ミステリーSS集

神在琉葵(かみありるき)

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大好きな伯父様

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しばらくは、自分にそっくりなその人物のことが好意的に書いてあったが、そのうち、それは悪口に変わった。
 金もないくせに、綺麗事ばかり言う馬鹿者だと。

 日記帳はそこで唐突に終わっていた。



 (どういうことなの…?)



 理佐子の心の中に、何か得体の知れない恐怖が渦巻いた。



 (あ……)



 日記帳から、不意に白い封筒が落ちた。
 理佐子はそれを拾い上げる。



 『理佐子へ。』

それは、理佐子が見慣れた伯父の筆跡だった。



 読み進めるうちに、理佐子の涙は止まらなくなった。
そこにはすべてが書いてあった。
 理佐子が、父親のように想っていた人は、偽物の伯父だったことが…
遺産目当てに理佐子を引き取ろうとした伯父と、入れ替わっていたこと。
そして…本物の伯父のことも。



 伯父とは理佐子のことで諍いになり、逆上してナイフを振り回す伯父を交わしたところ、机の角に頭をぶつけて絶命したとのことだった。



 『君の本当の伯父さんが今どこにいるかは、賢明な君ならすぐにわかるだろう。
 君の大切な伯父さんを私は奪ってしまった。
 本当に済まなかった。
この手紙を警察に持って行きなさい。』



 (伯父様……)



 理佐子は、手紙をポケットに仕舞い、立ち上がる。
 窓越しに、ふと目に映った裏庭の様子に理佐子の目は大きく見開かれた。



 *



 「……綺麗。」

 裏庭には、目が痛くなる程鮮やかな赤い曼殊沙華の花が咲き乱れていた。
 理佐子は、花の傍にしゃがみこんだ。



 理佐子の脳裏に、子供の頃の古い記憶が呼び出されていた。



 『綺麗なお花…』

 『綺麗だね…これは曼殊沙華って言ってね。亡くなった人を守ってくれるお花なんだよ。』

その時の伯父の優しい笑顔に、理佐子はそっと涙した。



 (伯父様、ありがとう…)



 理佐子はポケットの手紙を取り出し、それを細かく千切った。
 手紙のくずは、爽やかな風に吹かれてどこか遠くに飛んで行った。


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