎士の第一部隊だけあり、周囲の気配の察知は完璧なようだ。

「ライト様、ご注意を。そろそろ敵から動いてくるでしょう」

 そう言いながらクレドラもまた、己の剣を鞘から引き抜いた。
 ラダム団長が俺に追随させただけの事はあるようで、ルイスもクレドラも一級の戦士である事は間違いない。これならば、俺が御守をせずとも生き残る事は出来るだろう。
 俺達を見定めるような視線は、確実に近づいている。

「──来るぞッ!!」

 正面の草木が歪に揺れ出す。俺の一声を合図に、ルイス、クレドラもまた戦闘態勢に入った。
 草木を掻き分けたのは、大型の魔物。四足歩行をする姿は一瞬狼のソレと見紛うが、歪に生えた角が危険な魔物である事を認識させてくれる。
 一角獣ホーンビースト。ゴブリンのランクを最底辺のFランクとするなら、Aランクは下らない正真正銘の化物だ。

「一角獣、か。それも上位種のビーストだな」

「こ、こいつは魔領の奥を闊歩するような化物じゃないですか……!!」

「むしろこのレベルじゃないと、一流の冒険者を退けたりはしないだろ。二人とも、行けるか?」

 一流冒険者でさえもしり込みをするホーンビーストを前にし、一瞬の躊躇を見せた二人も覚悟を決める。恐らくルイスとクレドラ、二人で一体を相手にするのが関の山だろう。

「二人は確実に一体を相手取れ!! 他は全部俺がカバーする!!」

 俺の怒号に狼狽する二人を置き、俺は一直線にホーンビーストへと駆け出した。
 見渡す限り、奴らの数は十二匹。奴らへと真っ先に歩を進めた俺に向かって、ホーンビースト達は自分たちの武器でもある歪な角を振り回した。

「ガアアアアアアアァァァッッ!!」

 常人であれば耳にしただけで意識が飛ぶ程の唸り声。計十二本の角が、様々な角度から俺の命を刈り取ろうと舞い踊る。
 市販の剣を引き抜き、一本、二本と捌いて見せる。力の入れ具合こそ難しいが、いなすだけならば木の枝でも難しい事ではない。

「一匹そっちに流すぞ! 角に触れないように気を付けろッ!!」

 十二本の内、一本の角を剣で絡め取り、ホーンビーストを後方へと投げ飛ばす。
 飛翔して来た敵に即座に対応したルイスとクレドラは、聖騎士特有の剣技を以てホーンビーストと戦い始めた。
 俺の前に広がる残りのホーンビーストは十一匹。狂気に塗れた二十二の瞳に心の中で悪態をつきながら、俺は戦場へと更に一歩を駆けだした。

          ☆☆☆

「はああああああああァァッ!!」

 一閃は、確実のホーンビーストの喉元を捉える。水気のある感触が手に伝わり、噴水のように血しぶきを上げてホーンビーストは地に伏した。

「ガアアアアアッッ!!」

「──ふっ!!」

 仲間を斬られ、更に興奮したホーンビーストの攻撃を再度いなす。踊る様な刃先はそのまま心臓部に宛がわれ、的確に急所を突いた。
 一頭、また一頭と倒れ数を減らしていく獣達は自身の劣勢を悟るか、慎重に俺との距離を広げていく。

「ライト様、此方も片付きました!!」

 後方を見やればルイス、クレドラも一匹を倒し終わったようだ。
 肩で息をしているのは明白だが、それでも囲まれた俺を助ける為に助力を惜しまない姿勢が見て取れる。

「す、凄い……! あの一角獣を、御一人で……!」

「まだ終わりじゃない。けど、奴らの戦意は無くなったみたいだな」

 俺の言葉通り、距離を開いたホーンビースト達は踵を返し、蜘蛛の子を散らすように草むらの中へと逃げ帰っていく。

「ルイス、クレドラ!! 俺はこのままビルグを追う、二人はホーンビーストを一体ずつ仕留めていってくれ!!」

 このままホーンビーストが野に放たれれば、近場の農村が狙われる事は明白だ。
 数が減り、個別に逃げ出したホーンビーストの掃討であれば二人に任せられるだろう。二人は勢いよく返事をすれば、ホーンビーストを追って草木を掻き分けていく。
 ルイスとクレドラの甲冑の音が遠ざかる。深い山中、妙な静けさが辺りを包みこんだ。

「──居るんだろ、ビルグ・ワイズマン」

 一層強く吹く風が、木々を揺らす。枯葉がクルクルと宙を舞い、地に落ちる。
 異様な空気を感じながら、俺の声に呼応する足跡が一つ。

「末恐ろしい男が居たものだ。まさか一人でホーンビーストを七体も討伐するとは」

 俺達が歩いてきた、麓への方角。その地点から木々を掻き分けるように一人の男が姿を現した。
 漆黒のローブに身を包み、覗える姿は顔の一部のみ。手には紫色に光る一冊の本を持ち、歪んだ口角から不敵な笑みを浮かべている事が分かる。

「獣と人の気配は違う。アンタがずっと俺達を見ている事は分かってた」

「なるほど、それでわざと少数のホーンビーストを逃がしたわけか。手の込んだ事をする」

「俺を只者じゃないとわかった上で、アンタは逃げない。……なら俺を上回ると確信する奥の手をアンタは持ってるんだ。あの二人にそれは荷が重いだろ」

「ほう? それが分かっていても尚、私と戦うつもりか」

「当たり前だ。アンタの目的を聞かなくちゃいけない」

 俺の言葉に、ビルグが一瞬たじろぐ。

「……妙だな。ユグドラシルの事だ、“増加のグリモア”アクセル以外に興味は持たないと思っていたが」

「俺の個人的な興味だよ。おかしすぎるじゃないか、こんな事」

 ──ビルグ・ワイズマンは“増加のグリモア”アクセルをユグドラシルから持ち出し、南方のこの山へとやってきた。
 南方は北方の魔領から一番遠く離れており、戦える者も多くない。一時的に身を隠すのならば最良の判断だったと言えるだろう。だが、ユグドラシルは冒険者を雇い入れ、ビルグを追った。それを奴はというのだ。

「既に居所がバレてるんだ、居座る理由は何処にも無い。アンタ、一体何を企んでる?」

「聡いな、貴様。あのお堅い騎士団の一員とは到底思えん。何者だ?」

「質問をしているのはこっちだ。答えるつもりがないのなら、ふん縛ってでも聞きだすぞ!」

 剣を構え、ビルグに対し一気に距離を詰める。ビルグは手にもつ“増加のグリモア”アクセルを握りしめ、やはり不敵な笑みを浮かべた。
 その、瞬間だった。

「ッ!!」

 突如感じた、悪寒。勇者として長く第一戦で戦った俺だからこそ感じ取れた違和感。
 一切戦闘態勢を取らないビルグに向かった足は即座に止まり、一気に後方へと下がる。
 ──先ほどまで俺が立っていた場所には、巨大なクレーターが出来上がっていた。もしあのまま足を止めていなければ、抉られていたのは地面ではなく俺だったかもしれない。

「……避けた、だと? 貴様、本当に何者なのだッ!!」

 初めて聞こえる、ビルグの焦りの声。
 内心うるさい鼓動を塞き止め、やはり俺は剣をビルグへと向ける。

「一介の聖騎士、名前はライト。覚えておく必要はないよ。──どうせ、偽名なんだ」
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