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「それにしても、本当に偶然だね。
こんなところで美玖ちゃんに出会えるなんて、なんだか夢みたいだよ。」

 無邪気な笑顔は子供の頃と全く変わってない。
なんだか胸がきゅんとする。



 (あ……!)



これは久しぶりに感じたトキメキ…!
このところ、すっかり忘れてた…もはや、私にはこんな感覚なくなってしまったかと思ってたけど…私にもまだときめく心はあったんだ。
そう思うと、なんだかすごく嬉しかった。



 「美玖ちゃん…どうかしたの?」

 「え?ううん、なんでもない。」

そうだ…私、今『美玖ちゃん』って呼ばれた。
 考えてみれば、最近、そんな呼び方をされたことはなかった。
たいていは、高藤さん。
 親しい友達は、美玖って呼び捨て。
 美玖ちゃんなんて、誰も呼んでくれない。

やっぱり良いな、美玖ちゃんって呼ばれるの…
ちょっぴりくすぐったいけど、すごく良い気分。



 「ねぇ、大樹君、いつ日本に戻って来たの?」

 「22の時だよ。」

 「そうなんだ…」

ちょっと寂しい気がした。
すぐに会いに来てくれてたら…
そしたら、もしかしたら……自分で考えてしまったことが恥ずかしくて、私はそっと俯いた。




 「帰って来た次の年だったかな。
 僕、美玖ちゃんに会いに行ったんだよ。」

 「えっ!?」

 「だって…僕らが引っ越す日…
美玖ちゃん、言ったよね。
 必ず、手紙を出すって…
だから、僕…毎日楽しみにしてたのに、手紙は結局来なかった…」

 「私…手紙出したんだよ!
だけど、何度送っても戻って来て…」

 「……そうなの!?」

 私は思いっきり頷いた。
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