虚実の時

神在琉葵(かみありるき)

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「わかったよ。
 残念だけど、この話はもう諦める。」

 「そんなことより、あなた、まだ結婚はしないの?」

 「またその話?」

 「おまえがぐずぐずしてるからミレーユに先を越されてしまったじゃないか。」

 「あいつはたまたま運命の人に出会うのが早かっただけだよ。
あ、そうそう…最近、町に画廊が出来たんだよ」

 「またそうやって話をはぐらかす……」

ミカエルは疎ましげな顔でローランをみつめた。



 「本当だって!それで、来週はちょっとした展示会をするらしいんだ。
まだ無名の画家達のものだけど、良い絵がたくさん展示されるらしいんだ。
 母さん達も良かったら見に来ない?」

 「私は絵なんて……」
 「展示会か……」



 「父さん……絵に興味があるの?」

 意外なことを呟いたミカエルに、ローランは躊躇いがちに声をかける。



 「そういうわけじゃないが……なんとなく見てみたい気がする。」

 「じゃあ、ぜひ、見においでよ。
 芸術に触れる機会なんてなかなかないでしょ?
あ、そうだ!
 最近出来たすっごくうまいレストランがあるんだ。
 夕食はそこで食べようよ!」



 長い年月の間に、二人の子供達は成人し、妹・ミレーユは結婚し遠くの町に移って行った。
 兄・ローランは、バルバスの町で働き、月に何度かはミカエル達の家を訪ねる。



ミカエルの記憶は何十年経っても戻ることはなかった。
しかし、本人ももう過去にこだわる気持ちは薄れ、記憶が戻らないことに心を痛めることもなくなっていた。



 二人の仲は、若い頃と少しも変わらず、お互いを愛し、信じ合いながら、穏やかで幸せな日々を過ごしていた。

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