上 下
45 / 120
惑わしの森

45

しおりを挟む




「……そう落ち込むなよ。」

「別に落ち込んでなどいない。」

「そうか、それなら良いんだけどな。」

アランは肩をすくめ、俺に向かって小さく微笑んだ。
俺はそれに苦笑するしかなかった。



あれからおよそ二週間もの間、俺達はアレクシスに翻弄されるように森の中を彷徨った。
アランに松明を使わせてもらったおかげで、ランプがなくても暗い森の中を動くことが出来た。
彼に出会うことがなかったら、身動き出来なかったところだ。
だが、相変わらずアレクシスの姿はちらりとも見られない。
とはいえ、何度かコンパスがぼんやりと光ったことがあったんだ。
サンドラ婆さんの話によると、アレクシスが近くにいるとコンパスが光るということだった。
つまり、アレクシスはやはりこの森にいて…それもけっこう近くにいたということだ。
これは、喜ぶべきことなのかもしれないが、こんな暗い森の中ではあいつを捕まえられるとはとても思えなかった。



「あ…これ…良かったら使ってくれ。」

アランが差し出したもの…それは、植物の弦で編まれた網だった。
網には柄も付いている。



「網じゃないか!こいつは助かる!」

「……そんなもの使わなくとも、近くで私が呼べば必ずアレクシスは来る。」

喜ぶかと思いきや、ユリウスは不機嫌な顔をしている。
まったく困った奴だ。



「あんた、なかなか器用だな。」

「たいしたことはないよ。暇だから作ってみただけだ。」

アランは謙遜するが、網は、均等な編み目でしっかりと編みこまれていた。
これなら、フクロウだって捕まえられそうだ。



「あ、それから、これをこうすると、な…」

そう言いながら、アランが柄を回すと、柄の長さが倍くらいに長くなった。



「こんな仕掛けが…すごいじゃないか!
これだったら、けっこう高いところまで届くな!」

「へへっ。」

アランは照れ臭そうに笑ってた。
でも、本当にうまく出来ている。
こういう発想力や器用さがあったからこそ、アランはこの森で長く暮らせたのかもしれない。
しおりを挟む

処理中です...