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「ありがとう、助かったぜ!」

 男は、咳き込みながらケースから出ると、僕の両手を握りしめた。
その手に力はこもっていなかった。
 僕と同じくらいかやや年下に見えるまだ若い男だ。
 殺人を犯したとはとても思えない無邪気な笑みを浮かべていた。



 「おっと…」

 通路に足を着いた男は、さっきの僕と同じようによろめいた。



 「畜生め、長い間眠らされてたから、体に力が入らねぇ…」

 「僕もです。」

 「俺はダグ、よろしくな。」

 「あ、僕はジュリアンです。」

 「そうか、ジュリアン…ところで、一体何があったんだ?」

「僕にも全くわかりません。でも、この状況を見る限り、地震でも起きたんじゃないでしょうか?」

 男は、あたりを見渡した。



 「どうやらそのようだな。目覚めたのは俺達だけか?」

 「さぁ…わかりません。」

 「とりあえず、生きてる奴がいるかどうか調べてみるか。」

 「え?」

ダグの言葉に僕ははっとした。
そんなこと、考えてもみなかった。
 確かに、土砂に埋まった者達は死んだだろうと思えるが、そうでない者達も生きているとは限らないんだ。
 生命維持装置が壊れたら、それでおしまいだ。
もしかしたら、それ以外にも何か死に直結することはあるのか…?
 僕がこうして生きていられるのは、もしかしたら奇跡的なことなのかもしれないと、今更ながらに気が付いた。
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